合意したのに解決策が実行されない2つの理由


社長が本気でない、受け取った報告書が役に立たない、、、

若手コンサルタントが、先輩コンサルタントに相談していました。「クライアントの社長が解決策に合意したはずなのに、本気になって実行しようとしない」と言うのです。

逆に、クライアント側からも「コンサルタントが役に立たない報告書を書いて去って行った」という文句をよく聞きます。でも、ちょっと考えてみれば、これも変な話ですよね?

役に立たないことがわかっているのであれば、その報告書を受領せず、作業のやり直しを要求すれば良いはずです。ということは、受け取ったときは役に立つと合意していたことになります。

コンサルティングでは、このようにクライアントが解決策に一旦合意したはずなのに、その後合意が反故にされることがしばしば起こります。

どうしてこのようなことが起こるのでしょうか?それを未然に防ぐために、コンサルタントは何に気をつければ良いのでしょうか?

クライアントがその気になれない事情を理解する

実は、いきなり「クライアントが合意したはずの解決策を実行しない」原因を探ろうとしても、その作業にはあまり意味はありません。

なぜなら、解決すべき問題がまだ設定されていないからです。

問題は「あるべき姿」と「現状」のギャップとして定義されます。そして、“クライアントが合意した解決策を実行しない”というのは「現状」です。

問題の定義に必要な「あるべき姿」はまだ設定されていません。このままでは、現状のどこを分析すれば良いかがわからないのです。

この状態で現状分析に走ると、あれも問題、これも問題と広がってしまい、手がつけられなくなります。(成果が出ない解決策を作り出したのは、あなたの「プロブレム・トーク」 参照)

ここで行うべきことは、「あるべき姿」を明らかにするために「どうすればクライアントは合意した解決策を実行するのだろう?」と問うことです。

そして、クライアントが解決策を実行できるのは、以下の2つの条件が満たされたときなのです。(課題指摘コンサルタントにならないために考えるべきこと参照)

  • 状況を変化させるのは行動である。何かを変えようとして失敗した例を調査すれば、ほとんどの場合結果と行動を混同していることがわかる(行動をコミットさせるべきで、結果をコミットさせるべきでない)
  • 人が今までと違った行動をとるのは、その行動に①価値がある、②できる、と思う時である。この二点が変われば、相手は行動を改めたり、今までの害のある行動をやめようと努力する

この2つの条件を満たす解決策(行動)が策定されている状態を「あるべき姿」として現状を分析すれば良いのです。(図参照)

だとすると、「合意したはずの解決策が実行されない」原因には、次の2通りのケースがあることがわかります。

  • 自分にはその解決策(行動)が実行できるとは思えない
  • 一旦合意はしたが、解決策を実行する価値があるとは思えない(隠された価値観、慢心、恐れがある)

以下、それぞれのケースについて検討していきましょう。

解決策の実行条件

解決策(行動)が実行できると思えない

クライアントが合意した解決策を実行できないと思う理由の代表的なものとしては、次のようなものが考えられます。

  • 実は要求されている行動そのものが理解できていない
  • 全部実行しないといけないと思い込む
  • 何が起こるか不安で踏み出せない

要求されている行動が理解できていない

課題指摘型コンサルタントにならないために考えるべきことで述べた「一向に改善しない経営改善計画」が、この例にあたります。

経営不振で金融機関から融資を受けたい中小企業経営者は、融資をする判断基準として経営改善計画の提出を求められます。しかし、経営改善計画を提出した経営者が、数年後にまた融資を求めに現れることが問題となっています。

策定された経営改善計画が実行されていないからです。

提出にあたっては、コンサルタントに計画策定の支援を求めます。しかし、融資を受けることに必死な経営者は、計画の内容をよく理解しないままに、見てくれだけが良い経営改善計画を金融機関に提出してしまうのです。

