高収益部品製造業の管理会計が支えるビジネスモデル


高収益製造業の管理会計の種類は?

部品製造業の管理会計というと、京セラのアメーバ会計、日本電産の事業所制、村田製作所のマトリクス経営などが有名ですよね。これらの企業は、いずれも高収益で有名です。そして、これらに共通するのが飽くなきコストダウンを追求する管理会計です。

では、製造業が高収益を上げるためには、徹底したコストダウンだけを追求すべきなのでしょうか?それ以外の工夫はないのでしょうか?

そんなことはありませんよね? 中小部品メーカーのニッチ市場発見法:「顧客が片づけたい用事」を考える で紹介したように、キーエンスやヒロセ電機のようにコストダウン以外の方法で高収益を上げている部品製造業は多数あります。

そこで、部品製造業が高収益を上げるためにどのような管理会計を採用しているのか、そのパターンを探ってみることにしましょう。

製造業の基本:原価の作り込み

製造業が高収益を上げるための基本は、まず何と言っても、売れる製品を「いかに安く作るか」です。そのため、製品原価の管理に血道をあげるのは当然です。

特に部品は、加工、成型、焼成など技術が異なる工程が長く重なる傾向にありますので、工程別の原価管理を厳しく行うのが普通です。

このための方法が標準原価の管理です。

ここで、標準原価とは、「財貨の消費量を科学的、統計的調査に基づいて能率の尺度となるように予定し、かつ、予定価格又は正常価格をもって計算した原価」であるとされています。

すなわち、その時の自社の技術水準、材料などの仕入れ価格、機械設備の状態、工員の習熟度などを勘案して、「この工程では部品1個あたりの加工がこれくらいの費用でできるべきだ」という標準を定めるのです。

各工程には、この標準価格を目標値として与え、それが実現できない場合には差異分析を行わせることによって、目標達成を追求させます。そして、製品価格の設定時に、各工程の標準原価の合計を参考値として使用するのです。

標準原価がこのようなものであるとして、製造部門の業績評価にはどのような方式があるでしょうか?

一つ目は、標準原価の達成度で評価するというものです。標準原価より安く作ればプラス点を、高くつくればマイナス点を与えるというわけです。(図①-A)

ただし、このコストセンター方式では部門内で作り出した付加価値が評価されず、担当者の意欲が湧きにくいという欠点があります。また、投下資本にかかる費用などが意識されず、トータルなコスト意識が甘くなるという問題も存在します。

これらの問題を克服するために考えられているのが、各部門のプロフィットセンター化です。各部門を、決められた内部振替価格で社内取引させ、利益を管理させるというものです。村田製作所など、製造子会社を数多く作り独立採算性を採用している企業は、この方式をとっています。

この時に問題となるのが、振替価格の決定方法です。振替価格は、品目ごとの標準原価と標準利益を積み上げる方式が一般的です。(図①-B)ここで、標準利益は、通常その部門(工程)に投下されている使用資本に対して求める利益で設定されます。

原価積み上げ方式や振替価格方式は、上流工程から順次原価や価格を積み上げて行きます。価格競争が激しい市場では、この積み上げ結果が市場価格を上回ることもあり、その場合は原価や利益の積み上げを見直すことになります。

それを嫌って、市場が求める価格から振替価格を逆算していく方法もあります。京セラのアメーバ方式が、その代表例です。(図①-C)

後工程が求める振替価格をもとに、自工程の経費や想定利益を差し引いて、前工程に振替価格を提示するというものです。ただし、すぐ考えてもわかるように、各工程が自分の利益の最大化を図ると、この方式は簡単に破綻します。京セラでは、全社員にフィロソフィー教育を施し常に全体最適で考える文化を養成することで、この問題に対処しています。

この市場からの逆算で振替価格を決める方式は、変化対応力に優れているという利点があります。市場価格が低下した場合などに、すぐに後工程が前工程に価格交渉を行い、それが順に上流工程に波及していくからです。

このように、製造部門の業績管理方式にもいろいろあり、各企業がおかれている業界環境や従業員のモチベーションなどを考慮して、どの方式を選択するかを考慮する必要があるのです。

製造部門の業績評価方式

利益獲得のための製造と営業の役割分担

さて、このように原価や振替価格が決まったとして、販売価格をどのように決めたらよいでしょうか?

