勝ち組ファッション・ビジネスに学ぶ商品政策と在庫回転率向上策の連動法


価格破壊だけで成功できるのか?

時代の変わり目には、業界の常識を超えた価格破壊をして大成功する企業が現れることが、よくあります。たとえばダイエーです。

では、価格破壊をすれば企業は成功するのでしょうか?その答えは、「時と場合による」です。

ダイエーの場合は、「時」が味方しました。

ダイエーが登場したのは、高度成長期の最中でした。消費者の需要が旺盛で、他より少しでも良い(品質が高い、あるいは安い)ものは、どんどん売れていきました。ですから、ダイエーは価格を下げただけで成功したのです。

しかし成熟時代に入り、消費者の目は肥えてきています。自分が本当に必要と思うもの以外には目もくれません。ダイエーが謳歌した「時」は過ぎ去ったのです。

それでも、場合によっては消費が堅調なものはあります。たとえば、「食」には人口に比例した需要が厳として存在します。主食などは、同じ品質であれば価格を下げれば売上が上がるということが続いています。

では、ファッション産業の「場合」はどうでしょうか?

ここでも、おなじ品質であれば安いものの方が売れることは確実です。しかし、ファッションという言葉が服飾の流行を意味している通り、この産業における商品ニーズは時々刻々と変化していきます。その変化に追随できない商品は売れ残ってしまいます。

ファッション産業では、この変化が他産業よりずっと早く、在庫リスクの管理が最重要事項となっているのです。売れ残りを避けるために、シーズンの終わりにはバーゲンセールをしたり、仕入れ業者に返品したりするなどのことが業界慣行となっています。

この売れ残り対策分は最終的には消費者価格に跳ね返ってきます。業者が売れ残り対策費用を自分で抱え込むと、いずれ潰れざるを得ないからです。有り体に言えば、消費者は将来の売れ残り分も込みの価格を払わされているという訳です。

ここに、この不合理性に目をつけ、業界常識価格を破壊しようとする新しいビジネス・モデルの参入の余地が生まれます。

ただし、単に価格を破壊するだけではダメで、売れ残りリスクを最小化する仕組みの構築が不可欠です。そうでなければ、いずれ売れ残り分のツケを消費者に回さざるを得なくなり、価格優位性が失われるからです。

生産したり仕入れたりして生じた在庫を、シーズンの終わりに値下げすることなく売り切れるかどうかが、新しいビジネス・モデルの成否を分けるのです。

そのような成功を収めた企業が、ユニクロ、ZARA、しまむらですが、やり方はそれぞれに異なります。

いちばん変化が速い業界の様々な経験に学べば、他の業界に応用できるコンサルタントの引き出しが増えると期待できますので、以下それらの経験を分析して見ましょう。

(面白いことに、ユニクロとしまむらを比較した本、ユニクロとZARAを比較した本はありますが、三者を統一的な枠組みで比較したものは見当たりません。二者の比較だとそれぞれの相違を分析するだけですが、三者比較だと共通点も見えてきます。その意味で、より踏み込んだ検討ができるはずです。)

少アイテム大量をとことん売り切るユニクロ

ユニクロは、ご存知の通り老若男女を区別しないベーシック・カジュアルというカテゴリを作り、そこで機能性に優れた商品を低価格で爆発的に売るというモデルを確立しました。

製造小売業(SPA)という業態で中間マージンを排除することで、低価格でも高い粗利を確保することに成功したのです。

ユニクロの基本モデルは、大量生産・大量販売で売れるものを徹底的に売ることです。そのために毎週金曜日にチラシを打ち、顧客の来店を習慣づけています。(この結果、ユニクロの広告費は業界平均の倍以上となっています。)

顧客は目的買いで来店するので、売り場は商品分類別とし、目的の品がどこにあるかがすぐわかるようにしています。レジも45秒以内と、とにかく顧客がすぐに買えることに集中しています。

ひたすら客数を増やし、品切れも防止して、粗利を稼ぐのです。大量生産をすれば、その分生産コストも下がります。

しかし、大量に販売するので、それに比例して売れ残りリスクが高まります。その対策が必要です。

ユニクロのリスク防止策は、店舗のリピート・オーダー時の予測能力強化です。シーズン開始前に全量を生産するのではなく、シーズンに入ってからの売れ行きを見て、店長が追加オーダーを精度高く発注することに賭けているのです。

