課題指摘コンサルタントにならないために考えるべきこと


一向に改善しない経営改善計画

コンサルタントはクライアントの問題を解決する商売です。

だとしたら、クライアントに解決策をアドバイスしても問題が解決しないときは、自分のやり方に何か問題があるかもしれないと自省する目を持つことが重要です。

最近、そういう自省が欠けているのではないかと思わざるを得ない話を聞きました。

経営不振に陥った企業は、銀行から資金を借り増すために経営改善計画書の策定を要求されます。しかし、経営不振に陥るような企業に、そのような計画を策定するスキルはありません。そのため、会計士や中小企業診断士などがコンサルタントとして支援に当たることが多いのです。

経営改善計画書は、対象企業の代表取締役の名前で金融機関に提出されますから、その企業は改善計画の実行にコミットしています。ところが、一向に経営状態が改善せず、2-3年後に同じ企業が新たな経営改善計画書を持って現れるというのです。

なぜこうなるのでしょうか?

経営改善計画書には、だいたい以下のような内容が記載されています。

  • 企業の概要
  • 最近の財務状況
  • ビジネス環境・現状の分析
  • 改善のためのアクション・プラン
  • 売り上げ計画・予想財務諸表

経営者が改善にコミットしているのに、この内容で経営改善が実現しないとすれば、アクション・プランが悪いのは明らかです。(もう一つの可能性は、経営者が無能か不真面目だということですが、その話題はここでは対象外とします。)

このアクション・プランがどのような性質のもので何が問題か、以下で検討しましょう。

結果にコミットを求める愚

実際にどの種のことが起きているかを理解していただくために、製造業の一般的事例を少しだけ詳しく説明しますが、辛抱してお読みください。

中小企業の一般的な傾向として、業務の遂行を仕組みではなく担当者のスキルに頼っているということがあります。このような状況でスキルの高い人材が辞めると、生産性が一挙に低下し、業績が悪化するという事態が発生することが多々あります。

たとえば、部品生産を下請けで請け負っている企業があるとしましょう。簡単な形状のものを大量に生産するのが仕事です。

このような企業では、発注元から貸与された金型を使った作業が多くなります。金属を金型に合わせてプレスしたり、金型にプラスチックを充填したりして、同じ形状のものを大量に作り出すのです。

この場合、付加価値の大部分は発注元の金型の設計で生産されてしまうので、下請け会社では生産を効率化できるかどうかが死命を制します。しかも、中小企業では経営資源に乏しく、金型を使った生産用のプレス機や充填器の数が限られます。

ということで、同じ機械で金型を取り替えつつ(これを段取り替えと呼びます)いかに効率よく生産するかが経営の重要課題になります。この段取り替えの際の金型の位置調整などにベテランのノウハウが必要とされます。

ベテランが辞めてしまうと、慣れていない人がやる位置調整に時間がかかり、その間機械が遊んでいることになり生産性が低下するという訳です。

前置きが長くなりましたが、このような企業の経営改善計画のアクション・プランに、他のアクションとともに「段取り替え時間の短縮XX%実現」と書かれていたら、どう思われますか?

びっくりしませんか?それが出来るくらいなら、社長はとっくにアクションを取っていて、経営は悪化していないはずですよね?

でも実際そのような経営改善計画書が存在するのです。しかも、社長はそれにコミットしているのです。さらに、金融機関はそれに対し融資をしているのです。

まあ、切羽詰まった際の融資の理由付けという意味では、このような改善計画書も無いよりはましだというのは理解できます。でも、二度も三度も同じ会社が現れたとしたら、何かがおかしいですよね?

何がおかしいのでしょうか?それは、「段取り時間の短縮XX%」というのは、アクションではなくアクションの「結果」だからです。「結果」にはコミットしようがないのに、コミットしているからです。

そして、この例に限らず、コンサルタントのアドバイスに「結果」を実現せよと指示するものが数多いのです。

なぜこのようになるのか、もう少し検討してみましょう。

課題展開の役割を心得る

問題とは「あるべき姿」と「現状」の「ギャップ」のことです。そして問題を解決するとはこの「ギャップ」を解消して「あるべき姿」に到達する、あるいは到達できないまでも、今よりは「あるべき姿」に近づきギャップを狭めることです。

そして、ギャップを狭める方法として、次の2通りが考えられます。(図の①)

  1. 現状の中で「あるべき姿」への到達を妨げるもの(原因)を探し、それを撤去する
  2. 「あるべき姿」を実現するために必要な課題(そこに到達すれば「あるべき姿」への到達が容易になる状態)を洗い出し、そこの到達策を検討する。これを課題展開と呼ぶ

