脱下請けの中小企業が知っておくべきB2Bマーケティングの3つの要点


脱下請けで戸惑うことは?

下請けから脱却しようとする中小企業が最初に困ることは、何でしょうか?それは、どんな商品が顧客に受け入れられるかがわからない、ということでしょう。

消費者市場向け(B2C)の場合は何とかなります。自分自身やまわりの人に聞けば、消費者ニーズの見当がつくからです。

でも、産業財市場(B2B)の場合は全く事情が異なります。業界ごとに商品ニーズが異なるし、ニーズに合った商品が作れても、相手企業の意思決定メカニズムを理解しないと全く売れないからです。相手のビジネスの知識が不可欠なのです。

今日は、後者の意思決定メカニズムに関わる問題を検討します。

手始めに一つ事例を紹介しましょう。フィリップス・エレクトロニクス北米部門のフィリップス・ライティングの話です。

電球は、一般的には単なる消耗品だと考えられています。電球の調達に当たる調達マネージャーは、コストと耐久性という二つの基準しか重視していません。

ところが同社は、照明費の総額は電球の価格と寿命だけで決まるわけではないことに気づきました。電球には環境に有害な水銀が含まれているため、使用済電球は企業に莫大な処理費用を生じさせていたのです。

この事情に目をつたフィリップス社は、「アルト」という新製品を導入しました。環境に優しい電球で、総コストを削減するだけでなく、環境に配慮している企業ということでイメージアップにもなる、というのがセールスポイントでした。

さらに、調達担当者をターゲットとはせず、コスト削減に取り組むCFOと、環境を守る調達行動のメリットを理解する広報担当者に照準を絞りました。その結果、米国内の店舗、学校、オフィスなどで使用されていた従来型蛍光灯の25%以上が、アルトに取って代わられました。

この事例は、何を意味しているでしょうか?

それは、企業には調達に関わる意思決定者が多数存在し、そのそれぞれの関心事や影響力が異なるということです。B2Bマーケティングでは、そこまで考える必要があるということなのです。

B2Bでは、扱っている商材が顧客企業にとってどのような位置付けのものなのか(どの程度重要なのか)、顧客企業の誰と誰が調達意思決定に関わるのか、顧客企業と自社の関係はどうなのか、ということで取るべきマーケティング戦略が変わってきます。

以下、それらについて検討してみましょう。

商材のタイプで変わるマーケティング戦略

B2Bマーケティングを理解するためには、まず取り扱われる商材のタイプを理解することから始めるべきです。

産業財マーケティング・マネジメント(理論編)によれば、産業財には次の3つのタイプがあります。性格によって会計上の処理が異なり、調達プロセスに影響力を持つ人が異なってきますので、そのタイプを理解することが重要なのです。

  • 投入財:完成品の一部となるもので、製品の原価の構成要素となるもの。したがって、事業責任者、製品企画者や設計者の関心対象となるもので、次の原材料と加工材料・部品がある
    • 原材料:小麦のような農畜産物と鉄鉱石などの天然産物がある。基本的には、元の状態のままで顧客企業の生産プロセスに投入される
    • 加工材料と部品:繊維や鋼板などのように顧客メーカーに到達する前に加工されているが、最終製品に組み込まれる前にさらに加工が必要となるもの
  • 基礎財:機械など完成品には組み込まれずそれを生成するために使用されるもの。この財が消耗または磨耗すると、その取得原価の一部が減価償却費として計上されるもの
    • 主要設備:建造物や固定設備(工作機械や大型コンピュータなど)のような、製造プロセスの基礎となる長期投資品目
    • 付帯設備:主要設備と比べるとコストがかからず耐用年数が短いもの。ドリルなど
  • 促進財:組織の業務をサポートする品物やサービス。生産プロセスに投入されたり、完成品の一部になったりしないので、販管費に計上される
    • 供給品:業務用供給品(プリンタ・カートリッジ、用紙、帳票など)や保守・修理用品(ペイント、洗浄剤など)
    • 業務サービス:保守・修理サポート(機械修理など)やアドバイザリー・サポート(経営コンサルティング、情報処理など)が含まれる

