価格戦略構築は難しくない:基本を理解すれば業務改革と同じやり方で取り組める


コンサルタントが価格戦略を苦手とする理由は?

クライアントの売り上げを上げようとすれば、価格戦略は避けて通れません。次の式の客単価に直接響くからです。

売上高 = 客数 × 客単価 × 購買頻度

しかし、この価格戦略に苦手意識を持つコンサルタントが多いようです。その理由を聞いてみると、次のようなことを挙げてきます。

  • 価格戦略を理解するためには背後の経済学を理解する必要があるが、そもそも経済学が苦手だ
  • 価格戦略の本を読んでいると、価格弾力性の推定の話が出てくるが、どのように推定すれば良いか皆目見当がつかない
  • 価格戦略の重要性は理解しているが、クライアントに価格戦略の効果をうまく説明できない

コンサルタントなら、このような理由を上げる前に発想の転換をした方が良いでしょう。価格戦略の難易性を考えるのではなく、問題が取り組むに値するかどうかを考えるのです。

もし、クライアント(ここでは中小企業を想定)の価格戦略がまずく売上が上がっていないとしたら、価格戦略が難しくても取り組むべきです。逆に、問題が小さいのなら、放っておけば良いのです。

さらに、価格戦略上の問題が大きければ、何に取り組むべきかは大体分かるはずです。その時になって価格戦略の必要な部分の勉強を始めるのでも、必要な対策は打てるはずです。

なぜなら、大きな問題があるときは、次のような分かりやすい兆候が存在しているはずです、そして、業務改革の経験豊富なコンサルタントなら誰でも知っているように、その解決の方向性は自ずと見えるはずだからです。

  1. 昔ながらの値付けでやってきたが、最近なぜか儲からない。同業他社も、皆そうである
  2. 他社の様子を見ながら価格設定をしているので、シェアの拡張もできず利益も出ない
  3. 乾いた雑巾を絞るようにコスト削減に努めてきたが、これ以上利益を上げる方法が見つからない。一方で、似たような業種の他社は儲かっているのに、自社だけ業績が良くない
  4. 儲かっていないが、顧客から価格についてのクレームを受けたこともない
  5. 顧客ごとの実質売価や採算性を把握していない
  6. など

このような傾向が見られるときは、まず次のような対策(What)の必要性の有無を検討すべきです。

  1. 経済環境のマクロな変化と自社の業績との関係の有無を調査する。関係があることが判明したら、クライアントに戦略的変革の必要性の腹を括らせる
  2. 自社の価格ポジション(高価格でいくのか低価格でいくのか)を明確にする
  3. 自社のコスト構造を分析し、価格やコスト削減などの変動策を列挙し、それらの効果の感度を計算する
  4. 顧客の価格感度を調査する
  5. 顧客への見積価格と値引き後の最終価格を比較する
  6. など

そして、Whatが必要と分かれば、そのとき初めてそれをどう実現するか(How)を考えます。このとき、Howが難しいかどうかは関係ありません。必要なことは難しくても実現すべきで、自分たちだけでできなければ専門家を雇えば良いだけのことだからです。

今日は、これらの問題の最初の3つを、順を追って検討してみましょう。

ビジネス環境変化に伴う自社価格戦略の再検討の必要性の有無

最初に行うべきことは、自社の値付けの方法が現在の業界環境で適切かどうかの検討です。

これまでの日本企業の価格戦略は、あってないようなものでした。仮にあったとしても、非常に偏ったものでした。その代表例が次の2つのです。

  1. コスト志向の価格設定
    • 商品を作るのにかかったコストに一定の利益を上乗せしようとするもので、流通業によく見られるマークアップ法もこの範疇に属する
  2. 競争志向の価格設定
    • 競合会社の類似商品の価格を見て、それより少し安め、あるいは高めにする

どちらも、価格を決める重要要素である、顧客、コスト、競合の一つしか見ていないという点で、大きな問題を抱えています。しかし、一方では簡単だという実用的メリットもあります。

コスト志向は、コストという推測でない実データに基づいています。競合各社がこの方式をとり、しかもコスト構造が似ていた場合は、無理な競争が起こらず価格以外での競争が促さられるというメリットもあります。

競争志向の場合も、業界の追随者という立場を決めてしまえば、非常に簡単に価格を決めることができます。

しかし、これら2つの方式とも、顧客に大きな価値を届けていた場合には、それに見合った対価を受け取れないというデメリットが生じます。株主的な見地からは大いに問題です。

それにもかかわらず、このような設定方法が広く行われていた背景には、経済が右肩上がりであったことがあります。モノ不足で商品がどんどん売れた時代には、多少値付けが安すぎても企業の利益が上がったのです。

