魅力ある店舗は、サービス中心で特定顧客の用事を片付けている(中小食品スーパーの例に学ぶ)


なぜこのお店に来るとワクワクするのか?

今週も食品スーパーの売り上げ向上策からの学びを続けます。

最近、ユニークな店舗づくりで人気を集めている小さな食品スーパーが出てきていますよね。その代表選手が福島屋で、お客様から「福島屋さんに来ると楽しくなる」、「商品を眺めているだけでワクワクする」と言ってもらっているそうです。

その結果、各地のスーパーからの見学が絶えなくなっています。

しかし、福島屋の社長は見学者が異口同音にする質問に違和感を覚えると言います。その質問とは、「品揃えのコンセプトは何か?」というものです。

福島社長に言わせると、品揃えの前に為すべきことがあるそうです。それは、「なぜ、何のために自分はスーパーをこの地域で営んでいるのか」、「自分は何を、どうして売りたいのか」を、しっかりと突き詰めることだとのことです。

これを経営学的な言葉に翻訳すると、「自社のミッションを確立し、それに基づいて戦略を立てろ」と言っていることになります。「品揃え」は、そのあとに来る戦術で、戦略なしの戦術は成功しないと言っているのです。

サービス中心の考え方からすれば、自分が価値を提供する顧客は誰かを考え、その顧客が片付けてほしいと思っている用事は何かを突き詰めるべきなのです。そうなって初めて、顧客はワクワクするのです。

と言うことで、今回はユニークな価値を提供して成功している食品スーパーが、なぜ成功しているのか、そこから何が学べるのか、について検討することにします。

福島屋の顧客と顧客の用事

毎日通いたくなるスーパーの秘密によると、福島社長は商売が上手な人のようです。大学卒業と同時に羽村市にある家業の田舎のよろず屋を継ぎ、それを酒屋に転換して税務署管内で売り上げトップになり、その後コンビニに業態転換しても八百屋を始めても売り上げが伸びる一方だったようです。

食品スーパーに業態変換しても順調だったのですが、売り上げ拡大を狙って立川に本店の3倍の規模の2号店を出店してから問題が起こりました。

競合店も多く馴染みのない地域で、大きな投資をしたにもかかわらず、売り上げが低迷したのです。一円でも安い物を仕入れようと必死で交渉しても、売れるように商品の陳列・並び替えを工夫しても、どれ一つとしてうまくいかなかったのです。

それでも、中には足繁く通ってくれるお客様がいて、「あのメロンは美味しかったよ」などと言ってくれることはあったそうです。ある日、それらのお客様の顔を思い浮かべ感謝の念が湧いてきたときに、発想の転換が起こったそうです。

それまでは、「これを私は売りたい。私がいいと思うんだから買ってよ」という売り手の発想だったのが、「お客様のためにお店をやっているのだから、お客様にちゃんとその商品の良さが伝わるようにしなければならない、手に取りやすくする配慮も必要だ」という発想に変わったのです。そうすると自然に売り場のたたずまいが変わり、お客様が寄ってきてくれるようになったというのです。

なんだか禅問答のようで、これだけではよくわかりませんね。しかし、立川への出店以前はことごとく成功していたのは、生まれ育った土地の顧客のことをよく知っていたからだと考えれば、すべて説明がつきます。

福島社長は、商品をえらぶ目利き力や的確な陳列方法には自信を持っていました。しかし、地元の「顧客に合った」商品を無意識に選んでいたことには気づいていなかったのです。顧客を忘れたために、見知らぬ土地で失敗したのです。

もともと勘の良い人だったので、一旦そのことに気づけば後はうまくいくようになったというわけです。

この気づきの後、福島社長は大手スーパーとの価格競争をすることなく顧客に価値を提供することを徹底的に考えました。当然、大手と同じ顧客価値を提供したのではやっていけません。その結果が、地域密着で安心安全で美味しいものを提供するという経営方針です。

