「良いものを作れば売れる」ためのポジショニング戦略


良いものを作っても売れないのは?

真面目で商品力もある企業が経営不振のままで不思議だ、ということがよくありますよね?そういう企業の経営者の頭の中にあるのが「良いものを作れば売れる」という信念で、それが時代に合わなくなったからだ、と言われることが多いです。

でも、「良いものを作れば売れる」という信念は間違っているのでしょうか?売上をあげるためには、商品が「良いもの」でなければなりません。必ずしも間違っているとは言えなさそうです。

では、何が問題なのでしょうか?それは、「良いものを作る」は売上をあげるための必要条件であって、十分条件ではないということです。

「良いものを作れば売れる」という信念の裏に隠されているのは、良いものを作りさえすれば「黙っていても売れる」という想定で、それが問題を引き起こすのです。

高度成長期のような需要旺盛時には、良いものは「黙っていても売れた」のです。しかし、市場が成熟した現在では、消費者の需要をはるかに上回る量の商品が供給され続けています。

雑誌広告、ダイレクトメール、店頭の表示など、様々な情報が消費者の頭をめがけて洪水のように注ぎ込まれ、彼らをうんざりさせています。黙っていては洪水に埋もれてしまい、自社商品の存在そのものを認知してもらうことさえできません。

消費者は「良いもの」を自分から積極的に探しに行く動機を持てずにいます。自慢の「良い」ものをわかってもらう以前に、存在を認知してもらう努力が必要なのです。

では、どのようにすれば人々に商品を認知してもらえるのでしょうか?フォルクスワーゲンのビートルのアメリカでの成功事例をもとに考えてみましょう。

ビートルは、戦後間もない1949年にアメリカに進出し大きな人気を得ました。当時、大型車ばかりがもてはやされる国で、敗戦国ドイツで作られた小さな車がなぜ受け入れられたのでしょうか?

もちろん、ビートルは「良いもの」でした。小さくても安っぽくはなく、ヨーロッパの知的センスを感じさせる、燃費がよく、故障は少ない、などの利点を持っていました。

でも、それだけでは大型車こそがステータス・シンボルであったアメリカ人の心を掴むことはできません。その時に打たれたフォイルクスワーゲン史上最も効果を上げた広告が「シンク・スモール (Think Small)」だったのです。

この広告により、小さいということは必ずしもネガティブなことではなく、自動車市場には「小型車」というカテゴリーが存在しても良いことを認識させたのです。その結果、セカンドカーとしての需要が掘り起こされ、爆発的な売れ行きを示したのです。

アメリカの自動車市場には「小型車」という「穴」があり、その穴に存在価値があることを人々に認識させたのです。

このように、消費者の頭の中に商品や企業の立ち位置を認識させることを、ポジショニングと呼びます。「良いものを作れば売れる」ためには、消費者の頭の中の記憶場所を占めるポジショニング戦略が必要なのです。

以下、「良いものを作って」成功を収めている企業が、「良いものを作る」だけでなくポジショニングにも気を配っていることを、事例から学んでいきましょう。

日本の職人が作り続ける吉田カバン

吉田カバンが人気です。機能性の高い手作りのカバンを年間180万個も作りつづけ、売上高も173億円(2015年05月現在)に達しています。

吉田カバンが掟としていることに、広告費は使わない、値下げはしない、それによって職人の工賃を守る、というものがあります。まさに、「良いものを作れば売れる」を地で行っている企業です。

ここで、「良いもの」とは、機能性に優れたカバンです。丈夫でなかなか壊れない、ポケットが多く使い勝手が良い、軽くて持った時に心地よい、などの評判を獲得しています。

でも、「黙っている」だけでは、これだけの数が売れるはずはありません。吉田カバンは何をしているのでしょうか?

吉田カバンが売れるのは、口コミの結果です。口コミのきっかけは、商品の良さに感激したからです。

でも、商品の良さを口だけで伝えるのは、非常に難しいです。それ以外で口コミが広がる要素が不可欠です。

それを理解するためには、この会社の歴史を知る必要があります。

吉田カバンは、現社長の父で12歳でカバン屋に丁稚奉公に出た吉田吉藏氏が、29歳の時に独立して創業しました。吉藏氏は勲五等双光旭日賞受賞を受賞したほどのカバン作りの名人でした。

その吉藏氏が生前、「絶対に日本の職人さんを絶やさんでくれ」と言い続けていた教えを受けて、国内の職人による手作りを続けてきました。また、その期待に応えるように、職人さんたちが依頼を超えた出来栄えのカバンを作るこだわり見せてきたという歴史があります。(このこだわりを吉田基準と呼ぶそうです。)

