組織的改革で「既成の枠」を取り外して考えるためには


得意なはずの問題をうまく解決できない時があるのは?

ベテラン・コンサルタントのAさんとBさんが話し込んでいました。二人とも製造業が専門で、Aさんは購買改革を得意にしていて、複数の企業で大幅なコスト削減を実現しています。

そのAさんが、「購買部門が置かれている状況は全く同じ条件のはずなのに、改革が進む企業と進まない企業があるんだようねぇ」と言い出しました。

それに興味を持ったBさんが質問しました。以下、二人の会話の流れです。

  • Bさん:「どういう風に違うの?」
  • Aさん:「うまく進むときは、不慣れながらも部品カテゴリ毎の専門購買チームを作って、とにかく実験しだすんだ。最初は色々失敗もあるけど、適切にガイドすれば、そのうちコツを掴んでくる。うまくいかない場合は、あーでもない、こうでもないと議論が続いて行動しない」
  • Bさん:「どうしてその差が出るの?」
  • Aさん:「やっぱりトップの差かなぁ」
  • Bさん:「でも、Aさんのクライアントって一流企業ばっかりだよね。トップはそれなりの人たちだから、購買改革の必要性は十分認識しているんじゃないの?なのに、なぜ差が出るの?」
  • Aさん:「確かに購買改革の必要性は広く認識されているよね。どうして差が出るんだろうなぁ?トップの腕を振るえなくしている組織的要因があるような気がするんだけど。。。。」

今日は、コンサルタントが知っておくべき、このような組織的な要因を扱う方法について検討してみましょう。

 組織の成功体験はそれ固有の考え方(メンタル・モデル)を醸成する

コンサルタントが組織的要因をどのように扱うべきかを理解するために、まず、組織とは何かから考えてみましょう。

組織とは、個人では達成できない成果を創出するために人々が継続的に協働するために作られた仕組みです。したがって、組織には次の2つの条件を満たすことが求められます。

  • 組織の目的に合わせて個々人の行動は調整される必要がある
  • 構成員の顔ぶれが変わっても協働行為が維持される必要がある

つまり、組織が継続的に成果を上げ続けるためには、個人を超えたレベルで何らかの統一された行動様式(ものの見方や考え方を含む)が必要とされるのです。

以上を踏まえた上で、企業の組織を考えてみましょう。

一般に企業の予算の95%は、定常活動(オペレーション)に費やされていると言われています。企業の組織のほとんどは定常活動に関わっている訳です。

これらの組織は、求められる成果をより効果的・効率的に達成しようとビジネス・プロセスの改善を重ねていきます。それに伴い、成果達成に有効な行動様式も洗練され、成功体験を積み重ねて次第に強固なものとなっていきます。

このような行動様式は、「ここではこういうやり方をする」という表現で表されるようになります。このようなものを 学習する組織 では、メンタル・モデルと呼んでいます。

メンタル・モデルは、その組織の構成員に物事を考える共通の枠組みを提供します。それがあることにより、組織内の合意形成が迅速に行えるという利点があります。

例えば、日本の製造業では、欧米と異なり製造ラインの工員のレベルが高いです。したがって、少々作りにくい設計の製品で品質エラーを起こしても、徐々に製造工程を改善して品質も向上させてしまいます。

この結果、「品質は工程でつくり込む」という考え方(メンタル・モデル)が確立していきました。これは、設計部門が全てを決めるという欧米の製造業の一般的考え方とは対照的なものです。

この考え方は、日本の製造業の強みの根幹を成していたのです。

 メンタル・モデルは組織改革の障害にもなる

このメンタル・モデルは、長い時間かけて醸成され、それぞれの組織の「常識」になっています。

常識ですから、組織の構成員は、普段はその存在を特に意識してはいません。そして、このことが次の利点と欠点を生むのです。

  • 常識として全員が共有しているので、それに基づいた意思決定が速い
  • 意識化されないので、常識が通用しない環境変化が生じたときに、常識そのものの変更が難しい

コンサルタントがクライアントの支援に呼ばれるのは、何らかの環境変化が生じたときです。ですから、コンサルタントは2番目の「常識が持つ欠点」を知っておく必要があるのです。

