業界構造を熟知した差別化:飲食店の回転率ビジネス


フードサービス業界の構造

今日は、コンサルタントとして飲食店の売上向上策から何が学べるかを検討します。

でもその前に、フードビジネスの構造のおさらいをしておきましょう。フードビジネスを理解する最も基本的な構造として、次に示す我々の食の行動があります。

  • 外食: 食堂やレストラン等へ出かけて食事をすること
  • 内食: 外食の対語で、家で素材から調理したものを食べること
  • 中食: 外食と家庭での料理の中間にあり、惣菜や弁当などを買って帰り、家やオフィスなどで食べること

内食材料を提供する業者が、街の八百屋、魚屋、肉屋や、食品スーパーなどです。食品スーパーの売上向上策については、以下の記事で検討してきました。

また、中食のタイプとしては、①スーパー、コンビニ、弁当チェーン、デバ地下などで売られている弁当・調理済み食品・惣菜などの「テイクアウト」、②宅配のピザ・中華・寿司などの「デリバリー」、③自宅や特定の場所で調理をしてもらう「ケータリング」などがあります。

そして、外食提供業者が食堂、レストランや居酒屋などの飲食店です。

近年、単身世帯の増加や女性の雇用者の増加等を反映して、中食・外食における消費が増えており、2003年の調査では、外食産業全体で25兆円以上、中食産業で約6兆円となっています。

特に、中食は、核家族化、個食化、家庭での料理の簡単さ、外食ほど経費がかからないことなどから全体として外食市場が縮小する中でも順調に伸びています。

つまり、全体的な傾向として内食が低下し、その他が増えている中で「外食縮小、中食拡大」となっているのです。

今日の対象は、その中の縮小傾向にあり売上拡大策が必要な「外食」です。

飲食店の売上向上に特有の課題: 座席の稼働率 

外食の担い手である飲食店が売上向上策を考える場合に、産業として特有な考慮点があります。

一般に売上向上策をあげる際に検討するのが、次の式の客数、購買頻度、客単価です。

売上 = 客数 × 購買頻度 × 客単価

ここで、飲食店には客数をあげるもとになる座席数が有限だという特殊な制約があります。(立ち飲みでも、一度に店に入れる人数には限度があります。)

飲食店は、お客が座席について飲食をしない限り売上が上がらないのに、その座席を臨機応変には増やせないのです。したがって、座席の稼働率が売上向上に当たっての最優先の検討項目となるのです。

これと似たような状況を耳にした記憶はありませんか?そうです、旅客運輸業(エアライン、鉄道、バス、タクシーなど)が同じ状況です。

飲食店の検討の前に、旅客運輸業の状況を調べてみましょう。

旅客運輸業の座席稼働率向上策

この業界での優れた座席稼働率向上策で有名になったのが、格安航空会社の先鞭をつけたサウスウェストです。

サウスウェストは、これまで航空機が飛んでいなかった地方都市間をバス代わりの低料金でダイレクトに結べば、爆発的な需要が喚起できると予想しました。

ただし、バス代わりの料金にするためには、航空機の稼働率を上げて、原資となる売上を確保しなければなりません。そのために考えた策の一つが、飛行機が地上にいる時間の短縮です。

具体的には、次のような工夫をしました。

  • サウスウェストは新しく作った会社だったので組合を作らず、着陸した航空機の機内清掃を職種に拘らず全員で行う
  • 飛行機の機種を統一することにより、離陸に必要なメンテナンス作業を標準化してスピードアップする
  • 座席指定をやめ、乗客の着席時間を短縮する

このような工夫で着陸した航空機が30分以内に飛び立てるようにし、1機あたりの飛行回数を増やしました。この結果、1日あたりの料金を請求できる総座席数が増加したのです。

別の座席数増加策としては、都心部の深夜タクシーがあります。地方では夜の乗客が少ないですが、都心では深夜残業や飲食の後の乗客が見込めます。運転手を交代させてでもタクシーを稼働させれば、総座席数が増えたのと同じ効果が発生します。

また、鉄道の特急電車の運行も売上増に寄与します。「早く快適に着く」という便益に追加料金を払う顧客がいるだけでなく、スピードが早いので1日あたりの運行回数が増え、総座席数も増加するからです。

以上のような工夫を飲食業に当てはめてみるとどうなるでしょうか?業界が異なっても稼働率向上策の本質は同じであることがわかります。そのことを、検証してみましょう。

待ち時間短縮の吉野家とサイゼリア

吉野家は、ご存知のように「安い、うまい、早い」というスローガンを掲げて急成長しました。

このうちの「安い、うまい」という便益の源が、(最近は客層拡大を狙ってメニューを増やしてはいますが)牛丼という商品の単品経営にあります。単品に絞った大量仕入れで「安さ」を実現し、同時に牛丼に集中してノウハウを蓄積していくことにより「うまさ」を実現しました。これらによりブランドイメージの構築に成功したのです。

「安くてうまければ」顧客は殺到します。でも、ここで「早く」なければ、席がいっぱいの時にお客が帰ってしまうという機会損失が生じかねません。「早い」は顧客のためだけではなく、吉野家が儲けるためにも不可欠なのです。

吉野の経済学を読むと、吉野家がいかに「早さ」に拘っているがわかります。そこでは、吉野家の経営で一番重要なのが生産性で、それを人時売上で計測していると書かれています。

