インターネット時代でも利益を維持する価格づけ(プライシング)の見つけ方


ネットで価格比較が容易になる中で、プライシングをどうやれば利益が確保できるの?

これまで3回、価格理論の基本的考え方を解説してきました。でも、実際の現場でプライシング(価格づけ)をどうやれば利益が増大するのでしょうか?

とくに、インターネットが普及し、価格が透明化して(比較が容易になって)きています。単なる思い付きでは、日に日に利益を増大させる価格を維持することが困難になってきているのです。

このような環境でも価格の合理性を顧客に納得させ、継続的に利益を獲得するためのプライシングの方法論が欲しくなりますよね?でも、価格理論の本を片っ端から読んでも、そのようなものは見当たりません。

方法論が欲しいが見当たらない時に手がかりを求める王道は、「基本に戻る」ことです。

前回お話ししたように、顧客が何かを買うのは、顧客がその対象(商品・サービス)に価値(バリュー)を認めるからです。ここでバリューは次の式で定義されます。

バリュー = 認知便益 — 認知価格

このバリューを顧客に納得させることができれば、価格が透明化した時代でも設定価格で対象顧客に商品・サービスが売れるわけです。ですから、価格設定をする際には、次の基本に戻って考えれば良いことがわかります。

  • この便益と価格をバリューとして認知し納得する顧客は誰か
  • 認知価格をどう設定すれば、顧客の納得度は上がるか
  • 認知便益をどう設定すれば、顧客の納得度が上がるか

そして、この3点をじっくり検討すれば、プライシングのコツが見えてくるのです。以下、順を追って検討してみましょう。

価格感度で顧客を層別する(プライス・カスタマイゼーションの技法を応用する)

同じ便益と価格でも、それを評価して購入する顧客とそうでない顧客に分かれます。便益と価格の認知の仕方が異なるからです。 価格感度が違うのですが、この違いはネットの普及に影響を受けないものが多いのです。

この違いを考慮して、顧客の層ごとに見合った便益と価格を設定し売り上げの取りこぼしをなくすのがプライス・カスタマイゼーションで、その知見を分析すればプライシングのヒントが学べるのです。

プライス・カスタマイゼーションを機能させるためには、効果的なフェンス(上級品を買う顧客が下級品の購入に流れることを防ぐもの)の設計が不可欠です。そして、代表的なフェンスの構築法には以下のようなものがあります。

  1. 商品・サービスのラインアップによるもの(高級版と廉価版を出すなど)
  2. 利用可能性によるコントロール(クーポン、地理的な価格づけ、など)
  3. 購買特性による分類(子どもおよび高齢者割引、など)
  4. 取引特性による分類(利用時期、購入時期、購入量での価格差、など)

フェンスは層別した顧客を隔離するためのものですから、それを分析すれば逆に顧客層別法の知見が得られます。このことを、取引特性の中の時間に関するフェンスの例で学んで見ましょう。

ここで時間をカスタマイズしたプライシングとは、時間によって価格を変えることを指します。

時間をカスタマイズしたプライシングには、図-Aに示すように7通りのケースがあります。以下、順に検討します。

  1. 顧客の需要が分かっているが、その需要に時間依存性がないケース

このようなケースで時間によるカスタマイズが効果的なのは、一定期間値下げをして普段と異なる需要を取り込む方法で、その目的は次のようなものです。

  • お試し価格:新製品やシェアの低い製品の認知度を高めるために、一定期間価格を下げる
  • 販促価格:シェアの大きい製品で他社のブランドを使っている顧客を引きつけるために価格を引き下げる(頻繁に行うと自社ブランド愛好者の安値期待を招く)
  • 需要形成価格:定価では買わない顧客の需要を取り込む
  1. 顧客の需要が分かっていて、かつその需要が時間の経過により変化するケース
    • ピークロード依存:夏場の電気需要、会計年度終了時の税理士事務所の需要、スキー・リゾートの子供の冬休み中のように、その時間に需要が集中する事が明らかなケースに、需要の変化を認識して価格を調整する(上げる)
    • 需要シフトを伴うピークロード:顧客がピーク時とオフピーク時のどちらか1回に購入するが両方で購入する事がないケースに、設備の有効利用のために低価格しか払う意思のない顧客をオフピーク時に仕向ける価格づけをする。(ドイツ国鉄では、夕方のラッシュアワーを緩和するために、午後7時以降に安くなる「グッド・イブニング券」を発行している)
  2. 需要が不明確なケース
    • 需要探索:需要がどこにあるかを探るために、高い価格から売り始め一定期間ごとに徐々に価格を下げていく。その商品に執着が強い顧客は売り切れを恐れ高い価格でも買う。流行性の高い婦人服に向いた方式で、流行重視やお買い得感重視と行った価格感度の異なる顧客に同時に到達できる(ボストンのファイリーンズ・ベースメントという店で始まった方式。)
    • 収益管理(イールド・マネジメント):(ア)は顧客グループを均一なものとして働きかけるのに対し、あらかじめ複数の価格感度の異なった顧客グループが想定できる時に、収益の最大化を狙う方式。(代表的な例が航空会社の予約方式。価格に敏感な行楽客を早期予約の割引料金で一定割合呼び込み、直前に価格にこだわらないビジネス客を取り込んで、飛行機を満席で飛び立たせることを目的とする、など)
このようにフェンスを分析すれば、様々な顧客層(価格にうるさい顧客とそうでない顧客、流行重視とお値打ち感重視、急いでいる顧客と急いでない顧客、など)を発掘し、それに見合った価格設定が可能なことが分かるのです。

