「報告書を書く」のか「クライアントを変える」のか、コンサルタントの立ち位置を決める


 

クライアントから約束外のことを求められることがよくあるのは?

若手コンサルタントのAさんが戸惑っていました。

AさんはITコンサルタントで、クライアント企業の案件管理システムの導入を請け負っていました。営業案件を、引き合い、要件確認、提案、契約、などの段階別に管理し、案件の迅速な進行やリソースの適切配分を実現することが目的です。

そのため、クライアント企業の営業プロセスを分析し、どのような段階を設けるべきか、ある段階から次の段階への進行の認定基準を何とすべきか、などの分析を行ってきました。

ところが、ある日クライアントの社長から「このシステムを入れると、どれくらい売り上げが上がるのかを示してくれ」と要求されたのです。

Aさんは、自分の仕事はシステムの導入であり、それを運用して成果を出すのはクライアントの仕事だとして契約しました。ですから、社長の要求は約束した範囲(スコープ)外です。

しかし、社長の迫力に負けて曖昧な返事をして帰ってきてしまいました。

別の話です。

ベテランコンサルタントのBさんが、部品表構築の仕事の引き合いを受けました。

部品表とは、製品がどのような部品で構成されているかを階層的にまとめたもので、部品の調達や組立工程の設計の基礎情報となる製造業では重要な情報です。

この部品表は、設計時にはどんどん改定されていきます。また、設計が作成した部品表に、生産技術や品質保障などの各部門が、自分たちの作業に必要な情報をどんどん付け加えていきます。

引き合いをくれたクライアント企業では、この部品表がスプレッドシートで管理されていました。そして、このことが多くの問題を引き起こしていました。

設計が作った部品表に他部門が情報を追加する度にスプレッドシートが転記されます。この時に転記ミスが入り込みます。さらに、どんどん更新版が出されるので、どれが最新版かわからなくなり、間違った版に追加情報を書き込むなどのことも起こります。

この問題を解決するために部品表をデータベース化したいというのが、依頼内容でした。

Bさんは大手メーカーの工場出身だったので、部品表の経験豊富で適任者でした。その経験から、部品表のデータベース化は単なる業務の効率化で、それだけでは十分な投資対効果が上がらないことを知っていました。ですから、部品表に原価情報などを追加して管理すべきで、そのための製品開発業務の調査をすべきだと進言しました。

ところが、クライアントから「そのような追加調査費用をかけても効果が上がるかどうかはわからない。今目に見えている問題をまず解決したい」と言われてしまいました。そう言ったのは、クライアントのIT部門長でした。

Bさんは、将来二重投資になることがわかっている案件を黙って受けるべきか、それとも失注につながることを承知で物申すべきか迷っていました。

このような場合、あなたならどうしますか?そもそもどうしてこのような事態が生じるのでしょうか?それを避ける手立てはあるでしょうか?

実はこの原因は、コンサルタントとしての立ち位置とクライアントのプロジェクト・ニーズとのミスマッチにあるのです。

立ち位置を決めてクライアントを選ぶ

AさんとBさんは、コンサルタントとしての立ち位置が違います。

Aさんは、システムを構築すれば自分の仕事は終わりだと考えています。そのシステムを運用してビジネス効果を上げるのは、クライアントの責任です。

Bさんは、経営から見た部品表の投資対効果を見ていました。効果が上がらない投資はすべきでないと考えていたのです。クライアントの業績向上まで自分の視野に入れています。

他方、クライアントはどうだったでしょうか?

Aさんのクライアントである社長は、当然業績向上が目的です。Aさんとの当初の約束事項が何だったかは別にして、自分の関心事である売上向上について質問してきたのです。

BさんのクライアントであるIT部門長は、それとは違います。IT部門の仕事はITの仕組みを作ることです。それを使って業績を上げるのは、事業部の人たちです。したがって、とりあえず仕組みを作れば自分の役割は終わり、と考えるのです。

どうやら、AさんとBさんは、クライアントを入れ替えた方が良かったようですね。

この事態を整理して表現するには、言葉の定義が必要です。

Aさんは、仕組みを作れば自分の仕事は終わりと考えています。他にも、問題の解決策(処方箋)を示した報告書を提出すれば自分の仕事は終わりと考えているコンサルタントも数多くいます。この人たちを「(報告書を)書いてなんぼ」型コンサルタントと呼ぶことにしましょう。

