本当に効果を上げる解決策を導く基本は、「変革点」を理解すること


その解決策は正しいのか?

皆で熟考した問題の解決策を実行したのに業績が向上しない、すなわち元の問題は残ったまま、ということはありませんか?解決策は正しいはずだ、いや百歩譲ったとしても多少の改善は見込めて良いはずなのに、そうはならないのは何故なんだろう、と思いませんか?

それは実行したものが解決策としては十分ではなかったからなのです。

では、解決策の十分条件とは何なのでしょうか?

例えば、あるコンサルタントAさんが、チェーン店Bのお店を普通のお店から繁盛店に変えるコンサルティングを請け負ったとしましょう。ここで、繁盛店とは一度顧客になった人が何度も繰り返し訪れてくれる(リピート客になる)お店だとします。

Aさんは、リピート客を増やすためには、お店の店員全員が個々のリピート客のことを認識していて、その人たちに適切な応対ができることが必要だと考えました。そして、この考えに基づいて、顧客名簿の仕組みの導入を解決策として提案しました。

Aさんの提案は受け入れられ、顧客名簿の仕組みが整えられました。しかし、一向に成果が出ません。店員が顧客に名簿記入を依頼しないのです。

実は、このチェーン店では店員の多くは契約社員で、コミッション制で働いていたのです。

この人たちの収入は自分個人の売り上げで決まりますから、お店全体のことを考えて行動はしません。それどころか儲かりそうな顧客は自分で囲い込もうとするので、顧客名簿への記入に協力する動機がないのです。

Aさんは、まずコミッションをお店全体の売り上げに連動した賞与に変更することを提案し、その上で顧客管理の仕組みの導入を論じるべきだったのです。

これは、建物の土台から変えるべきなのに、それをしないで2階部分の増築だけをするようなものです。

この例は初歩的なものなので、流通業界に詳しい人はこのような間違いはしないでしょう。しかし、世の中にはこの種の間違いは多いのです。

どうしてこのような間違いが生じるのでしょうか?それらはどうすれば防げるのでしょうか?

それを理解するためには、「問題の解決策」とは何かを基本に戻って考える必要があるのです。

解決策とは何かを変える(変革する)もの

我田引水にならないために、ネットで「問題の解決策」で検索して得られた定義をもとに検討を進めることにします。

問題解決手法の紹介と解決力をつける には、次のように書かれています。

  • 問題とは、ある領域での望ましい姿を思い描いたときに、現状がそれと違っていると認識する場合に、現状と望ましい姿の間にある障害のことです。
  • 問題解決とは、認識した問題を望ましい姿に近づけ解消しようとする全ての行為のことです。
  • 解決策とは「問題のない状態」=「望ましい状態」への到達するための方策です。

これからわかることは、解決策(通常複数)とは現状から望ましい姿への移行を可能にする一群の方策のことである、ということです。

すなわち、解決策とは、次の条件を満たすもののことです。

  1. 現状と望ましい状態の中間点Mのある要素の値Pを別の値Qに変え、そのことにより状態Nに移行させる
  2. 状態NはMより望ましい状態に近づいている
  3. PからQへ変える(Pを壊してQを創造する)ものが解決策である(これを「変革点」と呼ぶことにする)

上記の例では、お店を運営するために必要な要素「業績連動報酬」を「コミッション制」から「お店全体の売り上げに基づく賞与」に変える変革点が必要だったわけです。(図参照)

これを以下のように表記することにします。

  • 業績連動報酬: 個人別コミッション → お店全体の売り上げに基づく賞与

問題解決と変革点

では、顧客名簿の仕組みは、単独ではなぜ解決策にならなかったのでしょうか?何が問題だったのでしょうか?

