ディズニーとスターバックスが中小企業に教えるサービス・マネジメントの4つのレベルの意味


サービスの違いをどう説明するか?

経験経済の記事で述べたように、ディズニーとスターバックスは優れたサービスで成功している企業として有名です。でも、両社のサービスは、他社とどこが何故違うのでしょうか?

その理由が分からなければ、追随して投資する気にはなれませんよね?自社の戦略や強みと合わず、投資が無駄になるかもしれないからです。

先進サービス企業から学ぼうとする場合には、その前に各社のサービスを比較し評価する枠組みが必要です。今日はその検討をしてみましょう。

サービスを仕組み化した成功企業の先駆的な例が、マクドナルドです。ハンバーガーを効率的に生産できる設備を配置し、設備の使用や販売に関わる店員のプロセスをマニュアル化しました。

その結果、大幅な効率アッップを実現しました。それが、価格の低下とサービスのスピード化を生み、顧客にも喜ばれたのです。

一方で、そのマニュアル文化を揶揄する声もあります。人工的で温かみが感じられない、融通がきかない、などの理由からです。

もちろん、マクドナルドはそんな批判を気にはしていません。大量に効率よく販売することが目的だからです。

このことが意味するのは、どのようなサービスを提供するかは、その企業が採用するビジネス・モデル次第だということです。ビジネス・モデルとサービス形態を対比して検討する視点が必要なのです。

サービス提供システムの能力比較の枠組み

まず、サービスを比較する枠組みについて考えましょう。この目的のためには、サービス・マネジメントに提示されているサービス・トライアングルの概念が有用です。

サービス・トライアングルは、継続的に同一品質のサービスを提供するためには、何をどのように用意すれば良いかを示すために考案されたものです。

サービス・トライアングルは、真ん中に顧客を置き、その周辺をサービス戦略、サービス提供システム。サービス提供者(従業員)の3つの要素で取り囲んだものです。顧客中心にサービス戦略を考え、その戦略に従ってサービス提供システムを構築し、人を配置すべきことを説明しています。

それだけだと当たり前だと思われるかもしれませんが、顧客と3つの要素との関係、3つの要素同士の相互関係に6通りあり、そのそれぞれについて考えるべきことが多々あることを説いています。(その内容は本日の主題ではないので、詳しくは参考書を参照ください。)

参考までに、ディズニーとスターバックスのサービス・トライアングルを図に示しておきます。

サービス・トライアングル

さて、この本の説明の中に、トライアングルの中のサービス提供システムは次の5つのインテリジェンスを持つべきことが説明されていて、このフレームワークがサービスの能力比較に使えます。

  1. 成果のインテリジェンス:人、プロセス、手続き、方針、情報、物的資源などのシステムの各要素が、不要な移管も資源の無駄もなく、意図されざる副作用もなく、予定された価値を生み出すように連携している程度を意味している
  2. 修正のインテリジェンス:システムが、間違いを修正したり、不具合を修復するために変更を行うなど、システムに織り込まれた修正のための能力がこれに当たる
  3. 例外のインテリジェンス:なじみのない、あるいは標準的でない欲求にシステムがどれほど対応できるかについての能力を指す
  4. 修復のインテリジェンス:システムの機能不全が深刻で、顧客の価値に対する認知を悪いものにしてしまった場合や、将来二度と取引してもらえないほど最悪の経験を顧客に与えてしまった場合などに、顧客のとって本来あるべき望ましい状況に修復するために必要なシステムの力
  5. 価値追加のインテリジェンス:顧客に対して、状況に応じて、特別の、予定されていない価値を追加的に提供していくためのシステムの力

この5つのインテリジェンスで評価すると、マクドナルドは1の成果のインテリジェンスを非常にうまく実現していて、それで成功してきたことがわかります。

ハンバーガーは消費者がその品質を自分で評価できる商品なので、商品のQCDのみを高めれば良いからです。

ただ、初期のサービス産業成功事例に共通することですが、1以外への備えは乏しく、次第に目の肥えてきた消費者に揶揄されるようになってきたのです。これが、サービス・マネジメントの第1レベルです。

では、他の企業が2、3、4、5を満足させているとしたら、それは何故でどのように提供しているのでしょうか?