時間をカスタマイズしたプライシング

プライス・カスタマイゼーションの分野では、以上のような知識が相当程度蓄積されています。価格戦略論にはそれらの解説があり、収益を憎大させる価格づけ方法のヒントが満載ですので、コンサルタントはそれを勉強しておくべきです。

顧客を価格感度別に細分化し、各層にあった便益と価格の対を考えていけば、大企業であれば、すべての顧客層から取りこぼしなく利益を上げることができます。また、中小企業であれば、一番利益が上がる顧客層を見極め、そこに集中する方法が見つかるはずなのです。

価格弾力性を見て認知価格をセットして収益を上げる

上記の話は、認知便益と認知価格双方に関わる工夫ですが、片方の認知価格だけに関する工夫もあります。この方法は、価格弾力性が通常より小さい、あるいは大きい場合に有効です。

価格弾力性が低い場合の収益向上の手段の一つが、追加料金です。追加料金には、次のようなカテゴリーが存在します。

  • アンバンドリング:それまでトータル価格に含まれていた製品やサービスを個別に課金する(格安航空会社の例)
  • 新しい価格構成要素:それまで価格を設定していなかった製品やサービスについて、単独で価格を設定する
  • 増加コストの転嫁:(契約内で何らかの指標を定めておいて、その指標に関連させて)コスト増を顧客に転嫁する
  • 価格差異化:時間、地理、個人の特徴などに基づいて価格を差異化する手段として追加料金を用いる

アンバンドリングは、ある一連の商品やサービスを購入する時に、それぞれの要素ごとに顧客の価格弾力性が異なることを利用した方式です。

格安航空会社では、受託手荷物料金などを徴収します。これは、顧客は航空機の基本料金には敏感なものの、手荷物料金にはそれほどこだわらない(払うのが嫌なら荷物を小さくして持ち込めば良い)という性質を利用しています。

価格差異化は、プライス・カスタマイゼーションの追加料金版で、製品・サービスに対しアクセス。利用できるスピードで製品価値が決まる場合、などに徴収されます。

たとえば、鉱山でダンプカーのタイヤがパンクしたら、そのトラックは使用できません。トラックが遊んでいる間は鉱山会社は売り上げを生み出せないとしたら、タイヤを届けるスピードに追加料金を払うことは厭わないでしょう。

この場合も、追加料金の価格弾力性は、基本料金(ダンプカー代)より小さいのです。

別の価格上の工夫に、フリーミアムがあります。お試し価格と同様に新規需要を喚起するのが目的ですが、基本版の価格が常時ゼロであることと、上級の有料版で収益をあげようとしている点が異なります。

非常に広大なマーケットが未開拓の場合、製品の価格弾力性がある程度大きい場合には思い切って値下げをしてマーケットを獲得した上で、そこから収益をあげる方法を考えるという方策が成立するのです。

デジタル製品のように変動費が非常に低く、広範囲なマーケットを狙う場合に向いている方法です。(価格弾力性が大きく、価格を下げると広大なマーケットが獲得できるケース)

また、顧客に価格を決めさせるという方法もあります。オークションがその例です。

個別の製品に多くの人が興味を示している場合に、顧客の最大の支払い意欲を引き出したいときに、この方法は適しています。顧客に価格を決めさせることにより、価格弾力性が非常に低い顧客を見出すことができるのです。

このように、価格の決め方は一通りではありません。色々な工夫があるということを知っておくべきでしょう。

追加料金は、それまで価格のついてなかったものから売り上げを得る方法を、フリーミアムは製品の存在を認知していない顧客層に到達する方法を、オークションは顧客の最大支払い意欲を引き出す方法を、教えてくれるのです。

いずれのケースも、今までの単一価格では見過ごされていた機会(値上げできる構成要素、到達できていなかった顧客層、顕在化していなかった顧客の支払い意欲)を、価格弾力性を利用することによって発掘することができるのです。