担当したコンサルタントも、計画策定の手数料だけに目が向いており、最終成果である業績向上を真剣に考慮していない節があるという不幸な状態です。

冒頭の報告書が役に立たないと不満を漏らすクライアントも、報告書を受け取った時にその実行可能性を判断できていないという点では、同類です。

コンサルタントがこのようなケースを無くそうと考えるならば、クライアントの力量を見極め、クライアントのレベルに合った解決策を策定する必要があります。

その基本的な方法を、インフルエンサーたちの伝えて動かす技術から抜き出すと、以下の3つになります。

  • 必要なスキルを身につけさせる
  • 計画を小さなステップに分割し、実行を容易にする
  • 前に進んでいることを実感させるフィードバックを用意する

例えば、固定費が回収できずに赤字で苦しんでいる中小企業に対して、次のことを解決策として示しても、知識のない経営者にはこれが実行できません。

  • 損益分岐点を下げる
  • 損益分岐点を上回る売上を上げる

この解決策を実行させるためには、次のようにさらに具体的作業や指示に落とす必要があるのです。

  • 基本的なスキルである損益分岐点分析を教える
  • 損益分岐点を下げる方法を細分化する(例えば、変動費を下げる方法の一つとして、採算の悪い案件は人件費の低い外注に出し、自社は採算の良い案件に集中する、など)
  • 限界利益獲得累計額と固定費の差額をフィードバックし、後どれだけ稼げば赤字から脱却できるかを分からせる

全部実行しなければならないと思い込む

このケースに当てはまるのが山登りの例えで理解する問題解決の要点の「解決策はどこまで完璧につくる必要があるのか」で述べたケースです。

問題の解決策は一つだけではなく複数の解決策の集合であることが多いです。そして、それらの解決策には易しいものも難しいものも混じっています。

このようなケースで起こるのが、難しい解決策が実行できないとして、全部を放棄してしまうことです。

これは、学校で優等生だった人たちに起こりがちな現象です。この人たちは無意識に100点を取りにかかり、それができないと全体の問題の解決が難しいと思いこんでしまうのです。

問題解決は、麓が「現状」で頂上が「あるべき姿」とした山登りのようなものです。麓の方の登り方(解決策)は簡単ですが、頂上付近の解決策は難しく、喘ぎ喘ぎ登ります。

しかし、現状が麓なら、六合目か七合目まで登れば事態は相当良くなっているはずです。頂上まで到達できなくても、ビジネス上は大きな成功である可能性が高いのです。

ですから、すべての解決策の実行が難しいからと言って問題解決全体を放棄することは、馬鹿げているはずです。

このようなクライアントに対しては、「100点を取ろうとするな」というアドバイスをすることが大事なのです。

何が起こるか不安で踏み込めない

ある企業で購買改革プロジェクトが立ち上げられましたが、なかなか進んでいませんでした。

先進事例を研究して、部品カテゴリ別の専門購買チームを立ち上げれば大幅なコスト・ダウンが見込めることは分かっていました。また、そのためにどのようなプロセスを導入すれば良いのかも理解していました。つまり、通常の意味での解決策はできていました。

それでも、漠然とした不安から先に進めずにいました。設計が協力してくれるかどうか不安だったのですが、具体的に設計に何を協力依頼すれば良いかがはっきりしなかったからです。

このようなケースでコンサルタントが効果的な支援をしようとするのなら、漠然とした不安から抜け出せない理由を理解する必要があります。

そして、その理由は「時制」の違いを理解していないことなのです。

上記の通常の意味での「解決策」は、過去の問題を解決するものです。しかし、問題はそれだけではありません。その解決策を実現しようと行動している「未来」にも問題は起こり、その問題解決も必要です。

ところが、この「未来」の問題解決も行うべきことが想定できないので、不安に駆られるのです。

新・管理者の判断力 — ラショナル・マネジャーでは、このための分析手法を「潜在的問題分析」と呼び、そこで次の基本的質問をすべきだとしています。

  • 何か不都合は生じないか
  • それについて、今、何ができるのか

また、“プロフェッショナル・アドバイザー”でも、「行動に向けたコミットメント」という章で、クライアントと以下のようなテーマに関する一連の会話をすべきだとしています。