これらを繰り返し、ギャッップの幅を狭めて行き、ギャップをゼロにできることが判明すれば、問題は解消という訳です。

ここで、上記の問題が起こる理由が明らかになります。それは、ある種のコンサルタントにB. を繰り返していけば問題が解決するという思い込みがあるということです。

たとえば、ある企業が経営状態を良くしようとして、コンサルタントに相談を持ちかけたとしてみましょう。

コンサルタントは経営にかかわる財務知識を使って、この企業の場合は総資本利益率20%をあるべき姿と設定するのが妥当だと提案しました。

それが合意されたとすると、次の計算式から、総資本回転率を上げるという方策が出てきます。

総資本利益率 = 経常利益 / 総資本

= (経常利益 / 売上高)x(売上高 / 総資本)

= 売上高経常利益率 x 総資本回転率

そして、総資本回転率の要素である在庫回転率を上げようと、業務知識を使って生産・販売・在庫計画プロセスの強化が課題として提示されました。販売予測に見合った生産量を計画すれば、在庫は少なくて済むはずだという提案です。

このプロセス自体は非常に有用です。

生産・販売・在庫計画プロセスが強化され、在庫回転率が向上すれば、総資本利益率は向上するのは確かだからです。

さらに、「経営状態を良くしたい」という漠然とした要望が、「総資本利益率の向上20%」という明確な到達すべき状態に変換されました。さらに、それが「生産・販売・在庫管理プロセスの強化」という具体的な課題にわっているので、アクションが取りやすくなっています。これらは、すべてコンサルタントの持つ専門知識の活用により可能になっています。

このような観点から、一般に課題展開は非常に有用です。

しかし、ここで注意しなければならないことがあります。

それは、課題は実現すべき状態を述べているにすぎないということです。それを実現する方法がわからなければ、まさに「絵に描いた餅」となるのです。

課題展開が有用になるためには、課題をどんどん掘り下げていって得られた一番下の課題が実現可能なものとなる必要があるのです。

そうでなければ問題は解決しません。課題の掘り下げだけで、最終的な実現方法を示さないという終わり方をするアドバイスを「課題指摘」と呼びます。

冒頭の「段取り替え時間短縮」は、経営改善のためには確かに必要なことですが、社長には実現方法がわかりません。典型的な課題指摘なのです。

課題指摘が有効なのは、クライアントが優秀でその実現方法を自分で見つける能力がある時に限られるのです。

専門家型コンサルタントが陥る課題指摘の問題

冒頭の経営改善計画の例は、コンサルタントが何の解決のアイデアも提供していないので、極端すぎるかもしれません。しかし、もう少し真面目に解決策を示そうとしている場合でも、コンサルタントが課題指摘で終わり結果的に問題を引き起こす例は非常に多いのです。

たとえば、山登りのたとえで理解する問題解決の要点 で述べた「あるSCMソフトの導入」というのも、コンサルタントにとっては実現可能な「解決策」でした。しかし、残されたクライアントにとっては、工場や物流体制の見直しが必要な難問続出の「課題指摘」だったのです。

担当したコンサルタントには悪気はなく、その人は自分の仕事をしたつもりでいます。だとすると、なぜこのようなことが起こるのか、それを未然に防ぐにはどうすれば良いかを検討しておく必要があるでしょう。

そこで、先週の記事で述べたコンサルタントという商売の見方の差が効いてきます。

クライアントを助けるコンサルタントは、当然クライアントが課題を解決できるまで面倒を見ますから、課題が十分に掘り下げられているかどうかは大きな問題にはなりません。大きかろうが小さかろうが、最後まで手伝います。

しかし、「問題を解決するのが商売」の専門家コンサルタントが、解決策を提示するだけで役目を終える場合は、要注意です。クライアントの手に余る課題を、実現可能として残していく場合があるからです。

なぜこのような食い違い(あえてこう呼びます)が起こるのでしょうか?

課題指摘が起こる根本原因は、コンサルタントが想定するクライアントの課題解決能力とクライアントの真の実力に差があるからです。

専門家は、技術的スキルが高いので、本人にとっては課題の解決は容易に見えます。また、自分の専門家視点だけから問題を見がちなので、悪気はなくクライアントがはまる落とし穴を見落としがちです。

一方、クライアントは専門知識がないので、コンサルタントが指摘した課題の実現能力があるかどうかを即座に判断できず、分からないなりに何とかなると報告書を受け取ってしまうのです。

この差は、お互いの付き合いが浅い段階では、事前には把握でません。

したがって、専門家型コンサルティングに徹する場合は、提案書の段階でどのレベルの問題をどこまで取り扱うか、解決策解としてどのレベルのものを提示するかを、厳密に定義してクライアントに理解させておく必要があります。この作業を、コンサルティング範囲を定義するという意味でスコーピングと呼びます。

実際、大手の専門家型コンサルティングでは、スコーピングの巧拙がプロジェクトの利益を大きく左右しています。

しかし、独立コンサルタントが中小企業相手にこのようなスコーピングをするのは現実的でしょうか?冒頭の経営改善計画を渡された社長のように、苦しみを長引かせるだけではないでしょうか?