問題は、それが何を変えるかが明確でなかったことです。Aさんは顧客名簿の形式や記入方法を指定しましたが、元々あった何を新たな記入方式に変えたのかを示していません。

その原因は、Aさんが表面的なツールの効果にのみ気を取られていたことです。Aさんは記入方式に着目していましたが、実はそれは本質ではなかったのです。

元々あったのは店員個人の頭の中での顧客管理ですから、顧客名簿の本質は、店員単位の管理を店舗単位に変えることであり、名簿の形式はその変革を促進するツールに過ぎなかったのです。

(この点については、楠木建、構造改革者は構造改革を待たない」(その3)の次の言を参照。“ITやシステムのような「ツール」は ある構造を持って動いている経営を(ときには飛躍的に)前に進める力はあっても、ツールには構造そのものを変える力はない”)

すなわち、このケースの真の変革点は次のものだったのです。

  • 顧客情報管理: 個人(店員)単位 → 店舗単位

この本質が見えれば、この変革点は「業績連動報酬」の変革点の実行後でないと実行できないことが明白となります。

以上のことから解決策を変革点 P → Q と表すことの利点が以下のように明らかになります。

  1. Pを破壊する前提条件が整っているか、またPを壊す覚悟があるかどうかを検討できる
  2. Qを実現できるかどうかを検討できる

冒頭のAさんの解決策のような変革点表記でなくQだけを示した「解決策」は、2だけを検討するので不十分(土台を変えずに2階を増築するので、後で土台が傾くとホゾを噛む)なのです。

変革点を見つけるための3つの視点

さて、解決策を変革点形式で表現することの重要性が分かったとして、変革点をどのようにして見つければ良いでしょうか?

変革点を見つけることはそれほど容易ではありませんが、次の3つの注意点をしていれば少しは前に進むことができます。

  • 否定形を使わない
  • 前提を問う
  • ベスト・プラクティスに学ぶ

以下、それぞれについて検討していきましょう

否定形を使わない

変革点記述にはPとQの並記が必要です。こう言われると「何を当たり前のことを!」と思われるかもしれませんが、実は簡単なことではありません。

Qを思いつくのは簡単ですが、Pがなかなか思いつけず「Qでない」という否定形を持ち込む人が多いのです。これでは、Q以外の新たな情報は得られないので解決策が出てくるはずはありません。

AさんもPとして「顧客名簿がない」というのを想定したので、自分が本質をつかんでいないことに気付けなかったのです。

否定形を許すと問題解決ができなくなることの詳しい説明については、 現状の「述べ方」が問題解決のカギ  を参照ください。

 前提を問う

本当の解決策は、建造物の土台を変えるような根本的な性格のものが多いのです。そうでなければ解決は簡単で、コンサルタントへの支援依頼は来ないはずです。

ですから、議論の際に土台のように「当然だ」と前提においている事柄を問う必要があります。

Aさんは、顧客情報の共有のために店員の報酬体系が関係するとは思わずに、検討の対象から外していて失敗しました。このことからも、前提を問うことの重要性が理解できると思います。

例えば、部門間の対立で問題が生じている場合に、「セクショナリズムが原因だ」と指摘されることがよくあります。そして部門間のコミュニケーションを円滑化する解決策が講じられますが、それで問題が解決することは殆どありませんよね?

なぜでしょうか?

それは、無意識に「セクショナリズムは悪」だという前提を置いているからです。しかし、この前提は正しいのでしょうか?

そもそも、企業内にいろいろな部門(セクション)が設置されるのは、企業の目標を分割して、サブ目標ごとに専門化した部門を分業させた方が企業の全体効率が上がるという考え方に基づいているはずです。この観点からは、「セクショナリズムは是」のはずです。

こちら側の見方に立てば、セクショナリズムによる対立はあって当然です。それが過度になった場合に初めて、当初の目標の分割方法が時代環境に合わなくなったのだとして、その見直しを行うべきなのです。

冒頭の繁盛店の例でも、商品が飛ぶように売れる右肩上がりの時代ならば、コミッション制で店員が自分の収入だけを考えて行動している体制で、何の問題もないはずです。

環境が変わり、個々の顧客の生涯消費額が問題となった時に、初めてお店の売り上げに連動させた業績報酬方式に切り替えれば良いはずです。

変革点を見つけるためには、このように自分たちの議論が前提としていることを問い直すことが有効なのです。

私たちが無意識にどのような前提を置いているかを知るためには、 組織を脅かすあやしい「常識」 という本が参考になります。

ベスト・プラクティスに学ぶ

ビジネス上どのような前提を問うべきかを理解するには、ベスト・プラクティスの勉強が役に立ちます。

例えば、当ブログで何度も述べていることの繰り返しですが、購買改革で行う製品開発プロジェクト主導の購買体制から部品カテゴリ主導の購買体制への変革は、「製造業における付加価値の源泉は設計である」という前提が崩れた時に必要となります。

