意見の違いを克服するためには「事実」を提示する


対立を前提として行動する

皆さんの日常生活の中で、第三者から見ていると理由が良くわからないまま対立しているケースがよくありますよね?

コンサルタントが企業の変革プロジェクトを引き受ける場合にも、同じことが良く起こります。実現すべき「あるべき姿」に合意しているのに、その解決策で意見が分かれてなかなか合意できない、などです。

たとえば、営業と設計の間で、製品品質に関する論争がよく起こります。営業は「製品の品質が悪いから売れない」と文句を言い、設計は「営業は自分たちの営業力の弱さをカバーするために設計に責任をなすりつけている。製品品質は他社に負けていない」と反論する、といった具合です。このままでは売上げ増大のための施策の合意形成は望めません、

この種の現象は非常にしばしが起こるので、プロのコンサルタントは、対立を前提として行動できなければなりません。あらかじめ対立が起こる構造を理解し、解決の手立てを講じられるようになっていなければなりません。今日は、その一つの対策についてお話しします。

人はなぜ対立するか

人の意見や行動が食い違うのは、目の前の現実が同一でも、そこから引き出す情報が異なり、さらにその情報をその人に固有の方法で解釈するからです。

それを説明する非常に優れた例が、(このブログで前にも触れましたが)スティーブン・コヴィーの「7つの習慣」に載っています。

コヴィー氏がニューヨークの地下鉄に乗っていた時のことです。一人の男性が子供たちを連れて乗り込んでくると、子供たちが叫び声をあげながら車内を走り回り、いつまでもやめようとしません。ところが男性は目をつぶったまま止めようともしません。

コヴィー氏は苛立ちを抑えきれずに、それでも精一杯穏やかに父親に子供たちの行動を改めさせるように注意しました。男性は目を開け、初めて子供たちの行動に気づいたような表情を浮かべ、言いました。「ああ、なんとかしないといけませんね。一時間ほど前にあの子達の母親が死に、その病院の帰りなんです。これからどうしたらいいのか、、、あの子達も動揺しているんでしょう。」

この状況をまとめたのが、次の図です。

地下鉄で騒ぐ子供たち

人は、「動揺した子供たちが叫び・走り回っている」という同じ現状を目の当たりにしても、そこから同じ情報を引き出すわけではありません。現状に対する理解も異なります。

置かれている環境やそれまでの育ちが違うので、たとえ同じ情報を与えられても異なった解釈をします。それらを前提とすれば、現状は同じでも異なった意見や行動に至るのは、むしろ当然のことなのです。

多くの人の合意形成を図る立場にあるコンサルタントは、このシンプルなモデルを理解し、対立に対応できるようになっているべきです。

企業変革で対立が起こるのは、部分最適が是認され強化れているから

このモデルを応用して企業内の合意形成を図るとすれば、最初のステップは、対立しているグループ同士がお互いの解釈方法や現状の見方を理解し合うこととなります。

実は、企業の場合は個人同士の場合とは異なり、お互いの「解釈」を理解することは比較的容易です。

と言うのは、企業には経営目的があり、各組織はその目的を分業して実現するために作られているからです。すなわち、各組織の構成員は、自分たちに与えられた組織目的に合わせて情報を解釈するのです。

営業は既存製品の売上げを増大することが目的となっており、設計は製品品質を向上させ、生産は生産コストを低減させます。

同じ現状でもこれらの目的に合わせて解釈するので、対立が起こるのです。たとえば在庫に関しては、営業は在庫が減ると品切れを起こして売上げが減る可能性があるので、在庫減に反対します。生産は、在庫を含めた生産コスト低減に責任があるので、在庫増に反対するという具合です。

企業の業績が順調な時は、各組織がこの見方をすることに何の問題もありません。組織が作られた本来の目的に沿っているからです。

ただ、外部コンサルタントが招き入れられ全社構造改革を実施するような状況では、その前提が崩れているので、見方を変える必要があるのです。

強化ループを切るのは「意見」ではなく「事実」

この場合の問題は、通常は是とされている「部分最適な解釈」が全社的問題を引き起こしていることを認識できないことです。

この部分最適な解釈は、組織の成功体験のループによって以下のように強化されています。

  • 通常は、組織の部分最適を優先した「解釈」が是とされている
  • その解釈に合わせて現状から必要情報を切り取っている
  • そして、自組織の部分最適に合わせた「解釈」を施して得た判断をもとに行動している
  • その行動の結果が次のサイクルの現状となる
  • 行動の結果が成功であれば、「解釈」は正しいものであるとして強化される

このような成功体験が引き起こす問題を自己認識するのが非常に難しいのは、誰しも経験があることですよね?

