ニッチ戦略の模倣防止策:サービスでマイナスを除去するサービス・ニッチ戦略


ニッチ戦略を競合に模倣される悩みを解決するには

中小企業にとっての理想は、大手や競合企業が気づいていないニッチ市場を独占することです。

そのためには、まず次の業界リーダーが参入できない条件を探る必要があります。

  1. その市場に業界リーダーが進出しようとしても、リーダーが持っている経営資源と適合しない(大手コンビニが保有する固定資産を有効に活用できるほどの市場規模がない北海道の過疎地に展開するセイコーマート、など)
  2. 競争のやり方がリーダー企業の競争方法と適合しない(筋力アップの機器をあまり必要としない女性専用のフィットネス・ジムのカーブス、など)

そして、先週はこのような条件を探る有力な方法として「平均的でない顧客」を見つける方法を紹介しました。

しかし、これだけでは中小の競合会社の参入を防ぐことはできません。中小の競合企業は、リーダー企業のような大きな投資をしていないので、柔軟な戦略変更により、新たな市場に追随してくる可能性が高いからです。

市場を独占する前に参入されると、激しい競争を招きかねません。

このような事態を避けるためには、競合に気がつかれにくい顧客価値を提供する必要があります。そのためには、顧客価値の定義に遡って考えるべきでしょう。

実は、顧客価値の定義については、このブログの初期に「顧客価値の定義を問えば大学院の講義も作れる」という記事で議論したことがあります。そこで参考にしたのが、マーケティングの大家のコトラーの次の定義です。

「顧客の受取価値とは、総顧客価値と総顧客コストの差である。総顧客価値とは、特定の製品やサービスに顧客が期待するベネフィットを総合したものである。総顧客コストとは、顧客が製品やサービスを評価、獲得、使用、処分する際に発生すると予測したコストの総計である。」

ここで注意すべきは、総顧客価値は競合会社にも知られやすいということです。当該企業が顧客に購入を促すために、「総顧客価値」についてあれこれとアピールするからです。

それに反して、「総顧客コスト」はそれほど自明ではありません。「総顧客コスト」が大きいと、顧客は購入をためらうことになりますので、企業はそれに触れることを避けようとします。

また、顧客自身も総コストに気づかないまま購入することも多いです。その結果、競合会社もそのコストには気がつきにくい状態にあります。

ここに、模倣防止の機会があります。

中小企業は小さな市場で勝負することが多いです。その場合には、顧客をリピート化し、その生涯価値を高める必要が出てきます。

リピート客は、購入を繰り返すうちに、次第に「総顧客コスト」を把握するようになります。したがって、競合が気がつかない形で「総顧客コスト」を削減できれば顧客満足度が高まり、市場を持続的に独占できる可能性があるのです。

そのために、総顧客コストの削減はどうすれば実現できるかから考えてみましょう。

消費チェーン分析を利用して総顧客コストを削減する方法

総顧客コストを理解するためには、顧客がある製品・サービスを欲しいと気づいた時から、使い終わって処分するまでのライフサイクルを追いかけた分析をすべきです。その各ステップで顧客が何を不都合(不安、不確実、など)だと思うかを検討し収集すれば良いのです。

