高くても売れ続ける源は圧倒的な品質と顧客との情緒的繋がり:手作り菓子屋のプレミアム戦略


消費構造の2極化をどの軸から見るか

「失われた20年」が過ぎ景気が少し上向いてきたと言われていますが、消費者の低価格志向はますます強まっているようです。格差社会という言葉も広く使われるようになってきています。

一方で、500万円以上のレクサスやベンツの売れ行きが好調です。低調傾向がずっと続いている百貨店でも、貴金属品の売上だけは伸びています。

このような傾向を見ると、消費の2極化という傾向は確かに強いようです。このような時に売上を向上させるには、どうすれば良いでしょうか?

高級品を売るのか低級品を売るのかという問題設定をすると、それ以外の商品を売っている場合は商売替えを迫られることになり、現実的な解が見つかりませんね。物の見方を変える必要がありそうです。

では、どう変えれば良いでしょうか?

そのヒントは、たとえばワインのような商品を見ることにより得られます。どんな人にも、毎日の食事にはテーブルワインを飲んでいるのに、何かの記念日にはビンテージの高いワインを奮発するなどの経験があるでしょう。

人生には「ハレ」(非日常)の日と「ケ」(日常)の日があります。「自分へのご褒美」などという言葉が流行しているように、このハレの日とケの日で同じカテゴリの商品に使う価格が大きくわかれることがあります。こういう意味での、消費の2極化も進んでいるのです。

高級品を買う人と低級品を買う人という「客層」の2極化に目を向けるのではなく、同じ人が同じ商品カテゴリに対して「ハレとケで使う金額」の2極化に目を向け、価格をどう上げるかを考えれば良いのです。

このことを、手作りの菓子屋の例で考えてみましょう。

どこの街にも、和菓子やケーキなどの手作りのお菓子屋さんがあります。そのようなお店の商売は概して地味のものですが、中には信じられないような売上を上げているお店もあります。

それらのお店がなぜ儲かっているのでしょうか?

その理由は、(意識していない)プレミアム戦略にあります。その戦略を理解しておけば、クライアントに売上向上策をアドバイスするときの引き出しが増えるのです。

自然発生的なプレミアム価値で、1坪のお店で売上3億円を上げる「小ざさ」

小ざさは、吉祥寺の商店街にたった一坪の店を構え、羊羹と最中の2品だけでだけで年間3億円の売上を上げています。今では40年以上早朝から行列が途切れない店としてすっかり有名となり、テレビなどでもよく取り上げられています。

価格は、羊羹1本675円、最中は10個入り705円と、そこまで高くはありませんが、安くもないという設定です。

これだけ繁盛するためには、まずは他店とは段違いに品質が良く(美味しく)なければなりません。紙面で味を表現することは難しいのですが、食通で知られた映画監督の山本嘉次郎氏が死の直前に「小ざさの羊羹が食べたい」と言ったため奥様が買いに来た、というエピソードで推察できるでしょう。

この品質を維持するために、材料を厳選することはもちろん、あんの練り方などに血の滲むような努力を続けており、それが150本しか作れない理由だと言うことが、小ざさの本を読むと良くわかります。今や、この女将さんのこだわりも、すっかり有名になっています。

しかし、本の内容が世に知れる前に小ざさの行列は発生しています。さらに、多くの繁盛店が本を書ける訳でもありません。他店への応用の参考とするためには、本の内容によらない成功要因を分析する必要があります。

人が高くても(安くなくても)買いたいと殺到するためには、価格以外の要素が不可欠です。それは、希少性です。

小ざさの場合の希少性は、品質にこだわるため羊羹が1日150本しか作れないということです。150本という数字が品質へのこだわりを示し、それが人々が欲しいと思う気持ちに火をつけるのです。

(日持ちのする最中は、1日に13,000個以上売れ、インターネットでも販売しています。それが3億円の売上が達成できる理由です。)

さらに、小ざさの店は吉祥寺に1店しかありません。当然、羊羹を買おうと思えば売り切れ前にお店に行くしかありません。それが行列を生みます。

小ざさの羊羹の味を覚えてファンになった人が、常連として列に並ぶようになるので、いつも行列が絶えません。それを知った人が、第二、第三のファンとなるというようにして、ファンが増えて行くのです。

そのうちに、行列の割り込みを防ぐために整理券を発行する、大勢の人に行き渡るように羊羹は1人5本まで(現在は3本)までとする、などのアイデアが常連客から提案されて行きました。さらに、お店の方も、たとえ家族や社員であっても、羊羹が欲しければ行列に並んで買うということを徹底しました。

