通信販売に学ぶ「コト売り」技術


中小企業にとって通信販売の何が参考になるのか?

大量生産・大量消費の時代が終わり、消費者に単なる商品(モノ)を提示するだけでは売れなくなって来ています。

そんな状況の中で、通信販売は大きく成長してきています。その激増に耐えかねて終に宅配料金の値上げがなされるほどです。

通信販売は、顧客に商品を直接提示できません。そのため、顧客に商品を買うべき理由(コト)を説得しなければならないという、販売上のハンディキャップを背負っています。

それを克服した上で、この成長を達成して来ているのです。ここに、モノが売れずに悩んでいる店売りの世界に所属する中小企業が学ぶべきことが多々あるはずです。

通信販売が獲得したコト売りのノウハウを、中小企業に合った形で抽出する作業が求められているのです。

資源に乏しい中小企業は、大手が参入意欲を持たない市場で自らの強みを発揮するという「弱者の戦略」を取るべきだと言われています。小さな会社★儲けのルールという本では、その具体的な方法として、次の3つのいずれかの戦略を取るべきだと説いています。

  1. 商品を絞る
  2. エリアを絞る
  3. 客層を絞る

通信販売は、2の「エリア」につての制限は少ないので、ここでは成功している通販業者が商品と客層について、どのような工夫をしているか、そこから何を学べるかについて考えることにします。

まず商品についてです。商品を絞る戦略を立てた中小企業が通信販売から学ぶことができるのは、どのような時でしょうか?

店売り中小企業が学ぶべきコト売り技術

上に述べたように、通販の世界では、直接見えない顧客に売るための様々な技法が開発されてきています。

見えない顧客に、しかも直接手に触れることができない商品を売るために、単に商品価値を説明するのでは十分ではありません。顧客がなぜその製品を買う必要があるのか、その理由を説明し購買を説得できる必要があります。

通信販売は、店売りとは異なり、商品を見せるところからではなくもっと前の顧客の欲望そのものを見抜き、それに火をつけるとことから始める必要があるのです。さらに、顧客に見えない販売者を信頼してもらう技術も必要です。

その結果、店舗の見かけだけで信頼を獲得できる店売りよりも高度な説得の技術が確立しているのです。

小売に必要なのは、次の2つです。

  • 「何を売るか」
  • 「どう売るか」

成功した通信販売業者が学んだのは、「何を売るか」(What)が定まれば「どう売るか」(How)は自ずと定まるということです。「何を売るか」を定めないで「どう売るか」ばかりを論じると失敗するのです。

たとえば、「ある地方の特産品を売る」と定めたとします。そうすると、商品を見せられない通販では、顧客がなぜその地方の物産を買う必要があるのか、何が優れているのか(Why)、を説明する必要が出てきます。そこで、その地方の風土や歴史的理由を調べることになり、そこから説得の文句を自然に獲得していきます。

健康食品(What)を売ることを考えたやずやの例で、もう少し詳しく考えてみましょう。

健康食品のWhyは素材成分の効能です。やずやの扱う「にんにく卵黄」の場合であれば、にんにくと卵黄の健康への有効性はすでに知られています。しかし、なぜこの2つの組み合わせが素晴らしいのかは知られていません。

そこで、やずやはこの組み合わせが南九州の伝統食であったことを説明します。ものが乏しく、医者も少ない時代の栄養補給剤として尊ばれていたのです。

ところが、製造過程でとても臭い匂いが発生するために、いつの間にか廃れてしまい、一部の地域で細々と作られているだけになっていました。ある時、激務で体を壊した人が療養中に、たまたま老母が作り続けていたにんにく卵黄を食べたところ、次第に体調が回復したので、それをやずやに持ち込んだというのです。

このようなストーリーを語れば顧客は自然に引き込まれ買おうとなる、という訳です。

しかし、考えてみるとこのストーリーを語るコト売り作業は、本来は店売りでもやった方が良いことです。ただ、店売りの場合は、商品を見せるだけでコトの想定作業を顧客に任せてしまっても、なんとかなってしまうのです。コトを積極的に売らなくても、致命的にはならないのです。

