ビジョン経営成功の隠れた鍵は、経営者の価値観


ビジョンは本当に会社の長期的成功を左右するのだろうか?

経営学の本には、会社の成功には共通のビジョンの存在が欠かせない、と書かれています。たとえば、リーダーシップ論のバイブル 本物のリーダーとは何か には「ビジョンなき組織に未来はない」とまで書かれています。

でも、いまひとつピンと来ないですよね?

ビジョンって、なんだろう。正体がよくわからない。そんな漠然としたものの議論に関わっているよりも、目の前のビジネスに集中した方がいい。

そんな現場の声も聞こえてきます。

パートナー型コンサルタントとして会社の長期的成功に携わるなら、ビジョンが会社の成功に本当に影響するのか、きっちり理解しておく必要がありそうです。しかも、経営者をガイドするためには、抽象的な議論ではなく、具体的な事例に沿った解説が必要そうです。

ということで、長期的な成功を収めた経営者の実例の分析に、ビジョンが本当に必要か否かの答えの手がかりを求めることにしましょう。

リーダーのビジョンの実例分析:セブンイレブン創始者の鈴木敏文氏

セブンイレブン・ジャパンは、1973年創立で、翌年5月に豊洲に1号店を出店しました。(現在の国内店舗数は20,337店(2018年4月末)と、郵便局数(簡易郵便局含む)24,033に迫る勢いです。)

当時、鈴木氏はイトーヨーカ堂の取締役として、地元商店街とのスーパーの出店交渉を担当していました。「大型店と中小小売店との共存共栄は可能だ」と言う自分の主張に、強い反発を受け続ける毎日でした。

商店街の凋落の真の原因は、大型店の進出ではなく、自らの労働生産性の低さを放置していることにあると感じていました。その時に、アメリカで繁盛している小型店セブンイレブンと出会い、大型店との共存共栄の可能性を見出したのです。

つまり、セブンイレブン・ジャパン創立の目的は、小型店と大型店との共存共栄を実現することにあったのです。

その後、アメリカのコンビニの運営は大雑把で日本の実情には全く合わないことがわかるなど、大変な苦労をした上で、日本型コンビニの姿を形作ってきました。小型チェーン店が労働生産性を高めるキーが単品管理とドミナント出店であると言う仮説を作り、それを検証したのです。

ここまでは、通常のビジネスの教科書で語られていることです。

ここですべき質問は、セブンイレブン・ジャパンは鈴木氏でなければ作れなかったのか、そうだとすればなぜ鈴木氏は成功できたのか、と言うことです。

鈴木氏の著書 挑戦 我がロマン を読むと、セブンイレブン・ジャパンの歴史は、反対の嵐の中で挑戦し続けた歴史だったと言うことがわかります。例えば、以下のような具合です。

  • コンビニへの進出そのものに対して: 「日本では各地でスーパーが進出し、商店街のかなりの部分が衰退している状況を見ても、小型店が成り立つわけがない」
  • 1号店をフランチャイズで出すことについて: 「いきなりフランチャイズ店を出していくのは冒険すぎるので、直営店で実験してノウハウを身につけるのが先でそれが良識ではないか」
  • 共同配送に対して:「あなた方はブランドに対するメーカーのプライドが分かっっていない。どんなに品質に対して力を入れているか。よその商品をうちの車に載せられるか。うちの商品だけ店に置けば良いではないか。」
  • おにぎりに対して:「そういうのは家で作るのが常識だから売れるわけがない」
  • ATM設置に対して:「銀行が次々破綻している中で新規参入しても絶対無理だ。銀行のATMも飽和状態にあるのに収益源がATMだけで成り立つはずがない」

