労働者階級の反乱 地べたから見た英国EU離脱


労働者階級の反乱 地べたから見た英国EU離脱 (光文社新書)

内容的には参考になりましたが、この著者がこんな本を書いて良いのかな?と疑問が残る本でした。

著者は、英国で保育士をしていて労働者階級の旦那と暮らす日本人で、彼女が書いた「子どもたちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から」(みすず書房)は、第16回新潮ドキュメント賞を受賞しています。

そんな彼女のバックグラウンドを期待して、この本を読み始めたのですが、内容の大半は、次の2つの本からの引用で、不満が残りました。やはり、出版社が儲け主義の光文社なので、みすず書房が扱う本とは比べるべくもないのでしょう。

それはさておき、2つの本のダイジェスト版を読んで時間を節約したと思えば、それなりに意味があるので、その内容を紹介しておきます。 「ジャスティン・ジェスト、”ザ・ニュー・マイノリティ 移民と不平等の時代の白人労働者階級政治”の内容」

  • 20世紀の初めと終わりで、勤労者に占める肉体労働者の割合は、75%から38%に落ちている
  • OECDの2010年の調査では、英国と米国は、最も社会的流動性の低い国になっている。つまり、英米は、低所得層に生まれた子供がそのまま低所得層の大人になる可能性が最も高い社会になっている
  • このように人口が減っている流動性が低いイギリスの白人労働階級は、次のような疎外感を抱いている
  • 数が減っている:肉体労働者の職場では外国人(移民)が多数派になっているところが結構ある
  • 排除されている気分:公的組織などに自分たちの代表を送り込む機会が減ってきている。公務員募集などに移民などのマイノリティ募集のノルマがあるため、自分たちは不利
  • 差別の対象となっている感覚:白人のミドルクラスからバカにされているだけでなく、移民からも同じことを感じる
  • 著者のジェストは、この疎外感には実際に次のような根拠があると言っている
  • システム的なバリア:英国の教育はもともと高額授業料の私立校と授業料無料の公立校に分かれており、ここにすでに教育格差がある。さらに、成績優秀な公立校の近所の地価が上がり高級住宅地となるため、収入による地域の棲み分けが拡大する。これは、ソーシャル・アパルトヘイトと呼ばれており、子供達の能力格差を拡大する
  • 「大義なき不満」のバリア:貧しい白人労働者階級は、同じように貧しい移民に対しエリート意識を持っている。この「白人というマジョリティの中の下層民という立場」が自らの政治的・経済的困窮から抜け出すための政治的活動に必要な集団としてのアイデンティティの欠如を生む。黒人労働者は、待遇改善のために連帯するが、白人労働者は同じ問題を集団のものとしてではなく、個人のもの(自己責任)として捉える

政治的なバリア:このような結果、疎外感・孤立感を深めた白人労働者階級は、政治的・社会的活動をしなくなった。その反動として、政党も反応しない労働者階級ではなく、中流・上流階級に合わせた政策を練るようになった このような疎外感が新自由主義への反発を醸成し、EUがその象徴とされBrExitへの賛成票となって現れた、などのことが起こっているという訳です。

長くなってしまったので、 セリーナ・トッド、「ザ・ピープル イギリス労働者階級の盛衰」 の方の説明は省きますが、この記述も非常に面白かったです。 英米ほどではないですが、戦後長い時間が経ち、日本も社会的流動性が低くなってきているので、他人事ではないと考えさせられました。