スループット会計のレンズを通して見たスピード経営の共通性:トヨタ生産方式と京セラの時間あたり採算


普通の製造業では企業の目的(お金を儲ける)をどう管理するか

企業の目的は、お金を儲けることです。儲けたお金を再投資して、さらにお金を儲けるということを繰り返し、成長して自己資本を充実させていくことです。

この時にキーとなるのが、毎期どれだけ儲けるかを管理する方法です。多くの企業では、この儲けの指標として次の損益計算書における営業利益を用いています。

営業利益 = 売上高 — 売上原価 – 販売費および一般管理費

そして、この営業利益への各部門の貢献方法を指示します。売上高から売上原価を引いた売上総利益を最大化し、販売費及び一般管理費を少なくする方法を指示するのです。

流通業では、この指示は比較的簡単です。仕入れ価格を低減し、廃棄ロスを減らしながら効率的に販売すれば良いからです。

しかし、製造業はそう簡単にはいきません。社内の製造活動が売上原価に反映されます。しかも一般にその工程が長いので、各製造部門の貢献度を評価する方法に工夫が必要となります。

そのために使われる方法が、製品の原価計算です。仕入れや社内の工数・費用投入にかかった費用を製品1個あたりに換算し、それと販売価格を比較できるようにすれば、1個あたりの売上粗利益が計算できるからです。

ということで、製造の各工程に対し、その工程に投入された材料・部品・工数・諸費用から原価を計算し、それを管理する方法が示されます。たとえば、これまでの実績や設備・技術の状況からこの工程ではこれくらいの原価で製造できるはずだといく標準原価を指定し、それと実績との差異を管理させるのです。

企業全体は利益で管理する、製造の各部門は原価で管理する、これが普通の製造業のやり方なのです。

キャッシュ創出を阻む全部原価計算の罠

しかし、この方法は著名な経営者には非常に評判の悪い方法です。

たとえば京セラの創始者稲盛和夫氏は、著書「稲盛和夫の実学:経営と会計」(p.132)の中で、標準原価計算は手間がかかるだけで実際的な価値や効果がないと言っています。

評判が悪い理由はいろいろありますが、一番大きいのは製造固定費の扱いです。

製造の原価には、製品一つ一つの製造に直接関わる材料費や工賃などの変動費と、機械設備の減価償却費などの固定費があります。この両者とも製品原価に反映される必要があるのは、当然のことですよね?(この考え方を全部原価計算と呼び、製造業の原価計算ではこの方式が主流になっています。)

このうち、変動費を製品1個の原価に反映させることは容易ですし、何の問題も起こりません。しかし、固定費の扱いは要注意です。

固定費はその期間中に作った製品の数で割り算して、1個1個に反映されます。このこと自体には特に問題がないように見えます。

しかし、割り算するということは、数多く作ると製品原価が安くなることを意味します。これが大量生産方式の動機となっていることなので、これ自体も問題ではありません。

ただし、大量生産は大量消費を前提としています。作ったものは全て売れることを前提としているのです。

大量消費時代が終わった今、期間中に売れる数以上を作ったとしたら、どうなるでしょうか?どんどん在庫が溜まっていきますよね?しかも、この在庫の価値は原価で評価されます。

それが意味するのは、期間中に消費した固定費の一部は棚卸資産として貸借対照表に積まれ、損益計算書からは除外されるということです。すなわち、作りすぎて在庫が増えた分、損益計算書の利益が増えるのです。

この原価計算方法と製造部門の評価方法の組み合わせが、厄介な問題を引き起こします。製造がコストセンターであると、次のような問題が起こるのです。

  1. コストセンターは、作った製品が売れるかどうかについては評価されないので、売れるかどうかについては関心を持たない
  2. 原価を下げることだけを評価されるのなら、大量に作って原価を下げたほうが、自部門の評価は高くなる。たとえすぐには売れなくても多めに作ろうとする動機が働く
  3. 作りすぎた製品が棚卸資産として積まれても、その分損益計算書の見かけはよくなる(利益が増える)ので、会社全体としては売れ残りの問題には気がつきにくい(短期的にはその問題を無視しようとする動機も働く)
  4. 棚卸資産が増えると、本来その生産を行わなければ有効に使えたはずの資源(キャッシュ)が資産として眠り、企業の再投資に向けられる分が減る。資源の有効活用ができず、企業の成長スピードが遅くなる

この現象を指して、トヨタ生産方式の創始者とされている大野耐一氏は、「ワシは、フル・コスティング(全部原価計算)は嫌いじゃ」と語っているほどです。(トヨタ原点回帰の管理会計 P.52)

キャッシュを創出する経営を比較する統一的枠組みの必要性

この問題を解決しようとして様々な試みが行われてきています。トヨタ生産方式や京セラの時間あたり採算性が、その代表選手です。

その根幹にあるのはキャッシュを重視してその創出スピードを上げる管理方法です。高収益企業には、それで成功している事例が多いのです。

したがって、コンサルタントにはそれらの経験から学んでおくことが求められます。

しかし、現状ではそれらの経験が個別に記述されているだけです。有用な知見を得るためには個別事例を深く読み込まなければならず、研究者でもないコンサルタントには負担が重い状況です。これらの事例を統一的な枠組みで比較し、何が共通していて何が違うかを簡潔に理解できるようにすることが求められているのです。