この顧客価値に反応する顧客は、比較的生活に余裕がある層です。したがって、普通の食品スーパーより商圏が広くないと経営できません。

幸いなことに、羽村市の駅前近くはわりに綺麗な住宅地となっています。さらに、多摩西部は車社会なので、生活に余裕のある顧客を遠方から集めることも可能です。

比較的余裕のある顧客層の「安全安心で美味しいものからなる食卓を準備する」という用事を片付けるようになって、福島屋の業績は向上していったのです。

中小が大手との競合を避けるときにまず考えるべきことは、客層を絞ること、その客層の用事をマスを対象とする大手では実現できない方法で片付けることなのです。

この用事の片付け方を具体的に考えてみましょう。

自分の用事が片付くと顧客はワクワクする

生活に余裕のある顧客に、安全安心で美味しい食材を提供するという経営方針をもとにすれば、その実現方法は自然に決まっていきます。マスを対象とする大手が苦手とすることをやれば良いのです。

この見地から福島屋が実践していることをまとめると、次のようになります。

  • それぞれの地域の顧客が何を美味しいと思うのかを一番知っているのは、売り場担当者である。したがって、専門のバイヤーでなく売り場担当者に仕入れ・加工を任せる。このことにより、地域に出回っているが量が少ない旬の食材の仕入れなども可能になる
  • 仕入れ担当者の目利き力を養成するために、鮮魚、肉、野菜などの担当分野間の配置転換はしない。店は、公設市場のような専門店の集まりとする
  • 安全安心のために、独自の品質基準を設け発信する。加工食品は添加物の種類と量によって、安全、推奨などの三つの色分けしたシールを貼る。植物は、硝酸態窒素の含有量を自主的に検査し、合格したものだけを店に出す
  • 自然栽培や手作り加工の美味しいものを店頭に並べるために、産地を開拓し直接取引する。量がないものに対しては品切れを厭わない。日持ちのしないものは予約販売制とする
  • 仕入れた食品の背後のストーリーを手作りのPOPで丁寧に説明する。棚には目利きした担当者の名前を入れる
  • 常連客の地元の主婦に品揃えや棚作りを任せる

これらは地道な作業の積み重ねで手間がかかることばかりですが、一旦方針を決めてしまえば決して実現が難しいことではありません。一方で、大手にはほぼ実現不可能なことなので、差別化は容易となります。

このような作業の結果作られたお店は、安心安全で旬のものや珍しいものが並んでおり、ちょっとこだわりのある顧客にはワクワクするものとなるのです。これが、品揃えコンセプトより先に戦略が必要だということの意味なのです。

当初は地域の顧客に安全安心で美味しいものを提供することで始めた福島屋ですが、時代が変わり安全安心な食へのニーズが顕在化してきた昨今では、比較的裕福な層に広くアクセスできる六本木などの都心にも進出を始めています。

要するに、地域を絞って提供し始めた顧客価値が同種の顧客に広く認識されるようになり、広域展開ができるようになったのです。

福島屋と似たようなコンセプトで大々的に展開している米国の有機農産物中心のスーパーマーケットとして、ホールフーズ・マーケットがあります。

10年くらい前のテキサス州オースチン滞在中に、カロリーの高い外食に飽きて、ホテルの自室でワイン片手に手軽に食べられるものを探してぶらぶら歩きをしていました。その時にたまたま本店を見つけたのですが、写真でもわかるように、「良いものが選べそうだ」とワクワクする店内でした。

ホールフーズ・マーケットの詳細については、有機農産物の流通とマーケティングを参照ください。

成城石井の高品質戦略

成城石井は、ご存知のように成城学園の駅前を発祥の地とした品質の高いものを提供している食品スーパーです。このお店が現在の戦略をとるに至った経緯は福島屋とは少し違っていますので、それを紹介しましょう。

