V字回復成功の経営者:成長企業の経営者のリーダーシップとどこが違うのか?


なぜ企業の衰退を止められないのか?

もしある企業で突発的な事件がいきなり起これば、それに対して社員は瞬発力を持って反応することができます。しかし毎日毎日、少しずつ、10年、20年の単位でジワジワと進む老化現象に対して、人々は鋭い反応を示すことはできません。

惰性に流されながら長い年月をかけて、少しずつ衰退の道をたどるのです。日本企業は、そのプロセスのどん詰まりまで追い詰められたことが分かってからも、依然として変化の対応が遅いのです。

これが米国であれば、良し悪しは別として話は簡単です。経営者が入れ替えられ、新しい経営者の方針についていけない社員は会社からの退出を迫られます。

しかし、多くの日本の経営者は、既存の枠組みを大きく壊さない範囲の改善に取り組むことを選んできました。高度成長期に成功してきた改善というパラダイムと危機感の薄い中高年社員を抱えた日本型雇用システムに執着してきたのです。

長い期間にわたって組織体質を変えることができず、低迷する業績にあえいでいる企業が存在するとき、私たちが認識すべきことは何でしょうか?それは、「同じ人々が、同じ会社で、同じような行動パターンを続けていて会社を変えることは不可能だ」ということです。

そうだとすると、衰退から脱却する道は一つしかありません。「同じ考え」に染まっていないリーダーに経営を託することです。

こう書かれてくると、誠にその通りだと思われる方も多いことと思います。実は、ここまで書いてきたことは、V字回復の経営という本に書かれていることを、論旨の順を変えて組みたて直したもので、企業変革の経験者にはよく知られていることです。

ですから、変革をどう実行するかの答えは、その本の先を読んでいただければ書いてあります。そして、それはそれで結構参考になります。

ただ、この本にはひとつ欠点があります。企業変革のコンサルタントが自らの体験をまとめたものなので、職業倫理上、事実が書けずストーリー仕立てとなっているということです。

そのため、あまりにも理想的に事が運びすぎてしまい、企業変革の経験者が読むのでもない限り、絵空事のように見えてしまうのです。

そこで、実際のV字回復の事例から、改革に必要なリーダーシップとはどのようなものなのかを分析し、そこから実用的な教訓を引き出すことにしましょう。

ザ・ラストマン:日立の改革

ザ・ラストマンとは、2009年3月に最終損益7000億円の赤字を出した日立を、過去最高益を出すまでに立て直した川村隆氏の座右の銘です。沈みかけている船を最後まで何とか立て直そうと責任を持つ船長を例えたものです。

私の学生時代は、工学部の学生はこぞって日立に就職したがりました。私自身も、国分寺にある中央研究所の見学に出かけ、こんなすごいところで研究できたら、と思ったことを覚えています。

そんな超優良企業の日立が次第に輝きを失い、ズルズルと就職ランキングを下げて行くのを、複雑な思いで見守っていたものです。でも、まさかそこまでの大赤字を出すとは予想もしませんでした。

この非常時に、子会社の日立マクセルに6年前に転出していた69歳の川村氏がCEOとして呼び戻されたのです。日立本体で副社長を務めたエリートとはいえ、すでに上がりのポストでリタイア直前でしたから、異端のリーダーの選出です。

川村氏は、自らをカリスマ型にリーダーではなく、「意志決定したことを実行する」という当たり前のことをきちんとやって成果を出していくタイプだと言っています。だからこそ、普通の人間が川村氏の成功に学べることがいっぱいあるはずです。

川村氏が最初に心がけたのが、改革のスピードです。「大抵の改革はスピードさえあれば何とかなる」というのが川村氏の信条です。

スピードを持って改革していれば、あとで経営判断に誤りがあることが分かってもすぐに撤退でき、修復できます。また、決断して実行するまでに時間がかかると、反体勢力に根回しされ、改革を断念せざると得ない状況に追い込まれることもある、というのがスピードを重視する理由です。

それまでの日立は、「日立時間」という言葉で揶揄されるほど意思決定が遅く、それが衰退の大きな原因でした。そのため、5人の副社長を選任し、6人で全てを決めることにしました。そもそも「全員を満足させること」などできない、と割り切ったのです。

その体制で取りかかかったのが、再生策の策定です。ここで、川村氏はどんな会社でも緊急時を切り抜ける方法は同じだと言っています。それは次の2つの原則を守ることです。

  • 出血を止める
  • キャッシュを生む事業を見つける

この原則に沿って戦略を立てていったわけですが、川村氏はそのとき注意すべきことがあると言っています。業績が悪化すると、経営者はどうしても出血を止める方だけに意識がいってしまうが、それだけでは現場の士気が落ちる、前向きな改革も「同時に」行う必要がある、ということです。