そこで、キャッシュとスピード重視の会計の仕組みとして比較的整理されていると思われるスループット会計を取り上げ、その枠組みのもとで先進事例を比較してみます。そうすることで、コンサルタント用の知見が提供できるのではないかと、期待されるからです。

販売を重視するスループット会計の視点

スループット会計は、制約理論で有名なゴールドラットが提案する会計的なものの見方です。ゴールドラットは、原価計算の持つ問題を「コストワールド」という言葉を用いて徹底的に批判しています。

スループット会計では、利益と原価に変えて、次の3つの管理指標を用いて経営することを推奨しています。

  • スループット(T):企業が販売を通じてお金を生み出す速さ(製品の販売から供給業者に支払った材料や部品の代金を引いたもの)
  • 在庫(I):企業が売る目的でその購入に投資したお金
  • 業務費用(OE):在庫をスループットに変換するために費やしたお金

ここで「お金」という言葉が表すように、スループット会計はキャッシュ・ベースです。スループットは、販売されてお金が入ってきたときに初めて増加します。

また、材料を加工しても販売するまでは、企業にキャッシュは入ってきません。したがって、在庫には加工に使われた工数などは加算されません。

つまり、減価償却費などの固定費は、業務費用として計算され当期に費用計上されます。過剰生産により固定費の一部が棚卸資産に積まれ、その結果利益が増えることはありません。

この点で、スループット会計は原価計算と異なります。作りすぎでは誰もメリットを受けない仕組みになっています。

スループット会計では、まずスループットを向上させます。材料や原料に企業が加える付加価値額とそのスピードを向上させます。利益のような会計上の概念ではなくキャッシュの生成に注力するのです。

次に在庫を削減します。購入したもののまだ販売されずに企業内に滞留しているモノを減らします。リードタイムを短縮して仕掛り在庫を削減することに相当します。

最後に、業務費用を削減します。スループットの生成に貢献しない費用を削減するのです。

通常の費用を削減すれば利益が増えるという考え方はとりません。費用は単独で評価されるのではなく、スループットとの関係でその有用性が評価されます。

スループット会計の大枠は以上です。

この会計では、各部門の管理をどうするかは示されていません。その代わり、製品ごとのスループットをどう向上させるかについて、その方法がガイドされています。それは、ザ・ゴールに載っている有名な次の5つのステップです。

  1. システムの制約条件を見つける
  2. 制約条件を徹底活用する
  3. 制約条件以外のすべてを制約条件に従属させる
  4. 制約条件の能力を高める
  5. 制約条件が解消されたら、最初のステップに戻る

すなわち、市場の需要が十分にあって、システム(企業内)の何らかのリソースが市場の需要を満たす障害になっている時は、その一番大きな障害(制約条件)に注目します。(システム内に制約がないときは、市場に制約がある(十分な需要がない)ことになりますが、簡単のためそちらの議論は割愛します。)

そして、そのリソースでの生産が最大になるようします。そうすれば、企業内のリソースの能力を何らいじることなくスループットが向上します。

同時に、制約条件の上流では、制約条件が捌けるだけの量の生産をするようコントロールします。そうすれば作りすぎの無駄が省け、在庫や業務費用の削減が図れます。(制約条件の上流では、制約条件に従ったプル生産となります。)

こうした改善を図った上で、初めて制約条件の能力向上をはかります。そうするとシステム内の制約条件が別のものに変わるはずなので、ステップ1に戻って再び改善活動を始めるのです。

スループット会計は、売れるかどうかを意識しないコストワールドとは正反対の、販売につながる作業だけに注力させるための会計となっているのです、

トヨタ生産方式

トヨタ生産方式は、最終需要に結びつく製品だけをプル生産することで知られています。販売から考えるという点で、スループット会計と共通した視点を持っています。

さらに、この方式は大野耐一氏が徹底的に管理会計を排除して作ったという歴史があります。この点でも、スループット会計と思想的な親和性があります。

一方で、トヨタ生産方式は現場の試行錯誤の中で生まれてきたものとされており、トヨタの解説本にもカンバンやムダの排除の方法は説明されていても、全体の管理をどうやっているのかについては記されているものが見つかりません。

トヨタが製販分離している時代に確立した方法でもあり、トヨタの製造には物量の管理はあってもお金の管理はないとされてきています。それでは困るというので、管理会計学者が後付けでトヨタ生産方式を評価しようとしていますが、なかなかうまくいっていないようです。

しかし、トヨタの製造で何も管理されていないということはあり得ません。よく調べてみると、トヨタには能率(製品1個あたりの工数 = 部門が製造に貢献した製品数 ÷ 部門総工数)という管理指標があることがわかります。