なぜ、これらの反対にめげることなく挑戦し続けられたのでしょうか?上記の反対に対する鈴木氏の以下のコメントを著書から拾ってみると、その理由がよくわかります。

  • あきらめずに色々な可能性を試せば、どこかで誰かの目に止まり、必ず賛同者が現れるもの(最初の就職先東販で広報誌を改革することを提案し四面楚歌の中、社長が役員会で発表しろと言ってくれたことに対して)
  • やるべき価値があったら挑戦する(上記の改革で広報誌の部数が20倍になったことに対して)
  • トップとしての役割の最たるものは、ものごとをいかに徹底させるか、その徹底力にある(「江東区から一歩も出るな」とドミナント方式を徹底したことについて)
  • 「一生懸命やる」のと「正しいことをやる」のではまったく意味が違う(赤飯の試作品がまずい理由がご飯と同じラインで「炊いて」いたことにあることを発見して、設備投資をして「蒸す」ようにさせたことについて)
  • 自分がやるべき価値があると信じたことを実現したいと可能性に挑戦したことが、幸運につながる(チェーン店発注のシステム化を半分のコスト、納期4分の1で500台一気導入を実現して)
  • 既存の常識で不可能なら可能になる方法を自分たちで考える。必要な条件が揃っていなければ、その条件を変えてみる(「開いててよかった」のコピーで大型店と小型店との共存が可能なことを証明して)
  • 常に「顧客の立場」で考え、買い手にとって都合がよければ、売り手にとって不都合なことでも実行する(これまでの常識を超えた品質の「金の食パン」を開発して)

これらに共通してわかることは、鈴木氏が「やるべきことを諦めずに挑戦し続ける」という信念を持っているということです。その考え方、価値観を決して曲げずに徹底するので、部下が「何が正しいのかを考え、その実現を追求する」集団に変身するのです。それがセブンイレブン・ジャパンの成功理由なのです。

成功するビジョン経営を構成する要素

このように、鈴木氏は周囲が不可能と思ったゴールに向かって部下を巻き込んでぐんぐん進み、まったく新しいコンビニという業態をつくりあげることに成功しました。

鈴木氏をリーダーと呼ぶことに、誰も異論はないでしょう。まさに、パートナー型コンサルタントがリーダーシップ論を理解すべき理由で述べたディレクション・セッター(方向決定者)です。

では、鈴木氏はなぜ成功できたのでしょうか?世の中には、自分のたてたゴールに向かってどんどん突き進む人は大勢います。でも、そのすべてが成功するわけではありません・

コンサルタントとして、鈴木氏が失敗者とどこが違うか、なぜ成功したか、そこから何を学ぶべきかを、クライアントに説明できる必要があります。

つまり、ビジョン経営の成功要因を説明できる必要があるのです。

この参考になるのが、ザ・ビジョンという本です。

この本では、ビジョンは3つの要素から構成されると述べています。そのそれぞれについて順に解説しましょう。

この本の原題は、「全速前進」(Full Steam Ahead)です。「全速前進」とは蒸気船が走っていた時代の言葉で、エンジンを全開にして、全速で進むことを指しています。企業が成功するためには、従業員が一丸となって全速で前に進むことが求められますが、そのことを比喩的に表現しているのです。

「全速前進」で進むためには、従業員が全力を挙げることに合意しており、そのことに熱意を持っている必要があります。つまり、企業の成功のためには有意義な目的が必要です。

目的とは、企業の存在意義そのものです。単に事業の内容を述べただけのものではなく、顧客の視点に立ってなぜそれをすべきかの企業の使命を明らかにするもの。社員の意欲を掻き立て、やる気を起こさせるような「有意義な目的」でなければなりません。

セブンイレブン・ジャパンのケースでは、「小型店と大型店の共存共栄、既存小型店の活性化」が、これに当たります。これが、ビジョンを構成する第一の要素です。

何を目指すかが決まっても、それだけではビジョンとして十分ではありません。目的を達成する道筋には様々なものが考えられます。その中には、他の人を傷つけるなど、とるべきでない道筋も存在し得ます。

目的を達成していく過程で。どう行動していくべきかを示す、ガイドラインが必要なのです。行動に迷ったときに判断基準を示す、これが「価値観」です。

セブンイレブン・ジャパンでは、鈴木氏の「やるべきことに諦めずに挑戦し続ける」という価値観が、不可能を可能にする原動力となったわけです。

目的と価値観が定まったとしても、それだけでは行動が定まりません。全従業員が一致団結して行動するためには、どこに到達するのか、何を達成するのかの最終結果のイメージが具体的に共有されている必要があります。この本では、それを「未来のイメージ」と読んでいます。

