超一流ブランドに学ぶ、「商品のこだわり」をストーリーで売る戦略


中小企業の商品特化戦略で訴求すべきは、商品開発の背後の「こだわり」

以前にも紹介しましたが、中小企業のニッチ戦略には小さな会社の儲けのルールに示されている、商品を絞る、エリアを絞る。客層を絞る、の3通りの方法があります。

今日はそのうちの商品を絞った場合に、その次に具体的に何をすべきかを考えてみましょう。

商品を絞ったからには、その商品に自社ならではの強みが生かされているはずです。その強みをターゲット顧客へどうアピールするかが課題となるはずですよね?

大手なら、ここで広告戦略などを考えるところですが、資源に限りがある中小企業ではそうはいきません。費用をかけずに商品のよさを伝える方法を考える必要があります。

それとは別に考えるべきもっと本質的なこともあります。今日のモノあまり、情報過多の時代では、消費者は企業が提供するモノに対し、そう簡単には価値を感じてくれません。

(もちろんコモディティについてはそれほどうるさくはありませんが、コモディティは中小企業が勝負をかける領域ではありません。)

モノそのものを所有・使用するだけではなく、なぜそのモノが価値を提供できるのか、その背後の理由まで知ってから判断したがるのです。

この傾向は、中小企業にとってはチャンスです。大きな市場を狙う必要がない中小企業は、経営者の「こだわり」を反映した商品づくりをしていることが多く、そのこだわりをうまく伝えれば良いからです。

逆に大手企業は、大きな市場をめがけて最大公約数的な商品を開発するため、商品の効用を説明することには長けていても、こだわりそのものは持っていないことが多いのです。

こだわりを伝えるのに効果的な方法はストーリー化です。ストーリーは人を感動させやすく、また覚えやすいので口コミに乗りやすいからです。口コミは、モノあまりの疑い深い消費者が増えた世界で価値を伝えるのに非常に効果的です。しかも、費用がかからないという点で中小企業向きです。

では、どのようなストーリーを作り伝えれば良いのでしょうか?それを知るには、成功した先例に学ぶことです。ここで先例とは、かつての中小企業が成功して大きくなったブランド企業です。

ストーリー発信の先例となるブランド企業:靴づくりのJ. M. ウェストン

J.M.ウェストンは、1891年、エドゥアール・ブランシャールによってフランス中南部のリモージュに設立された靴のメーカーです。息子ユージェーヌが、当時靴の製造が盛んだった米国に修行に行って最新のグッドイヤー製法を学んで帰り、1922年にパリへ出店しました。

それ以来、パリの社交界で人気を博し、今日では全世界で30店舗を展開しています。メインの単価が80,000円〜130,000円の高級靴を扱っていて、日本では青山や日本橋高島屋などに出店しています。

ウェストンが高級ブランドとして成功している主たる理由は、もちろん靴の品質の良さにあります。履き心地が良く、しかも長持ちする靴です。

しかし、それだけでは世界中にウェストンのファンが存在する理由を説明できません。それらのファンの中には、自国にウェストンの店が進出する以前にパリに買いに出かけている人がおり、その人たちの口コミでさらにファンが増えているからです。

ウェストンは、自社のこだわりを広く発信しています。その発信内容に共鳴した人たちがファンとなっているのです。

そのこだわりの内容と発信方法を見てみましょう。

まず履き心地の良さですが、ウェストンでは創業当初からグッドイヤー製法(履き込むうちに中底が適度に沈んで、足の形にフィットする。クッション性、防水性に優れる)を守り続け、高級な皮を使った手づくりの靴を提供しています。

さらに、理想の靴が見つかるフィット感のよさを実現しようと、幅が6種類、サイズが0.4cm刻みの豊富なサイズを提供しています。(これに対し、他社は幅が1種類だけでサイズは0.5cm刻みです。)

このような工夫の結果、ウェストンはセレブに愛用される靴となりました。愛用者には、「星の王子さま」の作者のサン・テグジュベリ、画家のモーリス・ユトリロ、サルコジ、オランドなどの歴代フランス大統領などが含まれます。

また、丈夫で長持ちすることから写真家のキャパや新聞記者などが歩き回るのに愛用し、「ジャーナリスト・シューズ」と呼ばれるようになっています。

このようにセレブに愛されていることが伝わることで、ウェストンは超一流ブランドとしての地位を獲得していったのです。

また、商品のよさに自信を持ちロングセラーにこだわっています。たとえば、1946年発表のローファー180は、未だに同じ木型で作られています。この靴は、1968年のパリの五月革命で学生たちが履いていたことでも有名で、その逸話がファンをさらに増やすのに一役買っています。