通常の単一価格で見過ごしている売り上げ機会が何かを考える目つきが重要なのです。

顧客の使用価値に踏み込んだ認知便益のセットで利益を上げる

価格ではなく、便益を見る方法を今までとは違う方法に変え、その結果より大きな利益を生み出す工夫も存在します。

たとえば、これまでモノの機能という便益を売っていたものを、売った後の使用価値の訴求に変え、使用ベースの従量制で対価を請求すれば、今までとは全く異なった収益の機会が得られることがあります。

具体的な例としてはGEアビエーションのように、航空機エンジンを売るのではなく、エンジンの稼働時間に対して請求するという方法があります。エンジンという製品ではなく推力というサービスを売るというわけです。

時間単位の価格は、ジェットエンジンの使用、その稼働を保証するメンテナンス・サービス、その他のサービスなどを含みます。今まで航空会社が自社の費用で処理していた部分までGEが取り込むので、はるかに大きな収益機会を生み出します。

また、GEが自分でコントロールできる部分が増えコスト削減機会も増えるので、実質的な値上げが可能となります。

このように、顧客の最終目的に遡って考えると、製品を通した場合より大きな便益を提供できる可能性に気づくことがあります。そのような拡張した便益を提供すれば、当然より大きな対価が獲得できるのです。「モノ中心」ではなく「サービス中心」の便益を考えていくべきなのです。

同様に、自動車やトラックのタイヤ・メーカーも、タイヤだけではなくタイヤの自動貼り替えサービス込みでの販売を行ったり、航空機エンジン同様タイヤの稼働時間そのものを売ったりしています。

このことにより、今まで製品の品質改良をしてもその分の費用を売り上げで回収できなかったという悩みが解消されます。

例えば、今まではタイヤの性能が25%向上したとしても、顧客の抵抗により価格を25%向上させることはできませんでした。ところが、稼働時間に応じた価格モデルであれば、タイヤが25%長持ちすれば、同じコストで顧客が払う分が25%増え、実質値上げをしたのと同じ効果が得られるのです。

別の方法としては、価格測定基準を変えるという方法もあります。

高性能の電動工具メーカーのヒルティは、個々の製品ごとに価格づけをしていました。しかし、電動工具はコモディティ化していて、このままでは価格競争に巻き込まれます。

ところが、ユーザの建設現場では一つの工具が故障して使えなくなるだけで、作業全体がストップし兼ねません。

そこで、ヒルティは、「フリート・マネジメント」という工具セット全体サービスを提供し、その月額使用料金を請求することにしました。修理やバッテリー交換を引き受け、工事技術が変わった場合には代替品を提供するなどで、現場作業の停止時間をなくしたのです。

ここでも、便益を製品の機能から顧客の目的に遡った使用価値に変えることで、付加価値を見える化したプライシングに成功したのです。

「モノ中心」の価格づけから「サービス中心」の価格づけに土俵を変えると売り上げ機会が拡大します。顧客費用の内部コスト化で、その削減機会も増大するので、実質的な値上げにもつながるのです。

プライシング方法論

まとめ

  • インターネットで価格比較が容易になるなど価格の透明化が進み、継続的に利益を上げるプライシング(価格設定)が難しくなっている中、効果的なプライシングの方法論が求められてるが、そのようなものが見当たらない
  • 方法論が見当たらない時に手がかりを求めるコツは、「基本に戻る」ことである
  • プライシングの基本は、バリュー = 認知便益 ー 認知価格 という等式であり、この等式の3要素(バリュー、認知便益、認知価格)に注目すれば、プライシング方法についての見地が得られる
  • 同じ商品・サービスでも顧客ごとに感じるバリューが異なる。この価格感度の違いをもとに顧客を層別(流行感を重視する顧客とお値打ち感を重視する顧客、急いでる顧客と急いでない顧客、など)すれば、効果的なプライシングの手がかりが得られる。この方法のヒントは、プライス・カスタマイゼーションの分野で蓄積されたノウハウから得られる
  • 価格弾力性が通常より低い/高い場合には、認知価格に注目したプライシング方法を考えることができる。価格弾力性の低さに注目すれば、追加料金、オークションなどのプライシング方法が見つかる。価格弾力性が高く変動費が低ければ、フリーミアムに見られるような思い切った市場拡大策が考えられる
  • 製品の機能ではなく顧客の使用価値(故障で作業が止まらない、など)にまで遡って、「サービス中心」で認知便益を考えれば、使用ベースの従量料金、月額セット料金などの新たなプライシングで売り上げ拡大が可能になる
  • コンサルタントは、このように基本に戻ればそれなりの方法を見つけることができる、ということを知っておくべきである