Bさんは、クライアントが業務の方法を変えて業績を向上させるところにまで関心を持っています。この人たちを「変えてなんぼ」型と呼びましょう。

クライアントにも呼び名が必要です。Aさんのクライアント企業の社長は、事業の変革を求めています。改革プロジェクトの失敗の芽を事前に積むにはに倣って、これを「事業変革型」と呼びましょう。この人たちは事業責任を持っており、ライン組織に属しています。

BさんのケースのIT部門長は、仕組みを作って終わりです。その人たちはスタッフ組織に属しており、その仕事は事業部門が使う仕組みの「準備」をすることです。ですから、この人たちを「準備型」と呼びましょう。

そうすると、図に示すようにコンサルタントとクライアントの4通りの組み合わせができます。

この図で、①と④はコンサルタントの立ち位置とクライアントのニーズが一致しているので、特に問題はありません。しかし、Aさんが直面している②やBさんがいる③では、興味や利害の不一致が起こりかねず、要注意なのです。

Aさんのような「書いてなんぼ(作ってなんぼ)」のコンサルタントは、自分の作業範囲を限定しています。したがって、事業変革型のクライアントに対しては、提案時に自分が請け負おう範囲を正確に理解させ、合意を得ておく必要があります。この作業をスコーピング(範囲決め)と呼びます。

Aさんは、自分のスコープを社長に徹底させられなかったので、上のような要求が飛び出した時に、それをスコープ外だとして捌けなかったのです。

Bさんの場合は、クライアントの状況を見て、相手が望んでいない押し売りを避けるようにする必要があります。

コンサルタントの立ち位置

 「書いてなんぼ」のコンサルタントが気をつけるべきこと

さて、「書いてなんぼ」のコンサルタントと「変えてなんぼ」のコンサルタントの、どちらの立場を選ぶべきでしょうか?

もちろん、それはコンサルタント自身が決めるべきことです。ただし、「書いてなんぼ」のコンサルタントを選ぶときには、気をつけておくべきことがあります。

「書いてなんぼ」のコンサルタントは、自分の専門分野を確立すれば、そのスコープ(範囲)内で作業をすれば良いので、一見安全そうに見えます。

しかし、その安全性は次の2つの条件が成立する場合にのみ確保されることを忘れてはいけません。

一つ目の条件は、自分の確立したスコープとクライアントのニーズをマッチさせられるということです。これは仕事が確保できる条件です。

したがって、②では提案書の段階でのスコーピングの巧拙が問題になります。予め構築する仕組みの範囲が読めない場合には、要件を確認するフェーズを設けるなどの、段階的提案の工夫も必要となり、それなりの経験を要するのです。

二つ目の条件は、その専門分野が陳腐化しない、ということです。安全に仕事ができるのは、固定した枠組みがあるからです。

しかし、コンサルティングの世界で注意すべきは、時間とともにクライアントが成熟し賢くなるということです。同じことをやり続けていたのでは、提供価値が徐々に低下します。自分の付加価値を高め続ける戦略が必要です。

別のもっと大きな観点から気をつけるべきことは、クライアント企業での予算配分です。

企業での意思決定は、事業の多様化や意思決定の迅速化ニーズを反映して、分散化の傾向にあります。かつて本社スタッフが全社的利害を勘案して決めていた投資を各事業(ライン部門)が決定するようになってきています。それに伴い、予算も本社から事業部門に移されてきています。

例えば、本社機構でコンサルタントへの外注費用が一番多いと思われるIT部門も、ITシステムへの投資判断権限と予算は事業部に移管され、IT部門は事業部の決定を受けてシステム開発に従事するという傾向が強くなっています。

したがって、「書いてなんぼ」のコンサルタントも、①から②に軸足を移す必要が出ています。

さらに事業部門は、単なる仕組みの構築だけでなく、その仕組みを使った事業効果に強い関心を抱いていますので、②よりは④の領域で活動するコンサルタントを求めます。

「書いてなんぼ」のコンサルタントは、このような傾向を見極め、縮小する①、②の領域での競争力を強めるか、④の領域での「変えてなんぼ」のコンサルタントへの移行も覚悟するか、の判断を求められているのです。

