中小部品メーカーのニッチ市場発見法:「顧客が片づけたい用事」を考える


価格競争から脱出するには?

中小の部品メーカーの経営者の最大の悩みは、「価格競争に巻き込まれる」でしょう。コンサルタントなら、「どうしたら、そこから抜け出せするのか?何かうまい営業方法はないものか?」と相談を持ちかけられることも多いででしょう。

しかし、「同じ顧客」に「同じ製品」を「同じ方法」で売っている限り、価格競争からは抜け出せません。単なる営業方法の問題ではないのです。

B2C市場で価格競争から抜け出して成功している例を、参考として分析してみましょう。たとえば、前回紹介した玉子屋がこの例です。

玉子屋が属する仕出し弁当業界では、業者を選定する担当者が弁当の質を判断することが難しく、どうしても価格で決めることになります。価格競争に陥りやすい業界なのです。

ここで、玉子屋は商品を変える方法を取りました。メニューを一種類に絞り、高品質な弁当をリーズナブルな価格で提供したのです。この差は、弁当業者選定担当者にも明白で、玉子屋は価格競争とは無縁の地位を築いたのです。

顧客を変えて成功した例には、何があるでしょうか?団体客を捨てて個人旅行者に絞った例が、これに当たるでしょう。

団体旅行が下火になったこと、熟年客の個人旅行が増えたこと、などを見越して、部屋数を減らして高級路線に転換して成功している旅館が多数あります。

部屋数を減らすなどの商品変更もしていますが、もともとの狙いは顧客変更です。

しかしB2Bの場合は、このような思い切った変更は難しいです。B2Cと比べて顧客の数が少ないですし、顧客企業は信頼性を重視してサプライヤーとの安定的な関係を求めるので、新規参入のハードルが高いからです。

では、他にどのような方法があるでしょうか?それは、既存顧客が求めているが満たされていない価値を見極めて、それに対応するという方法です。

このことは、自分のいきつけの飲み屋を考えてみれば、よくわかります。筆者の例でいえば、長年通った飲み屋は、料理が美味しいのはもちろんですが、店主との会話が通う決め手でした。

一方、酒飲み仲間と使う懐石料理屋がありますが、個人では足が向きません。料理はこちらの方がずっと美味しいのですが、店主がシャイで話が盛り上がらないからです。

酒飲みが飲み屋に通うのは、料理とお酒を楽しみたいのはもちろんですが、店主との無駄話をするという憩いも求めているからなのです。「料理」という商品を売るだけでは十分ではなく、「憩い」という顧客価値もあるのです。そのことを理解している店主がいるお店が、流行るのです。

B2Bの部品メーカーで、このような顧客価値にどのようなものがあるかを、成功事例を分析することで理解して見ましょう。例として挙げるのは、プロフィット・ピラミッドという本に紹介されている、キーエンス、ローム、ファナック、シマノ、ヒロセ電機、マブチモーターです。

いずれも錚々たる大企業ですが、そのはじまりは中小企業でした。それらの企業が成功したのは、顧客価値の見抜き方が優れていたからなので、大いに参考としましょう。

顧客は誰か? その顧客が片付けたい用事は何か?

最初に考えるべきは、「顧客とは誰か?」ということです。そう言われると顧客企業を思い浮かべる人が多いようですが、それは正しくありません。

意思決定は、企業内の役割を担当する個人によって行われるので、その役割を思い浮かべる必要があります。価格競争に陥るのは、顧客企業の「購買担当者」を相手にしているからなので、それ以外の「顧客」がいないか、その人に働きかけられないか、と考えるべきなのです。