環境変化の結果問題が生じたときに既成の枠(メンタル・モデル)を外して考えることの重要性は、次のようにいろいろなところで強調されています。

  • ゼロベース思考とは、「既成の枠」を取り外して考えるということである。胸に手を当てて考えてみるといい。ビジネスの現場にはいつも様々な枠がある。問題を解決しようとするときに、いつもと同じ枠で考えていたり、あるいは他人の作った枠を意識しすぎていないか。また、目に見えない枠にとらわれて、いつの間にか出来ないと思い込んだりしていないか。そのような枠組みの中で解を見つけようとしても限界がある。(“問題解決プロフェッショナル”)
  • ビジネスを取り巻く環境の変化が少ない時代や、企業が急成長している時期であれば、既成の枠の中で精一杯頑張ることが、むしろ企業の成長に直結していた。しかし、環境変化の激しい時代にあっては、「既成の枠」の中に有効な解はないと考えたほうがよい。既成概念や将来的に緩和・変化の予想される諸々の規制、また自部門の中でしか解を考えなくなってしまう部門の壁。そうしたものをとりあえず外して考えてみることが大事なのだ。(“問題解決プロフェッショナル”)
  • 我々の直面する重要な問題は、その問題を作った時と同じ思考のレベルでは解決できないのです。(アルベルト・アインシュタイン)
  • 新しい見識を実行に移すことができないのは、その見識が、世の中とはこういうものだと心に染み付いたイメージ、つまり慣れ親しんだ考え方や行動に私たちを縛りつけるイメージと対立するからだ。だからこそ、メンタル・モデルを管理するディシプリン — 世界はこういうものだという頭の中のイメージを浮かび上がらせ、検証し、改善する — が「学習する組織」の構築にとって画期的な大前進となる。(“学習する組織”)

上述の日本の製造業の強みであった「品質は工程でつくり込む」に関しても、最近事情が変わってきています。

というのは、パソコンや携帯電話のようなライフサイクルが短い商品では、工程で品質を作り込んでいる間にモデルチェンジが起こり、次の製品の製造に取り組まなければならなくなっているからです。

こうなると、「工程で品質をつくり込む」という考えかたを捨て、設計で一挙に品質を作りこまざるをえません。製造で品質エラーを引き起こすような作りにくい製品を設計してはいけないのです。

Bさんは、そのような設計改革プロジェクトの支援をしたことがありましたが、そこで耳を疑うような発言を聞きました。

プロジェクトに関係していたクライアント企業の役員の一人が、休憩時間に「品質を工程でつくり込むのが、うちの会社のやり方なんだよね」と言ったのです。

これは何を意味しているでしょうか?

この役員は、設計品質の改革の必要性は理解していました。しかし、その前提として「品質を工程でつくり込む」という考え方を捨てなければならいないことは理解していなかったのです。

過去の成功体験があまりにも強烈だったため、「品質を工程でつくり込む」考え方そのものが今の問題を引き起こしているという事実が目に入らないのです。しかし、このような認識をそのままにしておいたのでは、品質改革は中途半端にならざるをえません。

この発言は、長年一つのメンタル・モデルに慣れ親しんでくると、それが成立しなくなったときに抜け出すことがいかに難しいかを示しています。

コンサルタントは、改革にあたってはこのようなメンタル・モデルの破壊の難しさを知った上で、改革プロジェクトに当たる必要があるのです。

学習する組織”が述べるように、メンタル・モデルを管理するディシプリンを確立しておくべきなのです。

メンタル・モデルが改革の障害となった例

時代環境に合わなくなっているメンタル・モデルに固執したために大きな損失を被った例として有名なのが、アメリカの自動車産業のビッグ・スリー(GM、フォード、クライスラー)です。

彼らのメンタル・モデルは、「米国の消費者はたいていスタイルを大切にする」だったそうです。このため、高機能のドイツ車や日本車が出てきた時に為す術もなく負けてしまったと言うのです。

学習する組織”には、次のGMのメンタル・モデルの引用が載っています。(カッコ内は筆者の補足)

  • GMのビジネスは金儲けであり、車ではない(財務やマーケティング出身者が出世する)
  • 車は何よりも地位の象徴だ。したがって品質よりもスタイルの方が重要である(まずデザインに投資する。機能開発はその次)
  • 米国の自動車市場は、世界のほかの市場から隔離されている(欧州や日本のメーカーの動向に注意を払う必要はない)
  • 労働者が生産性や品質に重要な影響を及ぼすことはない(重要な意思決定は教育レベルの高い設計部門が行う。製造部門はその指示に従えばよい)
  • システムの関係者一人一人に必要なのは、事業についての断片的で区分された理解だけである(職能別組織だけがあれば充分でチーム型組織は不要である)

ビッグ・スリーが衰退した今となっては、このメンタル・モデルが馬鹿げていることは誰の目にも明らかです。しかし、注目すべきは、ドイツ車や日本車が米国市場を席巻するようになっても、彼らがこのメンタル・モデルを改めようとはしなかったことです。

メンタル・モデルの変更が難しいことを知る他山の石とすべきなのです。

冒頭に述べた購買プロジェクトの差も、メンタル・モデル改革の差として捉えれば理解できます。

このブログの他の場所でも述べたように、購買改革が必要となる状況で支配的なメンタル・モデルは「設計が付加価値の大半を生む」です。しかし、モジュール化が進むとこのメンタル・モデルが成立しなくなり、「部品購買が付加価値の大半を生む」というメンタル・モデルへの変革が必要となります。