同業者がこのような変化に見舞われたとしても、依然とて設計が付加価値の源泉である企業には、この種の購買体制の変革は不要なのです。

別の例としては、個人ごとの案件管理からセールスフォースのような集団的案件管理への変革を考える前提となるのは、扱う商品・サービスの複雑性です。

複雑な商品・サービスを売る場合には、技術者などの希少なリソースの効果的なアサインが必要です。それらのリソースを費用対効果の高い案件に配分するために集団的管理が必要となるのです。逆に、単純な商品を売っている場合には、変革は不要なこともあることを知っておくべきなのです。

このような事例を研究すれば、どの前提を問うべきかの自分なりの考え方を確立できるようになります

変革点こそがインサイトのベース

なぜコンサルティング営業は「お客様要望の理解」から始めてはいけないのか? で、アインシュタインの次の言葉を引用しました。

  • 「我々の直面する重要な問題は、その問題をつくったときと同じ思考のレベルでは解決できない」

そして、コンサルタントの真の価値は、クライアントが問題をつくった時とは異なる問題の捉え方(インサイト)を持ち込み、それにより問題解決を容易にすることだと述べました。

変革点は、クライアントが当然と見なしている前提を問い直し、それを覆すことにより見出されます。それこそがインサイトの種なのです。

したがって、コンサルティングの過程で見出した変革点を蓄積していけば、コンサルティング営業でインサイト(洞察)を示してクライアントから尊敬を獲得することが容易にできるようになります。

例えば、上述の普通の店から繁盛店への変革では、上記以外以外にも色々な変革点があり、それらをまとめると以下のようになります。

  • 業績連動報酬: 個人別コミッション → お店全体の売り上げに基づく賞与
  • 顧客情報管理: 個人(店員)単位 → 店舗単位
  • 販売力: 商品を説明する → お客様と会話する
  • お得意さま作り: お客様に合っている商品を見つける → 商品を選んでいる時間を楽しんでいただく
  • 店舗の見かけ: 商品が豊富 → 思わず入りたくなる

このような変革点を実現した成功事例を理解していれば、普通のお店から繁盛店への変革をしようとする店舗経営者には、次の世界観の変革(インサイト)が求められるということに気づきます。

  • 顧客の求める価値: 商品を買う → 関係を楽しむ

この気づきがあれば、ごく自然に営業段階でこのインサイトを示し、変革の覚悟ができているかを迫ることができます。

その結果、世界観の変革の必要性を理解し、かつその覚悟ができるクライアントは、「よくぞ言ってくれました。あなたに付いて行きます」と尊敬してくれるのです。

このような売り方がコンサルティング営業の理想ですので、平素から変革点の蓄積をしておくことが重要なのです。

まとめ

  • どう見ても正しい解決策を実行したはずなのに、元の問題が解決しないことがある。そういう場合は、解決策が不十分であったことが多い
  • この理由を理解するには、「解決策」の基本形を知る必要がある。解決策は、現状から望ましい状態への移行を実現するためのものであるから、途中の状態の「何かを何かに変える」という変革点(P → Q、Pを破壊してQを創造する)の形をしていなければならない
  • 世の中では、解決策としてQだけが示されることが多い。この場合、Pを壊す前提条件が成立しているか、またPを壊すだけの覚悟ができているかが問われないので、解決策として不十分である。すなわち、Qを実現しても当初期待した効果が得られない(構造物の土台をいじらずに2階だけ増築するので、後で土台が揺らいでホゾを噛む)などのことが起こる
  • 変革点を見つけることはそれほど容易ではないが、否定形を使わない、前提を問う、ベスト・プラクティスに学ぶ、などのことに注意すれば、自分なりの見つけ方を確立する助けとなる。
  • コンサルティングの経験を通して変革点を蓄積しておけば、コンサルティング営業でインサイト(洞察)を示してクライアントの尊敬を勝ち取ることが容易になる