地域特化型ビジネス成功の秘訣:「客数×購買頻度」シェアの確保


業界別とは別の角度(商品特性、地域性、客層別)ごとの成功方程式はあるのか?

今回と次回は、この何ヶ月か解説してきた企業の売り上げ向上策を別の角度から分析してみましょう。これまでは主として業界別の観点から分析しましたが、商品特性、地域特性、客層といった観点からの分析です。

手始めに検討するのは、地域性です。具体的には、商圏が狭く地域の特性を見極めなければ売り上げが上がりにくい地域店が、どうすれば成功するかです。

地域店に限らずどの消費者相手の企業の売り上げも、次の公式で計算できます。

売り上げ = 客数 × 客単価 × 購買頻度

売り上げを上げるためには、これらの客数、客単価、購買頻度という売り上げ要因のいずれかを、あるいは複数を増大させる必要があります。ところが商圏が狭い場合の問題は、肝心の客数に限りがあります。これをどう解決するかで、その企業の成否が分かれるのです。

商圏が狭い店の代表選手が食品スーパーです。食品スーパーの商圏は、一般的に自動車で10分以内の範囲(店舗の半径2~3Km)とされており、この狭いエリア内に複数の店舗があり競争しているのが特徴です。

この狭い商圏の中での競争を勝ち抜くためには、まず品揃えで差別化し客数を確保する必要があります。たとえば、筆者の住居の近所では、カスミストアーが安値で年金生活の高齢者向け、ヤオコーが幅広い品揃えで少し生活に余裕ある人向け、という棲み分けをしています。

食品スーパーの場合、品揃えが消費者のニーズにマッチしていれば、消費者は同じスーパーに通い続けます。購買頻度については、この品揃えで飽きられないようにすることが重要です。

客単価の向上については、ヤオコーは料理を実演しながらのメニュー提案で、買い上げ点数を増やす努力をしています。

一方で、食品スーパーを経営している企業が全て同じ戦略をとっているわけではありません。成城石井などは、所得の高い客層に絞り、広い商圏での集客を目指しています。

つまり、売り上げ向上策は業界で共通となっているわけではありません。だとすると、逆に共通の地域特化型の戦略が業界を跨いで利用されている可能性もあるのではないかという疑問が生じます。

実際、地域特化型の店をこの観点から分析して見ると、少なくとも次のような戦略があることがわかります。

  • 顧客密着で、客単価・購買頻度を上げる戦略
  • その地域を通りかかる客を可能な限り引きつけ、稼働率を上げる戦略
  • 地域に潜在している顧客を掘り起こし、リピートで稼ぐ戦略

どこかの業界でこれらの戦略を利用して成功している例を知っていれば、それを他の業界に応用できる可能性があります。中小企業のコンサルタントとっては有力な道具となりそうなので、以下その詳細について検討することにします。

顧客密着で、客単価・購買頻度を上げる戦略

ヤオコーのメニュー提案をさらに進め、個々の顧客ニーズをすくい上げる顧客密着戦略で成功している食品スーパーが、都内を中心に店舗を展開するオオゼキです。

オオゼキは、標準的な店舗を展開し大量の顧客に大量の商品を効率よく販売するというチェーンストアの「常識」を、次のようにことごとく覆すことで成功しています。

  • チェーンストアの基本方式である標準店舗・本部集中仕入れを取らず、個店主義で店舗ごとの分散仕入れを行う
  • 店員の7割が正社員で、通常の食品スーパーのパート比率と真逆の構造になっている
  • 長年勤め豊富な商品知識を持つ正社員が接客し、顧客の要望を聞き入れた仕入れを行う。一人一人の顧客と顔見知りとなることで「町の御用聞き」を徹底する

このような常識破りの経営で、坪あたりの売上高が他社の5倍近いという成果を上げています。

これを顧客の側から見ると、オオゼキの成功要因は次のようになります。

  • 客数:競合の2倍の数の品揃えなので、オオゼキの店舗が出店している比較的所得が高い層が住む住宅地の顧客が集まる
  • 客単価:自分の好みに合った商品を仕入れてくれるので、買い上げ点数が増える
  • 購買頻度:自分の好みを知った顔見知りの店員がアドバイスしてくれるので、常連客が増える

このように、オオゼキは顧客密着戦略で狭い商圏の顧客の需要を取り込んで成功しているのです。

顧客密着戦略で成功している例は、全く違う業界のスポーツ用品店にもあります。アベスポーツがその例で、次のような顧客密着戦略を採用することにより、スキーブーム終焉時の累積赤字を解消し、9期連続黒字を計上しています。