これら財の特徴に応じて、とるべきマーケティング戦略は変わってきます。

カスタマイズ部品であれば製品の最終機能に影響を与えるので、設計部門の思想を理解した直販の技術営業が重要になります。標準品であれば大量購入されるので、価格に加え確実な納品やサポート・サービスの能力を訴求することになります。

また、供給品であれば、幅広い業種の顧客企業からなる広範な市場をカバーしなければなりません。そのために、大口は直販でカバーし、それ以外は様々な流通業者にカバーさせるなどの戦略が必要となります。

これらのことからわかることは、マーケティングや営業の体制は扱う商品タイプで変わってくるということです。近所に儲かっている会社があるからその真似をすれば良い、ということではないのです。

商材の性質で変わる顧客企業の調達戦略

ここまでの議論は、商材のタイプそのものに関わる話でした。しかし、実際の調達においては、商材の性質が顧客企業の意思決定に与える影響も考えなければなりません。

顧客企業の関係者が調達の意思決定をする際の行動に影響を与えるファクターには色々なものがあります。その中でも重要なのは、事業に与えるインパクト(重要性)と決定に伴うリスクです。

これを図示すると図①のようになります。この4象限ごとに顧客企業の調達戦略が異なるので、中小企業は自社の商品をどの象限に位置させるのかの戦略を考え抜く必要があります。

このことを、部品調達を例として検討して見ましょう。部品調達の事業インパクトは主として調達購入総額となるので、調達戦略を理解するための3つのフレームワークが示すように、顧客企業は各象限に対し次のような調達戦略を立ててきます。

  1. 画像センサーのような製品の機能を実現するのに戦略的に重要な部品で、サプライヤーの力が強い領域。自社のバイイング・パワーをなんとか強化し、戦略的協働関係を構築する
  2. 従来バラバラだった調達をまとめれば、大きなコストダウンを見込める領域。部品の共通化を進め、単一部品あたりの調達量を大きくする。また、透明性の高い調達プロセスを確立し、サプライヤーに公正な競合策を取っていることを理解してもらう。その結果、少数のサプライヤーに集約し大幅なコストダウンを勝ち取る
  3. 特殊な加工のようにそれをこなせるサプライヤーが少なく、少額だが調達リスクの高い領域。設計変更を進め、部品を作りやすくすると同時に代替サプライヤーを開拓する。(C)からD)への移行を図る)
  4. 少額の購入先が多数存在し、業務効率を高める必要がある領域。場合によっては商社を介在させるなどの方法も含めてサプライヤー数を減少させる。また、定期的なコストダウン要請を行う

体力の劣る中小企業にとっては、調達金額の大きい象限A、Bを狙うのは必ずしも得策ではありません。実力に見合わない投資を迫られたりするリスクがあるからです。

とはいえ、象限Dでは価格競争に追いやられるだけなので、何のためにそのビジネスをやっているのかがわからなくなります。

ということで、中小企業は象限Cを狙うべきです。量は少ないが、その調達ができなくなると顧客企業が困るような商品を手がけるべきです。

そのためには、月並みですが次のようなことを心がけ、DからCへの移行を図るべきでしょう。

  • ローテクでも良いから競合他社ができない(あるいは嫌がる)製法や人手のスキルにこだわる(顧客企業はその会社がなくなると困る)
  • あえて設計者のわがままを聞き、作りにくい部品でも引き受ける

このようにして、人目につかない参入障壁を構築するというマーケティング戦略を取るべきなのです。

調達意思決定要素

顧客の調達関係者(調達センター)を理解する

中小企業が自分でB2Bマーケティングを始める時、2つ目に理解すべきことは、アルトの例が示すように、顧客企業の調達関係者は一人ではないということです。

調達部門の担当者だけと交渉すれば良いのは、対象商品が顧客企業にとって付加価値が低い時です。そして、そのような場合は価格競争を迫られるということを心得ておくべきです。