セブンイレブンでは、単品管理、ドミナント出店などが未来のイメージだったわけです。

このように、この本ではビジョンは次の3つの要素で構成されているとしています。

  1. 有意義な目的
  2. 明確な価値観
  3. 未来のイメージ

このように整理すれば、ビジョンの良し悪しが間違いなく企業の長期的成功を左右するということが理解できるでしょう。

ここで注意しておくべきことがあります。

この中で、1と3については、通常の経営書でもよく取り扱われています。セブンイレブンについても、我々は1と3については知っています。

しかし、2の価値観は普段議論されることが少なく、そのため意義が理解されにくいのです。ビジョン経営で一番外に現れず効果がわかりにくいのは、2の価値観なのです。

セブンイレブンが成功したのは、鈴木氏の「諦めないでやり続ける」という価値観あってこそのことです。コンサルタントは、ビジョン経営における一見地味な価値観の重要性を認識しておくべきなのです。

このことを、他の経営者の成功事例で確かめてみましょう。

経営の神様 松下幸之助

松下幸之助を上述のビジョン・フレームワークに当てはめてみるとどうなるでしょうか?

松下幸之助は、大正中期から戦後の高度成長期まで松下電器を巨大企業に育て上げた伝説の経営者です。1933年(昭和8年)にいち早く事業部制を敷き経営人材の育成を図るなど、常に時代の先を行く経営を行ってきたことで知られています。

中でも幸之助を際立った存在としているのが、経営に対する考え方のスケールの大きさです。それを象徴するのが、彼が唱えた「水道哲学」です。

松下幸之助 夢を育てる には、次のように書かれています。

「一体生産者の使命はなんだろう。それは簡単にいうと、この世の貧しさを克服することである。たとえば水道の水はもとより価のあるものだ。しかし道端の水道を人が飲んでも誰もとがめない。それは水が豊富だからだ。結局生産者はこの世に物質を満たし、不自由をなくするのが務めではないか。」

これが「水道哲学」で、幸之助はこれを松下電器の究極の目的として行動してきたのです。この哲学のもとに、幸之助は次のような積極果敢な事業展開を成功させてきました。

  • 昭和28年中央研究所設置。欧米の工場を視察すると、松下が最新式だと思って買った機械がその工場では一番古い機械で、最新式は自社で作り門外不出としていることを知り、専門の機械製作工場を設けた
  • 昭和31年に5カ年計画で売り上げを4倍にすることを策定し公表。民間企業がそのよう計画を策定する例そのものがなかった(4年目に目標売り上げ800億円をほぼ達成し、5年後に1,000億円を超えた)
  • 昭和34年に、日本経済に力がついてきたので保護貿易から自由貿易に転換すべきことを唱え、社内の総生産に占める輸出の割合を2年間で6%から12%に伸ばす
  • 同時に生産性向上の必要性に言及し、週休2日制導入が不可避であることを主張する。(5年後にこれを実施)

これらの積極策の背後にあったのは、昭和26年のアメリカ視察旅行でアメリカの豊かさ(アメリカではラジオを作っている工員が2日働くとそのラジオを買えるのに対し、日本では1ヶ月半かかる)を見て「ぜひともアメリカのようにしなければ」という決心をしたことでした。

つまり、幸之助の「水道哲学」を実現するための「未来のイメージ」は、アメリカ並みの生産性の実現だったわけです。

そして、これらの人を驚かせる積極策を可能にしたのが、「市場は無限にある」とする自他共に認める「万事積極主義」です。(これについては、ジョン・コッターも「幸之助論」の中で、「経営哲学としての楽観主義」という節を設けて論じています。)

ちょうど日本の高度成長期にこの積極主義がマッチしたことも幸之助が成功した理由ですが、同時にその積極主義は徹底した顧客志向に裏打ちされたものでした。新製品や研究開発は人に任せ、自分は生産とマーケティングとアフターサービスに新機軸を求めることで顧客のニーズを取り込むことに成功していたからこそ、積極策が成功したのです。

もう一つ積極主義をバランスさせていたのが、「ダム経営」です。水資源を貯蓄して有効利用を図るダムのように自己資本を充実させ経営資源にある程度の余裕を持たせることで、景気後退期にも対応できるようにする経営者の決心が重要だというのです。(詳しくは、会社を潰さないキャッシュ・ベースの会計:オイルショック時の松下電器に学ぶ を参照ください。)