その例が載っているのが バナナがバナナじゃなくなるとき という奇妙なタイトルの本です。(原題のPricelessの方が著者の意図がわかるので、ダイヤモンド社も売らんかなの意訳はやめてほしいものです。)

2の修正能力をシステム化している例として挙げられているのが、バグズ・バーガー・バグ・キラー(BBBK)です。BBBKは、全米展開している害虫駆除専門会社で、何千というホテルやレストランがクライアントになっています。

BBBKは、一定の衛生基準(日常的な掃除方法や収納方法)を満たした顧客に対して、次のようなサービス保証を行なっています。

  • 敷地内の害虫が完全に駆除されるまで全くお支払いいただかなくても結構です
  • BBBKのサービスの不満がありましたら、最長12ヶ月前まで遡って払い戻しをいたします。
  • 敷地内で御社のお客様が害虫を見かけることがあったら、BBBKがその型の食事代もしくは宿泊料を負担した上で、お詫びの手紙にBBBK負担の食事券もしくは宿泊券を添えてお客様にお送りします
  • ゴキブリやネズミなどの発生が原因で御社の施設を閉鎖しなければならなくなった場合、BBBKが罰金文と遺失利益分に加え、5,000ドルをお支払いします

このようなサービス保証があれば、顧客は後顧の憂いなくBBBKにサービスを依頼するでしょう。

価値追加インテリジェンスの例として挙げられているのは眼鏡のパリミキです。

眼鏡を選ぶのは、通常は際限のないプロセスです。たくさんある眼鏡から気になるものを探し、実際にそれをかけて試してみる。気に入らなければ次を試す、ということをひたすら繰り返すのです。

ところがパリミキでは、ソフトウェアがこのプロセスを肩代わりしてくれます。

顧客は店に入ったら、まずデジタル写真を撮られます。すると、ソフトウェアが、目と目の距離、鼻の高さを計測します。

次の顧客はリストの中から好きな言葉を選びます。「セクシー」、「個性的」など、自分がこうありたい、こう見られたい、と思うイメージを60ある言葉から選びます。

ここで選ばれた形容詞と顧客の顔の形を組み合わせて、フレームやレンズを提案してくれます。顧客の写真の上に眼鏡が表示され、次から次へと眼鏡が試せます。

このプロセスにかかる時間が15分から20分程度で、カスタマイズされた商品が2週間ほどで届きます。

このような今までにない付加価値を追加する能力(5のインテリジェンス)で、パリミキは口コミで顧客を集めることに成功しています。(最近はパリミキの業績は低価格眼鏡のJINSなどに押されて低迷しているようですが、それは別の話です。)

このように、1に加えて2から5のインテリジェンスのいずれかを提供して成功しているサービスをレベル2としましょう。

害虫駆除ではサービスの品質を事前に評価することが難しい、メガネは選択が難しい、など顧客の購買を難しくする要因があります。その難しさが克服されないとリピート購買が起こらないので、そのためのインテリジェンスが必要となるのです。

そうすると、顧客が1から5までの全てを必要とする場合があるのか、全てを提供している企業(レベル3)があるのかという疑問が湧いてきます。

その全てを提供している例として、サービス・マネジメントが挙げているのが、ディズニーランドなのです。経験価値を求める顧客は、全てが満たされないとリピートしないのです。

ディズニーランドの5つのインテリジェンス

サービス・マネジメントでは、ディズニーランドは次のようにインテリジェンスを実現していると紹介されています。

  1. 成果のインテリジェンス:乗り物が壊れることもなく、ミッキーマウスのショーも予定通り行われ、食べ物は量も多く美味しく、パレードのスタート時刻は正確で、その他あらゆるプロセスが予定通り機能している
  2. 修正のインテリジェンス:キャストが高い見識や積極的な姿勢を持ち、ゲスト(顧客)のためにどんなコストを払っても正しいことをすべきというポリシーを持っている。クオリティに対する飽くなき探究心がある
  3. 例外のインテリジェンス:社員は特殊な状況下でも自由に行動できるだけの権限を幅広く認められ、どのような要求にも可能な限り応えられるようになっている
  4. 修復のインテリジェンス:キャストの誰もが、ゲストが偶然にも悪い経験をしたのであれば、それをあるべき姿に立ち返らせることは、働く者の倫理的な義務と考えている。この思いを実現するために、非常に高いレベルのコミットメント、多大な時間、資源、お金さえも提供することをいとわない
  5. 価値追加のインテリジェンス:ディズニー大学の前ディレクターが好んで語る次の逸話参照

“ある時、一人のゲストがキャストに、氷を買えるところはないかと尋ねた。そのキャストはフロートを保管場所まで移動させる最中だったため、手を離すことができず、近くの売店の場所を案内した。わずかな距離ではあったがゲストに付き添えなかった彼は、売店にいる別のキャストにトランシーバーで連絡して、「青いシャツをきたゲストが氷を必要としてそちらに向かっているので、用意しておいてくれ」と伝えた。そのゲストが売店に着くと、連絡を受けたキャストが、すでに氷の入ったカップを持って待っており、「さあ、どうぞ」と差し出した。ゲストは非常に驚き、何が起こったかしばらく理解できなかった。”