川村氏は、これを「近づける事業と遠ざける事業を決める」と表現しました。大きな改革には、このようなわかりやすいキャッチフレーズも必要だということです。

詳細は省きますが、川村氏の戦略の大きな部分は以下のようなものでした。

  • 通常のコストカット以外に隠れた出血を止める。日立には多数の黒字の上場子会社があり、その利益が少数株主に流出しているのを出血と捉え、子会社を完全子会社化して本体に統合する
  • 日立は非常に多数の事業がある巨大複合企業なので、その事業をマクロに捉える。スマイルカーブの上流、中流、下流に分け、中流の組み立てを捨てる。すなわち、上流と下流に集中する「社会イノベーション事業に集中する」という方針を定める

このような戦略を立てきちんと実行していったことで、川村改革は成功したわけです。川村氏は、この「意思決定したことを実行できる」ためには、次の5つのプロセスを踏むことが需要だと言っています。

  1. 現状を分析する
  2. 未来を予測する
  3. 戦略を描く
  4. 説明責任を果たす
  5. 断固、実行する

このプロセスは誰でも思いつく簡単そうなことだが、実行は難しいものです。とくに、1から4までは評論家や学者でもできるが、5までを徹底してやりきることができるかが、ラストマンになれるかどうかの境目だと言っています。

ここで、1で現状をきちんと把握する、4で人を巻き込むためにきちんと説明をする、その上で5で断固実行する、という点が危機的な状況からの脱出には特に重要です。

この川村氏の改革方法からは、非常に多くのことが学べます。というのは、自らの方法がきちんと説明されているとともに、他のV字回復経営者の方法と共通することが非常に多いからです。

そのことを、確認していきましょう。

V字回復経営者のリーダーシップの共通点

ここでは、文献に記述されているユニークなV字回復経営者の方法を川村氏と比較してみることにします。比較対象は、以下の4名です。

  • DOWAホールディングス吉川氏:旧態依然たる老舗の鉱山会社を、物理的な壁、組織の壁などをトップダウンで壊すことにより、7年で経常利益を10倍にした(壁を壊す
  • コマツ坂根氏:2000年のITバブル崩壊、2008年のリーマンショックの2つの危機を乗り越えコマツのグローバル経営を確立した(ダントツ経営
  • 大和ハウス工業樋口氏:売上高の2倍の債務を抱えていた子会社を立て直し、その後不振に陥っていた親会社との統合を果たし売上高1兆円企業を作り上げた(熱湯経営
  • 信越化学金川氏:浮き沈みの激しい素材産業で少数精鋭で運営する高収益企業を作り上げた(社長が戦わなければ会社は変わらない

比較の枠組みにはパートナー型コンサルタントがリーダーシップ論を理解すべき理由で述べた、次のリーダーシップの構成要素を使用します。

  • ビジョン: 進むべき方向を示す
  • 変革への挑戦: ビジョン実現のための取り組みを始める
  • 信頼: リーダーの言行が一致していることを信じさせる
  • エンパワーメント: 社員の自発的行動を奨励する

さらに、ビジョンはビジョン経営成功の隠れた鍵は、経営者の価値観で述べた3つの細分要素から成るものとします。

  • 有意義な目的
  • 明確な価値観
  • 未来のイメージ

この枠組みで比較して見てわかるのは、各社長の考え方が非常に似ているということです。危機管理には定石があると言っても良いくらいです。

以下、そのことを詳しく見てみましょう

ビジョンの比較

ビジョンの最初の構成要素である「有意義な目的」は、上述の各氏の紹介のところに述べた通りです。通常の成長企業に見られるビジョンと違うのは、金川氏を除いては、会社が追い込まれた状態で、本人の意思ではなく選択をせざるを得なかったというところです。その点が成長企業とは異なっています。

明確な価値観で共通するのは、次に示すように、これまでの慣行を改め痛みを伴う改革の指揮を引き受けるのはリーダーの仕事だという覚悟と、一旦それを引き受けたら最後までやり抜くという徹底力です。V字回復は時間との勝負なので、この点は特に重要です。

  • ザ・ラストマン(川村氏)
  • 痛みを伴う改革を実行するのがリーダーの役目(坂根氏)
  • 悪い常識を覆すのが社長の仕事(金川氏)
  • べき論はいらない、やりぬくことこそ仕事(吉川氏)
  • 凡事徹底(樋口氏)

未来のイメージにも、共通点があります。追い込まれた状況でも、コストカットなど後ろ向きの施策だけでは社員が萎縮するので、将来に向けた前向きの施策を同時に示すべきだという点です。

  • 近づける仕事と遠ざける仕事(川村氏)
  • 事業構造改革と合理化を同時に発表(吉川氏)
  • 成長とコストの分離、大手術は1回きり(坂根氏)
  • 人減らしはしない、本来のリストラクチャリングをやる(樋口氏)