以前、トヨタの従業員の給与は、以下のように決められていました。しかも、生産手当は80年代には給与総額の60%を占めていました。

給与総額 = 基本給 + 生産手当 + その他手当

生産手当 = 基本給 × 生産手当支給率

この生産手当支給率は、上記の「能率」という概念をもとに規定されていたのです。さらに、昭和30年代後半に大野工場長主催で毎月1回開催される原価低減のための「能率歩合会議」は、能率歩合の高い部門順に着席していたと言われています。(佐竹弘章、「トヨタ生産方式の生成・発展・変容」)

このことから見ても、「能率」が各部門の管理指標として機能していたということがわかります。

この指標に従えば、各部門は少ない工数で数多くの製品を作れば高く評価されます。必然的に、製品の製造に貢献しない作業は削減し、1台あたりの製造スピードを向上させようとします。製品として売れないものを作りすぎる動機は発生しません。

このようなモチベーションがあるので、JITやムダの削減という方法の開発に一致協力して当たるわけです。

能率における分子の製品台数を向上させることがスループット向上に相当する働きを促進します。また、製品台数は物量ですからスループットへの貢献などのようにお金の換算が不要なので、各部門で目的を共有しやすいという特長があります。

また、分母の工数の削減が、業務費用の低減につながります。また、仕掛かり在庫が多いとそれに関わる工数が発生しますから、在庫の低減も生むのです。

このように見れば、物量の世界での評価方式ですが、トヨタ生産方式はスループット会計と共通点が多いのです、どちらも、キャッシュ創出スピードを高める経営をしていることがわかります。

京セラの時間あたり採算

京セラのアメーバ会計は、稲盛和夫氏がキャッシュベースの経営をすると宣言したところから生まれています。したがって、この経営も根幹の思想はスループット会計と共通しています。

この思想を受けて、京セラのアメーバは、自部門が生成した付加価値で評価されます。

ここで、付加価値とは、アメーバ売上から人件費以外の費用を引いたものです。京セラでは、人は価値を生む源泉と考えられているので、人件費を他の費用と同様の扱いをすることを拒否するのです。

そして、この人件費の効率を評価するために、付加価値をアメーバが使った総労働時間で割った、1時間あたりの付加価値「時間あたり採算」を業績指標としています。

この構造は、物量とお金の違いはありますが、トヨタの能率によく似たものとなっています。ただ、分子の付加価値が金額ベースで複雑なため、より厳しく経営センスが問われることになります。

付加価値を上げようとすれば、社内売上を上げる必要があります。そうかといって、後工程が引き取らないものを作っても売上にはなりません。

逆に、後工程が必要とする量が作れなければ、後工程の業績が下がるので責められますし自部門の業績も下がります。必然的に、最終工程から連結して市場に売れる分だけが作られる、ジャスト・イン・タイムが実現します。

このようにアメーバの売上は、会社全体の動きと同期して決まりますから、残る付加価値向上の努力は業務費用を削減することに向きます。工場の資源(設備、電気代など)の効率的利用を努力するわけです。

残りの効率化は、分母の総労働時間の削減です。これは、単に労働効率を高めることを動機づけるだけではなく、自分のアメーバで人が余っていれば足りないアメーバに貸し出して総労働時間が下げることまでを含み、全体の効率を上げるものとなっています

また、アメーバ経営では「当座買いの原則」というルールを定め、「必要なものを、必要な時に、必要なだけ」買うことにしています。このことにより、余分な在庫を持たないことにしています。

このようにして、京セラの時間当たり採算制も、スループット会計と同じ効率化をしていることがわかります。

スピード経営の比較

まとめ

  • 企業の目的(お金を儲ける)を管理する普通の方法は、損益計算書の利益をもとにする方法であるとさられている。しかし、全部原価計算を用いた場合、この方法では作りすぎの無駄を誘発し、キャッシュの創出スピードを損ねるリスクがある
  • 著名な経営者は、この危険性を理解しており、アメーバ経営やトヨタ生産方式などのキャッシュの創出を優先する独自の管理方法を考案して、自社を高収益に導いてきている。
  • コンサルタントは、これらの成果を理解した上でクライアントをガイドすべきであるが、これらの成功事例を統一的な枠組みで比較・説明する試みが不足しており、十分な知見が蓄積されてこなかったという問題がある
  • これを解決するために、スループット会計をベースにした比較作業を行うと、スループット会計、トヨタ生産方式、京セラの時間あたり採算制度の3者は、その根幹が非常に似たものであることがわかる
  • トヨタは物量ベースではあるが、製品1個あたりの工数という能率指標の向上がスループット向上と同種の活動を促すものとなっている
  • 京セラの時間あたり採算も、アメーバの付加価値向上の追求が全体のスループット向上の追求に貢献するものとなっている
  • 以上のように、これら3者は企業の最終成果物の生産性向上を目的としている点で共通しており、キャッシュの創出を最優先で考える経営のモデルを提供している