  • 客数:地元のスポーツチームと長い付き合いを続けているので、先輩を見習って後輩が子供の頃から来店し続ける。また、スポーツイベントへの協賛などを通して、地元のアスリートが来店する
  • 客単価:スポーツチームのユニフォームや学校の体操着の取り扱いで、団体ニーズを取り込む
  • 購買頻度:地元チームの活躍状況やイベント情報を掲示することで、地元のアスリートやその家族の集会場・社交場となっている

同様に、函館のハンバーガー・チェーンのラッキーピエロは、爆盛りやテーマパークのような楽しいお店で集客するだけでなく、次のような顧客密着戦略で、人口が減少する函館地区で、大手を圧倒するチェーン展開をしています。

  • 高校生の多い地区では価格を低めにする
  • 常連客の顔を覚えていて、「いつもの」が通じる
  • 地域の清掃を率先して行う
  • 購買頻度が高いVIPには、年末に店長がお礼の挨拶に伺う

さらに、仙台の秋津温泉の食品スーパーさいちは、地元の年配客が食べ慣れている飽きのこない惣菜を作り地元のコンビニとなることに徹しています。顧客に「いつものないの?」と言われればその場で作るなどの徹底ぶりで、全国の同業者の見学が絶えなくなっています。

このように、狭い商圏で営業するお店は、顧客と顔見知りになりその個別の要望を叶える手間を厭わない努力をしています。そのことで客数と購買頻度を向上させ、大手に伍して営業成績を上げることができるのです。

その地域を通りかかる客を可能な限り引きつけ、稼働率を上げる戦略

商圏が狭いビジネスの別の例が、飲食店です。

ただし、これらの顧客は地元住民というよりは、その地域への通りがかりの客であることが多いです。さらに、座席数という顧客の収容人数に制限があります。

そのため、売り上げ向上策を考える際の事情が異なります。

飲食店の成功例として、吉野家と日高屋を考えてみましょう。

これらの企業は今や大企業ですがその出発点は、吉野家は築地の1軒の牛丼屋、日高屋は大宮駅前の同じく1軒のラーメン屋ですから、中小企業にも学べる点が多々あります。

両者とも、客数増の制約となる座席の最大活用を目指していますが、その方向が少し異なります。

吉野家は、「うまい、安い、早い」のスローガンで知られるように、顧客の待ち時間を最短化することにより、客数増を実現しています。吉野家の経済学を読むと分かりますが、このスローガンの実現のために、徹底した原価計算とロジスティクスのシミュレーションを行っています。

この早さが時代変化に伴う消費者の時間節約志向とマッチしたため、客数増が可能となりました。さらに「早い」わりには「安くて、うまい」ので顧客のリピート化が実現したわけです。

吉野家の成功要因をまとめると、次のようになります。

  • 客数増:「早い」(待たなくて済む)
  • 購買頻度増:「安くてうまい」

日高屋は、吉野家よりは地代の高い駅前の一等地に出店するという方針を貫いています。その代わり、座席の空き時間を最小化し、地代の回収を図っているのです。

このために24時間営業を行い、時間帯ごとに変わる顧客属性に合わせたメニューの提供で、客数増を図っています。昼には会社員のランチ、午後から夕方は学生の食事、夜は仕事帰りの会社員の食事と一杯、さらに深夜から朝にかけては水商売や夜勤明けの人々の食事と一杯、など一日中立ち寄る様々な顧客層の需要を満たしています。

日高屋は、このようにして増加させた客数に対して、安さと飽きのこない普通の味でリピート化を実現しています。

日高屋は、この戦略のもとに京浜東北線の駅前に時間をかけて店舗を展開することで成長してきました。小さな飲食店にも学べることが多い事例です。

通りかかる顧客を捕まえることに成否がかかっている別のタイプのビジネスが、地方都市のビジネス・ホテルです。飲食店と同じように、客室数が客数増の制約となります。

ただし、顧客自体は広域から来ます。顧客の目的地がその地の企業という点が地域特化なのです。

顧客がどこから来るかを想定しづらい状況下での客数増を図るためには、まずはリーズナブルな価格と部屋の提供が必要です。しかし、競争が激しい業界なので価格での差別化は難しい状況です。

そこでできることがソフト面の充実です。川六やグリーンコアなどの成功している地方ホテルはこのことをよく知っていて、ハキハキとした応対をするとともにホテルの隅々までの清掃を徹底しピカピカにしています。

その上で客室の稼働率向上のためにできることは、リピート客の確保です。

ビジネスホテルの宿泊客には80:20の法則が成立し、一部に頻繁に出張宿泊を行う顧客が存在します。川六やグリーンコアはこのことをよく理解していて、常連客への接客時間を意識的に増やしています。