これらの記述を読むと、5つのインテリジェンス全てを満たすサービスを構築するためには、単に設備やプロセスを整備しただけではダメだということがわかります。顧客のためを思い、それらの設備やプロセスを自発的に使いこなし、時には無視する従業員の養成が不可欠なのです。

ディズニーなどのサービス先進企業では、そのために従業員教育に投資をして価値観の統一を図っています。

また日頃の行動指針を共有できる工夫もしています。例えば、ディズニーでは、パーフォーマンス・ティップスと呼ばれる行動リストを徹底できるよう教育しています。具体的には、次のようなものです。

  1. 目を見て笑いかける
  2. ゲストのひとりひとりに挨拶し、歓迎の気持ちを示す
  3. ゲストに接する(助けを必要とするゲストを見つけるのは、キャストひとりひとりの務め)
  4. サービスを迅速に回復する(サービスがうまくいかなかった時は、それが問題になる前に挽回するよう最善を尽くすのがキャストの務め)
  5. 適切なボディランゲーシを示す(親しみを示す)
  6. 魔法のようにすばらしいゲスト体験を保つ(規則や規制にしばられすぎず、積極的に行動する)
  7. ゲストひとりひとりに感謝する

このような教育を受けていれば、マクドナルドの従業員とは全く異なった行動をとるようになることが理解できると思います。

先週の記事で述べたような経験経済の時代になると、これらのサービスが「記憶に残る」ことが求められます。このために、「顧客のことを思った」行動が必要となるのです。

ただ、これだけではそのような行動をすれば良いかがわかりません。そのためのガイドが必要です。

先ほどの バナナがバナナじゃなくなるとき は、消費における経験価値の重要性を論じています。そしてサービスが記憶に残るためには、次の4つの経験的顧客ニーズを満足させるべきであると説いています。

  • 助けて
  • 尽くして
  • 直して
  • もっと!

ディズニーの場合は、3が「助けて」を、1,2,5,7が「尽くして」を、4が「直して」を、そして6が「もっと!」に応えるもとになっていて、「記憶に残る」経験価値の提供に成功しているのです。

「助けて」などの顧客要求を満たす従業員行動を提供して初めて、経験価値提供に成功するのです。そのために5つのインテリジェンスを備えるというのが、サービスのレベル3なのです。

スターバックスとディズニーの微妙な違い

経験経済で述べたように、スターバックスも経験価値の提供に成功しています。

スターバックスも、ディズニーと同様に従業員の教育に手間暇をかけ、さらに具体的な行動指針を与えています。この指針を徹底させるために、スターバックスのパートナーは皆エプロンのポケットに入る手帳を持っています。

グリーンエプロンブックと呼ばれるその手帳には、次の気持ちを大切にすべきことが記されています。

  • 歓迎する
  • 心を込める
  • 思いやりを持つ
  • 豊富な知識を蓄える
  • 参加する

これらの言葉を見ていると、顧客を歓迎し心を込めて尽くすという点で、ディズニーのそれと非常に近いことがわかります。詳しくは説明しませんが、5つのインテリジェンスも満たしています。

「助けて」などの要求も満たしています。すなわち、レベル3に到達しています。

ただ、両者には微妙な違いがあります。その違いは、スターバックス5つの成功法則と「グリーンエプロンブック」の精神に書かれている、これらの言葉の説明を見るとわかります。

たとえば、「心を込める」の説明の中に、次のような例が述べられています。

“ある女性がスターバックスで出会った男性と結婚した。パートナーたちはその成り行きを優しく見守り、店に二人の写真を貼るなどしていて、ついには二人の結婚式にも同席した。その後一年もたたないうちに夫がガンと診断された時も、スターバックスは二人の支えとなった。そして一度目の結婚記念日を迎えてすぐに帰らぬ人となった夫の葬式にも、パートナーたちは出席した。”

スターバックスは「心を込める」というのを「お客様との結びつきを作り、お客様を知り、お客様に応える」ことだと捉えているのです。

また、「参加する」という言葉は、店に参加する、会社に参加する、地域に参加するということを意味しています。特に地域に参加することを重要と捉えていて、様々な地域貢献をしていますが、その中に、店で地元の人が演奏するイベントを開催することなどが含まれています。

