「解けない問題」を解けるようにするために組織の壁を壊す


 

クライアントとの継続的な関係の構築に成功したコンサルタントを襲う次の不安とは?

コンサルタントが新しいクライアントと契約を結ぶ時には、提案書で自分が貢献できる範囲が「何」であるかを慎重に説明します。コンサルタントが確実に問題解決できる範囲は限られており、クライアントにその範囲を理解させておかないと「問題が解決できた、できない」で紛糾する可能性があるからです。

この初期状態のコンサルティングが成功し、コンサルタントとクライアントの間の双方が継続的に付き合うことを望んだとしましょう。その時に気をつけるべきことは、もはや慎重な提案は通用しないということです。

クライアントは、コンサルタントの「人」を信頼して問題解決を依頼するのであり、コンサルタントの得意範囲が「何」であるかでは判断はしなくなるからです。コンサルタントは、自分の得意な領域以外の問題に対しても、なんらかのアドバイスをすることを求められるようになるのです。

クライアントは、そもそも自分では「解けない問題」を持ち込みます。それが、コンサルタントの不得意領域であると、コンサルタントの目にも「解けない問題」に映ることがあります。

それでもコンサルタントはなんらかのアドバイスをする必要があります。「解けない問題」を「解ける問題」に変えることを迫られるのです。

初めてこのような関係になると、コンサルタントは不安に駆られます。その理由は、「問題が解けなくなる」原因が、自分が不慣れで正体を掴めない「組織の壁」によるものであることが多いからです。

そのことを、「解けない問題」と見えたものが「解ける問題」になった事例を通して見てみましょう。

購買改革での「解けない問題」は何故解けたか?

製造業では、社内で設計して創造できる付加価値の割合が低下し、製造原価に占める部品コストの割合が高まっています。したがって、外部から購入する部品コストの低減が喫緊の課題となっており、購買部門の役割の重要性が高まっています。

しかし、従来は付加価値を創造する設計部門が花形であり、購買部門はどちらかといえば日陰の部門とされてきた企業が多いのも事実です。その購買部門の改革を実現しようと、社外のコンサルタントが雇い入れられることが多くなっています。

コンサルタントたちは、最初のうちは複数の設計プロジェクトが同じ部品を異なった価格で購入しているのを集約するなどで成果をあげることができます。しかし、このような基本的な社内の仕組みのエラーを解決し終わった後そのまま居残ると、徐々に「解けない問題」に遭遇するようになります。

ここで、「解けない問題」として典型的に現れるのは、購買部門がサプライヤーと交渉しても設計部門に要求されたコストダウンが実現できず、そのまま放置せざるを得なくなっているものです。

たとえば、機械で回転運動を伝えるためには歯車の組合せが使われます。精密機械の場合は、歯車が振動すると困るので、歯車の公差を厳しく指定します。(たとえば、ある歯車の大きさを最小1.99cm、最大2.01cmで作らなければいけないとしたら、最大と最小の差0.02cmが公差となります。)

この歯車の公差が厳しすぎて、サプラーヤーが作っても大量に不良品が出るためコストが下がらず、長い間放置されていたケースがありました。購買部門で「解けない問題」とされていたのです。

このような問題の解決を相談されても、慣れていないコンサルタントには手も足も出ません。進退に窮します。

ところが、ある時購買担当者がサプライヤーと話し込んでいた時、同業他社からはそこまで厳しい公差を要求されていないと聞かされました。不思議に思った担当者が突っ込んで聞くと、他社は複数の歯車の組合せで振動を抑えていて、個々の歯車の公差は少し緩めていることがわかりました。そのため、不良率が低く安く作れているのです。

その話を設計部門に伝えると、他社と同じ方式で構わないことがわかりました。設計部門は、単に公差の厳しい歯車の不良率が高いことを知らなかっただけだったのです。

このケースから、コンサルタントとして何を学びますか?