牛丼の価格は一定ですから、生産性を上げようとすれば、従業員1人あたり時間あたりに食された丼の数を増やすしかありません。つまりスピードが吉野家の生命線なのです。

そして、スピードを上げるためには、以下のような工夫がなされています。

  • ご飯とお肉の盛り付け方が「肉盛り一発、飯盛り二回」とマニュアル化されていてスピードアップができる。タレが適当に抜けて美味しくなるように、盛り付け用のお玉などの道具も工夫されていて、係が頭を使わなくて済むようになっている
  • 店の入り口を見ていて、お客が入りかけた時点で盛り付けの準備を始める
  • 近くの忙しい店と暇な店の間で人員を融通し合う
  • など

要するに、顧客が食べるスピードはコントロールできないので、顧客が食べ始めるまでの時間をできるだけ短縮しているのです。

この顧客が食べ始めるまでの時間は、航空機が地上に滞在しているのと同じで売上を生まない時間です。吉野家は、サウスウェストと全く同じ売上を生まない顧客の待ち時間を短縮しているのです。そして、それが同時に「早い」という顧客の便益を生んでいるのです。

同様の工夫をしている例に、サイゼリアがあります。

サイゼリアは、カミッサリー(食品加工工場)を設置し、そこで食材を加工し、店舗では加熱するなどの最小限の作業で食を提供できるようにしています。これには、コスト削減と時間短縮の2通りの意味があります。

たとえば、サイゼリアでサラダ、スープとピザを頼んだとしましょう。すると、注文してすぐにサラダとスープが出てきます。そして、サラダとスープを食べ終わると、程なくしてピザが出てきます。

この結果、顧客の食事中の待ち時間も短縮され、滞在時間が短くなります。昼食時などの混雑時にも顧客がどんどん回転し、座席が増えたのと同じ効果を発揮するのです。

これも、サウスウェストや吉野家と同様の、売上を生まない待ち時間の短縮となっているのです。

日高屋の駅前店24時間営業

日高屋は、駅前でリーズナルな価格でラーメンなどを提供するチェーン店です。最近はどこの駅前にも当たり前のように存在しますが、駅前では成功しないと、当初は周囲から反対をされたビジネスモデルでした。

日高屋がチェーン展開を始めた頃は、すかいらーくなどが発展していた時期で、フード・チェーンはロードサイドに出店するのが常識の時代でした。ラーメンのように価格が高めの食品では、広い商圏から客を集めローコスト・オペレーションで営業利益を出す、というモデルが採用されていたのです。

諸般の事情から、日高屋はこれとは逆の駅前出店戦略をとりました。駅前は出店コストが高いですが、それにもかかわらず価格をハンバーガーや牛丼並に下げ、狭い商圏のお客にランチ時に頻繁に来店してもらう回転率戦略を取ったのです。

さらに、駅前という立地特性を生かしました。駅前には始終人通りが絶えません。しかし、その顧客属性は変化します。その変化する属性ごとのメニューを用意し需要の総取りを図ったのです。

すなわち、昼には会社員のランチ、午後から夕方は学生の食事、夜は仕事帰りの会社員の食事と一杯、さらに深夜から朝にかけては水商売や夜勤明けの人々の食事と一杯、など一日中立ち寄る様々な顧客層の需要を満たしています。

都会のタクシー会社が、昼は近場の移動客、夜は遠距離客を狙っているのと同様の工夫で、座席の稼働率を高めたと言えましょう。

「俺の」レストランは特急電車?

もう一つ、飲食店の有名な回転率モデルに「俺の」レストラン・チェーンがあります。有名シェフが高い原価率をかけた料理を破格の安値で提供して顧客を呼び、その代わり立ち食いで回転率を高めて儲けるというモデルです。

あまりにも有名なので、これ以上詳細に立ち入ることはしませんが、これは旅客運輸業の何と似ているでしょうか?

一番近いのは、特急電車でしょう。顧客がお金を払うのは目的地への到達スピードではなく料理の費用対品質ですが、顧客の滞在時間を短くする仕組みに顧客が予め納得していて、その結果スピード運営で有効座席数が増えている点は共通していると言えるでしょう。

飲食店の回転率モデル

まとめ

  • 売上向上策を考える場合に、業界特有の制約条件を考慮に入れる必要があることがある。旅客運輸業や外食産業などの場合、それは座席数が有限であることである
  • これらの業界での成功企業は、その制約の本質を理解した上で有効座席数を増やし売上を向上させている
  • たとえば、吉野家とサイゼリアは客の待ち時間を減らすことにより時間あたりで売上に貢献する座席数を増やしている。また、日高屋は24時間営業とした上で、時間帯により異なる客層の需要にうまく対応し座席の有効性を高めている。また、「俺の」は、立ち食いという方法で客の滞在時間を短縮し、これまた時間あたりの有効座席数を増加させている
  • これらの方法は、旅客運輸業におけるLCCの離陸時間短縮、都会のタクシーの24時間営業、鉄道会社の特急電車の運行、などと本質は共通している
  • コンサルタントは、異なる業界を比較することで業界特性の本質をより深く理解することが可能になり、それを元に幅広く売上向上策を考案できることを学んでおくべきである