ライフスタイルに合わせた横軸のマーチャンダイジング


成熟化社会では消費者は何を求めているのか?

モノ余りの成熟時代になり、消費者は簡単にはモノを買わないようになったと言われて久しいです。このような時代に売上を上げようとするなら、企業は何を考えていかなければならないのでしょうか?

そこでよく言われるのが、消費者のライフスタイルに合わせて考えるべきだということです。でも、ライフスタイルって何でしょうか?それが分からなければ、単なる言葉の遊びで、行動には移せません。

ライフスタイルを理解するためには、消費者の欲求変化と欲求に基づく購買行動を説明する枠組みが必要です。今日は、その枠組みをシンプル・マーケティングから借りて検討することにします。

(ここで、枠組み自体の精緻さにはあまりこだわる必要がないことに注意しておきます。自分の考え方がおおよそ整理できた段階で、さらに必要であればもっと優れた枠組みを探せば良いからです。)

検討を進めるためには、まず「成熟時代」とは何を意味するのかをはっきりさせる必要があります。このためには、同書で引用されているODS社の次の日本人の欲求段階説を参考にすることにします。

  1. 基本的欲求段階:40年代の敗戦直後の、食べられればいい、住めればいい、という段階
  2. 雷同の欲求の段階:50年代10%の経済成長を遂げた神武景気を経て、基本的欲求が満たされた人々が、他人の目を気にし始めた段階。隣人がテレビを買ったのなら自分も買いたい、という付和雷同の時代
  3. 優越の欲求段階:60年代の高度成長の結果、家庭にはベッドやステレオ、ピアノなどが揃い、人々が他人より良いものを揃えようと躍起になった時代。日産サニーが「隣のクルマが小さく見えます」というCMを流した
  4. 差別化の欲求段階:70年代、所得が増大し一億総中流化が進み、レジャーなどのサービス支出が拡大し、人々の好みが多様化した段階。モノを「作れば売れる」時代は終わり、他人と違うものを手に入れたいという欲求が発生した。生活者の視点には、常に他人の視線が介在している
  5. 主観化の欲求段階:80年代、経済成長が続き70年代に芽生えた個人主義的な傾向の拍車がかかったものの、終にはバブルが弾け、リサイクル意識が高まるなど社会は成熟期を迎えた。晩婚化、シングル化が進むなど、他人の思惑を気にしないで、自分らしいモノに囲まれて暮らすことを望む人が増えた
  6. 適正の時代:90年代以降、人々の志向が「足元を見つめなおし、自分にふさわしい生活をする」段階に移行

以上の段階分けはステレオタイプ化しすぎという印象があることは否めません。また、スマートフォン出現時の熱狂を見ればわかるように、現在でもモノとの関係によっては1〜3の段階が存在することにも気をつけなければなりません。

しかし、そのような注意をしながら使う限りでは、消費者の欲求傾向を理解する手がかりとしては十分に有用な枠組みだと思います。

さて、この枠組みを使って消費者の欲求段階を理解したとしても、それだけでは行動できません。それぞれの欲求段階にいる消費者がどのような購買行動をとるのかを把握できる必要があります。

この手がかりを与える一つの枠組みが、ヤンケロビッチの価値観ヒエラルキーです。

ヤンケロビッチは、人間は図①に示すようなピラミッドに基づいて意識を行動に移すと考えています。それによれば、人間は次のような順で行動に移すと考えられています。

ヒエラルキー

  1. ソース(基本的意識、性格):人間には持って生まれた基本的、根源的意識がある
  2. バリュー(価値観):そこから、漠然とした種々の物事に対する、姿勢、価値観が生まれる。
  3. クライテリア(生活基準):こうした潜在意識がベースになり、状況に対しての判断基準、価値基準が生まれる
  4. テイスト(生活の志向、好み、完成):そしてある判断、選択を必要とする事象に遭遇した時に、優先順位の決定を迫られる。こうして「具体的な事象に対する志向、好み、意見、考え方が表出する。
  5. マニフェステーション(生活行動):そして、それらの影響を受けて、実際の行動に結びつく

本に挙げられている例で説明すると、かなり古いですが小坂明子の「あなた」というヒット曲で説明すると、「家には暖炉があって、あなたがいて、子犬がいて、私は編み物を編んで」という世界がいいというのが、クライテリアの例です。

そして、「家は木造がよくて、テーブルは木目のシンプルな、丸くて温かいデザインのものがいい」といったことが「テイスト」になります。

さらに「エグザス」で普段の健康を維持し、自宅に戻ってからは「ハービーリーフ」のフルーツ・ティーを淹れながらメールをする、という具体名が入っているものが「行動」になります。

このような枠組みを理解すると、ライフスタイルとして何を考えれば良いかが、少し分かってきますよね?

