山登りの例えで理解する問題解決の要点


 

「問題の定義とは?」と何故うるさく問うのか

コンサルタントはクライアントの問題を解決する商売です。そのコンサルタントに向かって、「問題とは何を指すのですか?」と聞くと、「何を今更そんなわかりきったことを聞くのか?」とうるさそうに無視されるのが落ちですよね?

でも、多くのコンサルタントが本当に「問題とは何か?」を理解して行動しているかどうかは、別の話です。

たとえば、次の例をみてみましょう。これは「動かないコンピュータ」とコンサルタントの関係というタイトルで10年以上前の ITPro に乗っていた記事からとったものです。

“グローバルに事業を展開しているある製造業は,経営トップの号令により、サプライチェーン・マネジメント(SCM)のプロジェクトを開始した。SCMのノウハウがないと考えたその製造業はコンサルタントを使うことにした。コンサルティングの結果,あるSCMソフトをグローバルで導入すべし、という方針が出た。そこでその製造業は、グロー バルに展開する前提で、ソフトの導入契約を結んだ。ところが、実際にプロジェクトを進めてみると、工場や物流体制の見直しが相当にやっかいであり、国内の一事業部門がそのソフトを入れただけにとどまっている。グローバルどころか、国内における展開のメドすら立っていない。“

この例では、明らかに経営トップが望んだ問題の解決は行われていません。しかも、解決策は「あるSCMソフトの導入」と明確です。

となると、その解決策は経営トップが望んだのと別の問題を解いたことになります。すなわち、問題の定義の段階ですでに間違っていたのです。

この種の「役に立たないコンサルタント」の例は、数多く耳にしますよね?すべてのコンサルタントが「問題とは何か」を正しく把握しているとは言えなさそうです。

さて、あなたは、この問題定義がどう間違っていたかを説明できるでしょうか?もしできなければ、上のコンサルタントと同じ間違いをする可能性が大です。

説明ができないとすると、その原因は「問題の定義」を把握できていないことにあると考えられます。定義がわからないので、それに照らしてどこがどう間違っているかを指摘できないのです。

これが「問題の定義とは?」とうるさく問う理由です。

「問題の定義」に当てはめて解釈すると

原点に戻って考えてみましょう。

このブログでも何度も述べていますが、「問題とはありたい姿と現状のギャップのこと」です。ありたい姿と現状が一致していれば満足していて問題は存在しないはずだからです。

この定義に従って考えると、「工場や物流体制の見直しが相当にやっかいであり」と書かれている部分が引っかかります。明らかに現状分析が不十分で「見直し」に関わる現状分析が存在しません、その結果、対応する解決策が存在しません。

「あるべき姿」と「現状」との「ギャップ」を明確にすることを徹底せず、不十分なギャップ記述から解決策を導き出しているのです。

この失敗を避けるには、人間は「手段から入る」傾向があることを認識して、問題解決の手順を愚直に守ることを徹底して訓練しておく必要があります。(詳しくは、前々回のブログ記事「手段から入るな!」という教訓を生かすにはを参照ください。)

このように、「問題の定義」がきちんと理解できていると、問題解決の失敗原因を指摘し、その轍を踏まない対策を講じることができます。

実は、問題の定義が理解できていないことに起因する問題解決の失敗はこれだけではありません。以下では、その代表的なものをコンサルティングの時間経過を追いながら説明していきます。

説明には、理解を容易にするための山登りの例えを使います。

問題解決を山登りにマッピングするのは簡単です。頂上が「あるべき姿」で、麓のどこかの今いる場所が「現状」です。そして、この例えがいろいろなことを教えてくれます。

あるべき姿の設定はなぜ必要か?

新しいコンサルティング・プロジェクトの最初のフェーズは、通常「構想策定」です。このプロジェクトで取り扱うべき問題は何か、その問題を解決するために何をしていくべきか(解決策は何か)を検討します。

その最初のステップは、あるべき姿の設定と合意です。

このステップでよくある議論が、「問題は明白なのに、なぜあるべき姿の議論に無駄な時間を費やすのか?」というものです。とくに、この反論は自分たちの問題を抱えている現場の担当者から出がちです。

この人たちの発想は、目の前にある困りごとを解決すればそれで良い、それを続けていけば会社はよくなる、という「現場改善」です。

確かに現場改善で会社は良くなるでしょう。しかし、このやり方では最終的にどこに行き着くかはわかりません。八王子にいて、目の前の障害を取り除きながら一歩一歩進んでいったら、いつの間にか高尾山の頂上にいた、というようなことが起こります。

