「どんぶり勘定」の中小企業を再生する方法:街の電器屋さんの改革事例に学ぶ


街の電器屋さんの苦境を救うセブンプラザ

今週は、先週の街の電器屋さんの話題で、ちょっと寄り道です。

逆境を跳ね返す地域一番店戦略:街の電器屋さんの3類型 で述べたように、街の電器屋さんの多くは、存亡の危機に瀕しています。量販店の低価格政策に対抗できず追い込まれているのです。

どれくらい苦しいのか、具体的な数字で見てみましょう。

年商2000万円の地域電器店があるとしましょう。通常、地域店の粗利益率は、家電販売とそれにまつわる電気工事やアフターサービスなどの料金を含めて30%前後と言われています。

年商2億を超える優良店(でんかのヤマグチ等)には粗利益率35%という店もありますが、逆に年商2000万円クラスだと25%も苦しいと言います。

仮に25%が取れたとしても、年商2000万円なら粗利益額は500万円です。そこから店の光熱費、車両代、燃料費などの経費が取り除かれた額で生活するわけですから、夫婦2人で暮らしていくのがやっとということになります。

地域店多くは家電メーカーの系列に属していますが、年商2000万円クラスは、力の落ちた家電メーカーも支援してくれません。銀行家からの借り入れもままならず、一つ足を踏み外せば廃業というところまで来ているのです。

街の電器屋さんの年商が少なく生活が苦しくなる直接の原因は、量販店の進出です。しかし、そもそもの原因は開業時に発生しています。高度成長期に家電がバカ売れしたため、特に経営上の工夫をしていないお店でも十分に食べていけたからです。

このようなお店の近くに量販店が進出すると、価格競争に負けて大きな商品が売れなくなります。そのため、店主は修理などに走り回り、そこでつかんだきっかけをもとに商品を売る、という外販モードになります。

その結果、店舗は見捨てられ、薄暗く古い商品が並んでいて、奥さんが片手間に店番をしているものとなります。これが、大きな商品を追いかける売上志向がもたらす悪いサイクルです。

逆境を跳ね返す地域一番店戦略:街の電器屋さんの3類型 で述べたように、生き残っている電器屋さんは皆このことに気づいていて、自ら粗利志向に転換しています。店の経営状態を把握した計数感覚があり、粗利重視でいけるはずだという仮説を立てられたからです。

つまり、街の電器屋さんが困窮状態から抜け出すためには、高度成長時代のイケイケドンドンの売上重視でどんぶり勘定の経営から、粗利重視の健全経営に転換する必要があるのです。

理屈はその通りですが、誰しもわかるように長年染み付いた慣習から抜け出すのは容易なことではありません。ところが前回紹介したように、セブンプラザのチェーンに加盟すると、債務超過に陥っているようなお店でも回復してしまうのです。

それはなぜでしょうか?そこにあるすごい行動変容方法について調べてみましょう。

なかなか変われない人間を動かすポイント

こうあるべきという目標が明確でも人や組織が変われない、ということはよく起こります。ダイエットを決意したけれど三日坊主に終わるなど、皆さん自身の身にも思い当たることが多々あるでしょう。

このような時にどうやって変化を引き起こすかの方法を論じた優れた本が、いくつか存在します。たとえば、次のようなものです。

これらの本を注意深く読んでいると、最近の心理学の研究結果を踏まえた共通した方法を勧めていることに気がつきます。たとえば、次のようなことです。

  • 重要行動を見つける
    • 変化は、人間の「行動」が変化すること以外では決して起こらない。変えるべき行動を慎重に探し出し、その行動を変化させるための影響力を発揮する必要がある。注目すべきことは、たった数個の行動変化が大変化の決め手になることである
    • 結果と行動を混同すると大変なことになる。何かを変えようとして失敗した例を調査すれば、ほとんどの場合、結果と行動を混同していることがわかる
  • 大事な第一歩を見つける
    • 変化を起こすには意思決定が必要である。意思決定は選択肢を伴う。この選択肢の数が多いと、私たちは意思決定そのものを避けるようになる。現状が心地よく安定していると感じられるのも、選択肢の多くが切り捨てられているからなのである。
    • 変化を引き起こすためには、選択肢の検討に悩まなくて済む、手軽な開始点の提案が必要である
  • 変化を細かくする
    • 変化を起こすためには、やる気が必要である。やる気を燃やすもとは小さな成功である。
    • つまり、変化を起こすために必要な努力の単位を小さくする、あるいは「小さな成功」(手の届くマイルストーン)を思い浮かべられるようにすれば、やる気が起こる
  • 明確な基準を設けて変化を計測し、すぐフィードバックする
    • やる気を継続させるためには、小さくても良いから(プラスの)変化を見つけてフィードバックする。プラスの変化がなければ、やり方の変更を考えさせれば良い
  • 習慣を生み出す
    • 習慣は行動の自動運転であるから、継続的に自分自身や他人を変えるためには、習慣を変えることが効果的である。
    • 自分がしなくてはならないと思っていることに関して「いつ〇〇をしよう」と決意すると、その行動を実行する確率が高まる。このような決意をアクション・トリガーと呼ぶ。何かをする時間と場所をイメージしただけでも、実際に行動を習慣化する確率が高まる。

