調達戦略を理解するための3つのフレームワーク


調達における専門性とは何か、それをどうすれば理解できるか?

どのタイプの企業でも、調達部門の社内的地位が低く、向学心に燃えたコンサルタントの人たちの興味は惹かないようです。それを反映してか、先週の記事スループット経営における調達部門の戦略性に対するFacebookでのリーチも、記録的な少なさでした(苦笑)。

しかし、そのパーセプションは正しいのでしょうか?

調達金額の低減は、売上増とは異なって、その金額がそのまま営業利益増に反映されます。コンサルタントは、クライアントの経営課題を解決するときに、調達にまで目を向ければ見つかったはずの大きな効果を見逃しても良いのでしょうか?

調達とは単に仕様の決まった調達品の価格を机を叩いて交渉するだけの仕事ではなく、調達品と調達先についての高度な専門知識に基づいた戦略的な仕事です。

今日は、次の3つのことを理解しておけば調達の専門性が大体理解できることを説明します。(なお、使用する例は製造業のものですが、内容は他の業界にも広く当てはまるものであることを注意しておきます。部品=調達品、と読んでください。)

  • 調達の契約構造に基づく基礎的調達戦略
  • 調達品の価値とリスクからくる調達環境の違いと、それに基づく調達品カテゴリ分け
  • カテゴリごとの調達品特性と調達先特性分析に基づく調達戦略

調達契約の構造からわかること

手始めに、調達契約の構造を見てみましょう。

すぐにわかるように、調達契約は、何を(調達品を)、どこから(調達先から)、どれだけ(購入量)、どのような条件で(どのようなQCDで)買うかを決めたものです。

この構造をよく理解すると、これだけで様々な調達戦略が考案できることがわかります。図①に示すように、部品、調達先、購入量とそれらの2者関係の6通りに対し、QCDの3通りをかけた18通りの戦略を考案することができます。

例えば、部品だけを見ても、その仕様や工法を見直し作りやすくすることにより、価格を下げることができます。また、部品仕様と調達先の製法を比較することにより、どの調達先が品質高く生産できるかを判定することができ、それを調達先選定に利用できます。(図①参照)

契約構造と調達戦略

これだけでもかなりの進展ですが、さらに効果的な調達契約を締結するためには、部品の特性に関する知識と、その部品を提供する調達先業界に対する知識の双方が必要です。それらの知識がなければ、調達先との交渉を通じてお互いが変革しWin-Winの契約を結ぶことは難しいのです。

それらの知識を有した部品カテゴリごとの専門調達チームが必要となる所以です。

 部品のカテゴリ分けが必要なのは調達環境が異なるから

さらに、調達を部品カテゴリごとに分けて行うことが必要な理由は、部品の種類によって調達環境が大きく変わるからです。

例えば、メモリーなどの高額な汎用半導体を大量に買っていた場合、製品開発プロジェクトごとの購入ではなく一括して購入した方が価格が下がるのは自明です。その理由は、メモリーを提供している調達先の数が多く調達リスクが小さいため、競合させて価格を下げることが可能だからです。

しかし、この時も需給動向により交渉できる価格の幅が大きく変わることに注意が必要です。交渉のタイミングを見誤ると、とんでもない失敗をしかねません。そして、タイミングの見極めには、景気動向だけではなく、半導体メーカーの長期的な投資動向の知識も必要です。

半導体工場は作るのに時間がかかり、一旦稼働し始めたら生産を絞ることが難しいという特徴があります。このような特徴を知っておき、工場構築中でまだ稼働率をカバーする受注が取りきれていない時に、一定の発注量をコミットして生産枠を確保する、などの専門的交渉が重要なのです。

一方、金額は小さいけれど特殊な技術を要する加工品を中小部品メーカーに発注しているようなケースもあります。このような場合には、少額なので、価格低減よりはリスク低減が主たる目標になります。