ウェストンは、靴の一貫生産でも徹底しています。1986年に名門タンナー「デュプイ」を買収し、皮革から一貫生産する世界でも数少ないメーカーとなっていますし、靴底まで自社で作る点では世界で唯一のメーカーです。この靴底を作るのに12ヶ月かかるというこだわりようです。

さらに、手間がかかるので世界でもこの製法を守っているメーカーはわずかになったノルヴェイジャン製法で作れる職人を、未だに3人抱えています。

これらのこだわりが、一旦ファンとなった顧客の心を捕らえて離さないのです。

ウェストンは、このようなこだわりを直営店を通じてじっくりと発信しています。以下のような内容を、展示やよく教育された店員の説明で伝えているのです。

  • 工場の風景を掲載する
  • 革を鞣す独自の工程を写真入りで分かりやすく掲載する
  • 靴のづくりを断面図を掲載して、足にフィットする理由を理論的に説明する
  • ジャーナリスト・シューズの由来を説明する

それが、顧客の口コミで世の中に広く伝わっていきます。その証拠に、上記の情報はウェストンのホームページではなく、全て第三者のWeb(たとえばフランス生まれの美しい靴「J.M.Weston」の歴史とあたらしい世界など)から収集したものです。そのような伝わり方で、ファンの獲得に成功しているのです。

もちろんウェストンは古くて成功した超一流のブランドですので、このような逸話が数多く存在し、それが広まって成功しています。しかし、ウェストンもかつては小さな店だったわけで、その歴史から中小企業が学べることは多いはずです。

実際ウェストンがやっているのは、次のことです。

  • こだわり抜いた品質の良い商品を作る
  • その品質の良さを客観的に証明できる効果的な使用例を集める(セレブ愛用者、利用例の逸話など)
  • 品質の良さを実現できる背後のこだわり(製法、一貫生産など)を説明するストーリーを作る
  • それらの事例、ストーリーを地道に発信する(店舗で展示したり店員に説明させる、など)

これらであれば、ウェストンほどの歴史のない中小企業でも実現可能です。実際に商品特化型で成功している中小企業が同じ方法をとっていることを、実例で検証してみましょう。

極上の手触りのシャツをリーズナブルな価格で提供する鎌倉シャツ

鎌倉シャツは、貞末良雄氏が「シャツを通じて日本の服装レベルを上げる」ことを目的として創業した服飾メーカー(SPA)です。5900円(創業時は4900円)という低価格で100番手の上質な生地のドレス・シャツを、国内の技術のあるメーカーに丁寧に縫製させて提供することで話題を集めました。

鎌倉シャツの場合は、この商品力だけでも市場に十分なインパクトを与えますが、それだけでは継続的な人気にはつながりません。上質な顧客は、商品の質だけでなく、質の高い縫製が継続できるかどうかを知りたがるからです。

この疑念を払拭し、それまで高いシャツを買っていた顧客までを引き付けるために、鎌倉シャツもウェストンと同様の努力を重ねています。

まず、セレブの愛用者としてはユニクロ社長の柳井正氏を獲得しました。柳井氏は正装するときには鎌倉シャツを着るとのことです。

また、日本の服装レベルを上げるという企業目的を示すために、シャツを買うと付いてくるタグにヴァン・ジャケットの創業者の石津謙介氏のエールが書かれているという工夫をしています。

さらに、縫製の継続性について、鎌倉シャツが腕の良い国内の縫製業者に発注し続けられる次のような仕組みを構築していることを説明しています。

  • 原価率60%とそれでやっていけるSPAのモデルを公表している(シャツは服飾品の中では需要変動が少ないので、ユニクロと同様ある程度の需要を確保すれば高原価でも利益が出せる)
  • 国内縫製業者の質を確保するための、縫製基準書、品質基準書、および品質統一会議の仕組みを説明

このSPAモデルが公表され、しかも同様のビジネス・モデルで成功しているユニクロの柳井社長が愛用者であれば、太鼓判を押してもらったのも同然となるわけです。

鎌倉シャツは、このようにウェストンと同様の「商品へのこだわり」を説明する方法を取ることで成功しているのです。それをまとめると、以下のようになります。

  • 商品の品質の証明:ユニクロの柳井社長が愛用している。「カンブリア宮殿」で取り上げられる
  • 製法へのこだわり:国産の縫製にこだわり、原価が高くても品質を維持できるSPAの仕組みを作り、それを公開している
  • ストーリーの発信方法:直営店のサイズ別タテ陳列で豊富なサイズをアピールし、モラルの高い店員が丁寧に商品の良さを説明する。公正な取引に心酔した縫製業者が口コミする