  • 実行する上で妨げになろうとしているものは何か
  • それについて何をしようとしているのか
  • 誰をこの輪の中に巻き込む必要があるのか
  • どの部分を誰が行うのか
  • どのような情報を必要としているのか
  • いつ参加したら良いのか
  • 主要なデッドラインは何か

これらの手法が述べているのは、将来の不安に対処するために最初にすべきは、解決策の実行に当たって生じそうな不都合なことを列挙することだというです。

この購買改革プロジェクトを支援していたコンサルタントは、購買改革のベテランでした。そして、自分の過去の経験から、図のような起こりそうな不都合を列挙してクライアントに示しました。

すると、クライアントは自社で発生しそうな課題をチェックし、その対処法を検討することができました。その結果、プロジェクトは無事に前に進み始めたのです。

集中購買実現上の課題

一旦合意はしたが、解決策を実行する価値があるとは思えない

合意したはずの解決策に価値を認めないということが起こるのは、裏に隠された価値観があり、その良し悪しが問題解決の議論の俎上に載せられないまま進んできているからです。

隠された価値観には、例えば次のようなものがあります。

  • それは問題ではない
  • 他人事(自分は困らない、自分の利益にならない)
  • それをやっても褒められない
  • 行動すると損をするかもしれない

以下、その対処法を検討します。

それは問題ではない、と思っている

冒頭の若手コンサルタントの悩みがこのケースに該当します。

そこでの解決策は、顧客層の変化に対応して新しいブランド・コンセプトを構築するというものでした。

この会社は赤字で銀行管理会社だったため、銀行から派遣された役員が乗り気な新ブランド・コンセプト構築の議論に、社長は表面上異を唱えませんでした。しかし、腹の中では「良いものを作れば売れる」という信念を変えておらず、新ブランド・コンセプトの必要性を認めていなかったのです。

これは、組織的改革で「既成の枠」を取り外して考えるためにはで述べたメンタル・モデルに関わる話です。

その会社の昔の成功体験である「良いものを作れば売れる」というメンタル・モデルが依然として有効か、それとも赤字の原因となっているかを、真正面から議論すべきなのです。

他人事にしている

解決策の実行段階になって現れるのは、それまで一緒に解決策を議論してきたにもかかわらず、様子見を決め込む人たちです。この人たちが多数派を占めると、改革は頓挫します。

様子見を決め込むのは、改革が他人事だと思うからです。つまり、その改革が実現しなくても自分は困らない、あるいは改革が実現しても自分の得にはならない、と思うからです。

このような人たちの様子見を改めさせるには、改革が自分事であることを認識してもらうしかありません。

つまり、現在の問題を引き起こしている原因(の一部)が自分にあり、それを解決しないと自分にも害が及ぶことを理解させ、危機感を共有させるのです。

そのための手段は、徹底した現状分析です。

例えば、次のような現状分析で危機感を共有させるのです。

それをやっても褒められない

ある製造業で、製造ラインで品質事故が頻発していました。その原因のほとんどが単純な設計エラーでした。

もちろん設計時のレビューはきちんと行われていましたが、原因の多くは設計(得に若手)が加工技術をよく知らないために、悪気なく製造しにくい設計をしてしまっていたことにありました。

実は製品品質には定評のある会社だったので、生産技術が必死になって出荷手前で不良品を止めていました。生産技術の人は、自嘲気味に「うちの会社は得に優れたところはないが、火事場の馬鹿力だけには自信がある」と語っていたほどです。

この問題を解決する有力な策は、加工技術をよく知っているベテランの設計者を若手の教育係にすることですが、誰もその役割を引き受けようとしませんでした。

その理由は「火事を消す人がヒーローで、予防しても褒められない」からです。そして、予防した人が褒められないのは、予防の効果が目に見えにくいからです。

このような現象は、この会社に限ったことではありません。その証拠に、なぜ、わかっていても実行できないのかでは、「重要でないことばかり評価している」という章を設けて議論しているほどです。