変革への挑戦

ここでも各氏はスピードを重視する、データに基づいて現状をきちんと分析する、という点で共通しています。出血を止めるところを間違えると、それこそ命に関わるからです。

  • 大抵の改革はスピードさえあればなんとかなる。最初のプロセス、「現状分析をする」をしなければ何も始まらない。分析するために必要なのはただ一つ、データである(川村氏)
  • 一つのことをやりぬくには客観的なデータと、綿密な計画と勝算と情熱と覚悟が必要になる。当社の目的は「まったく新しい会社に作り変えることで」ある。そのためにはまず徹底的に破壊し、次に大胆な創造を断行する。しかもゆっくりではなく、スピードを上げて実践する(吉川氏)
  • 見える化できれば打ち手もはっきりする(坂根氏)
  • スピードは最大のサービス。現場主義(樋口氏)
  • スピードが市場を制する。会社を変えられる人の条件として大切なことはまず会社をどうするのかという目標をはっきりと持っていること、そして現状を正確に判断できること(金川氏)

信頼

この点に関しても、もともと少数精鋭で運営している金川氏を別にすると。徹底的な情報公開と、改革の内容を説明して回る姿勢が共通しています。コストカット、人員削減などの後ろ向きの施策が伴うので、社員の納得度が大きくものを言うからです。

  • 説明責任は、相手を納得させるところまでできて、初めて果たしたと言える。そのために「タウンホールミーティング」と称して現場の社員とコミュニケーションをとる場を設けた。国内だけではなく、海外の事業所にも出向いて部課長クラスを中心に20-30人集めて、直接、話をするようにした。私と社長の中西と手分けして、ヨルダンで集会を開いた後はサウジアラビアに飛ぶ、という感じで世界中を飛び回った(川村氏)
  • 労組に対してデータを「包み隠さず開示して良い」と指示して、労使協定を成立させた。それに合わせて事業構造改革の推進部隊が全国の工場や関係会社を行脚した(吉川氏)
  • 子会社に出ていた8年間に6000人余りの新しい社員が入っている。元専務だといっても、私を知らない社員も多い。顔を見せ、肉声を聞かせ、ビジョンを語る行脚を始めた。支店が全国67ヶ所、工場が13ヶ所。旅程を考えると、1日1ヶ所では間に合わない。3ヶ月間の股旅に出た(樋口氏)

エンパワーメント

最後の社員の自主性の喚起については、末端の社員ではなく、やる気のある将来のリーダー候補を抜擢して、大きな仕事を任せるという点で、これまた各社共通しています。これも、一刻も早く改革のリーダーを輩出する必要性があるからでしょう。

  • 健全な競争がラストマンを生む(カンパニーに全権を委譲して競争させる)、日立流タフアサインメント(現在求められている成果や能力を超えたポジションを与えることで、成長を促す)(川村氏)
  • 54歳の後任社長。社内スカウト制、FA制、評価基準を明確にした年俸制の導入(吉川氏)
  • 36歳の支店長の登用、社内FA制、支店長公募制の導入(樋口氏)
  • 評論家よりもプロモーターに仕事を任せる。年功序列からから実績主義へ移行。100の力の人に200の仕事を与える(金川氏)

変革リーダーシップの比較

まとめ

  • 日本企業には、長い間緩やかな衰退を続けていても、高度成長時の成功体験である改善と日本型雇用システムから脱却できず、抜本的な対策を取れずにいる企業が多々ある。その状態から抜け出す鍵は、その企業の悪しき常識に染まっていない異端のリーダーに経営を任せることである
  • 数は少ないがV字回復を遂げた企業をビジョン経営のフレームワークに沿って分析すると、その改革を率いた異端のリーダーの思考が驚くほど似ていて、次に示すようなV字回復の定石のようなものが存在することがわかる
  • 危機から脱出するために求められることとリーダーたちの価値観が一致している。V字回復に成功するリーダーは痛みを伴う改革の指揮を引き受ける覚悟と、一旦それを引き受けたら最後までやり抜くという徹底力を有している
  • リーダーたちは、危機から脱出するための後ろ向きの施策だけでは社員の気持ちが萎えることを知っていて、前向きの施策とセットで改革を進めている
  • V字改革リーダーは、スピードと現状データの把握を重視する点でも共通している。スピードが遅ければ抵抗勢力に息を吹き返す機会を与えるし、データを間違えれば出血を止める箇所を間違えて命取りとなるからである
  • 後ろ向きの施策を遂行するためには、その必要性に対する従業員の理解が不可欠である。そのため、リーダーたちは現場の隅々にまで改革の内容を説明して回る努力を怠らない
  • リーダーたちは、改革を加速するために、やる気のあるリーダー候補を抜擢し大きな仕事を任せて育てることにも共通して熱心である
  • 以上のように、V字回復リーダーは危機からの脱出という共通目標を持っているために、一般の成長企業を率いて成功しているリーダーよりも共通点が多い。そして、その一つ一つは、むしろ当たり前のことである。危機からの脱出のために本当に必要なことは、嫌われ役を引き受ける覚悟と抵抗を押し切って改革を遂行する徹底力である。