中小企業相手の独立コンサルタントは、課題指摘では止まるべきでないと決意しておく必要があると思います。

クライアントが解決策を実行できるのはどういう時か?

では、課題指摘に終わらずクライアントを問題解決まで導くにはどうすれば良いでしょうか?

そのためには、クライアントは、課題どころではなく実に簡単なアクションでも実行しないことがよくある、ということを知っておく必要があります。

このことは、ダイエットの対する我々自身の反応を考えればよくわかることです(笑)。自分自身の健康に良いことがわかっていてもできないことがあるのに、会社にとって良いことなら自然にできるはずだと思うのは、ナイーブにすぎるでしょう。

クライアントはそう簡単には動かない(解決策を実行しない)という前提に立ち、コンサルタント自身がもう少しレベルをあげてく必要があるのです。

実は、このような場合でも人を動かす方法はよく知られていて、インフルエンサーたちの伝えて動かす技術スイッチ!「変われない」を変える方法などの本に実質的に同じことが書かれています。

それは、以下のことです。(図の②)

  • 状況を変化させるのは行動である。何かを変えようとして失敗した例を調査すれば、ほとんどの場合結果と行動を混同していることがわかる(行動をコミットさせるべきで、結果をコミットさせるべきでない)
  • 人が今までと違った行動をとるのは、その行動に①価値がある、②できる、と思う時である。この二点が変われば、相手は行動を改めたり、今までの害のある行動をやめようと努力する

問題解決手順

このことから、次の指針が引き出されます。

  1. 課題を行動の変革に落とす(当ブログでは、これを変革点と呼びます。)
  2. 行動に価値があることをわからせる(問題の解決につながることを論証する)
  3. 行動をできると思わせる(クライアントが実行方法を理解できるレベルまで落とす)

このことを実例で示しましょう。(図の③)

ある製造業で売り上げが落ちたので、コンサルタントが相談に乗っていました。コンサルタントがいろいろな売り上げ向上策を提案すると、社長が首を振ってこう言いました。

「実は仕事はいっぱいあるのです。営業的な問題はないのです。」

実は、その企業の問題は、組み立て要員の女性パート職員が家庭的な事情(出産、介護、等)で次々辞めていき、ハローワークなどで募集しても補充が追いつかないことだったのです。景気が良くなった昨今では、補充してもすぐ辞めてしますというのも悩みでした。

このような時に「効果的な人員補充」と唱えるだけでは、初歩的な課題指摘で、何の役にも立ちません。

幸い、このコンサルタントは類似事例を扱ったことがありました。その人のアドバイスは、次のようなものでした。

「それならシングル・マザーを雇いましょう。彼女たちは、子供を育てていくために長期的に安定した職場を切に求めています。ですから、そう簡単に辞めませんしモラルも高いです。さらに、シングル・マザーには彼女たち独自のネットワークがあるので、良い職場なら口コミで人を集められること請け合いです。」

このアドバイスなら社長も行動できますよね?

ここまで考えてくると、道が見えてきます。

このコンサルタントは、「効果的な人員補充」という課題を実現するために、「ハローワークで人集めをする」という現状の行動を「口コミでシングル・マザーを集める」という行動に変えることを進言したのです。

すなわち、コンサルタントは次の筋道で進言したのです

  • 売り上げを維持するためには、効果的な人員補充をする必要がある(課題展開)
  • パート職員が家庭の事情で辞めている。ハローワークで人集めしているが、景気が良くなった現状では人が集まらないし、仮に集まっても定着率が悪い(現状と原因の分析)
  • シングル・マザーは口コミで集められるし、安定した職の必要性が切実なので定着率も高まる(「解決策=変革点)の考案)

これば何を意味しているか、お分かりでしょうか?

それは、人に変革の行動を起こさせるには、最終的にはA.の原因の撤去方法(変革点)の指摘が必要だということです。

そして、その解決策の価値をクライアントが認め、クライアントが自分にも実行できると思えることが必須なのです。

まとめ

  • 問題の解決は、「課題展開」と「問題の原因の検出とその撤去」の2通りの方法の組み合わせで行われる
  • コンサルタントのアドバイスが実行できず問題が一向に解決しないという事態は、コンサルタントが課題展開のみを行った場合に発生する
  • 課題展開そのものは、取り組むべき事項を具体化・簡単化するという観点からは非常に有効なものである
  • ただし、課題展開のみでコンサルティングが終了し、展開された課題がクライアントの実現能力を超えていると、問題が解決しない。この現象を課題指摘と呼ぶ
  • クライアントが最終的に問題を解決できるためには、現状にとどまっている原因を撤去しあるべき姿あるいは課題に到達できるための解決策(行動の変化=変革点)を導き出す必要がある
  • 解決策は、クライアント自身が、その実行に価値を認め、なおかつ自分にも実行できると思うものでなければならない。そうでない解決策は決して実行されない