店売りの世界ではモノ売りでもなんとかなるのですが、通販の世界では、なぜ買うべきかのコトから説明しなければならないのです。その意味で、通販の説得技術の方が高度化しているのです。

中小企業がコト売りに投資して競争できる条件

このような説得技術を通常の店売りでも応用したいと考えるのは、自然なことです。しかし、通販が有利な世界でこの応用を考えても、通販との競争に負けてしまいます。

応用を考えるためには、通販の技法が適用できる商品特性を持ち、かつ通信販売に優位性のない世界を考える必要があります。

このためにまず、通信販売で売れている商品とは、どのようなものかを検討してみましょう。通販ビジネスの教科書によれば、次のようなものだということです。

  1. 店で売れる商品は売りにくい(店で普通に買える商品はわざわざ通販で買う理由がない)
  2. 説明が必要な商品は向いている(健康食品などは店にただ置いただけでは売れ行きは見込めない。販売員を配置してでも説明をするなどの努力が必要である。このような厚い商品説明は、テレビやネットなどの媒体経由でも可能であり、広い範囲への到達コストでは媒体経由の方が有利である)
  3. 気づきを与えて売れる商品が適している(「それ隠れイボかも」と消費者に注意喚起して購入に誘導するには、注意喚起したそのタイミングで購入に誘導できる(広告と店売りが一体化している)通販が有利)
  4. 提供者が“売りたい理由”がある商品は通販で売る(今これが売れそうだから、あるいはメーカーに提案されたからとりあえず通販で売ってみよう、というスタンスで成功する確率は低い。儲けたい以外の売りたい理由が必要。小豆島で三代続くの身体に優しいオリーブ商品などの売りたい理由があれば、消費者の“買うべき理由”としての共感を形成できる)
  5. 店販より高い価格設定ができる商品は通販に合う(事業立ち上げ時には商品のアイテム数が少ないが通常だから、高付加価値・高価格のものが有利)

この解説は、何を語っているのでしょうか?どうもわかりにくく、通信販売の本質と単なる必要条件がまぜこぜになっているので、仕分けが必要です。

まず、1は通信販売で避けるべき要件を言っているだけです。また、4、5も、それらの条件を満たした方が通信販売の成功確率が高まると言っていますが、これは通常の店売りでも当てはまることで、通信販売固有ではありません。

そうなると、残るのは2と3だけです。

つまり、通信販売が有利なのは、店に置いて商品を見せるだけでは顧客がその価値に気づきにくく、説明を通して初めて売れる商品だということです。さらに、その説明コストが人的販売より通信販売の方が低い場合です。

つまり、次のようなことがわかります。

  • 通販が成功する最大の理由は、2の費用対効果にある。一度用意した丁寧な説明を広い範囲で使い回せば、人的販売よりも効率が良いという点である
  • ただし、この費用対効果の良さの前提にあるのは同一の説明でかなりの量を売るということである。そして、かなりの量を売るためにはそれなりの媒体費用をかける必要がある
  • 通販が成功する理由の一部は店売りの怠慢にある。顧客が商品を見たり触ったりすれば商品を判断できるということに甘んじ、商品の簡単な説明努力(POPなど)すら怠っているからである

ということで、店売りの世界で通販のノウハウを活用するためには、この費用構造を逆転させてみれば良いことがわかります。比較的高額で説明のいる商品を少量、手間暇かけて対面で店で売るというケースです。

たとえば、ワインショップでは代表的なワインにはPOPが付いていてその特性が説明されています。また、選択に迷った様子でウロウロとしていると、店員が声をかけてきます。単価が高いので、商品の説明をしながら売るという方式が成立するのです。

このようなケースでは、通常の店売りでも通信販売で工夫された商品の説明技術を応用して店員の教育をしておくと、効果的かつ効率的な接客・販売が実現できます。

このような場合に有効な説得技術の詳細に付いては、小売の説得術ーモノ買わぬ消費者とのコミュニケーションなどの通信販売のノウハウをまとめた本を参照ください。

通信販売と客層

次は、中小企業の客層を絞る戦略と通販の関係についてです。

通常の通信販売では、上記のような説明が必要な商品を選ぶところから始めます。一方、客層を選ぶ戦略では、選んだ客層に合わせた商品を販売することになり、順番があべこべのように見えます。

つまり、通信販売で客層を選ぶというのはあり得ないように思えます。でも、本当にそうでしょうか?