積極的な声がけで個別ニーズを把握し、それらを叶えるホスピタリティ。サービスを提供しているのです。

飲食店やホテルなどのビジネスでも、客数の確保と購買頻度の向上が成功のキーとなっているのです。

地域の潜在顧客を掘り起こし、リピートで稼ぐ

この戦略の代表選手は、栃木県のサトーカメラです。

サトーカメラは、従来カメラに興味がなかった層を掘り起こし写真のプリント・サービスの提供で売り上げを伸ばしています。栃木県内のカメラ販売シェアが17年連続で首位、デジカメ市場が縮小する中、13年連続で粗利率を伸ばし、ついには44%に達している、というすごさです。

サトーカメラは、従来カメラに興味がなかった地元の客層(携帯で写真を撮っていた中年の主婦など)の需要を、おもしろそうなお店の雰囲気やチラシで掘り起こします。そして、店内にずらりと並べたソファに店員が顧客とともに長時間座り込み、カメラの使い方を教えたり、撮影した写真のどれをプリントすべきなどの相談に乗ったりしています。

店内には、顧客が撮影した写真のプリントがずらりと掲示されているので、どれをプリントすべきかのアイデアが得られるようになっていて、ついついプリントする枚数も増えるようになっています。

売り上げ公式に当てはめると、サトーカメラの成功要因は次のようになります。

  • 客数増:店員が長時間接客している楽しそうな店の雰囲気やチラシ(狭い商圏で効果がある)で需要を掘り起こし、長時間接客でカメラやプリント・サービスの販売につなげる
  • 購買頻度増:ソファが置いてあり客がわいわいとおしゃべりしていて、馴染みの店員が写真の撮り方などをアドバイスしてくれるので、気軽に再訪する

とくし丸は、徳島県の食品スーパーが撤退した過疎地で、効率が悪く儲からないと思われていた食品の訪問販売で成功しています。

その成功要因は、地道に地域を歩き回り買い物難民を発掘した上で、販売に効率的な訪問ルートを設計する作業にあります。

さらに、一人一人の好みを把握した品揃えと、生鮮食品の在庫切れに合わせた週2回の訪問頻度で買い上げ点数を増やしています。

同様に、北海道の過疎地にコンビニを出店しているセイコーマートは、漁港や農場からの垂直統合で北海道価格のPB食品を充実させ、数少ない地元住民の需要を総取りして、売り上げを確保しています。

またセブンプラザは、つぶれかけた街の電器屋さんの店を綺麗にし、電池などの小物商品を置かせることで、地元住民の来店を復活させることに成功しています。家族経営の店は、小物商品の販売だけでも食べていける上に、来店した顧客からエアコン設置工事などを受注でき、電器屋さんが復活しているのです。

いずれのケースも、特徴的な需要喚起(初心者向けチラシ、訪問販売、豊富なPB商品の品揃え、小物商品提供の利便性)と顧客の都合にあった利便性(長時間接客、訪問、地域で唯一の店)の提供で購買頻度を向上させ、売り上げ向上に成功しているのです。

これらいずれのケースを見ても、商圏の狭い地域特化型のビジネスでは、客数の確保と購買頻度の向上対する独特の工夫が成功要因になっていることがわかります。

地域特化型ビジネスの売り上げ向上戦略

まとめ

  • 中小企業の売り上げ向上戦略の一つとして、地域に特化するという方法がある。この方法には、自社の本拠地の特性を熟知している強みを生かせるというメリットがある。
  • 一方で、地域を限定すると客数が少なくなるというデメリットもある。このデメリットを克服するためには、自社の戦略にマッチする顧客をできるだけ多く囲い込む(来店させリピートさせる)ための工夫が不可欠である
  • これを理解した成功している地域ビジネスは、次のような自社の強みを一目で地域の顧客に分からせ客数増を図る仕組みを構築している
    • 品揃えの差別化
    • 効果的な店づくりやチラシによる顧客の顕在化
    • 地域との関係づくり
    • 地域の顧客の動きを理解した効果的な立地
    • 従業員のハキハキした応対や清潔さなどのソフト面の充実
  • さらに、獲得した客数だけでは不足なので、その顧客が繰り返し来店するリピート化する次のような動機を与えている
    • 顧客と顔見知りになり、丁寧な接客で気遣いを示したり商品の用途などをアドバイスする
    • 他社からは得られない利便性(近くにあるあるいは訪問してくれる、安くておいしい、気遣いしてくれる、必要最低限のものが揃う)を提供する
  • すなわち、地域特化型ビジネスの成功要因は、客数×購買頻度という単位での顧客シェアの向上にある。客単価の向上は、顧客の囲い込みに成功したあとで考えるべきなのである