セブンプラザの加盟店指導方法は、無意識にこれらの方法をうまく取り入れたものとなっています。それを説明するために、上記の考え方をうまく取り入れた行動変容法である「4つの規律」を先に説明しましょう。

行動を変容させる方法論:4つの規律

4つの規律も、個人、チーム、組織が戦略と目標を見つけ出したものの、それをうまく実行できずにいる、という状況をどう解決するかを主題としています。そして、解決のために企業は4つの規律を身につけるべきだと主張しています。

ここで「4つの規律」が指示するのは、「最重要目標にフォーカスする」、「先行指標に基づいて行動する」、「行動を促すスコアボードをつける」、「アカウンタビリティのリズムを生み出す」、の4つのステップを順番に適用することです。これらのステップの内容がどんなもので、それが上述の方法とどう対応しているか、を見てみましょう。

  1. 最重要目標にフォーカスする

組織などが戦略と目標を実現できない最大の理由は、たくさんの目標を掲げ、それらにエネルギーを分散させてしまうからです。もともと人間は一度に一つのことしか完璧にできない動物ですので、焦点を絞ることが必要なのです。最初に、「他のすべての業務が現在の水準を維持するとして、変化することで最大のインパクトを与えられる分野はなにか?」と問い、目標を絞ります

  1. 先行指標に基づいて行動する

最重要目標は結果ですので、それ自体は具体的な行動を示唆しません。行動するためには、結果の予測となる先行指標を見つける必要があります。見つけた先行指標に影響を及ぼす行動を選択し、それを実行するのです。(たとえば、トウモロコシの生産量を増やすという目標の先行指標は、雨量、土壌の質、肥料の量などがあります。このうち人間の行動で雨量に影響を与えることはできませんから、土壌の質や肥料の量を先行指標として、それを改良する行動を取れば良いのです)

  1. 行動を促すスコアボードをつける

人間は、自分の行動が成果につながっていることがわかると、俄然やる気を出します。行動の結果で先行指標がどのように変化し、それが目標達成に良い影響を与えていることを、時事刻々ゲームのスコアボードとして示しましょう。勝ち負けの予測を可能とすると、参加者の熱意を高め継続的な行動を促すことができます

  1. アカウンタビリティのリズムを生み出す

戦略や目標を実現するための行動は、日常の業務活動と並行して行われており、ともすれば忙しい日常活動の中に埋没してしまいがちです。それを避けるためには、一貫した進捗確認と必要な修正活動を短期間に繰り返し行う必要があります。チームの一人一人がコミットメントをし、その説明責任を負う場の設定が必要なのです

4つの規律が人間を動かすための心理学研究成果をうまく応用したものであることは、次の対応関係を見れば確認できます。

  • 「最重要目標にフォーカスする」は、明らかに上述の「重要行動を見つける」に対応しています。ただし、必ずしも行動にまで落とすことは求めていませんので、応用する場合は行動に落とすことを注意する必要があります。また、選択肢を減らすという点では、「大事な第一歩を見つける」にも対応しています
  • 「先行指標に基づいて行動する」は、開始点を与えるという点では「大事な第一歩を見つける」に、行動ができやる気が起きるという点では「変化を細かくする」に対応します
  • 「行動を促すスコアボードをつける」は「明確な基準を設けて変化を計測し、すぐフィードバックする」に対応します
  • 「アカウンタビリティのリズムを生み出す」は、改革行動を実行し続ける「習慣を生み出す」ことに相当します。