この疑問を解く鍵は、ジャパネットたかたです。この会社は、特に通信販売用の商品を選んで売っているように見えません。売っているのは、通常のナショナル・ブランドです。

でも、テレビ・ショッピングでの高田前社長は、通販の定義通りに延々と商品の説明をしていますよね。これは何を意味するのでしょうか?

実は、ジャパネットたかたは年輩客をターゲットとし、その人たちに商品の活用方法(その商品を買ったら彼らの生活がどのように楽しくなるか)を説明しているのです。通常のナショナル・ブランド品が、年配者には説明が必要な商品であることを見抜いているのです。

たとえば次のような具合です。

「皆さん、42インチの大画面のテレビがリビングに来たら、格好いいでしょう。おたくのリビングが一気に生まれ変わりますよ。素敵なリビングになるんです。それだけではないですよ。大きなテレビがあれば、自分の部屋に閉じこもってゲームをしていたこどもたちがリビングに出てきて、大迫力のサッカーを観たりするようになりますよ。家族のコミュニケーションが変わるんです!」(高田明、「伝えることから始めよう」)

この意味で、ジャパネットは説明が必要な商品を売るという通信販売の王道を行っているのです。その順番が商品ではなく先に客層を決めることからスタートしている点だけが異なるのです。

もう一つの客層を絞る例が、通販生活です。

通販生活は、(株)カタログハウスが発行する有料の通信販売カタログ誌です。身近には売られていない優れた商品を消費者に推薦するというのが基本方針で、電化製品、日用品、衣料品、食料品などと幅広く扱っています。

環境問題に力を入れており、可能な限り環境への負荷が少ない商品を取り扱う方針です。資源の有効活用のため、購入者が商品を長く使えるように手入れの方法や修理への出し方を通知し、メーカーによる修理が出来なくなっても有料で修理部門が修理を行えるようにしています。

良い商品を厳選して消費者に薦めるため、また商品の検査や購入後のサポート、商品の紹介をよりよく行うため、ひとつのジャンルにつき一品の紹介だけをします。商品とは関係のない記事やコラムも誌面には含まれ、「憲法9条」や「核兵器、原発」等の政治問題を取り扱った対論特集が組まれる事でも知られています。

つまり、通販生活はこのような特徴のある有料カタログ誌の購読者を募ることで、自らの主義主張に合った客層を選別し、その購読者が賛同する商品のみを販売しているのです。

通常の中小企業がこれらの例から何を学べるでしょうか?

それは、「何を売るか」の前に「誰に売るか」を定めるのが有効だということです。そうすれば、「何を売るか」は自ずと定まるのです。

これが意味するのは、セレクト・ショップの概念をもっと客層中心にするということです。

例えば、セレクトショップバイヤーへの道では、ショップコンセプトのイメージングが重要だとして、次のようなことを考えるべきだとしています。

  1. どのような商品を提供するか
  2. どのようなお客様に来ていただきたいか
  3. お客様に何をして(与えて)あげられるのか

この本はファッションのセレクト・ショップの運営方法について、かなり踏み込んで書かれています。しかし、この順番はまだ商品中心です。1,2,3ではなく、2,3,1の順で考えるべきなのです。

そうすれば、鉄道ファンの店で、単に鉄道模型を売るだけでなく、ジオラマを設けることや、鉄道写真を飾ってファンが談笑できる場を設けるなどのことを自然に思いつけ、長期的な顧客の囲い込みが可能になるのです。