この歴史を言い表しているのが、吉田カバンがテレビ番組のカンブリア宮殿に取り上げられた時の番組のタイトルです。それは、「値下げも大量生産もしない!国産にこだわる下町の大人気カバンメーカー」というものでした。

これだけで、多くの人に支持されている良さがあるということが伝わってきますよね。それを聞くと自分も行ってみようかな、となります。これこそが、口コミが伝わる元となっているものなのです。

吉田カバンは、「古き良き作り方を変えない」と言い続けており、それが「伝わる」のです。それが、この会社のポジションなのです。

現代人は変化という幻想に取り憑かれています。しかし、世の中の変化が激しくなるほど、変わらないものの価値が上がるということもあります。

吉田カバンは、元々の品質の良さに加えて、「変化に慎重になる」というポジショニング戦略で成功を収めているのです。

高級ドレスシャツを普及させる鎌倉シャツ

鎌倉シャツは、一流ブランドなら15,000円はする高級シャツを、5,000円程度で提供し急成長している、シャツ専業の製造小売業(SPA)です。

鎌倉シャツも「良いもの」を作っていますが、宣伝広告はしていません。一見、「黙っていても売れる」方針をとっているように見えます。

しかし、吉田カバンと同じように、その評判は口コミで伝わっています。

まず、使っている生地の質が違うので、手に取ると同一価格帯の普通のシャツと明らかな差があることがわかります。しかも、鎌倉シャツの場合は直営(一部地方はFC)の店舗で売っているので、メーカーの差も同時に認識されます。

こう書くと、成功して当然のように聞こえますが、ここまでくるためには解決されるべき問題があります。それは、次の2つです。

  • なぜそのような低価格で提供できるのか
  • なぜ顧客が感心して口コミで伝えるのか

低価格で提供する方法は今日の本題ではありませんので簡単に説明すると、以下のようになります。

  • シャツは流行にあまり左右されず、季節性もそれほどないので、安定的な需要が期待できる。それゆえ、原価率は高くし高品質低価格を実現しても、高回転率で儲けられる(ユニクロに同じ)
  • 高回転率を支えるために、国内生産とする(ZARAに同じ)
  • 仕入れ先に対しては、値切らず、全品現金買い取りとする。その結果、優れたメーカーが納入するようになり、結果として高品質・低価格となる(しまむらと同じ)
  • 材料は、大量に生産元から直接買い付け、コストを下げる(ユニクロに同じ)

(ユニクロ、ZARA、しまむらとの相似点については、勝ち組ファッション・ビジネスに学ぶ商品政策と在庫回転率向上策の連動法を参照ください。)

このようにして高品質な商品が低価格で店頭に並ぶ訳ですが、それだけでは十分ではありません。それを消費者が評価しなければ売れないからです。

実は、消費者が求める「良質で手頃な価格」のドレスシャツという市場は、鎌倉シャツ以前には日本には存在しませんでした。

手頃な価格の「ワイシャツ」は、日常着としては十分なものの、オシャレ感には乏しいものでした。逆に、高級なシャツは最低でも15,000円くらいはします。

この差を埋めるために、気の利いたデザインのシャツをセミカスタムでオーダーできるような店も、外国にはあるものの日本には存在しませんでした。(実際、筆者は、米国出張時にシカゴでオーダーしたり、スペインで縫製したものを日本に直送するサービスを利用したりしていました。)

日本のシャツ市場には、「良質で手頃な価格のシャツ」という部分に穴が空いていたのですが、消費者はそれを知らなかったのです。

これに目をつけた鎌倉シャツの貞末社長が、「シャツで日本の服装向上に貢献する」というミッションを掲げて、新たな市場に進出したのです。その結果、自分のニーズが顕在化した消費者が飛びついたのです。

上述のビートルがアメリカ市場に進出した時とおなじ、未開拓分野(市場の穴)を探す(その市場に一番乗りして消費者に覚えられる)というポジショニング戦略をとって成功したのです。

なお、このようにして獲得した評判を維持するための品質保証の体制にも気を配っています。縫製作業をチェックするための縫製基準書、納入されたシャツを検査するための品質基準書を整備しています。

さらに、業界では稀なことですが、縫製業者と鎌倉シャツのメンバーが一同に介して、お互いのノウハウを公開しながら品質向上策を検討する品質統一会議というものまで開催しています。

また、本場のドレスシャツの品質を維持していることを示すために、ニューヨークに支店を設けそこで大評判を獲得するなどのこともしています。

鎌倉シャツの成功要因については、永遠の定番アイテムを目指してー「鎌倉シャツ」という連載記事も参考になります。

白い今治タオルの復活劇

今から90年前、愛媛県今治市は「四国のマンチェスター」と呼ばれるほどの一大織物産地でした。しかし、1980年代後半から輸入品が激増し、日本のタオル産業は苦境に立たされました。