一般に、外部のコンサルタントを雇う費用をかけたプロジェクトが実施されるのは、通常の改善活動では解決できないような大きな問題が生じたときです。どこまで大きな問題を扱うのか、そして何を達成しようかを合意する必要があります。そのために、あるべき姿を設定するのです。

もし、あるべき姿が「富士山の頂上」であったなら、先ほどの高尾山への道を進むことは避けなければなりません。

また、仮にあるべき姿がエベレストの頂上であったなら、ルートが変わることに加えて、装備も変えなければなりません。

問題解決にあたっては、あるべき姿次第でとるべき解決策(進むべき道や装備)が変わること、そのためにあるべき姿の設定と合意を最初にする必要があるということ、を理解しておくことが重要です。

現状分析はなぜ、そしてどこまで行うべきか

コンサルティングの次のステップは、現状分析を行いあるべき姿とのギャップを確定することです。

これがなぜ必要か、そしてどの程度深くやる必要があるかを説明できるでしょうか?

よく、「コンサルタントが分厚い報告書を書いて去って行ったが、その報告書は何の役にも立たない」という声を聞きます。文句が出る原因は、最初の例に示されるような現状分析の不足です。

これを、富士山に登る計画を立てている例で考えてみましょう。装備や体力訓練に問題がないとすれば、ここでの解決策は登山ルートです。

この登山ルートは、頂上付近ではだいたい似てきますが、麓では大きく違います。静岡県側にいるか山梨県側にいるかで変わってきます。つまり、解決策は現状が何であるかで変わってくるのです。

「コンサルタントの役に立たない報告書」は、現状分析をやらなくてもわかる頂上付近のルートだけが書いてあります。そのため、登り始めには使えず、結局登山そのものを断念せざるを得なくなります。だから「役に立たない」のです。

現状分析は、正しくかつ実行可能な解決策が選べるところまで徹底して行う必要があるのです。

解決策はどこまで完璧に作る必要があるか

今度は登る人の身になって考えてみましょう。

麓ではまだまだ元気で鼻歌交じりで歩いていますが、頂上付近では喘ぎながら登りますよね。それと同じように、企業変革の解決策も麓ではちょっとしたエラーを取り除く程度のものが多く、頂上付近では高度で難しいものになる傾向があります。

ところが、解決策の検討の時にこの二つを区別しないと問題が起こることがあります。解決策を議論している時にその実行が難しいと検討がストップしてしまうケースです。

このケースをよく調べてみると、難しい解決策の多くは頂上付近を登るためのものであることが多いことがわかります。だとすると、それ以外のものを片付けたら六合目から七合目あたりまでは登れることになります。別にそれ以上登れなかったとしても、麓にいる状態から比べて企業の状態はかなり良くなっているはずです。

頂上付近の解決策が実行できなくても構わないという立場に立てば、全体の議論をストップさせるのは非生産的です。でも、このことに気づかずプロジェクトが頓挫することが多いのです。なぜでしょうか?

それは、大企業の改革プロジェクトのメンバーは小中学校で優秀だった人が多いからです。この人たちは無意識に100点を取りにかかり、それができないと解決は難しいと言い始めるのです。

しかし、この人たちが気づくべきことがあります。それは自分たちの企業の業績は、自分たちの学校時代の成績とは違うということです。80点ではなく20-30点なのです。だから、ちょっと改革しただけでも業績はかなり良くなるのです。

こういうケースに対処するために、「100点を取ろうとするな」という格言を肝に命じておきましょう。

スライド1

 

まとめ

  • 問題解決の失敗のかなりの部分が、対象ドメインの知識の不足ではなく、問題の定義そのものの失敗から起こっている。それ故「問題の定義とは?」とうるさく問い続けることに意味がある。
  • 問題解決の失敗原因を理解するには、山登りの例えが有効である。
  • わざわざ「あるべき姿の設定」に時間をかけるのは、解決策にどれくらいの労力をかける覚悟があるのかを合意し、誤って無駄な解決策を採ることを避けるため。(富士山に登るなら、高尾山に行く道は避ける。富士山とエベレストでは必要な装備が異なる。)
  • 現状が異なれば、採るべき解決策も異なる。正しい解決策が選べるところまで、「現状分析」は徹底すべし。(麓のどこにいるかで富士山頂上への登り方は異なる。)
  • 解決策の一部の実現が難しくても、残りの実現で現状よりかなり良くなることが多い。それを理解して解決策に優先順位をつけるべし。(頂上付近の登り方が難しいからといって全ての解決策を諦める100点取り症候群に注意する。)