積極主義、顧客志向、ダム経営という3つの価値観なしには、松下電器(現パナソニック)の驚異的な成長はなかったということがわかるでしょう。

その他の経営者のビジョン:宅急便とスズキ

このように成功しているビジョン経営が、有意義な目的、価値観、未来のイメージからなっていることを、後2つの例で簡単に確認しておきましょう。

一つめは、宅急便の創始者小倉昌男氏です。

ヤマト運輸は、戦前は日本一のトラック会社でした。百貨店の贈答品の輸送などで、大きなシェアを握っていました。

ところが、戦後急速に伸びた長距離輸送に出遅れ、業績はジリ貧となっていました。そこで起死回生策として考えたのが業務用から個人の宅急便への大転換でした。これが、ヤマトの目的です。

その時に考え出された未来のイメージが、「どこでも翌日配達」です。これを実現するためには、ドライバー自身が自律的に荷物を集め配達する体制が不可欠です。ですから、「全員経営」も未来のイメージの一つとなります。

この辺りの目的と、それを実現する未来のイメージの設定に至る道筋は、セブンイレブンと非常に良く似ています。当然、ヤマトの場合にも周りから反論の嵐が巻き起こりました。

小倉昌男 経営学 によると、反論する人を味方にするために小倉社長が心がけたことが次の3つです。これがヤマトの価値観のベースとなっています。

  • 経営は論理の積み重ね: 宅急便というビジネスが成立することを論理的に検証し、それを筋道立てて社員に説明する
  • 企業は社会的存在である: 供給者の論理ではなく利用者の論理に立つ。不合理な行政の規制には屈しない
  • 全ての関係者に倫理的に接する: 従業員を対等に扱い自律性を重んじる。非倫理的な顧客(三越の岡田社長)との取引は断る

小倉社長がこれらの価値観を一貫して発信し続けたからこそ、社員がついてきて大改革が実現したのです。

スズキは、軽自動車という利益率が低い製品を作り続けて連結売上高3兆円企業となりました。この成功の裏にあるのは、徹底した危機意識です。

俺は、中小企業のおやじ を読むと、鈴木会長がこの危機意識をいかに社内に徹底させているかがよくわかります。すなわち、スズキのビジョンが次のようなものであることがわかります。

  • 目的: 軽自動車という利益率が低いものを作っているスズキは中小企業であり続ける(市場は限定する、低コスト体質を維持する、即決する)
  • 未来のイメージ: 小さな市場でナンバー1(インドなどに積極的に進出する)
  • 価値観: 小少軽短美(小さく、少なく、軽く、短くすれば、コストダウンできて美しい)、先憂後楽(償却は3年で行う)、危機を乗り越えることで会社の真価が問われる

中小企業やコストダウン、危機意識という一見後ろ向きの事柄を、ビジョンとして逆に積極的に打ち出すことで、スズキは社員の団結を高めて成功しているのです。

成功企業のビジョン比較

まとめ

  • 先駆者の成功例をきちんと分析すると、ビジョンが企業の成功を左右する重要なものであることがわかる
  • 一方で、ビジョンは慣れない人にはイメージのつかみにくいもので、その有効性が理解しづらいものでもある。したがって、コンサルタンとはクライアントにその意義を説明する術を心得ておく必要がある
  • ビジョンをわかりやすく説明するためには、次の3つの構成要素に分けて説明すると良い
    1. 従業員が奮い立つ有意義な目的
    2. 目的達成のために必要な行動の判断基準を与える明確な価値観
    3. ビジョン実現の到達点を理解させる未来のイメージ
  • 偉大なビジネス・リーダーの道を辿ってみると、どのリーダーも上記の3点を兼ね備えたビジョンで社員を率いてきたことがわかる
  • この中で特に注意すべきは価値観である。目的や未来のイメージは経営書などでも語られることが多いので、クライアントにも理解されやすいが、その裏にある価値観の重要性は見過ごされやすい。改革時には、コンサルタントはクライアント・リーダーの持つ価値観が長期的成功に寄与するものであるかどうかに、十分な注意を払っておくべきである