逆に、価格が商品の実質的価値を少し上回っていたとしても、需要が旺盛な消費者はそれほどうるさく価格に拘ることはなかったのです。

何れにしても、値付けが多少不正確でも、それが企業の業績に大きく影響することはありませんでした。

しかし、パソコンや携帯電話の台頭期のような一部の業界を除けば、多くの業界でこのような作り手にとって夢のような時代は過ぎました。モノあまりの成熟時代には、消費者は価値に見合った価格でなければ、商品を買ってくれません。

このような時代に台頭したのが、量販店などのディスカウンターです。バイインングパワーに任せてひたすら安売りをして、消費者の支持を得てきました。

この環境では、コスト志向の価格設定をしようとしても、上乗せ利益を削るよう量販店から圧力を受けます。また、競合他社が低価格で勝負しようとしていたら、競合志向の価格設定では低価格競争に巻き込まれることは必定で、利益を出せる見込みはありません。

モノ不足の高度成長期の幻想から一刻も早く覚める必要があるのです。今まで目を背けてきた顧客の目から見た商品価値を訴求しない限り、適切な利益を獲得することはできないのです。

中小企業が成熟業界に属していた場合には、生き残りのために顧客志向の価格設定を身につける必要があるのです。

自社の価格ポジションを決め、それを支えるビジネス・モデルを開発する

高度成長時代の価格設定のマインドセットから脱却する必要性を理解できたとして、次に考えるべきことは何でしょうか?

それは、業界内のどの価格帯で勝負するかということです。価格帯が違えば、自社が採用すべきビジネス・モデルが全く変わるからです。低価格戦略か高価格戦略かの価格ポジションを決定するのです。

低価格戦略を取るとき、単に価格を下げるだけでは済みません。低価格でも利益を挙げ続けられる仕組みの構築が必要です。

たとえば、新潟の寺泊港を拠点に関東信越に直営店を展開する角上魚類のような魚の安売り専門店を開業しようとしたら、市場を経由せず産地から直送して価格を下げ、なおかつその日のうちに売り切り必要資金を削減するなどの工夫が必要です。

そのためには、出店地域を漁港から高速道路経由で直送できる地域に絞り、勤続年数が長く魚の目利きや料理方法のアドバイスができる正社員の販売員を揃える、などの仕組化が前提となります。

低価格戦略で成功するためには、当初から次のような成功要因を取り入れたビジネス・モデルの設計が重要なのです。これらは、後から路線変更をしようとしても実現できる性質のものではありません。

  • 最初から低価格戦略で始める:低価格と大量販売を両立させるモデルを作る
  • 効率的なオペレーションを作り上げる:効率的なプロセスを作り上げ、コスト効率を高める
  • 妥当なレベルでバラツキのない品質を提供する:高品質ではないが顧客が納得する品質の商品を安定的に供給する
  • コア商品に特化する:顧客が必要としないものは一切提供せず、顧客価値を危険に晒すことなくコストを節減する

一方、高価格戦略を取ろうとした場合は、顧客にその価値を認めてもらう作業が不可欠です。

たとえば、3,000円のガトーショコラを売っているケンズカフェ東京は、非常に高価なチョコレート素材を使い、本場フランスに負けない味を生み出しています。さらに、手作りにこだわり希少感を強調し、口コミで評判を広げています。

高価格戦略を取る企業は、以下の要因を満足することで成功していて、例価格戦略企業とは全くことなるビジネス・モデルを採用しています。

  • 一貫して優れた価値を生み出し続ける:顧客がその価値の優位性を認めるときにのみ、高価格戦略は成功する
  • 価格と価値の関係で競争優位を築く:高い価値で競争優位を獲得し、結果として、それに見合った高価格を維持する
  • イノベーションを基盤とする:何かしら「今までになかった」発想や技術を経営の基盤とする
  • コミュニケーションに重点投資を行う:自社商品の価値とメリットを顧客に認知させる努力を継続する
  • 特別提供を敬遠する:高価値を維持するために、プロモーションの実施などを避ける

両者のビジネス・モデルは相入れません。つまり、価格ポジションではどちらを取るか、最初から決定する必要があるのです。

価格ポジションが決まっていなければ、一貫したビジネス・モデルを採用することができません。結果的に、場当たり的な施策をとることになり、一貫した戦略をとる競合他社に太刀打ちできないのです。

価格戦略上の問題を感じたら、まず自社の価格ポジションを腹を括って定めることが重要なのです。

自社のコストおよび利益構造をマスターする

各ポジションを定めたら、その次に、自社のどこをいじれば儲かるのかの把握が必要です。このためには、売上指向から利益指向への発想の転換が必要です。

企業の目的は、利益を上げ存続し続けることです。そこまでは、すべての経営者が合意するでしょう。

しかし、その先の具体的方策となると、必ずしも意見は一致しません。一番多い方策は、「売上げを増大させる」です。ダイエーの創業者中内功氏の有名な言葉「売上げはすべてを癒す」がその代表です。