このメンタル・モデルの変革がないと、設計部門の協力が得られず、購買部門だけが変革に従事する中途半端なプロジェクトとなるのです。

改革に成功した企業では、このことが認識され設計出身の事業部門のトップや本社のCFOが旗振りをしていました。そして、プロジェクト成功時には社長賞の授与が行われていました。

一方、先に進まなかったプロジェクトではメンタル・モデルが変わらず、購買部門が孤立したままでした。購買部門の担当者が自嘲気味に「当社では社内の序列を表すのに、士農工商犬猫購買と表現するんですよ」と述べたのが、この事態を象徴しています。

コンサルタントとしてメンタル・モデルにどう対処するか

さて、コンサルタントはこのメンタル・モデルが絡む問題にどう対処すべきでしょうか?メンタル・モデルを管理するディシプリンを確立すると言われても、どうすればよいかわかりませんよね?

企業が囚われてるメンタル・モデルに気づくことは、本来非常に難しいことなのです。したがって、割り切りが必要です。

その割り切りとは、自分の専門分野を決めて、その分野に関してはメンタル・モデルにまで切り込んでコンサルティングを行うと決めることです。

例でお話ししましょう。

Cさんは、組織改革のコンサルタントです。サービス業での自分の経験をもとに、従業員の活性化をベースにした業績向上を手がけています。

そのCさんに、ある中堅企業で最近経営を引き継いだ二代目社長から「女子社員の活性化のために研修をしてほしい」という依頼が入りました。

具体的にどうなってほしいのかと社長に聞くと、「女子社員が自発的に活動するようになってほしい」という答えが返ってきました。しかし、何のために自発的に活動すべきなのかについては、社長にも具体的イメージはないようでした。

このような場合に、コンサルタントとしてどう対処しますか?

社長が望む内容を詳しく聞いた上で、研修を引き受けるのも一つのビジネスです。ただし、研修を受けただけで女子社員が自発的に行動するようになるとは思えませんよね?

それは、女子社員が自発的に活動する場が存在しないからです。

その会社では、女子社員は総合職と一般職に分けられていました。大多数を占める一般職社員は、制服を着ており補助的な事務作業に従事していました。

結婚退職も多いですが、勤務を続けた社員は受注業務などの専門機能を極め、会社の生き字引的存在となっているケースが多いようです。しかし、プロ意識は高いものの、この人たちに担当分野を超えて自発的に活動する動機は存在していません。

ここで問うべきは、現在の組織体制が何を前提にしているかです。

この体制は、GMのメンタル・モデルにも出てきた職能別組織なのです。

皆が与えられた職能を果たしていれば会社の業績が上がるのであれば、その体制を変革する必要はありません。あえて女子社員の担当分野を超えた自発性を期待する必要もないのです。

研修をした後で自発性を発揮する場を与えないのであれば、研修で啓発された受講者の期待を裏切ることになり、逆効果となるのです。

Cさんは、社長にこのことを説いて聞かせ、本心を確認するところまでやりました。

その結果、与えられた仕事をきちんとこなしていれば良い時代は終わり、次々と現れる新しい課題に対処できる社員を全社的に増やす必要性があることが合意されました。

基本的に職能制は維持するものの、必要に応じて職能に詳しい女子社員も含めた課題解決チームを編成することも視野に入れることにしました。それを前提として、制服の廃止は当然として、ローテーションの実施などもプロジェクトの課題に含めることになったのです。

Cさんがこのような提案ができたのは、この会社の現在のメンタル・モデルが職能制であることを診てとり、チーム制の導入の必要性を指摘できたからです。

コンサルタントは、自分の専門分野で、このような「何のためにどこまで踏み込んで改革すべきか」を考えた準備をしておくことが望まれるのです。

メンタル・モデル変革

まとめ

  • 表面的には全く同じような改革でも、企業によってうまくいく場合と失敗する場合が分かれる。その理由は、それぞれの組織に固有のものの問題の考え方(メンタル・モデル)が違うからである
  • メンタル・モデルは組織の成功体験を積み重ねて長い間かけて培われてきたものなので、構成員にとっては「常識」であり、普段はその存在は意識されない
  • メンタル・モデルの共有があると、組織の意思決定が素早く為されるという利点がある
  • 一方で、環境が変化し問題が発生すると、「既成の枠」を超えて解を探す必要が出てくる。そして、メンタル・モデルがその「既成の枠」に相当することがよくある。しかし、意識されていないメンタル・モデルを壊して考えることは非常に難しいので要注意である
  • メンタル・モデルを検知することは、一般には非常に難しい。コンサルタントはそのことを理解して、自分の得意分野に絞り、メンタル・モデルの変革にまで踏み込んだコンサルティングを行うことを決心すべきである。このような踏み込んだコンサルティングを続けていると、そのうち他の領域にメンタル・モデルにも気づけるようになる