成城石井はもともと成城学園の駅前の食料品店でした。果物を中心に酒、グローサリー、菓子などを扱っていました。

60年代半ばに日本でもスーパーマーケットが台頭してきたころから、スーパーマーケットへの業態転換を考えていたそうです。そこに、1965年に成城学園の駅に小田急がスーパーマーケットを出店するという事件が起きました。

このような状況下で1975年にスーパーマーケットをオープンしたので、最初から大手への対抗策をとことん考えざるを得ませんでした。競合する小田急のスーパーは成城石井の4倍以上の面積を有するので、正面衝突では敵わないからです。

その時に考えたのが、福島屋と同じ地域密着ということです。大手のスーパーは規模が大きいですが、どの店も同じ品揃えにせざるを得ないので、必ずしも成城の顧客に合うような商品を置いているわけではありません。そのことに突破口を見出したのです。

成城石井がとった戦略は、小田急との共存です。食品スーパーの本来のワンストップ機能は捨て、所得の高い成城という街の特性に合う、品質の良いものだけを扱うとことにしたのです。

長年成城で営業してきて、贈答品の果物などの要求品質などで成城の顧客をよく知っている、という強みに賭けたのです。

この戦略は、顧客層を絞りすぎ商圏が広くないと成立しないというリスクがあります。ところが、類似の店がなくしかも駅前に立地しているため、小田急沿線の経堂や下北沢からだけではなく東京中から広い範囲の顧客を集めることができ、難を免れることができたのです。

成城という地域の顧客に絞ったつもりだったのが、福島屋と同じように、結果的に富裕層という客層を絞った戦略になったのです。

富裕層相手の食品スーパーが成立するということがわかってしまえば、具体的にとるべき戦術は、以下のように明快になります。

  • すべて一級品を扱うので、売り場は専門店の集合とする。たとえば、果物売り場は、千疋屋総本店や新宿高野の社員が見ても「しっかりしたものを売っている」と思ってもらえるようなものにする。食肉も熟成してから売る
  • お金持ちはケチ(モノの値段をよく知っている)なので、高級なものをリーズナブルな価格で売る。ワインなどの直輸入品の品質管理を行い、少量でも安く仕入れるために、専門商社も設置する
  • 顧客の食卓に届くまでを責任範囲とする。レジは速くし、荷崩れがしない袋詰めを店側で行う
  • 富裕層と言えども主婦が社会進出する変化を先取りし、シェフがプロデュースする高級な惣菜を用意する
  • ハイクラスな顧客に商品を販売する店は、巨大化しても売り上げが上がるわけではない。そこで、バックヤードを集中化したセントラルキッチンを作り、都心での小さな店の展開を可能にする

これを見ると、いろいろなところの考え方は福島屋に似ていて、さらにその高級版を目指している、ということがわかります。

「さいち」の”結果的”地域台所戦略

福島屋や成城石井のように大手と際立った差別化をしている別種の食品スーパーの例として、これも有名な仙台市の秋保温泉にある「さいち」があります。

さいちの戦略も地域密着ですが、対象地域が過疎化の進んでいる温泉町だという点が、上記の2社と大きく異なります。

さいちの前身も福島屋と同じ田舎のよろず屋でした。旅館や地元客に配達商売をしていましたが、掛売りのため資金繰りに苦しんでいました。

なんとか現金商売をしたいということで、栃木のスーパー「ダイユー」の手取り足取りの指導を受けて、1979年に食品スーパーに業態転換しました。ということで、成城石井とは異なり当初は明確な戦略があったわけではありません。

差別化の原点は、開店から1年ほどあとに惣菜を作り始めたことにあります。ただ、これも戦略的なものではなく、チラシで集客しても他店との顧客層争奪合戦で利益が出ないので、他店でやっていないものをやってみようという苦し紛れの策でした。