コンサルタントなら、サプライヤーとの偶然の話し合いを持つまで購買部門が問題を解けずにいた理由を理解して、他の問題にも応用できる解決策を考案するべきです。

このケースでは、歯車の公差は、振動を抑えるという目的(What)の手段(How)にすぎなかったのです。したがって、本来は購買部門は、設計に要求された歯車の公差の歯車のコストダウンができないことが分かった時に、設計部門にそもそもの目的の振動の抑制を他の方法で実現できないかと問い合わせるべきだったのです。

ところが、分業を目的とした組織構造のもとで購買部門が自分の仕事はHowの実現であると思い込んでいために、「解けない問題」が発生したのです。

コンサルタントは、「解けない問題」の原因の一つに分業の結果起こるWhatからHowへの意識レベルの低下がある、ということを知っておくべきなのです。

業務知識がなくてもコンサルタントにできること

さて、このような状況でコンサルタントにどんな貢献ができるでしょうか?

コンサルタントは設計や購買の専門家ではありませんから、歯車の組合せに着目すべきことを見つけることはできません。さらに、「雷が落ちないようにしたい」というような本質的に「解けない問題」であったものを解決することもできません。

しかし、人間がWhat ではなくHowを考えがちで、その結果「解ける問題」を「解けない問題」にしてしまう傾向があることは理解できます。それに加えて、組織は効率化のために分業を前提として設計されていて、その分業がHowだけを考えることを促進することも、「知る人ぞ知る」です。

この種の知識があれば、そのような間違いをしていないかどうかの検討を、クライアントに促すことができます。すなわち、もともと「解ける問題」だったはずのものが「解けない問題」になってしまった原因である組織の壁を究明し、その原因をつぶす、という貢献はできるのです。

上述の歯車の例では、購買部門は設計が指定した部品をただコストダウンすれば良いという役割分担が「解けない問題」を引き起こしたのです。ですから、購買部門が商品企画の段階から設計と協働作業をして常時設計の意図を理解できている仕組みを構築すれば、「解けない問題」の発生確率をずっと低くできるはずです。

「解けない問題」を「解ける問題」に変える方法

組織にまたがる問題解決で「解ける問題」が「解けない問題」に変わってしまうのは、どういう場合でしょうか?

問題解決がうまく行かないのですから、その原因は問題の把握か解決策の策定・実行のいずれかにあるはずです。

そう考えれば「解けない問題」に変わるパターンには、次の1、2のうちのいずれかであることがわかります。

  1. 上流部門から下流部門へ解決が依頼された問題の定義が狭く(WhatではなくHowが)伝わり、解決策が見つけられない
  2. 解決すべき問題の解決に必要な資源(権限、人員、情報、等)が、問題を受け取った部門に与えられた制約を超えており、適切な解決策が策定・実行できない

コンサルタントが支援を求められるのは、これらの2つのケースをクライアントが自分で気づけない、あるいは気づいても解決方法がわからないときです。

その時に、次の手助けをすれば良いのです。

  1. 組織の壁を超えて問題を上流部門の視点(What)で捉えさせ、それにより解決策の選択の幅を広げさせる
  2. 解決策の制約を壊す方法を教える。具体的には、
    • 問題を引き起こしている上流部門が協力せざるを得なくする方法を示す
    • 問題を効果的に解決できるよう、担当部門の管理単位を変革する(これに関しては説明が長くなるので、後日別のところで書くことにします)

スライド1

以下、具体的な事例で考えてみましょう。

顧客との壁を越えるソリューション営業事例

小型モーターを作っている企業A社は、ある市場Xでのリーダーでした。ところが、X市場は衰退傾向となったので、これまで取引量が少なかった別の市場Yの開拓を迫られました。

A社は、これまで業界のリーダーだったので、安定顧客からの注文に応じておればよく、営業にはとくに力を入れてきませんでしたので、社内は大きな不安感で覆われました。

新しい市場では顧客に知られていないので、これまでとは違って、積極的に自社の価値をアピールしなければなりません。しかし、Y市場で受ける自社の強みが何であるか、皆目見当がつかなかったからです。

この難題を解決するため、社長はソリューション営業プロセスを構築しようと、あるコンサルタントに相談を持ちかけました。

ところが、そのコンサルタントは、「ソリューション営業プロセスの検討を始める前に、数は少なくても良いからB市場での既存取引で顧客に逆提案をしたケースの分析をしなさい」とアドバイスしました。

調べてみると、ある出力の強さで直径6㎝、長さ4㎝のモーターの作成依頼が来たのですがコストが折り合わなかった案件がありました。それに対し、同じ強さで直径5㎝、長さ4.5㎝のモーターなら安く作れると提案して、受け入れられていたのです。