ユニクロは週単位に販売計画を立てます。売れていれば増産します。売れていなければ、週末限定値下げで計画数値まで売り、最終的に大きな値下げをしなくてもすむようにします。

このことが可能になるのは、ユニクロがアイテム数を絞っているからです。少数のアイテムに需要が集中するので、大数の法則によりそれらの需要の変動は多アイテムの時よりは安定して読みやすくなるのです。

以上のように、ユニクロはひたすら売りまくり、同時に売れない商品を素早く処分することで、在庫回転率を高めているのです。

多品種少量品揃えで売り切れ御免のしまむら

ユニクロと全く対照的なビジネス・モデルを採用しているのが、しまむらです。

しまむらは、25-40歳の主婦を主対象として日用品衣料を売っています。顧客は日用品を頻度高く買いに来るので、それを逃さないように小商圏でのビジネスとなります。

小商圏で売上を上げようとすると、販売機会を逃さないために商品は幅広く用意することになります。一方で数は売れないので、必然的にコンビニのような多品種少量の品揃えとならざるを得ません。

品揃えから見ると、ユニクロと正反対のビジネスとなるのです。

顧客の側から見ると、小商圏ですれ違う人が同じ服を着ているのは嬉しくはありません。ですから、しまむらでは婦人服の場合1店あたりに置くのは2着までとしています。結果的に、300坪の店で4〜5万アイテムとユニクロの100倍のアイテムの品揃えとなっています。

これだけの品揃えをしようとすると、それを全て自社で用意することは合理的ではありません。しまむらは、その点を割り切って自社生産は一切しない集荷型に徹しています。商品の企画力は外部に頼り、自社は仕入れの目利き力で勝負することにしたのです。

集荷型ですから、ユニクロのような粗利は取れません。しまむらは、徹底したローコスト・オペレーションで、粗利ではなく営業利益で儲ける方針をとっています。

しまむらの店に行ってみるとわかりますが、店内はガランとしています。客があまり入らず坪あたり売上高は非常に低いのです。それでも儲かるのは、出店コストを非常に低くし、パート社員2、3名で運営できるようにマニュアル化しているからです。

一方で、多品種少量の品揃えは在庫管理には大きな負担となります。売り逃し・売れ残り双方のリスクが大きくなるからです。

ここで、しまむらは発想の転換をしました。売れてしまったものは補充しないという「売り切れ御免」に転換したのです。

この施策は、しまむらのビジネスには合っていました。機会損失は防止できないものの、小商圏で顧客が頻度高く来店するケースでは、売り場の鮮度が維持でき来店動機が高まるというメリットの方が大きいからです。

それでも残るリスクが、売れ残り品の扱いです。これには、2通りの対策があります。

一つ目は、店舗の売れ行きに差がある場合です。しまむらには、現時点で1,345もの店舗があるので、同じ商品でも売れ行きに差が生じます。その時に、売れ行きの悪い店から売れている店に商品を移してしまうのです。

二つ目は、同じ商品がどの店でも売れ行きが悪い場合です。その場合には、一定のルールに従って値下げをしてゆき、売り切ってしまいます。

いずれの場合も、本部にいる商品別のコントローラーをいう職種の人が、店舗全体の動きを見ながら判断をします。ここでも、店舗中心のユニクロとは正反対の動きです。

このコントローラーの動きを助けるのが、しまむらの自社物流システムです。

全国に7ヶ所ある大型商品センターの間で大型トレーラーのシャトル便が運行されています。また、商品センターとドミナント方式で出店されている店舗の間は、4トントラックが夜間に定時運行されています。

この結果宅配便の4分の1のコストでの配送が可能なので、店舗間の商品の移送が簡単に実現できるのです。

このようにして、ユニクロとは真逆の商品政策・在庫回転率向上策が実現できているのです。

意図的に安定操業を実現するZARA

商品政策と在庫回転率という見地から両者の中間に位置するのが、ZARAです。

ZARAもユニクロと同じSPAですが、そのオペレーションは回転率重視という点では、しまむらの方に似ています。

ご承知のように、ZARAはトレンドファッションを百貨店の半額という価格で提供し、世界有数の企業として成功しています。

店内では、スタイルごとのコーディネートを提案し、シーズンごとに何を買い足すべきか、何を買い換えるべきかのアドバイスをします。顧客は店内を回遊し、そのような提案を受け入れ衝動買いをしていくモデルで、客単価重視です。