当時は、スーパーマーケットはアメリカから入ってきた業態で、「なるべく人を使わずに合理的にやる」という先入観念がありました。惣菜は調理の手間がかかり、売れ残るリスクもあるので、誰もそれを売る商品として考えていなかったのです。

さらに、当時はご飯のおかずは主婦が作るのが常識で、惣菜を買って帰ると手抜きだと批判されるような時代でした。

ところが、苦し紛れにそれらの常識に逆らったところ、意外に手応えがあったという訳です。それどころか、顧客の要望に応え続けているうちに(有名なおはぎを含む)惣菜部門が売り上げの5割を占めるようになってしまったのです。

最初は、海苔巻き1本を四つに切ってパックに入れる、おにぎりを1個か2個のパックにするなどのことをしていたら、すぐに売れてしまったそうです。また、長い大根の漬物を短く切ったり、大きな豆腐を半分や4分の1に切ったりすると、ポンポン売れたとのことです。

顧客がなんらかの利便性を求めていることがはっきりした訳です。特に地域柄高齢者が多く、その要望に応え惣菜を作り続けている間に、料理を作る手間が大変、量は食べられない、などのニーズが顕在化していったのです。

このような経験を通して、次の「さいちの3つの心」を守ることにより、レパートリーが500種類超、店頭には常時300種類が並ぶという状況になったのです。

  1. どの家庭の味よりも、さらに美味しいこと
  2. 毎日食べても、飽きがこないこと
  3. 時間が経っても、そのおいしさが失われないこと

この原則を守っているうちに、売り上げは地元客が4割、観光客や地元以外が6割となって、商圏が拡大したのです。また、次のようなノウハウが蓄積されていきました。

  • ライバルは家庭の味なので、特に変わったものではなく地元で食べ続けられている食材を使い、防腐剤や化学調味料は使わず、安全安心を守る
  • 朝、昼、晩と求められるおかずは異なるので、それに合わせて惣菜も出す時間によって変えていく
  • 家族構成によってほしい量が違うので、それぞれ大中小の3種類用意する
  • 商品を切り替える時間の前でも、売り切れてしまえばすぐに別のものを出す
  • 売り切れていて、顧客に「いつものないの?」と言われれば、すぐに調理する

このような大量の惣菜を作り続けるためには、人材育成も重要ですが、ここでは経験者ではなく地元の主婦を育成していることを言うだけに留めます。

元気のある中小食品スーパー成功の鍵は地域密着で客層を絞ること

以上の検討からわかることは、元気のある中小食品スーパーは、皆地元の顧客に密着して、そのニーズをとことん突き詰めて考えることからスタートしているということです。

ここで、地元密着とは、地元の顧客のニーズを全て吸い上げるということを意味してはいません。自分がよく知っている地元の特定の客層のニーズ(顧客の用事)に集中し、その用事を片付けるための大手が真似のできないキメの細かいサービスを徹底することを指しています。

そのサービスが洗練されて顧客価値が明確になるにつれて、それが口コミで伝わり、地元以外の顧客も引き付けるようになっていくのです。

上記の3社について、この観点からの地元密着方法をまとめると、次の図のようになります

地域密着戦略

まとめ

  • 最寄り品である食品でも、中小企業が大手との差別化を計る戦略の基本は地域密着である
  • ここで地域密着とは、地域の顧客のニーズを全て吸い上げることを意味しない。それとは逆に、地元の特定の顧客層のニーズ(用事)に集中し、その顧客の用事を徹底して片付けるサービスを提供することを指す
  • この方法は、マスにサービスを提供する大手には決して真似ができないので、差別化が容易となる
  • この価値は顧客にもわかりやすいので、サービスが洗練されるにつれて、口コミで地域外の顧客にも伝わり、徐々に商圏が拡大する
  • 食品のような毎日買う最寄り品でも、顧客の用事から考える戦略は有効である。このことからもわかるように、サービス中心の考え方は中小企業の売り上げ向上策立案に必須である