その章で述べられているのは、従来の結果だけを評価するというやり方では重要な行動を促すことは難しいということです。重要な行動を促すためには、プロセスの途中や、結果に至る活動を評価しなければならないと主張しています。

このことを理解するのは簡単でないので、成功事例で見てみましょう。

隠れた人材価値 高業績を続ける組織の秘密にメンズウェアハウスという米国の会社の事例が載っています。紳士服の小売業ですが、販売員をファッション・アドバイザーと呼び、丁寧な接客で高業績をあげています。

この会社では、丁寧な接客のために、販売員個人のコミッションはごく小額に止めチーム・セリングを重視しています。しかし、小額でもコミッションがあれば抜け駆けは起こります。

これを防ぎ、チーム・セリングを徹底させるために、次の原則を設けています。

  • ファッション・アドバイザーの取引件数は全員がほとんど同じでなければならない

そして、各販売員が書き込む売上伝票の数を追跡しています。

ある販売員の伝票の数が同じ店舗内の他の販売員より飛び抜けて多い場合には、常連客でない「ふり」の客を独り占めしたと想定されるので、注意をするそうです。それでも行動を改めない場合には、解雇すらすることがあるとのことです。

このような評価指標を工夫すれば、チーム・セリングのような実現が難しい行動を実行させることができるのです。

解決策に向けた行動が進まない場合には、このようなプロセスへの評価に目を向けることも重要なのです。

行動すると損するかも知れない、と身構えている

現状の「述べ方」が問題解決のカギで述べた「購買解決プロジェクトでの例」のところで、思い切って新興サプライヤーに見積もり依頼を出したところ、大幅なコスト削減ができることが判明した話をしました。

ここでの問題は、その見積もり結果に購買チームのメンバーがうろたえたことです。「これでは、今まで自分たちが何の仕事もしていなかったように見えてしまう。トップにどう報告したら良いのだろう?」と言うのです。

このように、職場には対人関係に不安があるために率直なコミュニケーションができなくなっており、本来なすべき行動が阻まれるということが多々起こります。

プロジェクト・メンバーを本音で発言させる法で述べたように、コンサルタントはこれらの不安が自然な現象であると理解する必要があります。

その上で、担当者をかばうなどの方法で不安を除去し、本音の会話ができるように促進すべきなのです。

まとめ

  • 熱心に議論を重ねようやく解決策にたどり着いたはずなのに、その解決策が一向に実行されないということがよく起こる。その理由は、解決策が実行されるための条件を理解していないからである
  • 解決策が実行されるためには、次の条件が満たされる必要がある
    • 解決策を、「こういうことを望む」という結果ではなく、具体的な行動として示す
    • 担当者が、その行動をすることに価値があると思い、かつ行動を実行可能であると思う
  • したがって、解決策が実行されないのは、その行動が実行できないと思うか、隠された価値観があり、本当はその行動に価値を認めていない場合のいずれかである
  • 行動ができないと思っている場合には、例えば次のような対処をすべきである
    • 知識不足で要求されている行動が理解できていない場合: 解決に必要なスキルを与える、解決策を細分化する、前に進んでいることを実感出来るフィードバックを与える、などの具体的工夫をする
    • 全部実行しなければならないと思い込み難しいと尻込みする場合: 100点を取らなくても事態は良くなることを分からせる
    • 何が起こるか不安で踏み出せない場合: 解決策を実行中の「未来に」に起こり得る潜在的問題を分析する
  • 一旦合意したが行動に価値を認めない場合には、例えば以下のような対処が必要である
    • それは問題ではないと言い出す場合: 背景となる過去の成功体験などのメンタル・モデルにさかのぼって、その成否を議論する
    • 自分には関係ない他人事とみなす場合: 徹底した現状分析により当人に関わる(自分が原因である、自分に害が及ぶ)問題であることを認識させる
    • それをやっても褒められないと行動しない場合: 結果ではなくプロセスを評価する指標を見つけ動機付けをする
    • 行動すると損をするかもしれないと恐れている場合: 職場での対人関係の不安の源を除去し率直なコミュニケーションを促進する