中小企業がニッチ市場を見つけるためのサービス・ドミナントな顧客観察法


ブルー・オーシャン戦略もニッチ戦略も、そのままでは適用が難しい

このブログでは、これまでサービス・ドミナントの視点に立って、業界ごとの売り上げを伸ばす工夫を論じてきました。今日からしばらくは、それらを一般化した方法論を論じることにします。

経営者にとって、競合相手がいない市場を見つけ、そこでの売り上げを独占することができたら理想ですよね。競争のない未開拓市場であるブルー・オーシャン市場です。

しかし、中小企業にとってはその市場の維持が大変です。大きな市場が儲かるのであれば、必ず大手が進出してくるからです。

そのため、資源に限りがある中小企業は、次の定義にあるニッチ市場を見つけるニッチ戦略を取るべきだと言われています。

“市場全体の一部を構成する特定のニーズ(需要、客層)を持つ規模の小さい市場のこと。 狭義には、その中でも商品やサービスの供給・提供が行われていない市場とされる。 隙間市場(すきましじょう)ともいう。 (Wikipedia)”

そこで問題となるのが、これらの市場を見つける方法です。

たとえば、ブルー・オーシャン戦略では、戦略キャンバスを書いて分析する方法が有効だと書かれています。ここで、戦略キャンバスとは、横軸に競合他社が顧客に価値を提供するために投資している商品、サービス、配送などの要素を書き出し、縦軸に顧客が享受するメリットの大小を示したグラフのことです。

このグラフを見て、次のようなアクションを考えてブルー・オーシャンを見つけるのです。

  • 業界常識として商品やサービスに備わっている要素のうち、取り除くべきものは何か
  • 業界標準と比べて思い切り減らすべき要素は何か
  • 業界標準と比べて大胆に増やすべき要素は何か
  • 業界でこれまで提供されていない、今後付け加えるべき要素は何か

たとえば、「誰にでも飲める気楽なワイン」で成功したイエロー・テイルは、これまでの高級ワインの微妙な香りや味わい、ワイン造りの謳い文句などの要素を取り払い、飲みやすいワインを大量生産するという要素を付け加えて成功した、という具合です。

ただ、この方法の問題は顧客に価値を提供する要素として何を取り上げるべきについては、何のヒントも与えてくれないことです。優秀なマーケティング担当者を雇用している大企業ならともかく、人材不足の中小企業がそのまま応用するにはハードルが高いのです。

ニッチ戦略については、競争しない競争戦略という本に、もう少し具体的な方法が書かれています。それは、「質的限定」と「量的限定」のいずれかの方法を取るというものです。

ここで「質的限定」とは、保険業界で1974年からガン保険に絞って経験を蓄積し、その分野では業界リーダーの日本生命を寄せ付けないアフラックのようなやり方を指します。

「量的限定」とは、業界のリーダー企業は一般に固定費が高く、その固定費を回収するためには大きな市場を必要とするという性質を利用して、大手が入れない小さな市場で勝負するというものです。

人口密度の低い北海道でコンビニを経営するセイコーマートが、その例です。

この本には様々のニッチ市場戦略が書いてあり、それはそれで面白いのですが、中小企業が今事業を行なっている市場の中でどうやって「質的限定」や「量的限定」をすれば良いかのヒントはやはり載っておらず、そのまま即応用というわけにはいきません。

では、中小企業はどうやれば自社に向いた需要を独占できる市場を見つけることができるのでしょうか?

既存市場からニッチ市場を見つけるために必要なのはサービス・ドミナントな顧客観察

その方法は、中小企業の強みを生かす事です。顧客との距離が近いという強みです。(このブログでは、単に商品を作るだけで販売は卸に任せるというようなグッズ・ドミナントな企業は検討対象から外しています。)

経営と顧客の距離が近いという強みを生かしてサービス・ドミナントに徹すれば良いのです。顧客が商品・サービスを購入した後、それらを使用して自分の用事を片付けるところまで観察するのです。

顧客が購入した商品・サービスを使って自分の用事を片付けることに満足しているのであれば、新たな市場は必要とされていません。しかし、そこに何らかの不満を抱いているとすれば、大企業が気づけない新たな市場が開かれる可能性があります。

この観察の有効性に最初に触れたのは、クレイトン・クリステンセンです。彼は破棄的イノベーションについて述べたイノベーションのジレンマの中で「過剰満足」につて論じています。

企業がある商品・サービスを出して成功すると、その機能を強化して業界内での地位を安定化しようとします。競合各社も同様のことを考え、商品・サービスの開発競争が続きます。

最初のうちは顧客もこの開発競争を歓迎します。商品・サービスの機能向上によって、自分たちの生活や仕事が容易になるからです。

しかし、機能がある程度まで向上すると、顧客はそれ以上の向上には興味を示さなくなります。ところが、競争をしている企業の方は、他社に負けると市場を失うという恐怖から機能向上競争を止めることができません。

ここに、顧客の期待を超えた過剰な機能が提供され続けるという現象が起こります。これを「過剰満足」と呼びます。

たとえば、パソコンの歴史を考えてみましょう。

初期のパソコンは、機能が非常に限られたものでした。CPUスピードも遅く、メモリ容量も限られていて、顧客はイライラしながら辛抱して使っていました。

この時代では、早いスピードのCPUや大容量のメモリを搭載した新型パソコンが発表されると、人々はこぞってパソコンを買い換えました。

また、パソコンへ仕事の指示をするためのOSも使いにくかったため、ユーザー・インターフイスの優れたWindows95が発表されると、徹夜で行列して買い求める人まで出たりしました。