このようなことは、ディズニーの「お客様に応える」ことには含まれていません。その理由は両者のビジネス・モデルの違いにあります。

ディズニーランドは、基本的には大きな施設に来る不特定多数の顧客を相手にしています。それに対し、スターバッックスは特定地域で営業していて、店に繰り返し現れる常連客を相手にしています。

ディズニーはリピート客が多いとは言え、一過性のトランザクション(取引)の中での顧客サービスを極めることを目的としています。それに対し、スターバックスは、継続的なリレーション構築が重要なビジネスなのです。

スターバックスは、このためにパートナーに常に顧客の期待を超える努力をすることを求めています。その象徴的なものが「10分ルール」です。

これは、店舗に表示されている営業時間より10分早く開店し、10分遅く閉店するというものです。このルールはスターバックスで最低限求められることとして定着していて、求める基準を高くすることを促しています。

また、約束以上のことをする上で最も重要なのは、日頃から約束以上のことをしようとする誠実な従業員がいることです。このためにスターバックスは4つの資質(誠実さ、真面目さ、知識欲、それに加えて積極性)のある情熱のある従業員を雇うことを徹底しています。

同じ5つのインテリジェンスを備えているサービスでも、トランザクションに基づいているかリレーションに基づいているかでレベルが異なるのです。スターバックスこそがレベル5のサービスを提供しているのです。

以上の議論が中小企業に意味すること

さて、以上の議論がが中小企業に何を意味するでしょうか?それは、非常に簡単で重要なことです。

すなわち、一見高度に見えるレベル4こそが中小企業に向いているということです。常連客に対する心配りこそが、本来中小企業が得意とすることであり、それこそが中小異形の差別化の源泉であるはずだからです。

サービス・マネジメントで5つのインテリジェンスを実現するのが難しく高度に見えるのは、それを非常に多数の顧客に提供しようとするからです。

多数の顧客に同一品質のサービス継続的に提供しようとすれば、設備やプロセスへの大きな投資が必要です。そこには、それに見合う知恵の投資も必要で、高度な専門家の獲得が必須となります。

しかし、顧客の数を限るのであれば、アベスポーツのように丁寧に地域の面倒を見るなどで、経営者の知恵と才覚で高度な顧客サービスを実現できるはずです。

スターバックスも最小は中小企業でした。自社が得意なサービスを仕組化するヒントとして、スターバックスの経営など勉強すれば良いのです。

まとめ

  • サービスには、マクドナルドのように効率重視のものもあれば、ディズニーやスターバックスのように顧客のケアを重視するものもある。どれが良いかは一概には決められない。それらの何を重視すべきかは、どのようなビジネスをするかで決まる
  • 継続的に同一品質のサービスを抵抗するためには、それなりの仕組みが必要である。その仕組みを構築するためには、サービス・トライアングルという概念が参考になる
  • サービスの能力を比較するためには、サービス・トライアングル中のサービス提供システムが備えるべきとされている5つのインテリジェンスに注目すると良い。ここでインテリジェンスとは、成果、修正、例外、修復、価値追加の5つに関わるものである。
  • ハンバーガーなどのように顧客が品質を容易に評価できるものについては、成果のインテリジェンスのみを提供できれば良い。これが、レベル1のサービスである
  • 害虫駆除などのように顧客が事前にその品質を評価できないときは修正のインテリジェンスがないとリピートが得られない。また、メガネのように選択が困難なときは価値追加のインテリジェンスが求められる。これがレベル2のサービスである
  • ディズニーランドのように顧客が経験価値を求めているときは、顧客の「記憶に残る」ように5つのインテリジェンス全てを動員する必要がある。そうなって初めてリピートしてもらえる。これがサービスのレベル3である
  • 経験価値の提供にあたっては、「顧客のことを思う」従業員の行動が最重要となり、行動指針の教育の良し悪しが成否を分ける。効果的な行動指針の設計のためには、顧客が求める「助けて」、「尽くして」、「直して」、「もっと!」の視点から考えることが効果的である
  • 経験価値の提供には、一過性の取引レベルのもの(ディズニーランド)と継続的なリレーションに基づくもの(スターバックス)がある。リレーションに基づく経験価値の提供のためには、常に顧客の期待を超える努力が必要であり、そのためには情熱を持って従業員の確保と教育が重要である。これがサービスのレベル4である
  • 常連客とのリレーションを大事にするレベル4は、本来中小企業が得意とする領域である。顧客数を限れば必要投資も少なく、中小企業に身実現可能である。スターバックスの最初は中小企業だったので、そこからレベル4の仕組化のヒントを得れば良い