コンサルタントは、「何のために?」顧客はこの提案を受け入れたのだろうかと自問した上で、次のようにアドバイスしました。

「そのケースが意味するのは、顧客は個々の寸法ではなく、モーターの使用スペース(体積)を小さくすることに興味があるということですね。スペースが小さければ、その分他の部品を詰め込む余裕が出るからです。そして、使用スペースあたりの出力の強さに関して貴社に強みがあるということです。このように、過去の案件をリバース・エンジニアリングすれば、Y市場での貴社の強みが見えてきますよ。」

このコンサルタントは、モーターについて詳しかったわけではありません。

しかし、A社が顧客との組織の壁の結果Howだけを見て交渉していること、その時でも顧客は自らの用途(What)を見て交渉しているはずだ、ということを見抜いていたのです。

ですから、顧客の行動から得られる情報を追跡すれば、ソリューション営業の手がかり(What)が得られるはずだということをアドバイスしたのです。

上述の例の設計部門と購買部門の壁の例を、そのまま顧客と自社に当てはめれば良かったのです。

さらに、クライアントがHowから抜け出せない原因は自己中心の考え方にあるので、相手・顧客視点、仕様ではなく機能視点、過去ではなく未来視点、など反対側視点から物事を見るようにしむければ良いのです。

そのために、自分自身が反対側視点で見られるように訓練すべきことは言うまでもありません。

全体図を描き営業部門が協力せざるを得なくした事例

下流部門が問題を解決できない原因の一つに、その問題を引き起こしている上流部門でないと解決できない(下流部門の権限外である)場合があります。

このようなケースで上流部門が解決に協力してくれるのは、その問題が上流部門自身にも害をもたらしているケースに限ります。(そうでないのなら、上流部門が原因だという見方を改めて、別の原因を探るべきです。)

上流部門にも害を及ぼしている行為を彼らが改めないのは、自分たちに害が及んでいることに気がついていないからです。

したがって、この場合の対策は、上下部門双方を含めた全体に起こっている事象をわかりやすく示すことです。そうすれば、上流部門は自分たちの行為を修正する方法を一緒に考えてくれるようになります。

当ブログ記事「問題はなぜ解けないままで残っているか」の例では、営業が設計へのプロジェクトの詰め込みすぎを行ったために、引合い案件の施策スピードが遅くなり、受注確率を下げていることをデータに基づき図示しました。

すると、営業が「えっ?自分たちはこんな馬鹿なことをやっているのか!」と叫び、収益率の高い案件への絞り込みに協力するようになりました。その結果、主要顧客からの受注率が20%から60%に向上したのです。

まとめ

  • コンサルティングが成功し、クライアントがコンサルタントを「人」として信頼するようになると、コンサルタントは自分の不得意領域であっても何らかの有益なアドバイスができることを求められるようになる
  • この役割をこなすためには、クライアントが「解けない問題」を「解ける問題」に変換する必要があり、経験が少ないコンサルタントは不安になる。しかし、必ずしもクライアントのビジネスに通暁している必要はなく、問題を解けなくしている組織的原因のパターンを知っていれば何とかなることが多い
  • 組織的な事情でクライアントが「本来解けるはずだった問題」を「解けない問題」にしてしまう代表的なケースに、次の2つがある
    • 上流部門から下流部門へ解決が依頼された問題の定義が狭く(WhatではなくHowが)伝わり、解決策が見つけられない
    • 解決すべき問題の解決に必要な資源(権限、人員、情報、等)が、受け取った下流部門に与えられた制約を超えており、適切な解決策が策定・実行できない

     

     

     

     

  • 問題の定義が狭い場合の対処法は、「問題」とされているものがHowレベルであることに気づくことであり、そのためには「何のために?」という問いかけを自分に課す訓練が必要である。Howから抜け出せない原因は自己中心の考え方にあるので、相手・顧客視点、仕様ではなく機能視点、過去ではなく未来視点、など反対側視点から物事を見る訓練を普段からしておくべきである。
  • 下流部門の制約を壊すには、次の方法が有効なことを覚えておくと良い
    • 上流部門に下流部門の不具合が自分に跳ね返ってくることをわからせる全体図を描き、問題解決への協力を迫る