価格競争を避け、少しでも付加価値の高い商品を取り扱ってもらおうとする場合、その付加価値を認めるのは(アルトの場合のCFOや広報担当者のように)調達担当者ではありません。顧客企業内の人脈を広げ、誰が決定力を持っているか知っておく必要があるのです。

個別の案件に関し、その調達意思決定に関わる人々の集団を調達センターと呼びます。そのメンバーは、関心事や役割。権限により、次のように分類されます。

  • 利用者(ユーザー): 製品・サービスを実際に使用する者
  • 影響者(インフルエンサー): 製品・サービスの代替案などの専門的な情報を提供する、あるいは調達仕様などの調達の決定基準を設定するなどのことによって、調達意思決定プロセスに影響を与える者
  • 調達担当者(バイヤー): サプライヤーを選定し、製品・サービスを取得する手続きを実行する正式権限を持つ者
  • 意思決定者: 正式な権限の有無にかかわらず、実質的に製品・サービスや取引相手を決定する者

電球の例では、利用者は設置された電球の下で働く人たちです。このケースでは、調達に対して特に意見を言うとは想定されていません。また、従来型の電球の場合は、調達担当者が単独で意思決定を行ってきました。

ところがアルトの場合は、フィリップスがCFOや広報担当者を意思決定者として巻き込むマーケティング策を取り、調達センターを変化させて成功したのです。

このように、B2Bマーケティングでは、自社商品に関わる調達センターを的確に把握し(場合によっては自社に都合の良いように形成し)、関係者が感じる調達リスクにうまく対応することが不可欠なのです。

この詳細については、顧客の購買センターを理解してリレーションを管理する を参照ください。

顧客企業との関係の管理

中小企業のB2Bマーケティングで3番目に理解すべきことは、顧客企業との関係性の管理です。

顧客企業との関係には色々ありますが、ここでは次の3つについて解説しておきます。

  • 顧客企業の調達経験
  • 顧客企業が望む関係性
  • 顧客企業の調達体制

顧客企業の調達経験

顧客の調達の経験度には、新規調達、単純再調達、修正再調達の3通りがあり得ます。

事業インパクトの大きい商材の新規調達の場合、企業は非常に大きな不確実性にさらされます。調達意思決定者は商品やサプライヤー候補を比較できるだけの明確な判断基準を持ち合わせていないのと同時に、特定の解決策に偏る傾向もありません。

このような場合、売り手企業は調達プロセスの初期段階に積極的に関与することによって優位な立場に立つことができます。買い手が抱える悩みを理解し、それを解決する提案をするソリューション営業が有効なのです。

継続または反復するニーズがある場合(単純再調達)では、買い手はニーズの満たし方に関する経験が豊富で、新たな情報はほとんど必要としません。調達部門は、指定業者の中からサプライヤーを選んで発注するだけで、そのプロセスをできるだけ効率化しようとします。

したがって、売り手が指定業者である場合には、買い手の調達の手間をいかに減らすかに注力して営業すべきです。指定業者外であれば、調達担当者が既存業者に感じている不便を見抜き、新たな業者の採用により得られるメリットを納得させる営業をすることになります。

修正再調達とは、買い手が既存の調達商材の代替案を検討することで大きなメリットが生じるかもしれないと考えている状態を指します。最終製品の品質改善やコスト削減が必要になってきた場合などに、これが起こります。

これに対し、指定業者であれば、自社が代替案を満たすことを訴求し、単純再調達に導くようにします。指定外業者であれば、買い手が代替案の検討に積極的になるように仕向けるような提案(契約履行保証をつけるなど)をします。

このように、買い手の調達状況がどこにあるかで売り手のとるべき戦略は大きく変わることを心得ておくべきなのです。

顧客企業が望む関係性

顧客企業には、売り手と協働的関係を望むものもいれば、距離を置いた取引だけの関係を望むものなど、様々なものがいます。これらのケースの両極には、取引的交換と協働的交換の2つがあります。