国内生産の5割以上を占めていた今治タオルも、1991年をピークに18年連続でマイナス成長となり、生産量は5分の1にまで落ち込んでしまいました。

それでも産地今治には、「技術や品質では輸入品に負けない」、「いいものを作ってさえいれば売れる」、「いつかは見直される日が来る」という、漠然とした期待感が漂っていました。

しかし、価格勝負の普及品では輸入品に勝てるはずはなく、高級品に活路を見出すしか復活の道はありません。

もともと今治のタオルには、四国山地からの軟水の湧水を利用した先晒し先染めという技術があり、それをもとに柔らかくて吸水性に良いタオルが作れるという強みがありました。

ところが、1970年代後半あたりから、その技術をもとに、バーバリーやセリーヌなどの海外のブランド品に代表されるOEM生産に移行してしまいました。売上重視で、その方が効率が良かったからです。

その結果、タオルメーカーは商品を企画する問屋の下請けとなり、「今治タオル」という名前は消費者から忘れ去られてしまったのです。そうなると、自力で苦境から脱却することが困難となります。

この苦境から脱するために、クリエイティブ・ディレクター佐藤可士和氏の支援を受けて、今治タオルのブランド再生プロジェクトが実施されました。

この時に佐藤氏がブランドの象徴として選んだのが、「白いタオル」でした。そして、メーカー各社に白いタオルで最高品質のものを作ることを求めたのです。もうひとつ、それを東京で常時展示する場の設置も求めました。

先に述べた先晒し先染めは、糸を染色してから織りに入るので、多様な柄を作り出すことができるのが特長でした。ですから、この決定には反対意見も出ました。

しかし、佐藤氏は色や柄はギフト品には必要でも、必ずしも最終ユーザのニーズではないと考えました。ユーザにとって大事なのは、安心・安全・高品質な「使い心地」だと考えたのです。

色や柄を排除することにより、タオルの肌触り、風合いだけを集中して感じられ、産地のメーカーがそれぞれの特徴・違いを際立たせることができる、その結果産地の総力を感じてもらえる、というのが佐藤氏の読みでした。

実際、各社が腕によりをかけたて作った白いタオルのコレクションは壮観で、海外の見本市でも大きな反響を呼びました。それが、東京で常時陳列されることで、報道なども通して価値が消費者に徐々に広まっていったのです。

この結果興味を持って来店した顧客に今治タオルの歴史や優れた技術を正しく理解してもらうために、タオル・ソムリエという資格試験も設けています。

また、品質を保証するために吸水に要する時間などを厳しく定めた「今治タオル品質基準書」を定め、この検査に合格したタオルにのみロゴマークをつけることを許しています。さらに、メーカーの技術を伝承させるためにタオル・マイスター制度も設けています。

その結果、生産数量はほんの少しのびただけで売上が数倍になるという、奇跡の復活を遂げたのです。

今治タオルの成功理由は、白いタオルに絞って、各社一丸となって使い心地を訴求したことにあります。様々な色や柄を作ったままでは、消費者にこのような強い印象を与えることはできなかったでしょう。

今治タオルは、「すすんで犠牲を払う」(独自のポジション確立のためには、何かを諦める)というポジショニング戦略で成功したのです。

ポジショニング戦略

まとめ

  • 「良いものを作れば売れる」という神話が終わって久しいが、品質だけで勝負しているように見えるのに、口コミで売上が伸びている企業がある
  • それらに共通するのは、消費者に認識される独自のポジションを確立していることである
  • 吉田カバンは、あえて時代の変化には乗らず、職人が手作りする高機能のカバンを作り続けるというポジションを取っている(ポジショニング戦略:変化に慎重に対応する)
  • 鎌倉シャツは、一目で差がわかる着心地の良いドレスシャツを納得価格で提供するという、日本に今までなかった市場を開拓している(ポジショニング戦略:未開拓の市場(穴)を探す)
  • 今治タオルは、多様な色や柄を作れるという特長を捨て、「白いタオル」に集中して柔らかさや高吸水性を訴求することに成功し、奇跡の復活を遂げている(ポジショニング戦略:すすんで犠牲を払う)
  • また、各社ともポジションを維持するための厳しい品質保証制度を設け、その品質が消費者に伝える努力(ロゴマークによる保証、説明能力の高い店員の養成など)も行なっている
  • コンサルタントは、「良いものを作っている」クライアントが「売れる」ようにするためには、その商品が消費者に認知されるポジションの獲得が不可欠であることを理解し、クライアントをガイドすルためのポジショニング戦略を勉強しておくべきである