この方針の信奉者は、売上げを増やすために価格を下げることを厭いません。価格を下げれば販売数量が増え、結果的に利益が増えると確信しているのです。

しかし、ここで利益が増えるためには、価格を下げた時に販売量が急激に増える(価格弾力性が非常に大きい)ことが前提となります。この前提は、モノ不足の高度成長期には成立しました。しかし、成熟時代では(パソコンや携帯電話の出現時のような例外を除けば)滅多に成立することはありません。

成熟業界にいる経営者は、売り上げがそう伸びない中での利益向上策を考える必要があります、そのために、自社のコストや利益の構造がどうなっているかを理解しておく必要があるのです。

それを、価格戦略入門にある以下の費用構造を持つ企業の例を使って考えてみましょう。

  • 固定費:500
  • 変動費:10
  • 価格: 20

この企業の損益分岐点は、図に示すように販売数量が50の時であり、それ以上の販売数量を確保できる場合に利益は増大していきます。

この企業が販売増以外で利益を増やすには、3つの方法があります。固定費の削減、変動費の削減、値上げ、です。

今販売量が100であるとして、どの方法が最も増益効果があるかを考えてみましょう。ここでは簡単化のために、価格の1%程度の変化は販売数量に影響しないものとして、固定費、変動費、価格といったパラメータの変化が利益に及ぼす影響伸の分析(感度分析)を行ってみます。

その結果は図に示すように、固定費を1% 削減した場合の増益効果は5、変動費を1% 削減した場合の増益効果は1、価格を1% 上げた場合の増益効果は20となります。

近代的企業(変動費を下げるために固定費に投資している)では、価格設定の影響が他のコスト削減に比べて圧倒的に大きいことがわかります。

(逆に、固定費が小さい小規模な流通業(物流センターなどがなく、広告費なども少ない)などは、価格設定の影響と変動費の削減の影響が同規模となります。これが、流通業にマークアップ方式をとる企業が多い理由です。)

日本企業は、乾いたタオルを絞るような血のにじむような努力をして固定費や変動費のコスト削減を行ってきています。しかしこのように影響の大きい価格設定に関しては漫然としたコスト・プラスや競争価格設定しか行って来ていません。

特に中小企業は親会社の言いなりだったりすることが多いので、価格設定の重要性など考えたこともない、というのが実情です。

コンサルタントは、クライアントのコスト構造がどのようなものであるかを把握し、通常のある程度固定費比率の大きな企業に対しては、価格設定の重要性を経営者に気づかせるべきなのです。

感度分析

基本的なチェックで価格戦略構築の必要性がわかったら

以上のような基本的なことをチェックすれば、従来の価格戦略に問題があるかどうか判明します。そして、価格戦略構築に取り組む必要があるかどうかについての経営者の腹も決まるはずです。

価格戦略を再構築する必要がある場合には、顧客価値志向の価格戦略の検討を進めることになり、以下のような検討をすることになります

  • 商品の価値に対し顧客はどれくらいの価格を払うのか、利益を最大化させる価格はどれくらいか(顧客の価格弾力性)
  • 自社の価格に競合はどう反応してくるのか(価格競争戦略)
  • 顧客の違いを利用して利益獲得の機会を増やすにはどうするか(プライス・カスタマイゼーション)
  • 顧客は価格にどう反応するのか(価格の行動経済学)
  • 価格の付け方にどのような工夫があり得るか(スマート・プライシング)

次回以降、これらの点について解説していくことにします。

価格戦略検討事項

まとめ

  • 価格戦略に苦手意識を持つコンサルタントが多い。その理由は、価格戦略理論そのものに目を向けることにある。そうではなく、クライアントの問題そのものに目を向ければ、自ずと価格戦略上で取り組むべき課題は見えてくる
  • クライアントが価格戦略の再構築に取り組むべきかどうかは、3つの事項を点検することで見えてくる
  • まず、クライアント企業の業界がモノ不足かモノ余りかを検討する。モノ不足という幸運な業界にいた場合は、どんどんモノを売ることに集中すれば良い。(市場でリーダー企業となるための戦略的低価格戦略の検討はある)
  • モノあまりの成熟業界に属していて、コスト志向や競争指向の価格戦略をとっていた場合は、戦略の再検討が必要である
  • 価格戦略を検討する場合は、まず自社の価格ポジションを明確にする。高価格戦略か悌価格戦略かで、自社が採用すべきビジネス・モデルが全く変わるからである
  • 自社のコスト構造も価格戦略の必要性を左右する。固定費にある程度投資している近代的企業では、価格設定の巧拙が利益を大きく左右する。小規模な流通業などで変動費比率が高い場合には、マークアップ方式でやっていければ、それで問題はない
  • 以上のチェックで価格戦略再構築が必要と判明した場合には、顧客ベースの価格戦略を追求することになる。その場合には次のような事項を検討することになる(これらについては、次回以降で解説する)
    • 顧客の価格弾力性
    • 価格競争戦略
    • プライス・カスタマイゼーション
    • 価格の行動経済学
    • スマート・プライシング