部品が組み込まれるのは、製品あるいは生産装置です。その製品や生産装置に関わるステークホルダーは誰かと考えるのです。

そうすれば、製品・生産装置を使う人、作る人が思い浮かびます。「エンド・ユーザー」、「設計」、「生産技術」などです。

ちょっと考えると、そのそれぞれで求める顧客価値が異なるがことがわかります。クリステンセンたちが言う「顧客が片付けたい用事」に注目するのです。

エンド・ユーザーの用事は、製品を「使って」自分の目的を果たす事です。設計や、生産技術者の用事は、求められている製品や設備を「作る」ことです。

ですから、エンド・ユーザーにとっては、製品・生産装置が機能性に優れている、使い勝手が良い、などが価値となります。設計や生産技術にとっては、求められる仕様(軽い、小さい、安い、など)を満たしやすい、作る時間が短くて済む、などのことが価値となります。

これらの顧客価値を満たせば、そして競合他社が同様のことができなければ、購買担当者の価格低減圧力をはねのけることができます。以下、その具体例を見ていきましょう。

ただし、顧客価値は部品が組み込まれるのが製品か生産設備か、また部品自体がキーパーツか周辺部品かで異なるので、それを分けて順番に議論していくことにします。

製品のエンド・ユーザーの用事を片付ける(インテル・インサイド)

部品がキーパーツである、すなわち製品の機能を大きく左右する場合があります。パソコンに内蔵されるインテル製のCPUなどの場合です。

機能で圧倒的な差をつけ、その差を消費者にも認知させ、インテルのCPUが入っているパソコンを買うように仕向ければ、価格競争に巻き込まれずに済みます。そのために、インテルは“インテル・インサイド”という広告キャンペーンを打ちました。

それと同じことを形を変えてやったのが、自転車の変速機を作っているシマノです。

シマノの直接の顧客は自転車メーカーですが、シマノはマーケティングの対象を明確に自転車のユーザーと定めています。

自転車ユーザーの用事は、自転車を操縦して走ることです。製品に求めるのは、速く、快適に、そして安全に自転車に乗れるということです。

シマノの戦略は、他社ではなくシマノの変速機こそがこの価値を実現できるというブランド・イメージを確立して、それを自転車ユーザーに擦り込むことです。そうすれば、自転車メーカーはシマノの変速機を採用せざるを得ず、価格競争から超越できます。

このために、シマノは小企業であった1965年に既に米国シマノを設立し、その後自転車競技の本場である欧州にも進出しました。そこでやったことは、自転車競技での選手の支援です。

最初はなかなか受け入れてもらえなかったのですが、最終的にはシマノが支援した選手が競技会で優勝することが多くなり、シマノの知名度が一挙に向上したのです。

このように、製品の機能を左右する部品であれば、エンド・ユーザーにその価値を認めさせ指名買いを促すことができます。その結果、メーカーにそれなりの価格で納入することが可能になるのです。

エンドユーザが片付けたい用事に着目して、顧客価値をうまく訴求した例です。

生産装置のエンド・ユーザーの仕事を助けてマーケット・シェアをとる

シマノと同様のことが、生産設備のキーパーツでも可能です。それを実現したのがファナックです。

ファナックは、工作機械などに組み込まれるNC装置を作っていきます。NC装置とは、工作機械、組立機などの動作を制御するサーボ機構を、予めプログラム化された数値指令によってディジタル制御するものです。

そして、NC制御される工作機械のエンド・ユーザーは、工作機械に求める加工をさせようとNCプログラムを作るプログラマーです。

ファナックは、NC装置の草創期から参入した先行メーカーなので、市場で優位な立場にありました。それに加えて、競合メーカーが工作機械も作っていたのに対し、ファナックは川下の工作機械市場には参入しないという中立の立場を堅持しました。

このことにより、多数の工作機械メーカーの信用を獲得し、ファナックのNC装置を組み込んだ工作機械が多数出回るようなりました。これにより、ファナックのNCプログラミングを覚えればたいていの工作機械を使いこなせるという、エンド・ユーザーにとってのメリットが生まれました。

こうして、ファナックのNC装置が、この業界の事実上の標準となったのです。

こうなると、難しい加工方法についての相談がファナックに舞い込むようになります。そこで得たノウハウをNC装置に組み込むことにより、ファナックはますます強くなるという好循環が生まれたのです。

このようにして、ファナックは工作機械業界でのマイクロソフトのような存在になり、価格競争に巻き込まれることがなくなったのです。

周辺部品を組み込む設計者にとっての顧客価値

今度はキーパーツではなく周辺部品を組み込む場合を考えて見ましょう。

キーパーツではないので、エンド・ユーザーは、その存在を意識することはありません。したがって、顧客として考えるべきは製品の設計者か生産設備を構築する生産技術者ということになります。

まずは、製品設計者について考えます。製品の設計者に対し、周辺部品のメーカーが提供できる価値は何でしょうか?

