中小製造業の脱下請けに必要な3つのパラダイム・シフト


脱下請けに成功する企業とそうでない企業を分ける経営観の違い

戦後の日本の製造業は、長らく大手完成品メーカーと部品製造を手がける下請け企業の系列により支えられてきました。しかし、この下請け中小製造業が苦境に立たされています。

円高が続く中、完成品メーカーが海外に製造機能を移し、それと並行して新興国企業が台頭し部品メーカーの仕事を奪っているからです。元請企業について海外に出て行ったとしても、コスト構造が異なる現地企業との熾烈な価格競争に勝ち抜くのは容易なことではありません。

こうした状況下での生き残り策の一つが、「脱・下請け」です。元請から指定された部品を作るのではなく、自社で開発した製品を売るという体制への転換です。

しかし、この転換は容易なことではありません。脱下請けの必要性は、以前から言われてきたことです。にもかかわらず、その転換が進まないのは、「下請け」のメリットに慣れきった経営者の頭の改革が進まないからです。

問題は、次のような下請け経営の方が「楽」だと考える経営者が多いことです。

  • 親会社の業績が向上すれば、それに比例して黙っていても仕事が増える
  • 一度取引した親企業から継続的に受注できれば、新たな取引先を開拓する営業活動を省くことができる
  • 取引の要領がわかっていれば、価格交渉や仕事の段取りの雑事が減り、効率的に仕事が進められる

しかし、この「楽さ」はタダではありません。親会社からは絶え間のないコストダウンを求められ、自社の工夫を競合会社に無断で教えてしまわれるなどの理不尽な仕打ちも覚悟しなければなりません。

本来は自社の利益率を向上させ内部留保の増大に向けられるはずの創意工夫に対し、その対価を請求できなくなるリスクが高いのです。

このようなリスクを良しとしない経営者は、すでに脱下請けに向かった行動をとっています。ところが、それでも下請けに止まる経営者もいます。

この差は、経営者が何を重視するかの経営観の差から生じています。

下請けにとどまる経営者が重視するのは、目の前の売上額とその結果としての利益の絶対額です。親会社から仕事を多くもらえれば利益が増えるので、親会社の言う通りに行動しようとするのです。

これに対し、脱下請けに向かう経営者は、長期的な経営効率からは下請けは儲からないと考えます。次に見られるように投下した資本、労力に対する見返りの割合を重視するのです。

  • 日進工具: OEM受注生産では収益性が低く、長期にわたる安定生産を確保できるか疑問
  • UHT: 下請けのままでは、いずれ時代の流れに乗り遅れる。努力や工夫も見返りなく他社に利用される
  • ハードロッック工業: 下請けでは儲からない。それは商品に問題があるから。商品がまずいと、いくら頑張っても利益を上げることはできない。言われたことだけをやっているのではダメで、取引先そしてその先のお客さまが何に困っているかを知らなければならない
  • 樹研工業: 日本の大手企業は中小企業を下に見ている。ノウハウをノウハウと分からずに取り上げ、他社にバラまく。はっきりと分かる技術があれば対抗でき、価格競争に巻き込まれない

脱下請けに向かうためには、技術があるかどうか以前に、経営者の経営観を短期的利益重視から長期的経営効率重視へ変えることから始める必要があるのです。

「売上高利益率」しか考えていない経営者に、正しい経営視点をガイドする方法で述べたように、コンサルタントはこのような経営者に、売上高利益率ではなく総資産利益率重視に移行するよう教えるべきなのです。これが第1のパラダイム・シフトです。

単なる自社ブランドではなくエンンドユーザに差がわかるオンリーワン商品

長期的な経営効率重視に転換すると、自社ブランド商品の開発が、当然取るべき施策となります。ノウハウをブラックボックス化することにより、自社の創意工夫の対価を内部留保に向けることができるからです。

しかし、それだけでは十分でありません。それだけでは買い手がつかないからです。

大手と違って、脱下請けを図る中小企業にはブランド力がありません。ですから、自社商品には買い手に気づいてもらえるような特徴が必要なのです。よその商品とは異なったオンリーワンの特徴です。

では、オンリーワンの条件は何でしょうか?

大手の下請けをしていた中小製造業がいきなり消費者向けの最終製品を出すことを想定するのは、現実的ではありません。ですから、部品あるいは工具・機械を商品化することを考えて見ましょう。

部品購入を決定するのは、完成品メーカーの設計者や製造者です。彼らが部品に求めるのは製品が求める特定の機能を果たすことです。この機能が他社の部品と差がなければオンリーワンとはなれません。

他社もオンリ—ワンを狙って日夜努力しているのですから、オンリーワンを実現するためには、世の中の動きに注意を払っている必要があります。

例えば、樹研工業は、もともとプラスチックの射出成型を行ってきました。ところが、オイルショック時の物不足を見て、これからの時代は省電力・省資源に向かうと判断し、極小部品の開発に投資を始めました。

腕時計に使われている金属歯車をプラスチックで作ることから始めて、終には100万分の1グラムの歯車を作ることに成功し、世界的に有名になりました。

極小で軽いという特徴は、最終製品の差別化につながります。当然、完成品メーカーの設計者に注目されます。

当初は家電メーカーが主要顧客であったのが、部品手配に苦労していた新興の時計メーカーに歯車を提供したり、自動車メーカーに計器類のステッピングモーター用の歯車を提供するようになったりしたのです。