しかし、昨今では新たなパソコンやOSの発表に飛びつく人は稀になっています。それらの性能が人々が求める水準を追い越した過剰満足になったからです。

この過剰満足はパソコン以外の業界でも、至る所に存在します。

そして過剰満足は、それを必要としない顧客に余分のコストを払わせています。その不満まで観察すれば、ニッチ市場の可能性が開けるのです。

過剰満足を検知してニッチ市場を構築した例

過剰満足をうまく観察して成功した例が、QBハウスです。特に優れた理髪技術を求めている訳でもなく、理容師による髭剃りや洗髪に何の価値も感じない顧客にとっては、余計なサービスを取り除いた安くて早い散髪は、願ったり叶ったりのものだったのです。

先週お話したビジネス・ホテルの興隆も、この例に当てはまります。宿泊することだけが目的のビジネス客にとって、シティ・ホテルのバーや宴会場は過剰サービスであり、その費用まで宿泊料金に課されていることがわかると、一斉にビジネス・ホテルに流れたのです。

企業規模が小さく少数の顧客と接している中小企業経営者は、このような顧客の過剰満足に大企業の経営者より容易に気づくことができます。さらに、過剰満足分を削ることには余分な投資を必要としないことが多いので、中小企業にとってはこの種のニッチ市場開拓は実現容易なものとなります。

そのような例としては、小さな会社の儲けのルールなどに以下のようなものが挙げられています。

  • 女性用の量を減らした飲食店
  • 低価格限定の中古車ディーラー

過剰満足を感じている顧客を観察することにより、その人たちにとっての「業界常識として商品やサービスに備わっている要素のうち、取り除くべきもの」が明らかになるのです。それらを取り除いて「質的限定」をするニッチ市場が見つかるというわけです。

ブルー・オーシャン市場やニッチ市場は、不満を持っている顧客を観察することにより初めて見えてくるのです。

もう一つの顧客観察:平均的でない顧客のニーズ検知

顧客の不満を見つけるもう一つの方法は、平均的でない顧客を見つけることです。

既存の商品・サービスは、効率よく儲けるために何らかの対象顧客セグメントを想定しています。その想定セグメントから少し外れたニーズを持つにもかかわらず、代替案がないために辛抱して商品・サービスを使っている顧客層を探すという方法です。

そのような視点で成功した例が、女性専用トレーニング・ジムのカーブスです。

女性は、男性が求めるような本格的な筋肉トレーニングの用具は必要としません。これは過剰満足です。

さらに、リラックスに出かけた女性にとって男性の視線は必ずしも心地よいものではありません。さらに、自分の体型を認識させられる鏡も見たくない人も多いとのことです。

カーブスは、このような女性にとっての不要物を取り除き、その代わり負荷が少なくおしゃべりしながらでも使えるトレーニング機器を取り入れて成功したのです。

暗黙のうちに男性客中心で構築されてきたトレーニング・ジム業界で、平均的でない女性客に注目することにより、「業界常識として商品やサービスに備わっている要素のうち、取り除くべきもの」や「業界でこれまで提供されていない、今後付け加えるべき要素」が見つかったわけです。

このように平均的でない顧客を見つけてニッチ市場を開拓した例には、次のようなものがあります、。

  • 熟年層あるいは障害者向け旅行社
  • 交通違反経験者や若年層向け自動車保険を販売する米国のプログレッシブ保険会社
    • 普通の保険会社より安い保険料で加入できるが、実際はそこまで事故を起こさないので保険会社も儲かっている

ここでも、顧客が商品・サービスを利用することまで追いかけて、そこでの平均的でない顧客の不満を観察することにより、初めてニッチ市場が見えてきたのです。

ニッチ市場検知法

まとめ

  • 売り上げを伸ばしたい中小企業経営者にとって、競争がなく需要が独占できる市場を見つけられれば、それに勝る喜びはない。そのような市場発見を助ける方法としてブルー・オーシャン戦略やニッチ市場戦略が語られている
  • しかし、それらの戦略が示すのは、市場に至るために取るべきアクションだけであり、あるべき市場のイメージをどのように獲得するいかについては何も語られていない。つまり、到達点がわからないので、それぞれのアクションをどのように使えば良いかがわからない
  • 中小企業は顧客との距離が近いので、現状の商品・サービス使用時の顧客の満足度を観察しやすい位置にいる。それが新たなニッチ市場のイメージの獲得を助ける
  • 現行市場から新たなニッチ市場を見出す手がかりは、顧客の過剰満足と平均的でない顧客の要望を検知することで得られる
  • 過剰満足は、商品・サービスの機能が必要以上に向上し、新たに付け加えた機能に顧客が反応しなくなった時に生じる。このような時には、過剰満足を感じている顧客層向けに、機能を絞った商品・サービスを安価に提供するニッチ市場が存在する。そのような市場は、すでに大きな固定費を投資している大企業の興味を引かないので、中小企業向きである
  • 通常の商品・サービスは、その機能を欲するある程度の量の平均的な顧客層を想定して開発されているが、その側には平均とは異なるニーズを持った少数の顧客層が必ず存在する。その層向けの特別な機能を開発すれば、ニッチ市場を制することができる可能性が高い
  • このようにニッチ市場の開拓にあたっては、商品・サービスの機能だけでなく、顧客がその商品・サービスを使っている姿まで踏み込んで満足度を把握するサービス・ドミナントな視点が不可欠である