設計者が片付けたい用事は、製品のQCDを高めること、およびその設計作業をスケジュール内に遂行することです。Dは、最終的には製造と流通で実現されるので、それを外してQとCを考えましょう。

キーパーツ以外の周辺部品が製品のQに貢献できるのは、どういう場合でしょうか?それは軽薄短小などの時代要求(軽い、小さい、など)に応え、他社に負けないようにすることです。

このような価値を提供して成功している例に、ロームとヒロセ電機があります。

ロームの提供部品はカスタムICです。トランジスタ、抵抗、ダイオードなどの部品からなる周辺回路をIC化して、面積を小さくし品質を向上させるものです。

通常ICメーカーは投資が嵩むので、メモリなどの汎用部品の大量生産を狙います。これに対し、半導体に参入当時体力がなかったロームは、一世代遅れた装置でも作れるカスタムICというニッチ市場に特化したのです。

通常の設計作業では、周辺回路は後回しとなります。製品の主機能の設計が済んだ後に取り掛かるので、残り時間が限られているのが普通です。しかも、設計者の周辺回路の知識が不十分なことがよくあります。

ロームは、このような事態に対応するための開発支援サービスを用意しています。周辺回路自体は競争力に貢献しないので、そこで差別化設計をする必要はありません。何処の会社でも似たような設計ですみます。

ロームは数多くの顧客企業と付き合っていますので、どのような周辺回路が必要とされるかを熟知しています。よく使われる回路要素をモジュール化して準備しておき、それらを組み合わせて顧客のニーズを素早く実現できるようにしています。

期限以内に作業を終了させたい設計者にとっては、これは非常にありがたいサービスですから飛びつきます。ロームは、このサービスからは対価を取りません。設計したカスタムICが採用されれば無競争となるので、そこから費用を回収し、さらに利益を上げるのです。

コネクターを主力製品としているヒロセ電機も、似たような構造で儲けています。

コネクターは単価の低い部品ですので、通常は標準品の大量販売を狙ったビジネスを代理店経由で行います。一方で、製品の競争が激しくどんどん軽薄短小化が進む世の中では、それに合ったコネクターの新規開発ニーズが大量に存在します。

しかし、新規開発製品は売れるかどうかわからず、せっかく開発しても、当初は小ロットの注文しかきません。リスクが高いので、新規開発の引き受け手は少ないのです。

ヒロセ電機は、この隙間市場でリスクを取ることを戦略とし、高収益を上げています。

周辺回路のカスタムICと同様、コネクターの設計は後回しとなります。これに対し、ヒロセ電機は顧客の需要を先読みした事前の予備設計を行い、それを顧客ニーズにマッチングさせる設計サービスを行っています。

このことにより、新規設計品のコネクター需要を無競争で取り込むのです。

ただし、カスタムICと異なりコネクターは構造が単純で、模倣されやすいという性質があります。ですから、製品がある程度売れ出すと、購買担当者が相見積もりを取り、価格低減を要求して来ます。

ヒロセ電機は、この結果ある程度利益率が落ちたら、その製品からは撤退することを決めています。製品のライフサイクルが短くなった昨今では、製品の立上げ時期と成長期の前半の需要の方が、成長期後半以降の需要より大きいのです。ですから、前半の需要を取り尽くしたら、それ以上は追いかけない方が得だという判断をするのです。

最後にCについてですが、本記事は価格競争から脱却する方法を論じているので、これは対象外です。ただし、部品メーカーでも積極的な低コスト策で成功している例があるので、一応それを紹介しておきましょう。