求められる機能は、直接の顧客ではなくその先のユーザからくる場合もあります。

耐熱塗料を販売しているオキツモの場合は、耐熱塗料の市場が飽和してきたので、新技術の放熱塗料の可能性を探っていました。なかなか良い利用方法が見つからず苦労しているところに、電子基板のレジストに使えないかという話が舞い込みました。

電子基板メーカーの顧客であるパソコンなどの電子機器メーカーが、製品の高性能化、高密度化が進み、電子回路が発生させる熱の処理に困るようになったからです。

日進工具が製造しているエンドミル(切削加工工具)の場合も、対象製品の軽薄短小化、切削機械のNC化に伴う自動化・無人化による長時間運転を見越し、工具の超硬化を図ったことが功を奏しています、

いずれの場合も、エンドユーザ業界の環境変化を見越し、自社技術でエンドユーザにわかるメリットをどう提供するかを考え続けたことが、業績飛躍のきっかけとなっているのです。

商品の販売相手である取引先視点ではなく、最終的な商品を使用するエンドユーザの困りごと視点へ移行し、そこから改めて自社の強みを評価すべきなのです。そのようにして、初めてオンリーワン商品が構築できるのです。

これが、2番目のパラダイム・シフトです。

直販へのこだわり

脱下請けに必要な3番目のパラダイム・シフトは、「直販体制の確立」です。

それまで下請けに甘んじていた企業が最初に行うべきことは技術力の強化だと思われがちです。技術がないことには、競争には勝ち抜けないと考えるからです。

そのことには間違いはありませんが、技術を磨いただけで営業を問屋任せでは、オンリーワン商品は作れません。問屋は売れるものには興味がありますが、個々のエンドユーザの困りごとには関心がないからです。

このことを示すのが、松下幸之助が松下電器を創業した時の有名な話です。

松下電器産業が飛躍したきっかけは、電池式の自転車用ライトでした。しかしその当時、電池式の自転車用ライトは世の中に存在せず、その有用性を理解しない問屋はどこも扱ってくれませんでした。

松下幸之助氏は問屋を回るのを諦め、直接自転車屋を回ることにしました。もちろん、自転車屋も最初は相手にしてくれませんでした。

どうせ在庫があるので、自転車屋に無料サンプルとしてライトを配り、自転車屋回りを続けました。そうしているうちに、「この自転車用ライトの評判が良いから、少し仕入れることにする」という声が上がり始め、ライトが売れるようになったのです。

自転車屋でライトが売れ始めるようになると、問屋からも「うちで扱わせてほしい」と言われるようになり、自転車用ライトは大きなヒット商品となったのです。

「問屋さんは売れているものしか扱わない」というのは、昔からの決まり事とされています。ですから、新しいオンリーワンの商品を売り出そうとするときは、問屋を超えたその先に自分で売りに行く直販体制が不可欠なのです。

直販の必要性については、脱下請けに成功した企業も次のように異口同音に力説しています。

  • 日進工業: 自社製品開発時、金型メーカーに飛び込みで営業をかけた。最初は門前払いをされたが、工場でノウハウをもとに実演販売をすると、加工で困っていることを話してくれる。そこから顧客ニーズを探求して製品開発し、差別化につなげた。ユーザの工場にヒントがあるとの思いを強めた
  • ハードロック工業: 中小企業は営業が命である。せっかくの発明も売り込まなければ日の目を見ることがない。営業活動をすれば、お客様が何に困っているかがわかる。これこそが営業の本当の目的である

B2Bの世界では、作った製品がそのままで実用に耐えることは少なく、半完成品とみなすべきなのです。直販の目的は、自社の強みをアピールしながら(図①のA)エンドユーザ・ニーズを顕在化する(図①のB)ことにあります。

図に示されるソリューション営業を行うことが重要なのです。この作業を代理店などに委ねたのでは、競争力のあるオンリーワンの商品の開発は到底不可能なのです。(「ソリューション営業で成功するために信じるべき2つのこと」参照)

オンリーワン商品構築のための直販

以上をまとめると、脱下請けに成功している企業は、図②に示すように、経営観の転換、エンドユーザ・ニーズを把握したオンリーワン商品の設計、直販体制の構築の3つのパラダイム・シフトを実現していることがわかります。

脱下請けへのパラダイム・シフト

まとめ

  • 長らく大手完成品メーカーを支えてきた中小部品メーカーが苦境に立っている。その原因は、円高による完成品メーカーの海外転出と新興国部品メーカーの台頭という構造的なものであり、脱下請けが喫緊の課題となっている
  • 下請け経営は短期的には「楽」なので、そこから脱出するためには、経営者が長期的視点に立つパラダイム・シフトを行わせる必要がある
  • 1つ目のパラダイム・シフトは、売上高や利益額志向からROAのような経営効率思考への移行である
  • 2つ目は、自社視点や直接の取引先視点ではなく、エンドユーザ視点に移行し、エンドユーザから見て無くてはならないオンリーワン商品の特徴を見出すことである
  • 3つ目は、直販体制の構築である。B2B製品は半完成品であり、ユーザのニーズを反映して初めて使い物になると考えるべきである。そのユーザ・ニーズは製品開発者自身が探索しないと製品に反映できない。これこそが直販の目的である
  • 脱下請けを支援するコンサルタントは、脱下請けのためには技術だけでは無く、上記のようなパラダイム・シフトが不可欠であることを理解しておくべきである