このための道具としては、「中小企業マーケティング:大手が参入しにくい市場と競争優位製品を作る」で述べた消費チェーン分析が利用できます。

消費チェーンの各ステップで見つかった不都合を除去すれば、そのぶん顧客価値が高まるというわけです。

これを利用した競争優位策の例としては、例えば次のようなものがあります。

  • 選択:顧客は類似の商品・サービスが多数あるときに、その商品の中から自分の基準に合ったものを選択する必要があるが、この手間がバカにならずうんざりすることが多い。顧客の選択基準が価格であるときに、カカク.comのような比較ツールがあれば、顧客はそれに飛びつく
  • 注文:アマゾンは注文ごとに同じ顧客情報を何度も入力する手間をワンクリックで解消した
  • 配送:アップルはiTunesにより、音楽CDを買いに行く、あるいは送ってもらう手間をオンラインのダウンロードでゼロにした
  • 支払:1850年代後半のアメリカの開拓時代では、広大な農地に対する人手不足が深刻で高価な農機具への需要が高まっていた。しかし当時の銀行は農家に融資せず、機械の購入時期(農産物の作付け時期)と農作物換金時期のずれのため、農家は即金で購入できないという問題があった。農家は機械投資は2−3年で回収できる能力があることに目をつけたマコーミック社は、手付金+分割払いという支払方法を発明し、世界最大の農機具メーカーとなった
  • 受領:プログレッシブ保険は自動車事故での損害額の査定を、担当者が事故現場に急行しその場で行うことにより、顧客の満足度を高め急成長した
  • 使用:19世紀後半、アメリカの農村へのカタログ販売という新規事業を開始したシアーズは、顧客の使用上の不安を解消するため返品自由という制度を設け大成功した
  • 保守・点検:コマツはブルドーザーなどを重機を遠隔診断し故障を事前に察知・保守することにより、顧客の重機稼働率を大幅に高めた

消費チェーン分析

競合に気づかれにくいサービス・ニッチ戦略

総顧客コストを削減するニッチ戦略を見つける方法がわかったら、次は、それを競合会社に気づかれずに実現する方法です。

残念ながら、上記の方法はいずれも競合会社の目につき、特許で守られてでもいない限り、いずれ競合会社に模倣されます。

その理由は、総コスト削減が商品・サービスの機能そのものに組み込まれているからです。そのメリットが、商品・サービスそのもの一機能となっており、カタログに明記されるからです。

これとは異なり、顧客の購入過程上の不都合を購入プロセスの中で解消するサービスを提供したらどうでしょうか?競合会社は、そのプロセスに立ち会っていない限り気がつくことはできません。

このことを徹底して行って、他社が追随できない成功を収めているのが、でんかのヤマグチです。

ヤマグチは、経済的に余裕のある中高年層を電気製品販売のターゲット顧客と定め、徹底してその不都合の解消に努めています。たとえば、次のような具合です。

  • ニーズの顕在化:顧客が何をいつ買ったかを熟知している営業が御用聞きとして顧客宅を巡回しており、買い替え時期近くになると、それとなく買い替えを促す
  • 探索:店にはベンチやテーブルを多数置き、お茶なども提供して、顧客がリラックスできる環境でゆっくり品定めができるようにする
  • 選択:顧客が何か新商品を欲しがった時、営業はスペックではなくその使用方法を聞く。その上で、使用方法にあったスペックの製品を探し出して勧める
  • 注文:常にきちんとした明細付きの見積書を提示し、その根拠を説明する
  • 配送:電球1個でも飛んでいく
  • 支払:ヤマグチ独自の支払いカードで月末銀行引き落とすので、顧客は銀行に行かなくて済む
  • 据付・組立:気心の知れたヤマグチの社員が担当するので、家の中に入り込まれても安心。ベテランで作業も迅速
  • 保管・運送:顧客の希望時刻に合わせる(無理を聞く)。足らなくなった電池などは御用聞きと称して届け、負担を感じずに頼んでもらう
  • 使用:顧客のタイプを見極め、据付時にリモコンの使い方なども丁寧に説明する。購入者向けのIHクッキングヒーターを使った料理教室を開催する。よく壊れるハズレの商品が出現したら自腹で取り替える
  • 保守・点検:顧客の購入データを管理しているので、迅速にリコールできる。パナソニック会員には、保証対象外の製品でも全て5年保証する
  • 修理・返品・取り替え:他所で買った製品でも直す(気兼ねなく頼みやすいようにヤマグチではなく修理会社と契約)

このようなサービスがあれば、顧客満足度が高まることは明らかで、しかも競合会社には気づかれにくいでしょう。

一方で、このようなサービスにはコストがかかります。ヤマグチは、長年の経験から顧客のタイプごとのコストを見極め、それを含めた売価を提示しています。その結果、顧客も気兼ねなくサービスを頼め顧客満足度が高まる、という好循環を実現しているのです。