マブチモーターは、積極的な低価格路線で成功してきました。いち早く海外に進出し、低い人件費をもとにした生産体制を確立し、規模の経済を働かせて利益を確保しています。そして、さらにその利益を低価格化に還元し、ゼンマイなどの他の動力をもーテーに転化させるなどのことで、市場を開拓し、小型のDCモーターで世界シェアトップになっています。

ただ、成功理由が規模の経済を働かせていることなので、一般の中小企業の参考事例とはならないでしょう。

生産設備を設計する生産技術者にとっての顧客価値

生産技術者の目的は、設計した生産設備が効率良く動き、売上に貢献するようにすることです。すなわち、スピード速く動き、不良品を出さず、また故障しても停止する時間最小で回復することです。

この顧客価値を非常にうまく実現し高利益を上げているのが、キーエンスです。

キーエンスの製品は、FAセンサーです。生産プロセスに組み込まれるセンサーで、顧客製品が仕様通りに作られているかどうか(不良品でないか)を監視するものです。

センサーも、コネクターよりは高いですが、単価が低く多数の商品がある世界です。それを嫌って、同業他社は標準品を代理店経由で売る方法を取ります。

それに対し、キーエンスは直販体制をとり、顧客の個別ニーズをすくい上げて行きます。それらのニーズをある程度標準化したいセンサーを作り、顧客にその使い方を提案するというコンサルティング営業をします。

センサーはメインの生産設備よりは安い脇役的部品ですが、出来上がった製品の品質を大きく左右します。ですから、このように個別ニーズを満たすように作られたセンサーは、顧客に言い値で受け入れられます。

ただし、センサーが故障すると生産設備が止まり、大きな被害が発生します。このため、キーエンスはつねにセンサーの在庫を多めに用意し、注文があれば翌日に出荷できるようにしています。

このようなサービスも込みで、顧客はキーエンスを信頼し、価格に文句をつけないのです。

顧客が片付けたい用事

中小部品メーカーが学ぶべきニッチ市場構築戦略

以上の例から、中小部品メーカーは何を学ぶべきでしょうか?また、コンサルタントは何が支援できるでしょうか?

それは、図のピンクで網がけした部分に着目すべきだということです。

キーパーツについては、それが作れるような技術を有している企業であれば、シマノやファナックの例に倣えば良いのです。それだけです。コンサルタントが支援するまでもありません。

また規模の経済でコスト競争をするのは、大企業向けの戦略です。

網がけの部分は、目立たない周辺部品の領域です。しかも、手間がかかる少量多品種の分野です。

そこで他社が嫌がる個別ニーズに対応することが、価格競争に巻き込まれない最良の方策なのです。そのニーズの把握のために直販の営業体制をとるのが、中小部品メーカーが価格競争に巻き込まれず生き残る道となるのです。

まとめ

  • 中小部品メーカーの共通の悩みは、「価格競争から脱却できない」ということである。そして、「同じ顧客」に、「同じ製品」を、「同じ方法」で売っている限り、この問題を解決することができないことも自明である
  • 価格競争から脱却するためには、顧客を企業としてみるのではなく、顧客企業内の「役割」に注目し、それぞれの役割が片づけたい用事に着目すべきである。そこから顧客価値を抽出し、それを自社だけが実現すれば、競合から脱却できる
  • 「購買担当者」の価格低減交渉から逃れたいだけでなく、競合も避けたい場合は、目立たない周辺部品での「設計者」、「生産技術者」が片づけたい用事こそが、解決の糸口になる
  • 周辺部品については、顧客の技術的知識が不足していることが多いので、開発支援サービスが歓迎されることが多い
  • また、周辺部品に対する顧客ニーズは、軽薄短小のような時代の要求からくるものが多く、多くの企業に共通のことが多い。これに着目して、設計のモジュール化などの事前投資をしておくと、設計のスピード化が図れ、時間の余裕の無い顧客に歓迎される
  • このような方法で、設計者や生産技術者の信頼を獲得し、そのニーズを満たし続ければ、強固なニッチ市場を構築できる