こうした行いが共感を呼び、お店と情緒的な繋がりを持つファンがさらに増えるという好循環を生み出して、今日に至っているのです。

品質にこだわり続けた故に希少性が生まれ、それが行列という形を通して顧客に伝わることで、プレミアムな価値が生まれているのです。

意識的に1つ3,000円のカドーショコラで生み出すプレミアム価値

小ざさの自然発生的なプレミアム価値とは異なり、意識的に価値を生み出した例に、ケンズカフェ東京の1つ3,000円のガトーショコラがあります。

ケンズカフェ東京は、もともとはイタリアンのレストランでした。新宿御苑のそばの路地裏に1998年に開業したものの、ビジネス街のため夜になるとあまりお客が来ないというギリギリの状態を続けていました。

そんな時に、デザートとして出していたガトーショコラを美味しいからお土産に持ち帰りたいという顧客が増えてきたのです。当時の日本のガトーショコラは本場のものとは似ても似つかぬものだったのを、ヨーロッパに短期留学した時に学んだ本場のレシピ通りに作ったものだったからです。

最初は、レストランを営業しているのであってケーキ屋ではない、生ものなので持ち帰ると味が変わるなどの理由で、断っていました。そのうちあまりにも要望が強くなったので、仕方なく対応することにしました。

そのうち「ぐるなび」に持ち帰り可能の案内を出すなどの結果、要望がますます増大し、地方発送の可能性を打診されるまでになりました。そこで考えを改め、ガトーショコラの専業ビジネス化を検討するようになったのです。

ビジネス化の時に考えたのは、次のようなことです。

  • 美味しいと評判になってブレイクすると、その評判を維持するためにはそれなりの費用がかかる。
  • 顧客が飽きないように味を進化させる必要もあるし、味を真似するライバルがでてきた時に対抗するのにも費用がかかる
  • 小さなお店が成功するためには、無名でも徹底的に品質にこだわる必要がある。そのためにも費用がかかる
  • ブレイクしてから値上げすると、「ちょっと売れるようになったら儲けに走るのか」と反感を買う

こういう考えのもとに、最初1,300円であったものを1,500円に値上げし、しかも1本500gだったのを「量が多すぎて一度に食べきれない」という顧客の声をもとに、思い切って半分の250gにしました。

既存の顧客の反発は覚悟して、新しい顧客の開拓に賭けたのです。もちろん、それなりの品質の向上は実現しています。

さらに、2,000円、3,000円と3度の値上げを行なっています。それに応じて、使用するチョコレートの質を、定評のあるヴェローナ社の最高級のものに変えるなどで、商品の品格を上げていったのです。

店主が1人で作るという希少性もあって、結果的にこの値上げは成功しました。

品質の高さに関しては、新宿御苑の店の近くに住む外務省の元高官が、自分が勤める団体の贈答品として世界50カ国以上の駐日大使(ガトーショコラの本場のフランス大使を含む)用に定期的に買い上げてくれるという事実が証明しています。

また、ファンを作ることも意識していて、知人や近所の人に機会があるごとにガトーショコラをプレゼントしています。東京でいちばんのフレンチとの呼び声が高い「シェ・イノ」へ食事に出かけ、その時にガトーショコラをお土産に持参し、フロア責任者に「勇気があるなぁ」と感心されたほどです。

こうした伝手で藤井フミヤがテレビ番組で紹介し、またブレイクするなどのことが起こっています。また、ガトーショコラをもっと知ってもらいたいとレシピを公開することで共感を呼ぶとともに、自信の表れだとポジティブに受け取られています。

さらに、日本人が苦味のある本当のチョコレートの味に馴染んでいくにつれて、それとわからぬように少しずつ味を変えていくなど、老舗並みの伝統の革新についても考えています。

このように、品質を高め価格を上げる、希少性を確保する、それに反応するファンを増やすなどのことを意識的にうまく実行してプレミアム価値を生むことに成功しています。その結果が、「食べログ」チョコレート部門全国総合ランキング1位(2013年11月時点)となっているのです。

しかし、一方で懸念もあります。店主独りの製造なので健康上のリスクがあるのはもちろんですが、顧客と情緒的な繋がりが弱いことも気になります。商品の品質だけを通した繋がりなので、同等の品質のガトーショコラが出現した時には顧客が一挙に離れる危険があるでしょう。

プレミアム価値とは、単に商品の品質が優れていることだけではなく顧客に心底愛されていることも含むこと、に注意する必要があります。

王道のプレミアム価値:虎屋

羊羹といえば誰の頭にも虎屋が思い浮かびます。代表的商品の「夜の梅」は2本で3,024円と結構高いのにそれほど知れ渡っているとは、まさにプレミアム価値の王道を行っています。

その価値は、どこから生まれているのでしょうか?