消費者の欲求が「基本的」〜「優越」の時代には、欲求がどこから発生するかを深く考えることなく、ひたすらモノを提示して欲求を刺激すれば「行動」してもらえました。しかし、「差別化」、「主観化」、「適正化」の時代になってくると、消費者がどのような「テイスト」、「クライテリア」で消費行動を決めているかを理解しそれに合わせないと、モノは売れないのです。

一般的には、図②のように欲求段階の進化に連れて、有効な販売方法は右上がりになって行くと考えられます

スライド3

図に示すように、価値観ヒエラルキーを遡った「テイスト」や「クライテリア」と呼ばれているものが、「ライフスタイル」と呼ばれるものの正体なのです。

ライフスタイル消費では、消費は消費者のテイストやクライテリアの表現手段となっています。つまり、消費者はモノ単体には興味を示さず、自分のスタイルを表現する一連の商品を求めるようになります。その結果、自分の目的に合った品揃えがなされているお店に通うようになります。

つまり、ライフススタイル消費が活発な時代には、これまでの商品軸での縦のマーチャンダイジングではなく、消費者のライフスタイルに合わせた横のマーチャンダイジングが求められるようになるのです。

このような横のマーチャンダイジングで成功している例を分析し、成熟時代に売上を伸ばすために何が必要かを検討してみましょう。

憧れのアメリカ生活から始まったソニー・プラザ

ソニー・プラザ(現プラザ)は、1966年4月にソニー副社長盛田昭夫氏の意向を受けて、アメリカのドラッグストアの品揃えを実現しようとして銀座にオープンされました。

当時は1ドル360円の時代で、海外旅行に行く人も少ない時代でした。一方で、テレビのドラマ放送を通じて、アメリカの豊かな家庭生活の様子が伝わってきており、アメリカの生活に憧れを抱く人が数多くいた時代でした。

そのような時代に、珍しいアメリカからの直輸入品を並べたお店は、たちまち大人気となりました。

その後日本の国力が強くなり購買力に差がなくなった現代でも、海外と日本のライフスタイルの差をキャッチし、その差を埋める新しい、面白い雑貨を積極的に品揃えすることで、海外好きの顧客の人気を集め続けています。

プラザは、創業して間も無く、商品の売れ行きを見て、主要顧客を18-25歳の女性に絞っています。単なる何でもありの輸入雑貨の輸入店ではなく、若い女性がワクワクするようなものに絞って輸入することにしたのです。

「若い女性が憧れる海外のライフスタイル」を発信し続けることにしたのですが、これがちょうど70年代から始まる「差別化」の時代にマッチしていました。ソニー・プラザに行けばセンスの良い変わったものが見つかる、それを持っている自分のテイストの良さを表現できる、というのがソニー・プラザの価値だったわけです。それが続いて今日に至っているのです。

その情緒的な提供価値を維持し続けるために、ソニー・プラザは品揃えを他とは違った方法で行なっています。

ひとつ目は、品揃えの方針です。若い女性のテイストに何が引っかかるかを正確に予見することは不可能です。ですから、面白いと思ったものはためらわずにどんどん仕入れて、店頭に並べます。その上で、売れるものだけを迅速に補充するのです。ですから、ソニー・プラザでは商品がどんどん入れ替わります。

ふたつ目は、そうは言っても売れ行きをよくするために、マーチャンダイジングから店頭での販売までを、顧客と同じ感性を持った若い女性社員に思い切って任せています。こうすることで、若い女性の「カワイイ」感を店頭で維持しているのです。

商品ではなく、「若い女性の好み」という横軸に合わせたマーチャンダイジングを徹底して行っているのです。

「感じの良い暮らし」というライフスタイルを作った無印良品(MUJI)

無印良品(MUJI)は、「シンプルで自然な生活」を実現するために、商品分野を限らず、そのライフスタイルに関連する品揃えを幅広く(横軸で)実現しています。

もともと西友のPB商品を起源とするMUJIは、新しい商品を作り出すのではなく、既存の商品の改良に注力してきました。「装飾を除いて機能だけを残すとどうなるか」、「色を抜いたらどういうシンプルなデザインになるか」ということを考え続け、その検討結果を反映した「わけあって安い」商品を作り続けてきました。

その作業を続けているうちに、いつの間にかコンパィト・ライフというコンセプトが出来上がり、多くの人がそれを支持するようになったのです。

つまり、MUJIの場合は、先にコンパクト・ライフというライフスタイルが存在したのではなく、MUJIが作り上げたスタイルに「適正化欲求」の時代が追いついたという特異なケースとなっているのです。