その中小企業の経営を安定させ、特殊な加工技術が途絶えないようにする、あるいは万一の場合に備え同等の加工技術を持つ調達先を育成しておく、などのことが必要になるのです。

このように、部品の種類が変われば、効果的な調達をするために必要な知識が全く変わります。ですから、部品カテゴリごとの専門チームが必要となるのです。

この状況をまとめると、図②のようになります。各象限の説明は、以下の通りです。

  1. 画像センサーのような製品の機能を実現するのに戦略的に重要な部品で、調達先の力が強い領域。自社のバイイング・パワーをなんとか強化し、戦略的協働関係を構築する
  2. 従来バラバラだった調達をまとめれば、大きなコストダウンを見込める領域。部品の共通化を進め、単一部品あたりの調達量を大きくする。また、透明性の高い調達プロセスを確立し、調達先に公正な競合策を取っていることを理解してもらう。そのプロセスに基づいて、少数の調達先に集約し大幅なコストダウンを実現する
  3. 特殊な加工のようにそれをこなせる調達先が少なく、少額だが調達リスクの高い領域。設計変更を進め、部品を作りやすくすると同時に代替調達先を開拓する。(CからDへの移行を図る)
  4. 少額の購入先が多数存在し、業務効率を高める必要がある領域。場合によっては商社を介在させるなどの方法も含めて調達先数を減少させる。また、定期的なコストダウン要請を行う

調達品カテゴリ

部品カテゴリ別調達チームの戦略

このように環境が異なる部品カテゴリごとに調達戦略を立てることになりますが、その基本は対象部品と調達先の特性を理解することです。

例えば、部品特性に関しては次のようなことを調べる必要があります。

  • 汎用品か、カスタム品か
  • 化成品か、組み立て品か、加工品か
  • 市場価格変動が大きいか小さいか
  • 供給逼迫リスクが高いか低いか
  • 部品変更リスクが高いか低いか

一方、調達先特性に関しては、以下のようなことが調査事項となります。

  • 調達先の数は、一社か、少ないか、多いか
  • 自社購買額が調達先売上に占めるシェアは大きいか、小さいか
  • 自社への協力度は高いか
  • 要素技術力・開発力は高いか
  • 価格競争力は高いか
  • 生産技術力、生産能力は高いか
  • 地場か

このようなことを調査した上で、図③のような知識を用いて、たとえばライフサイクルが長い部品については、生産技術力が高い調達先に対してVA/VE提案を求めた上で品質評価をするなどの選定戦略をとることが考えられます。

QCD獲得施策

このような作業を通して、部品カテゴリの特性に合わせて、調達先との付き合い方の変革を含めた高度な交渉ができ、Win-Winの成果を勝ち取る可能性を高められるのです。

このような意味で調達は高度に専門的な仕事ですので、コンサルタントはその経営に与えるインパクトと調達戦略の概要を理解しておくべきなのです。

 何を学んだか?

  • 従来設計の補助的作業であると理解されてきた調達は、実はスループット経営における調達部門の戦略性で説明したように、高度に専門的な仕事であり、コンサルタントはその経営インパクトを理解しておく必要がある
  • 調達の専門性は、調達の契約構造、調達品の価値とリスク、調達品特性と調達先特性に基づく調達戦略の3つを理解すれば大体把握できる
  • 調達契約は、何を(部品を)、どこから(調達先から)、どのような条件で(どのようなQCD)で、どれだけ(購入量)買うかを決めたものである。これを理解すれば、調達品、調達先、購入量とそれらの2者関係の6通りに対し、QCDの3通りをかけた18通りの戦略を考案することができる
  • 調達品の価値と調達リスクによって大きく分けて4つの調達環境が存在し、それぞれ調達戦略が大きく異なるので、そのことを理解した部品カテゴリごとの調達専門チームの設立が必要である
  • 調達品カテゴリチームの仕事は、調達品特性と調達先の特性を理解し、それらを掛け合わせた調達戦略を立案・実行することである