手づくりで1日150個限定の羊羹を作る小ざさ

吉祥寺に一坪の店を出し、1日150個限定の羊羹と最中を作り続けている小ざさは、意図せずにストーリーを発信して成功している例です。

小ざさの場合は、手作りの美味しい羊羹を作り続けることのこだわり続けた結果、1日150個しか作れないということが、すべての出発点です。

その150個を手に入れたい常連が朝早くから行列を作って待っているということこそが、おいしさの証明になっています。さらに、ここまで有名になる前に食通で知られる映画監督の山本嘉次郎氏が病床で「死ぬ前にもう一度小笹の羊羹が食べたい」と言われたため、奥様が買いに来られたという逸話も残っています。

これだけで品質の証明には十分ですが、さらに南極越冬隊が持って行った羊羹が赤道を越えても変質しなかったという逸話まで残っています。

製法へのこだわりは、150個しか作れない理由を問う顧客へ店員が説明することで、自然に広まるというわけです。

皆が欲しがる品質が高い商品をごく少数作っていると、いやでもその良さが広く伝わるという好例となっているのです。

職人が命の吉田カバンとベルク

吉田カバンは、斬新なデザインや材質のカバンを日本職人の手づくりで提供しているカバンメーカーです。その優れた品質に関するストーリーは、次のように作られ発信されています。

  • 商品の品質の証明:婚約前の美智子皇后が愛用されていた。創業者の吉田吉蔵がカバン職人として勲五等双光旭日賞を叙勲
  • 製法へのこだわり:製造を委託される職人たちの間で吉田カバンの品質基準の厳しさを語る「吉田基準」という言葉が生まれている。新入社員は全員カバンの手縫い技術を学ぶ
  • ストーリーの発信方法:継続販売を中心とする方針なので、当初売れなくてもいつかロングセラーとなり、それが有名になる。常に斬新なデザインや材質に挑戦するので、それが話題になる。表参道の直営店に工房を設け、実演でカバンの手作り製法を広める

また、ベルクは新宿駅前に出店するコーヒーとビールを中心としたファースト・フードのお店ですが、次のように食材にこだわり続けることで、海外からの観光客も覗きに来るほどの繁盛店となっています。

  • 商品の品質の証明:質にこだわって探したソーセージ作りの職人がお店で出しているソーセージを出品して本場ドイツのコンクールで金賞を受賞
  • 製法へのこだわり:ソーセージだけでなくコーヒーやパンについても、妥協することなくこだわり職人を探し出した。ビールの注ぎ方についてはギネスの品質管理者ピーター・コール氏の指導を受けた
  • こだわりの発信法:店内のPOPで豊富なこだわりメニューを所狭しと発信している。3人の職人の顔写真でもこだわりを紹介(スーパーなどで見られる生産者の紹介の先駆けとなっている)。駅前なので様々な客が集まっていること自体がおいしさの発信になっている

このように、成功している商品特化型中小企業は、意識せずとも超一流ブランドと同じやり方で「自社のこだわり」を発信しているのです。

ストーリー戦略

まとめ

  • 今日のモノ余りの世界で、中小企業のニッチ戦略の一つである「商品を絞る」戦略をとった場合、その次にすべきことは商品の開発の背後にある経営者の「こだわり」をストーリー化して発信することである
  • 大きな市場を狙う大企業は最大公約数的な商品を開発するので、「こだわり」を持てずにいることが多く、つけこむ隙がある。また、ストーリーは覚えやすく口コミに乗りやすいので、経営資源が少ない中小企業向きである
  • ストーリー化の方法については、かつて中小企業であった成功しているブランド企業の歴史からヒントを得れば良い
  • たとえば、世界的な高級靴メーカーのM.ウェストンの例では、品質へのこだわりがセレブの愛用を生み、それがファンを広げる原動力となっでいる。また、こだわり品質を継続的に実現するための製法へのこだわりも、ファンを信者化するのに有用である。直営店などを通して、それらのこだわりを地道に発信することにより大きくなってきている
  • 鎌倉シャツ、小ざさ、吉田カバン、ベルクなどの成功している商品特化型中小企業を分析しても、ウェストンと同様なこだわり発信方法をとっていることがわかる
  • 以上から、商品特化型の中小企業にとって、次のストーリー化と発信が成長の秘訣であることがわかる
    • 徹底して商品品質にこだわる
    • その品質を客観的に証明する手段(セレブの愛用、表彰など)を獲得する
    • 品質を維持するための製法などにもこだわり、他社との差別化要因を明確にする
    • 品質の良さの客観的証明、差別的な製法などを、直営店などを通して発信して口コミを獲得する