ノンカスタマーを接客で呼び込むサトーカメラ

サトーカメラは、栃木県内のカメラ販売シェアが17年連続で首位、デジカメ市場が縮小する中、13年連続で粗利率を伸ばし、ついには44%に達している、という繁盛店です。その好業績の背後にあるのが、常識破りの長時間接客です。

サトーカメラの戦略は、誰もが知っているマス商品を大手チェーンストアよりも少し上の価格帯で大量に販売することです。

そのために「思い出をキレイに一生残すために」というスローガンで、カメラに詳しくない中高年女性などのノンカスタマーを開拓し、写真プリントサービスなどを提供し、同時に額縁などを販売しています。

これを、顧客の購買プロセスを徹底研究し、そこに必要とされるサービスを提供することで実現しています。

まず「ニーズの顕在化」のために、地域へのチラシ配布を徹底するとともに、小中学校での写真教室で将来の顧客を開拓し、店での写真コンテストで常に人が集まるようにしています。

また、ノンカスタマー開拓のために1枚10円のSサイズ。プリントという下位商品を開発しました。最初はカメラを持っておらず携帯で撮影している中高生向けと想定していたそうですが、携帯で撮影していた中高年女性が殺到し、大量にプリントしていったそうです。

その人たちにデジカメの使い方を教えたところ、カメラを購入し、プリントサービスのリピート客になってくれたとのことです。さらに、リピート客には時間をかけて一緒になって写真を選び、思い出の作り方をアドバイスしています。

また、カフェ風の店づくりをして、それまで店に寄り付かなかった若い女性でにぎわうようにしています。

このようにして、それまでカメラに詳しい男性客中心だったカメラ店を、店の造作変更や丁寧な接客で女性客が気軽に相談できる店に変えたことで、大成功しているのです。

その他のサービス・ニッチ戦略成功例

栃木県足利市のアベスポーツは、累積赤字1億円のスキー用品中心の店を、地域のアスリートを支援するという方針を発信することで、9期連続黒字を達成する店に転換することに成功しています。

徳島県のとくし丸は、誰もが無理だと言った過疎地の買い物難民向けの移動スーパーで成功を収めています。

これらの企業も、図②に示すような消費チェーンのステップごとのサービス提供で成功しているのです。

サーボス・ニッチ戦略

まとめ

  • 中小企業の理想は、大手や競合が入り込めないニッチ市場を独占することであり、そのための一つの方法は「平均的でない顧客」を見つけ、そこに顧客価値を提供することである
  • しかし、この方法でせっかく大手が入って来られない市場を見つけても、投資が少なく機敏な中小の競合会社の模倣の防止が困難だという悩みがある
  • 模倣を防止するためには、次の2つを考える必要がある
    • 顧客の受け取り価値は、顧客が期待するベネフィットの総和の総顧客価値と顧客が購入・使用にあたって感じる不都合の総和の総顧客コストの差である。模倣を避けるためには、このうち競合が気づきにくい総顧客コストに着目すべきである
    • さらに、総顧客コストを製品・サービスの機能そのもので実現すると目立ちやすいので、顧客の購買プロセスへのサービス提供で実現すべきである。これをサービス・ニッチ戦略と呼ぶ
  • サービス・ニッチ戦略を検討するときに有用なツールが、消費チェーン分析である。消費チェーンの各ステップでの顧客の困りごとを分析すれば、顧客の配送を代行するなどのサービスがすぐ思いつける
  • このような顧客の不都合を解消するサービスは、一つ一つは小さなことであるが、それらを一貫して提供し続けると非常に大きな顧客満足を生む。しかもその集積の模倣は困難となるので、大きな競争優位を生む
  • この戦略で成功している例として、でんかのヤマグチ、サトーカメラ、アベスポーツ、とくし丸などがあるので、コンサルタントはそれらを分析・学習しておくべきである