価値の源泉は、何と言っても味(品質)です。虎屋の味はよく知られているので、それが本当に美味しいかどうかは皆さんの主観にお任せすることにしますが、ここでは定評に従うことにします。

虎屋は社会貢献の一環として南極越冬隊へ自社商品の提供を行っています。その経路で室温で保管されたにもかかわらず、南極までの往復を2回(約100日)、現地南極で真冬を1回(約60日)過ごした後でも、なんら品質上の問題がなく越冬隊が羊羹を賞味したと言う記録が残されています。これが、虎屋の品質の良さを物語っています。

虎屋は羊羹で有名ですが、和菓子も作り続けています。ただし、和菓子は日持ちがしないので、直営店でのみ売っています。

羊羹も一流百貨店でしか売らず、しかも担当する百貨店の店員を虎屋に呼び教育しています。流通を絞り、商品の品質や和菓子の知識が正しく伝わるように努力しています。

需要があるにもかかわらず、売上を追わず品質を追求する姿勢が、虎屋の評判を高めているのです。

商品の品質(機能的価値)もさることながら、何と言っても虎屋を独特の位置に座らせているのが、プレミアム価値の重要要素である情緒的価値です。

虎屋は創業490年という、超老舗です。室町時代から御所御用商人として、歴代の皇室に菓子を納めてきました。

この間に蓄積してきた、様々なエピソード、知識が、独特の雰囲気を醸し出しています。そして、その蓄積を和菓子振興のために発信し続けて、尊敬を集めています。

たとえば、全国和菓子協会のホームページを見ると、「和菓子は五感の芸術」であると記されています。これは、第2代会長の黒川光朝(虎屋の先代社長)が提唱した言葉です。

虎屋の商品を購入すると、「お菓子のしおり」という小さなパンフレットが添付されてきます。そこには、次のように書かれています。

「和菓子は“五感の総合芸術”といわれます。

視覚 − 美しい情景を思い起こさせる姿。

聴覚 — 趣深い優雅な菓銘の響。

臭覚 – 和菓子に包み込まれたほのかな香り。

味覚 – 口に含めば広がるまろやかな美味しさ。

触覚 – 楊枝で切るときの感覚、舌触り。

五つの繊細な感覚が重なり合って、小さな和菓子に大きな広がりが生まれるのです。」

このパンフレットで、和菓子の経験的価値を拡大するとともに、虎屋の見識の高さをも伝え、虎屋ファンを増やしています。

また、「法事のお菓子は虎屋でしか買わない」と言う顧客も多いです。虎屋の店員は熨斗の知識をきちんと身につけており、書道を習っていて字が綺麗なので、間違いがないからです。

さらに、虎屋文庫や虎屋総合研究所の設置で、虎屋の歴史や品質へのこだわりをストーリー化して伝えることにも成功しているのです。

このようなストーリーは、老舗ブランド「虎屋」の伝統と革新に詳しく記されています。

このように、成功している手作り菓子屋は、自らの価値を高い価格、商品希少性、流通経路の選別を通してプレミアム化して伝達していることがわかります。消費者は、そのような方法で伝達された圧倒的な品質を評価し、情緒的な価値を語るストーリー通して生産者との繋がりを楽しんでいるのです。

手作り菓子のプレミアム価値

まとめ

  • 消費が低迷していると言われるが、「自分へのご褒美」と言う言葉に見られるように、ハレの日に高いものを買うという傾向が強まっていることも事実である
  • その傾向を捉えて、プレミアムな価値を持つ商品を提供すれば、大きな売上向上を実現できる可能性がある
  • ここで、プレミアムな価値を実現するためには、消費者に価値が伝わるように高い価格をつけ、量は追わずに希少性を高め、価値を伝えられるように流通を選別すると言う戦略をとることが重要である
  • 商品そのものがプレミアム価値があると認めらえるためには、まずは圧倒的な機能的価値(和菓子の場合は味)を持つことが必要である。次に情緒的価値を持ち、消費者が生産者との繋がりを感じられるようにすることも重要である。情緒的価値を伝えるのに有効な手段がストーリーを語ることであるが、この有効性に気がつかない経営者が多いので、コンサルタントは的確なガイドを心がけるべきである