これは一筋縄では行きません。というのは、次のような対立する考え方があるからです。

  1. 販売価格を決め会社の最終利益を決定するは、営業の仕事である。市場の状況を一番知っているは、営業だからである
  2. 営業に価格決定を任せると、顧客の圧力に負けて値下げしがちである。一方で、価格を下げて操業度をあげると、却って利益が増えるケースもある。そのような利益計算は製造側でないとできない。したがって、価格は製造側で決めるべきである

1の考えに立つ販売価格決定方式が図②のAと Bです。そして、2の考えに立つのが図②のCです。AとBは自明なので、ここでCについて少し説明しておきます。

Cでは、営業が顧客から提示された価格を製造に伝え、それを受けるかどうか両者で協議します。そして必要であれば、営業が顧客と再交渉します。

このようにして決定された価格をもとに得られた売り上げは、製造に帰属します。製造が全体のプロフィットセンターとなるわけです。

この売り上げの中から、製造が営業に口銭を払います。例えば売り上げのX%という具合です。そして、営業は口銭から販売費を引いた残りを、自部門の利益として計上するのです。

電子部品のような価格競争が激しい市場では、もともと厳しい提示価格を製造がギリギリまでコスト計算をして受けるかどうかを決める、というこの方式が合っているのです。

部品メーカーの販売価格決定方式

高収益部品製造業の販売価格決定方式

さて、実際の高収益部品製造業は、どのような販売価格決定方式をとっているのでしょうか?個別に分析してみましょう。

京セラ

京セラは、価格競争が非常に激しい電子部品産業で創業したため、「お客様が値段を決める」という市場価格を前提とした経営を行ってきました。その厳しい市場価格の中で、製造部門がいかに利益を出すかというCの受注生産販売価格方式を、創立当初から採用してきたわけです。

この考えに従えば、営業は顧客と製造をつなぐパイプ役という位置付けになります。顧客と接する営業は、売上をあげるためには後どれくらいコストダウンが必要か、というマーケット情報を製造部門に伝える役割を果たします。

そして営業は、このようにして得られた売上額で評価されます。製造が受け入れられるギリギリの受注機会の獲得に奔走するのです。

京セラは、その厳しい市場価格を製造部門間で連鎖的に伝えるという、独特のアメーバ制を生み出したことでも知られています。これらについての詳しい解説は、アメーバ経営論を参照ください。

日本電産

日本電産は、もともと機能別組織を取っていました。その中で事業所制という仕組みを運営しています。

事業所制では、機能別にも関わらず工場はコストセンターでなく、プロフィットセンターです。営業がとってきた引き合い案件を受注するかどうかは、京セラと同じく、工場が営業と相談して決めます。

ただし、工場には予算枠というものがあるので、採算に合わないからといって受注拒否を続けていると予算を達成できません。必然的に、コストダウンの努力をして受注を増やそうとします。

営業部門に課せられた目標は、利益ではなく売上高と市場シェアの極大化です。営業は工場の予算枠を増加させる引き合い案件をとってくればくるほど、目標の売上高が上がるので、工場が受注しやすい案件をできるだけ増やそうとします。

京セラと同じ、受注生産販売価格方式をとっているわけです。ちなみに、日本電産には「市場価格は神の声」という言葉があるそうです。これも、京セラの「お客様が値段を決める」と非常に似ています。

村田製作所

村田製作所は、社内では振替価格方式をとっています。したがって、営業には工場の利益を組み込んだ振替価格が渡されます。販売価格とこの振替価格の差額が、営業部門の粗利益となり、そこから販売費を引いた分が営業部門の利益となります。

ただし、村田製作所では、この営業粗利を営業部門だけに帰属するものとして捉えてはならないと考えています。製造業では営業部門の固定費は小さいので、営業部門も巨額の製造部門の固定費回収を意識した行動をとるべきだからです。

営業部門が営業粗利率だけに目を向けていると、売上高が伸びずに固定費の回収不足が生じます。逆に営業粗利額だけを重視すると、安値販売に流れて収益性を圧迫します。

そこで、製造と営業部門を合わせた連結の粗利額の最大化を追求する仕組みを作ります。すなわち、営業には次の2つの部分からなる販売手数料を払うことにするのです。

  • 工場の限界利益額に貢献した額から配分する部分:売上高を伸ばせばこの部分の手数料が増加するので、市場シェアが維持され工場の操業度が上がる
  • 営業粗利額から配分する部分:営業粗利額を伸ばせばこの部分の手数料が増加するので、収益の安定化に貢献する

結果的に、営業が製造と直接相談することはないが、常に製造の操業度などまで気を配らざるを得ないという意味で、受注生産販売価格方式の性格も持ったハイブリッド方式で販売価格を管理することになっているのです。

以上のように、価格競争が激しい業界で高収益をあげている3社は、いずれも営業が工場のコストまでを意識しながら会社全体の利益を確保する販売を行なっています。

では、すべての部品メーカーがこのような販売を行なっているのでしょうか?必ずしもそうではありません。その反例をみてみましょう

キーエンス

キーエンスは、生産設備用のセンサーを中心に自動車制御機器、計測機器などを、開発、生産、販売しています。センサーという単価が低く、商品の種類が多いという特徴を持つにも拘らず、ユーザーへの直販を行い、一方で生産はファブレスで行うことにより、高収益を挙げている企業です。