トレンドファッションですから、まず店側がそのシーズンの流行の提案をします。しかし、実際の売れ行きはその通りになるとは限らず、そこに大きな在庫リスクが潜在しています。

この問題を克服するために、ZARAではシーズンの初めに新商品を3週間で売り切れる分だけ生産し、店頭に並べます。それ以後は、その反応を見て改良した人気商品だけを並べていくのです。

要するに、「売れるものしか作らない」のです。

ZARAがSPAとして運営している理由は、ここにあります。製造業者が店舗を持ち、その情報をフィードバックすることにより、無駄なものを作らないようにしているのです。

この点が、中間業者の中抜きでコストを下げることを目的としたユニクロのSPAとは大きく異なるのです。

もちろん、店舗での売れ行きに素早く反応して商品の改良や生産を行うためには、それなりの仕組みが必要です。

ZARAは、商品の企画機能をスペインの本社に集約し、生産を委託するサプライヤーも本社周辺に確保しています。すばやい生産を可能にするためには、染色前の生地、ボタンやファスナーなどの付属品を事前にサプライヤーに配備しておくほどの徹底ぶりです。

また、物流機能にも大きな投資をしています。サプライヤーからZARAに商品を集め、それを店舗に配送するハブ&スポークを完成させています。

欧州内の36時間以内で届けられるところはトラック便、それ以上かかるところは航空便で配送します。航空機を週40機チャーターし、全世界88カ国の店頭に同じアイテムを48時間以内に並べられるという体制を作り上げているのです。

この結果、新商品は4週間で、追加商品は最短2週間で店頭に並べられるようになっています。この能力をもとに、ZARAは毎週月曜と金曜に新商品を並べ店内の商品配置も変えていきます。

この結果店頭の鮮度が高まり、顧客の来店が習慣づけられます。さらに、次に来た時には前あった商品が見当たらなくなるので、顧客は買い逃しを嫌って気に入ったものはすぐに買うようになります。

結果的に、しまむらと同じ「売り切れ御免」を実現しているのです。その裏にある売上高物流費は10%弱と結構高いですが、値下げするよりはマシという考えで運営しています。

以上の結果、店頭ではコンスタントに商品が売れていきます。一方で、トレンド商品が売れるからといって、それを追いかけて追加生産することもありません。

つまり、そこそこの価格の商品が安定して流れていて、工場の操業度も安定します。これが、ZARAが利益を上げられる理由なのです。

製造業でありながら、店頭の売れ行き情報をもとに、しまむらのような売り切れ御免を実現しているのが、ZARAの本質なのです。

(同じような製造業出身で自社店舗やFCでの販売を手掛け、売れるものだけを作ることを実現している例に靴下の専業メーカーのタビオがありますので、興味があれば調べて見てください。)

商品政策と在庫回転率向上策

【まとめ】

  • 高度成長時代に成功したビジネス・モデルの一つに、業界の常識を破る価格破壊があった。しかし、成熟したマーケットでは、売れ残りリスクを考えた在庫回転率向上策がない単なる価格破壊ではうまくいかない
  • ファッション産業は流行を追いかけるため、他産業より商品の売れ残りリスクが大きい。したがって、この業界で低価格戦略で成功している企業の在庫回転率向上策からは学べることが多いはずであり、コンサルタントはその勉強をしておくべきである
  • ユニクロ、しまむら、ZARAという勝ち組企業を分析して見ると、それぞれ異なった在庫回転率向上策を取っているが、その理由はそれぞれの商品政策の違いにある
  • ユニクロは、ベーシックな商品を大量生産大量販売し、粗利で稼ぐ政策である。したがって、サプライチェーンの工夫ではなく、店舗の売れ行き予測主導のオペレーションを行なっている
  • しまむらは、小商圏で多品種少量の日用衣料を売るビジネスである。したがって、少量を淀みなく売る本部コントロールとそれを支える物流機能に重点を置いている
  • ZARAは、トレンドファッションを扱っているが、売れるものだけを無理なく売るためにサプライチェーンに投資しており、しまむらに似ている。SPA方式をとっているのは、店舗情報を効果的に吸い上げるためであり、中間マージン排除を目的としたユニクロとは動機が異なる
  • 成功している企業は、このように商品政策と在庫回転率は車の両輪のようにうまく連動させている。コンサルタントは、それぞれを単独ではなく連動させて扱うべきことを心得ておく必要がある