顧客の購買センターを理解してリレーションを管理する


「この電球を買うのは誰か?」の問いが重要な理由

今日は、「コンサルタントが営業改革テーマを理解するには」で書いた次の2点のうち、残る後者について検討します。

  • ソリューション営業: 顧客のビジネスが複雑化し、同時に顧客の商品知識レベルが向上してきている。そのような状況の下では、商品・サービスを売るだけでは差別化にならず、顧客の問題解決を支援し、その問題解決に自社の商品・サービスが有効であることを示す必要が出てきた
  • 顧客関係マネジメント: 顧客側の問題が複雑化し、問題解決支援の依頼に関わる意思決定者が複数存在するようになってきた、したがって、顧客側の登場人物を事前に把握する必要が出てきた

この顧客側の登場人物の想定の重要さを次の電球の調達の例で説明しましょう。(この例は、産業財マーケティング・マネジメント からとりました。)

オフィスの電球はコモデティだと考えらえています。製品機能に差があるわけではないので、購買マネージャーがコストと耐久性という2つの基準をもとに調達をしているのが普通です。

ところが、フィリップスの北米部門は、照明費の総額は電球の価格と寿命だけで決まるわけではないことに気づきました。電球には環境に有害な水銀が含まれているため、使用済み電球の処理には莫大な費用がかかるのです。

こうした事情に目をつけたフィリップス社は、「アルト」という環境に優しい電球を開発しました。総コストを削減するのみならず、環境に配慮している企業ということでイメージアップにもなる、というのがセールスポイントでした。

フィリップスはこの電球を、購買マネージャーをターゲットとせず、コスト削減に取り組む最高財務責任者(CFO)と、環境を守る購買行動のメリットを理解する広報担当幹部に売り込みました。その結果、米国内の店舗、学校、オフィスなどで25%以上のシェアを取ったのです。

この話は何を意味しているでしょうか?

顧客が購買をするのは、自分の問題を解決するためです。したがって、自社の商品・サービスを売ろうとするときは、それが顧客の何の問題を解決するかを考えなければなりません。ここまでは、通常のソリューション営業ですぐに思いつく範囲です。この段階では、「顧客」という言葉で「顧客企業」を想定しているのが普通です。

フィリップスの話は、顧客企業の中の「誰の」問題かまで考える必要があることを示しています。一見似たような機能の製品でも、企業内の立場によって顧客価値が変わることがあるのです。

自社の価値を訴求するには、顧客企業内でその価値を認める相手は誰か、その相手には購買決定権限がどの程度あるかまで考える必要があるのです。

購買センターを把握する

さて、次に考えるべきことは、「誰」とは誰のことかということです。なんだか禅問答のようですが、ポイントは、企業内での意思決定が単独で行われることは稀だということです。

購買決定に関しても、その決定が及ぼすリスクを持つ人は複数います。その人たちが無関心でいるはずはなく、購買意思決定に関わってくるのです。

B2Bマーケティングの世界では、この集団のことを購買センターと呼んでいます。この概念にはセンターという名前が付いていますが、固定的な組織を表すものではなく、その構成は購買案件ごとに異なります。(図の上部)

購買センターの構成メンバーは、その関心事や役割・権限により、次のように分類されます。

  • 利用者(ユーザー): 製品・サービスを実際に使用する者
  • 影響者(インフルエンサー): 製品・サービスの代替案などの専門的な情報を提供する、あるいは購買仕様などの購買の決定基準を設定するなどのことによって、購買意思決定プロセスに影響を与える者
  • 購買者(バイヤー): サプライヤーを選定し、製品・サービスを取得する手続きを実行する正式権限を持つ者
  • 意思決定者: 正式な権限の有無にかかわらず、実質的に製品・サービスや取引相手を決定する者

電球の例では、利用者は設置された電球の下で働く人たちです。このケースでは、購買に対して特に意見を言うとは想定されていません。また、従来型の電球の場合は、購買者が単独で意思決定を行ってきました。

ところが、アルトの場合は、フィリップスがCFOや広報担当者を意思決定者として巻き込むマーケティング策を取り、購買センターを変化させて成功したのです。(図の下部)

クライアントが製品やサービスを売ろうとする場合、それに適した購買グループとソリューションのモデルを設計し、顧客企業内でそれに合った購買センターを探索することが重要なのです。

購買センターの探索にあたっては、DMU(意思決定主体)マップを描く方法などが 法人営業「力」を鍛える などの本に紹介されています。また構成メンバーの特徴と対処法については 戦略販売ー長期的関係を作るセールスの6大要素(残念ながら日本版は品切れなので安く入手可能なのは英語版)に詳しく記述されているので、そちらを参照ください。