キーエンスの主要製品は、FA向けセンサーです。生産プロセスの中に組み込まれますが、生産設備全体の中では決して高額ではありません。

しかし、その機能が出来上がる製品の品質を大きく左右するため、投資効果が高いという特徴があります。従って、顧客はセンサーの価格を厳しく問うことは少なく、高利益率を上げることができます。

さらに、キーエンスは高利益率を維持するために、競争が激しくなった製品からはすぐに撤退します。その代わりに新製品を出すことを心がけ、営業に顧客の潜在ニーズを発掘し新製品企画につなげるように指導しています。

このためにキーエンスがとっている販売価格管理方式が、原価仕切価格方式です。

まず、キーエンスはファブレスなので製造の利益率管理は仕入れ価格を通して行います。利益率も高いので、製造委託先の操業度などの管理は委託先に任せます。

その代わり、営業に力を入れます。キーエンスの営業の業績は粗利額に近い成果額という指標で評価されます。この指標は売上高よりはるかに厳しい指標です。

というのは、価格を20%値引きした場合、売上高指標では同じ予算達成のために値引き前の125%(1÷0.8)の数量を売れば良いのですが、粗利率が50%とした場合は、利益指標だと167%(1÷0.6)売らなければならないからです。この結果、キーエンスの営業は値引きに対する抵抗力が強くなります。

また、取り扱い製品が次々に新製品に変わる中で、自分が担当する顧客の潜在ニーズを組み上げないと、自分の顧客にあった製品がなくなり、利益を稼ぐことができません。

このようにして、キーエンスの営業は値引きすることなく売る努力をし、しかも新製品企画に勤しむことになるのです。粗利額での評価がキーエンスのビジネスモデル(値引きせず高価格で売る、競争が激しい製品からは撤退し新製品をどんどん開発する)とぴったり合っているのです。

ヒロセ電機

この方式でキーエンスが高収益を上げられるのは、生産財の部品で費用対効果が大きいということが、その一因となっています。しかし製品の部品でも、ヒロセ電機のように高付加価値戦略をとり、競争の激しいところからは撤退する戦略をとっている企業があります。

ヒロセ電機の主力製品は、単価の低いコネクターです。それだけでは、とても高収益が望めないような世界です。

しかし、製品の競争が激しくどんどん軽薄短小化が進む世の中では、それに合ったコネクターの新規開発ニーズが大量に存在します。でも、新規開発製品は売れるかどうかわからず、せっかく開発しても、当初は小ロットの注文しかきません。リスクが高いので、新規開発の引き受け手は少ないのです。

ヒロセ電機は、この隙間市場でリスクを取ることで、新規設計品のコネクター需要を無競争で取り込み高収益を上げています。

ただし、コネクターは構造が単純で、模倣されやすいという性質があります。ですから、製品がある程度売れ出すと、購買担当者が相見積もりを取り、価格低減を要求して来ます。

ヒロセ電機は、この結果ある程度利益率が落ちたら、その製品からは撤退することを決めています。製品のライフサイクルが短くなった昨今では、製品の立上げ時期と成長期の前半の需要の方が、成長期後半以降の需要より大きいのです。ですから、前半の需要を取り尽くしたら、それ以上は追いかけない方が得だという判断をするのです。

設計に対し直販を行い、しかも生産はファブレスというところも、キーエンスと非常に良く似たビジネスモデルです。

ヒロセ電機の販売価格管理方式の情報は入手できていませんが、おそらくヒロセ電機も販売を粗利額に近い指標で評価しているものと思われます。

このように見てみると、販売価格の管理方式とその企業のビジネスモデルとの間に高い相関がありそうだということがわかります。

代表的部品メーカーの販売価格管理方式

まとめ

  • 日本には熾烈な価格競争に勝ち抜いた高収益で知られている部品製造業が多数あり、それらの背後には優れた管理会計システムがある。クライアントをガイドするためには、コンサルタントはそれらに通じておくべきである
  • 製造業の管理会計は、大きく分けて原価をつくりこむ製造部門の業績を評価する部分と販売価格を管理する部分の2つから成る
  • 製造部門の業績評価の代表的なものには、標準原価の管理状況を評価する方式、振替価格を管理する方式、市場価格から逆算した振替価格を管理・評価する方式の3通りがある
  • 販売価格の管理の代表的なものには、原価仕切価格方式、振替価格方式、受注生産販売価格方式の3通りがある
  • 価格競争の厳しい電子部品業界では受注生産販売価格方式あるいはそれに似た方式で営業の売上額を評価するやり方が主流である。一方で、高付加価値を追求するファブレス型企業では原価仕切価格方式で粗利額を評価する方式が多い
  • このように、高収益部品製造業は、自らが選択したビジネスモデルを効果的に支援する管理会計方式を採用している。コンサルタントは、優れた企業のビジネスモデルとそれを支える管理会計の関係を把握しておくべきである