取引的交換は、多くの代替物が入手可能で競争の激しい供給市場が存在し、調達決定が複雑でなく、しかも供給市場が安定しているときに起こります。事務用品など調達が容易で、その調達が買い手組織の目的にとってあまり重要でないとみなされると、この傾向が強まります。

逆に、代替物がほとんど存在せず、市場の変動が激しく(たとえば、技術革新が急速)、調達がかなり複雑な場合、買い手は協働的関係を好みます。特に、調達の重要性が高く、買い手にとって戦略上重要とみなされるとき(製品の性能に大きな影響を与える主要部品など)、顧客はサプライヤーとの間に緊密な関係を求めます。

取引的交換を求める顧客は、サプライヤーの忠誠を求めることに興味は示さず、別の業者にあっさり切り替える可能性があります。大量生産をした商品を売りさばく必要がある大企業はともかく、中小企業がこの種の顧客に特別な投資を行うのは得策ではありません。

ですから、協働的関係を求める顧客に対し、調達部門だけでなく、様々な部門の業務をサポートすることを心がけるべきです。たとえば、相手の生産計画を立てやすくするために、自社の設備余裕の情報を開示するなどのことが考えられます。

顧客企業の業務に精通し、その運営を助けるようなサポートをしていれば切り替えコストが発生するので、一見取引的交換に見える契約が協働的交換に変化することもあります。協働的取引を維持するためには、単に商品を売るだけでなく、顧客がその商品を使って行う業務のサポートまでを自社の守備範囲と心得た行動が必要なのです。

顧客企業の調達体制

顧客企業の調達体制には、分散と集中の2通りがあります。

分散とは、各現場が自分たちが必要とするものを個別に調達する体制です。現場は調達の専門家ではなく、他業務との兼務で忙しいので、調達に時間をかけようとしません。その結果、取引的交換を求めます、

集中とは、本社などに商品タイプごとの調達専門チームを設ける体制を指します。調達チームは全社の調達を受け持つので、必然的に取り扱う金額も大きなものとなります。

このため、最適なサプライヤーを時間をかけて選び、その協力のもとにさらなる品質改善やコスト削減を追求しようとします。すなわち、協働的交換を求める傾向が強まります。

売り手企業は、集中的調達をする顧客企業に出会ったら、調達チームを全面的にサポートする専門の営業チームを構築し、他社に先駆けて協働的関係を結ぶように努力すべきです。

まとめ

  • 中小企業が下請けから脱出してB2B市場に打って出ようとした時に何をしたら良いかわからずに困るが、その最大の原因は、顧客企業の調達意思決定メカニズムがわからないことにある
  • 顧客企業の調達意思決定は、商材のタイプ、調達案件に関わる利害関係者の構成、顧客企業がサプライヤーに求める関係の種類、により変わるので、中小企業はそのことを理解すべきである
  • 商材が顧客企業の事業に与える影響が大きいか否か(購入金額が大きいか、など)、商材の購入にリスクがあるか否か(代替品がない、など)、により、顧客の調達戦略は大きく変わる。顧客の購入量を大きくできない中小企業は、顧客が自社との取引を他社に変えることにリスクを感じるような商材の設計(独自の加工技術の確立、など)を行うべきである
  • 顧客企業内には、利用者、影響者、調達担当者、意思決定者など、様々なタイプの調達利害関係者が存在し、しかも案件ごとにそれらの影響力が異なる。これを調達センターと呼ぶ。案件ごとの調達センターを把握し効果的に働きかけられる営業体制の確立が必要である
  • 顧客企業との関係は、顧客企業の次の3つの要素で変わるので、それぞれ的確なマーケティング戦略をとる必要がある
    • 調達経験:新規調達、単純再調達、修正再調達
    • 顧客が望む密着度:取引的交換、協働的交換
    • 購買体制:分散、集中
  • これまで下請けに甘んじてきた中小企業は、大企業内部の意思決定メカニズムに疎い。大企業出身のコンサルタントは、ここにこそ貢献するべきである