「変えてなんぼ」のコンサルタントに必要なマインドセット

コンサルタントは、誰しも「書いてなんぼ」から始めます。しかし、上述のようにどこかで「変えてなんぼ」のコンサルタントへの変革を迫られることがあります。

誰しも変わるのは怖いものです。「クアイアントの社長のような経営経験もないのに、どうして経営の変革に貢献できるだろう、自分が自信を持って言えるのはここまでだ」と尻込みしてしまっても無理はない気がします。

ここで、変われる人と変われない人との差が出ます。その分かれ道は何でしょうか?

平時に、コンサルタントのあるべき姿は次のうちのどちらかと問われたら、たいがいの人は2だと答えるでしょう。

  1. 自分ができることをもとに専門分野を確立し、その範囲の中で手堅く仕事をする
  2. クライアントを助け、その困りごとを解決する

問題は、実際に「変えてなんぼ」への変革を迫られた時にどう答えるかです。その時にも怯まず2だと答えた人だけが変われるのです。

この人たちが変われるのは、「自分にできること」からではなく「やるべきこと」から考えているからです。そして、「やるべきこと」をやろうと決心した後に、「どうすれば良いのだろう」と考えるのです。

変われない人は「自分にできること」から考えます。この順番の差が決定的な違いを生むのです。

クライアントの困りごとを解決すると決心してしまえば道は開けます。その理由は、決心した後に「どうすれば良いだろう?」と考えると、ごく自然に気がつくことがあるからです。

それは、すべてのクライアントのすべての困りごとを解決することは不可能だということです。できもしないことをコミットするのは、却って無責任です。

このこと気がつくと、次にすべきことは自分がコミットできる範囲を考えることです。その範囲内で満足させられるクライアントだけと付き合えば良いのです。

コンサルタントの認知度を上げる6段階自己発信戦略で述べた、「第2段階:特化する」と「第4段階:ターゲット・クライアント(だけ)に向けたメッセージを発信する」を実行するのです。

こうやって獲得したクライアントとの信頼関係を構築し、自分の領域に関しては「クライアントを変える」ところまで徹底的に付き合えば良いのです。

このやり方での成功体験を通して、徐々に「クライアントを変える」領域を拡大していくことにより、「変えてなんぼ」のコンサルタントとなれるのです。

 まとめ

  • コンサルタントがクライアントから想定外のことを言われることがあるが、その原因はコンサルタントの立ち位置とクライアント・ニーズのミスマッチであることが多い
  • コンサルタントの立ち位置には、解決策を示す報告書を書く(あるいは仕組みを構築する)ところまでを守備範囲とする「書いてなんぼ」型と、クライアントの業績向上までを引き受ける「変えてなんぼ」型の二つがある
  • クラアインとには、事業部門が利用する仕組みを用意する「準備型」と、業績向上までの支援を求める「事業変革型」の2つのタイプがある
  • 「書いてなんぼ」型がミスマッチを起こす可能性があるのは、「事業変革型」に対する時である。この場合は、スコーピングを明確にしておかないと行き違いが生じるので、要注意である
  • クライアント企業では、スタッフ部門から事業部門への予算の移管が進む傾向にある。したがって、「書いてなんぼ」型も、場合によっては、「変えてなんぼ」型への移行を覚悟する必要がある
  • 経験が十分でないコンサルタントが「書いてなんぼ」から「変えてなんぼ」に移行するのは心理的なハードルが高いが、「できること」ではなく「やるべきこと」から考えることを徹底すれば道は開ける
  • 「変えてなんぼ」のコンサルタントになる手順は以下のとおりである
      1. クライアントを変える(業績を向上させる)とコミットする。専門家だとして領域を限って逃げない
      2. 全てを変えられないので、自分が貢献できる範囲を明確にする
      3. 自分の貢献できる範囲を発信し、それを必要とするクライアントとのみ付き合うという方法でクライアントの期待値を管理する
      4. 期待値に基づいて、クライアントと信頼関係を構築する。ただし、その範囲では裏切らない