4つの規律を(無意識に)適用したセブンプラザの電器店改革メソッド

セブンプラザは、加盟した地域電器店を、再生、育成、拡大の3つのフェ—ズで改革していきます。

最初の再生ステップでは、「ダイヤモンドのように輝く店づくり」と称して、店舗の改装を行わせます。この裏にあるのは、外販から店売りへの発想の転換を迫ることです。

このステップについては、逆境を跳ね返す地域一番店戦略:街の電器屋さんの3類型 で説明しましたので、ここでは育成フェーズについて説明します。

育成フェーズの目的は、健全経営体制を確立し、次の拡大フェ—ズに備えることです。つまり、どんぶり勘定から脱却させることです。

このための具体的行動として、決算書を公開させた上で、営業日報を毎日作成させます。

営業日報の「本日契約高」の項目は、何が何台売れたかだけでなく、その商品がどのように売れたかを把握させるものになっています。その具体的内訳は、次のようなものです。

  • レジ売上:店頭のレジで打った売上金(お客が来店して購入した「店売り」を示す)
  • 店内契約(伝票):お客が来店してカタログなどから大型商品を選んだものを、伝票処理で計上した売上(顧客が商品を購入するためにわざわざ来店したことを示す。店の満足度を感じて利用している固定客を示す)
  • ソフト業務売上:NHKのBS契約やWOWOW契約、インターネット回線の取次などのインセンティブ
  • 修理売上:商品の修理依頼に対する技術料、サービス料(部品代などの修理原価はごくわずかなので、売上高は小さくても店の粗利益率の向上に大きく貢献する)
  • 工事売上:電気工事や家電製品の設置などの工事料金(これも粗利益率向上に貢献する)
  • 注文による契約(電話):顧客からの電話注文によって受け付けたもの(困った時にその店を頼りにしている顧客である可能性が高く、店のサポート力に対する顧客満足度を知る手がかりになる)
  • 外販契約:地域店が得意とする外回りの御用聞き営業による契約

このように「本日契約高」は、内訳をとことん細分化したものになっていて、自店の強みや弱みが把握できるものとなっています。

また、営業日報には「客数」を記入する項目もあります。これにより、新規なのか休眠客が復帰したのか、引越しや脂肪などで減少したのか、が把握できるようになります。

営業日報は、翌日の午前10時までに本部にファックスしなければなりません。加盟したばかりで作業に慣れない加盟店は、深夜までこの作業に追われることになります。そして、そのことにより、いかにこれまでが「どんぶり勘定」だったかを思い知らされることになります。

この「毎日の営業日報の作成」こそが、健全経営への変革をもたらす重要行動なのです。

本部は翌朝、全店のデータを集計して、その結果を正午までにメールで返信します。この返信データは、項目ごとに全店がランキングされたものになっているので、比較することで自店の長所や短所が一目で分かる仕組みになっています。

これが「行動を促すスコアボード」なのです。さらに、このスコアボードが毎日毎日間髪を入れずに送り返されてくるので、「アカウンタビリティのリズム」が生み出されるのです。

全ての行動の元になる営業日報の数字が間違っていたら元も子もありません。それを解決するために、本部から返信される資料には営業日報の入力ミスの少なさを競う「ミス・コンテスト」を呼ばれる項目が設けられています。

ミス・コンテストの項目では、店名の横に「本日」のミスの数と「今月の累計」が示されており、余白にどこが間違っているかが細かく指摘されています。

このミス件数が、営業日報を精度良く記入するという目標の「先行指標」となっており、その少なさのコンテストを行うことで、正確な記入という目的が達成されるそいう仕組みになっているのです。

実は、営業日報にはその日にかかった経費も記入することになっており、本部はそれをもとに各店の経営指標も返信します。

経営指標に改善すべき点があればマークがつけられているので、それが健全経営の「先行指標」となります。さらに、重要経営指標をもとに年1回優秀店表彰が行われるので、それを目指した競争を行うことで、各店は自然に健全経営を身につけらるようになっています。

重要経営指標には、たとえば次のような項目が挙げられています。これを見ても、一般的な経営指標以外に地域店が苦手で見過ごしがちな指標をうまく取り入れていることがわかります

  • 売上高前年比率
  • 平均月商
  • 増客数
  • 労働生産性(1人あたり粗利益)
  • 坪当り在庫金額
  • 売掛け金滞留日数
  • 粗利益率
  • 総経費率
  • 経常利益額

このように、セブンプラザの指導方法は、人間の行動を促すための仕組を(無意識に)うまく取り入れたものとなっています。このことにより、一見不可能と思われる債務超過のお店の回復まで成し遂げているのです。

スライド1

まとめ

  • 街の電器屋さんの苦境の原因は、量販店との競争に負けていることだけではなく、高度成長期に楽をしてどんぶり経営をしてきたことにもある
  • その苦境から脱却するためには、粗利志向に転換し計数感覚を身につけた経営を行う必要がある
  • この転換は「言うは易く、行うは難し」で、その指導は戦略を実行に移す難しさを理解した理論的な枠組みに基づいて行う必要がある。その枠組みとして利用できるものの一つに「4つの規律」がある
  • 数々の街の電器屋の再生に成功してきたセブンプラザは、無意識のうちにこの枠組みをうまく活用している
  • クライアントの再生に関わることの多いコンサルタントは、セブンプラザの例から、この枠組みの有用性を学んでおくべきである