内部の人間に難しいこの強化ループの切断を外部のコンサルタントが担当するとすれば、どこに目をつけるべきでしょうか?

「解釈」は組織員の頭の中にあるので、当事者でない人間には直接いじれません。そして、当事者はその必要性を意識化できていません。現状も、既に存在するものなので変えることはできません、

だとすると、いじれるのは「意見・行動」か「情報」です。しかし「意見・行動」は「解釈」の結果です。消去法で、いじれるのは「情報」だけだということがわかります。

したがって、ここでの解決策は、組織に都合の良い情報の切り取りを許さないことです。それを許さないほど強い事実を突きつけるのです。

事実の威力を示す事例

事実を示すと強化ループがどう切れるかを、サプライチェーン改革プロジェクトの実例で説明しましょう。

上に述べたように、サプライチェーンでは在庫が増える原因に関して、営業と生産で意見が食い違うことが多いです。

営業は、生産の納品が遅く販社が在庫切れを起こすリスクがあると文句を言います。在庫切れを起こすとお客様の販売店から強烈なクレームがくるので、それを避けるために販売予測を多めにして生産量を増やさせます。

生産は、販社が要求する納期を守って生産していると主張します。さらに、販社の販売予測の精度が悪い(販売予測の方が販売実勢を常に上回る)ので、それを信じて生産すると在庫が増え、その責任を取らされていると文句を言います。

これでは、水掛け論です。

この問題にケリをつけるため、あるプロジェクトで次の図に示されるデータを取ってみました。それまでこのようなデータの取り方をしたことがなかったため、「そんなデータはない、取れない」というクライアントの強硬な反論を受けました。それを押し切って強引に作った図です。(実際のデータは出せないので、形は変えてありますが、定性的には同じことがいえるので問題はありません。)

流動曲線

この図は、流動曲線と呼ばれるもので、販売台数や、生産台数を時間とともに累計で表したものです。実際に難しかったのは、販売予測台数の累計をとることでしたが、それ以外のデータは製造業では当然存在していたものです。

クライアントの各組織は、自分たち都合の情報の見方しかしていなかったので、このような販売と生産の全部を合わせたもの同時に見ようとしたことがなかっただけなのです。

この図を見ると、次のことが明白になります。

  • 販社倉庫入荷台数は、常に販売予測数を上回っている。したがって、生産の納期が遅いから販売予測を上積みするという販社のロジックは通らない。
  • しかも、販売台数が低調で販売予測数との乖離が大きくなっても、販社は販売予測の上積みをやめない。

一方で生産にも問題があります。

  • 販売予測数の精度を問題にしながらも、実際の販売台数を見て生産のブレーキをかけることをしない。販社の問題を指摘するだけである。
  • 逆に、キーパーツ(製品に1個だけ使われ製品の性能を左右する重要な部品)は、高額にも関わらず販売予測より大幅に多めに購入している。サプライヤーの供給が限られているので安全策を取ったことは理解するとしても、製品のライフサイクル末期になってから発注にブレーキをかけており、このままでは不良在庫を抱え込みかねない。

この図の意味するところは明らかです。お互いに相手を非難する前に自部門で片づけるべき事柄がいっぱいあるということです。しかも、それらを片づけるだけで、問題の大半は解消するのです。

これができなかったのは、自部門を超えて全社的にデータを見ることをしなかったからです。これが組織の都合に合わせた情報の切り取りの実態なのです。

この図を見せた後は、言い合いはなくなりました。販売予測精度の向上とそれに合わせた生産体制の構築を行うことで合意ができ、プロジェクトが円滑に進み始めたのです。

まとめ

企業の業務改革を行うコンサルタントは、業務上の改善案策定だけでなく、クライアント・メンバーの合意形成にも注意を払うべきであり、以下のことを理解していることが求められる。そうでないと肝心の変革が実現できない。

  • 合意形成を阻む対立のもとには、人が自分の意見や行動を導く「情報の解釈」プロセスがある。
  • 企業内の各組織は自らの成功体験をもとに、自分たちに合った「情報の解釈方法」を確立している。企業変革が必要な時は、同時にこの解釈方法そのものの変革が求められる。
  • 成功体験に基づいて確立した方法の問題点を認識するのは、誰にとっても至難の技である。その問題の指摘は外部コンサルタントの役割である。それを避けていては、コンサルタントの価値はない。
  • 「情報の解釈」上の認識を改めさせるに有効なのは、自分都合の情報の切り取りを許さないことである。自分都合の切り取りができないほどの厳然たる「事実」を示すことが、コンサルタントの腕の見せ所になる。通常、この事実は、各組織の勝手な切り取りを超えた「組織間の相互作用」の中に存在する。