通信販売のコト売りの差とライフスタイル段階

ここで挙げた、やずや、ジャパネットたかた、通販生活の3社のコト売りの違いを位置付ける視点は、「商品を絞る」、「客層を絞る」以外にもう一つあります。それは、ライフスタイルに合わせた横軸のマーチャンダイジングで述べた、ライフスタイル段階です。

以前に述べたように、人間は次のヤンケロビッチの価値観ヒエラルキーに基づいて行動しています。上から順に意思決定していき、その結果が下のどこかの段階で行動に移す基準となるのです。

  1. ソース(基本的意識、性格):人間には持って生まれた基本的、根源的意識がある
  2. バリュー(価値観):そこから、漠然とした種々の物事に対する、姿勢、価値観が生まれる。
  3. クライテリア(生活基準):こうした潜在意識がベースになり、状況に対しての判断基準、価値基準が生まれる
  4. テイスト(生活の志向、好み、完成):そしてある判断、選択を必要とする事象に遭遇した時に、優先順位の決定を迫られる。こうして「具体的な事象に対する志向、好み、意見、考え方が表出する。
  5. マニフェステーション(生活行動):そして、それらの影響を受けて、実際の行動に結びつく

この見方からわかるのは、通販生活は3のクライテリアの段階で顧客に訴求しているということです。個々の商品を売る以前に、自社のカタログ雑誌を通じて環境意識の高い客層に持続可能な社会を実現しようと訴えているのです。

通販生活が売っているコトは、持続型社会という世のあり方です。そのコトを買ったカタログ雑誌の購読者は、通販生活が進める商品を自然に買っていくのです。

ジャパネットたかたは、年配層に新しい機器の使い方を説明し、生活が楽しくなるというコトを売っています。楽しい生活を実現したいというテイストを持つ顧客に働きかけているのです。

やずやは、もう少しモノに近い下の段階で健康食品の効能というコトを売っています。顧客は健康生活を送りたいというテイストを持つ層です。

このように、コト売りは顧客のライフスタイルのどこに働きかけるかという視点と不可分です。しかも、大量消費に飽きた消費者が購買決定をするライフスタイル段階は、徐々に上方にシフトしています。

コト売りの方法をアドバイスするコンサルタントは、常にライフスタイル段階を意識しておく必要があるのです。

通信販売のコト売り

まとめ

  • 大量生産・大量消費の時代が終わり、消費者に単なる商品(モノ)を提示するだけでは売れなくなって来ている
  • そんな状況の中で、通信販売は大きく成長してきている。その成長は通信販売が顧客の商品を直接提示できず、顧客に商品を買うべき理由(コト)を説得しなければならないというハンディキャップを克服した上で達成されて来ている。ここに、店売りの世界に所属する中小企業が学ぶべきことが多々ある
  • この学びを中小企業にとって有効なものとするには、弱者の戦略である、商品を絞る、客層を絞るという視点からの分析が必要である。また、通信販売に競争するためには、少量販売に徹するという視点も重要である
  • 通信販売の第1段階は、健康食品のように店に置いておくだけでは価値がわからない商品を買うべき理由を「説明」し、顧客の心に火をつける段階である。この段階でのコツは、「どう売るか」ではなく「何を売るか」から考えることである
  • 第2段階は、ジャパネットたかたの年配客のよう客層を絞る「誰に売るか」から考える段階である。「誰に」が決まれば自ずと「何を」が決まってくる
  • 第3段階は、「誰に」をさらに進めて特定の価値基準を持った客層に自らのポリシーに合った商品を売る段階である。この段階では、説得は価値基準のすり合わせで済んでおり、あとは基準に合った商品を選ぶことだけが課題となる
  • これらの3段階は、ライフスタイルのテイスト、クライテリアの段階に対応している。コンサルタントは、コト売りの方法をアドバイスするときには、常にこのライフスタイルの段階を意識し、より上位の段階へ登っていく必要性を意識しておくべきである