MUJIの顧客は、「シンプルな生活がしたい」という「クライテリア(生活基準)」を持ち、それに基づいてどういう商品を購入するかを決めています。そして、その基準に合う商品がまとまっておいてあるお店がMUJIしかないとなると、そこ以外には行かなくなります。まさにライフスタイルで買う店を決めているのです。

これに対するMUJIのマーチャンダイジングも明確です。自らが作り出した、コンパクト、シンプルというコンセプトにあった商品だけを作り続け、それを分かる人だけに売るという方針です。「良い暮らしに合わないものは売りたくない」と言うほどの徹底ぶりです。

不要な装飾を剥ぎ落としたシンプルな機能的価値だけを提供するのですから、売り方は簡単です。無印良品は仕組みが9割が述べる仕組みベースの売り方となっています。

スノーピークがリードする豊かなキャンプ生活

スノーピークは、ライフスタイル・ビジネスとしては、プラザとMUJIの中間に位置します。

スノーピークは、オートキャンプというライフスタイルを作り出した会社です。その意味では無印良品と似ています。対象顧客は、「自然と親しんだ生活を送りたい」というクライテリア(生活基準)を持つ人々です、

80年代後半に釣り具と登山用品を作っていた会社に参加したアウトドアが趣味の二代目現社長が、自分自身が欲しいと思った品質は良いが非常に高価なテントを作りました。周囲の予想を裏切ってそれが大当たりしたというのが、現在のスノーピークの始まりです。

もっと良いアウトドア用品が欲しいと思っていたユーザ・ニーズが顕在化したのです。また、ちょうどその頃SUVが普及し、自動車登録台数の10%がSUVとなっていました。

ここに目をつけ、SUVに乗り移動して行うというキャンプのスタイルを作り出したのです。そして、そのために次のような要件を満たす製品を作り出しました。

  • テントの設営時間短縮
  • SUVのラゲージに入るサイズ
  • 設営後のスペースが従来より広く、テントをベッドルームに使える
  • タープと組み合わせればリビング・キッチンに使える

こうして、スノーピークは徹底的にキャンプにリッチな価値観を導入することにこだわりました。それが自分のテイストに合った熱狂的なファンを生むことになったのです。

スノーピークの顧客層は、所得の高い都市生活者で経営職や管理職など知的労働に従事する要求水準の高い人たちです。スノーピークは、社員をアウトドアのプロで固め、自分たちが本当に欲しいどこにもないものを作り続けることで、顧客の要求を満足させてきています。

スノーピークの製品は経験財です。使ってみて初めて良さがわかるので、口コミが重要です。

そのため、ヘビー・ユーザを大事にしたコミュニティを作っています。また、売り場にもできるだけ正社員を配置し、丁寧な説明をすることで売上を伸ばしています。

マーチャンダイジング

まとめ

  • モノ余りの成熟時代での売上向上策を考えるためには、消費者の欲求がどの段階にあるかを理解する必要がある。通常、成熟時代とされるのは、差別化、主観化、適正化の3段階である
  • 成熟化時代になると、人々は価値観ヒエラルキーの「行動」より上位の「テイスト」、「クライテリア(生活基準)」の段階で購買行動を決めるようになる。これらの段階が、「ライフスタイル」と呼ばれるものに対応する
  • ライフスタイル・ビジネスの走りであるソニー・プラザは、差別化欲求の段階で若い女性のテイストを満足させることに成功してきた。すなわち、海外の面白い商品をいち早く店頭に並べることで、ソニー・プラザに行けば自分のセンスの良さを表現できる商品が見つかるという価値を提供し、永年成功してきた
  • 無印良品(MUJI)は、既存商品を簡素化する改良を続けてきたことで、コンパィト・ライフという新しいライフスタイルをつくり出した。適正化欲求の段階になり世の中がそれに追いつくことで、シンプル・ライフを生活基準とする顧客層に熱烈に支持されるようになった。
  • スノーピークは両者の中間にあり、自然志向の生活基準を持ちリッチな生活に対するテイストを持つ都会生活者に、ハイエンドなオートキャンプ用品を提供するという新しいマーケットを作り出すことで成功した
  • これらの企業は、自らが作り出したライフスタイル・マーケットに合う商品を分野を限らずに次々と提供する横の(マーケット志向の)マーチャンダイジングで成功している
  • コンサルタントは、成熟時代には従来の商品中心の縦型のマーチャンダイジングだけではなく、顧客のライフスタイルに合わせた商品を次々に生み出す横型のマーチャンダイジングも必要となることを心得ておくべきである