購買センター

購買センターに合わせて行動する

購買センターを認識できたとしても、それで営業が終わったわけではありません。最終的に購買決定を行うのは購買センター内の個々の人なので、その人たちの問題の認識方法や意思決定方法に合わせた働きかけが必要です。

産業財マーケティング・マネジメント によれば、個人の反応に関しては次の事項を考慮すべきだとされています。

  • 評価基準の違い
  • 情報処理
  • リスクを低減する戦略

以下、それぞれについて見ていきましょう。

評価基準の違い

購買センターメンバーが製品やサービスの候補を比較する際の観点を知っておくことは重要です。例えば、それぞれの立場で評価する事項が次のように異なることがあります。

  • ユーザ: 製品の迅速な納品や効率的サービス
  • 影響者(エンジニアなど): 製品の品質、標準化度、検査容易性
  • 購買者: 価格競争力、輸送の経済性

このような差を検知したら、一律なプレゼンテーションではなく、それぞれの関心事に応じた訴求をすることが必要です。

情報処理

今日の企業活動において、人は膨大な情報に曝されています。それを効果的に処理するために、人は情報を選択的に接触・注意・理解・保持しようとします。ここで、選択的とは、自分の以前から持っているフィルターや価値観に合ったものだけを受け入れようとする傾向を指します。

したがって、購買にあたっては案件発生時に商品・サービスの優位性を訴求するだけでなく、事前に購買センターのメンバーのフィルターや価値観を形成する作業(広告や営業の接触などによる親近感の形成など)も必要です。

また、購買関係者の情報受容能力に関する配慮も重要です。

製品・サービスに関する知識レベルが高い人ほど、購買にあたって仕様、品質、コストなどの客観的属性による認知的判断ができます。逆に、知識レベルが低い人はイメージなどをもとにした感情的判断を行うことが知られています。

このことは、意思決定者などに対しては、ブランド・イメージなどの感情面での訴求対策が必要なことを意味しています。

近年の急速な環境変化の下では、利用者や影響者なども商品・サービスに精通できないということが増えてきています。さらに競合との時間競争のために購買プロセスにおいて十分な検討時間をかけられないなどの事情も生じています。

このような背景のもと、認知的な情報提供だけでなく、感情面に訴える情報提供の比重を高めることも重要になってきているのです。

リスクを低減する戦略

買い手側には、購買決定に関するリスクを低減しようとする心理が働きます。そして、以前買ったものをそのまま、あるいは多少修正して購買する場合よりも、新規購買の方がリスクは高く感じられます。ですから、新規購買に際しては、個人ではなく集団で購買するようになるのです。

さらに購買がハイリスクだと感じられるに連れ、次のような傾向が高まります。

  • 購買センターが大型化し、組織内での階級が高く大きな権限を持つメンバーが参画するようになる
  • 多様な情報源が利用されるとともに、意思決定プロセスが進むにつれ、個人的な情報源(類似の購買を行ったことのある他組織のマネージャーの情報など)の重要性が増す
  • 確かな実績がある、あるいは馴染みのあるサプライヤーを選ぶことで購買に伴う近くリスクを低減しようとする

大きな潮流を理解してリレーション管理をする

顧客のビジネスの複雑化に対応してソリューションを提供しようとする場合は、顧客のリレーション管理が重要となります。このリレーション管理をどう実現するかの具体的方法については、巷の営業本に色々と書いてありますので、それを参考にすれば良いと思います。

しかし、その前に理解しておくべきことがあります。それは、顧客側の事情です。すなわち、案件の複雑化に伴い、顧客の対応が以下のように変化するということです。

  • 案件が大型すると顧客が知覚するリスクが高くなる
  • その結果、購買センターに参画する意思決定者のレベルが高くなる
  • 高いレベルの意思決定者は、個別の購買案件に詳細な知識を持ち合わせていないので、感情的な意思決定をする傾向が強い
  • この傾向に合わせるために、企業のブランド・イメージの向上などのマーケティング活動を強化すべきである。また、日頃の営業活動を通して影響者へ自社の企業力を訴求しておく必要がある

コンサルタントは、目前の営業力強化の支援するだけでなく、このような大きな流れを把握しておく必要があります。その見識をもとに、ブランド・イメージの向上や企業力訴求コンテンツの整備などのためにマーケティングの仕組みも変える必要があると、アドバイスできるべきなのです。