「サービス中心の顧客価値」と小売業の「業態」の関係


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なぜダイエーは消滅したのか?

最近、かつてのダイエーの旗艦店で「日本型スーパーの象徴」と呼ばれた碑文谷店の「イオンスタイル」への改装が話題になりましたね。栄華を極めた総合スーパーの時代が去った、とメディアも感慨深げに報じていました。

筆者が住む地域でも、ずいぶん前に駅前のイトーヨーカ堂が店仕舞いし、しばらく前にマンションに建て代わりました。少し離れたところにあるイオン・モールも閉鎖され、大きすぎて解体できない(?)巨大な廃墟が出現しています。

一方で、工場が田舎に引っ越して行った跡地に、ヤオコーやMr. Maxが進出しています。工場の跡地なので駅からは離れていますが、それらの駐車場は土日には満杯で盛況です。

これらの、いわゆる「スーパー」の栄枯盛衰の原因は何でしょうか?スーパーは我々が消費者としてよく知っている形態なので、それを最初の題材として先週挙げた「サービス中心の顧客価値」へのパラダイム変換の重要性を詳しく検討してみましょう。

 小売業の業態と社会的機能(=顧客が片付けたい仕事)

ダイエーがなぜ衰退し、ヤオコーなどの食品スーパーがなぜ元気かという問題を議論するためには、まず小売業の「業態」を整理しておく必要があるでしょう。

日本スーパーマーケット原論によれば、小売業の業態は「営業の形態」を指すものだということです。これではわかりにくので食堂(レストラン)の例を挙げると、ファーストフード、ファミリー・レストラン、ディナー・レストランなど、営業の形態の違いを示す業態があります。

小売業で業態が問題になる理由は、次の3つです。

  1. 不特定多数の顧客を対象にする商売である
  2. その顧客に店舗という不動産を通して接する
  3. 営業の成否が店舗の立地に大きく左右される

不動産を介して商売をするため、自己投資であろうと借用(20年契約が普通)であろうと、投資の回収に長時間がかかります。そのため、長い時間変わらない人間の社会的行動の基本的部分に焦点を当てた営業を考える必要があるのです。

ボウリング場という業態がごく短期間しか成立せず投資を回数できなかったことを考えれば、このことの重要性がわかるでしょう。

このように業態というものが存在する本質的理由には長期安定性があるわけですが、もう一つ考えるべきことがあるそうです。それは、顧客のニーズやウォンツに対する総合性、提供するサービスのワンセット性です。

ある動機や目的でやってきた顧客に、関連するひとまとまりの商品やサービスを提供するために総合化し、ワンストップショッピングを可能にすることで、消費者に長期間受け入れられるということです。

歴史を遡って自然的に発生した店舗を考えれば、当初は商品や原材料の供給ルートに制限があったと考えられます。こうした、ある限られた商品を売るだけ、限られた食事を提供するだけ、素泊まり、などの限定したサービスを行っていたものを「業種店」と呼びます。

供給ルートの発達に従って、これら業種店が、顧客の立場に立ってより大きな満足を提供する方法を工夫し、サービスのワンセット化を図るようになります。このように発達したものを「業態店」と呼ぶのです。

この定義をもとに小売業の業態を整理してみると、次のように分類できます。

百貨店

小売業にとって歴史上初めての業態店は、1852年にパリに生まれたボンマルシェで、ここに百貨店という業態が出現しました。(「デパートを発明した夫婦」参照)

百貨店は、買い回り品を中心に良いと思える商品を何でも揃え、定価販売、現金販売、品質保証、返品自由、という営業原則で販売する最初の大規模な近代的小売業として登場したのです。

百貨店の社会的機能は、都市の買い物中枢として、その都市の他の小売業を超える品揃え、品質、サービスを提供することです。その結果、レジャーに近い買い物体験を提供しています。

この機能を果たすために、結果的に百貨店は次のような姿をとることになります。

  • 都市の中心部に立地、あるいは広大な駐車場施設などにより、自ら都市の中心部を作り出す
  • その都市の購買力が許す限りの最大の規模をもつ
  • ファッション性のきわめて高い衣料や、高級・高額商品に重点をおく
  • 他の業態を超えるサービスを提供しようとするので、結果的に対面販売となる

歴史的に先行した百貨店のこのような機能は、非常に大まかなものです。それゆえ、その後の歴史の中で、次に述べるようなより専門化された業態が出てくるにつれて、その機能が剥奪されていく宿命にあります。

スーパーマーケット

スーパーマーケットは、1930年に現在も存在するクローガー(当時はグローサリー(商品雑貨)チェーン)に勤めていたマイケル・カレンによって始められました。

アメリカでは、当時すでに現金払い・持ち帰り、食品を組み合わせたワンストップショッピング、セルフサービなどの手法が確立されており、それらを取り入れたチェーン・ストアが普及し始めていました。その代表選手はA&Pで、A&Pが運営するエコノミーストアは1929年には15,400店舗に達していました。(R.S. デドロー、「マス・マーケティング史」)

一方で、当時の社会状況は前年の大恐慌により、庶民の可処分所得は激減し、企業は在庫処分に四苦八苦している状態でした。

この時カレンは、店舗を従来の常識をはるかに超えて大型化し、さらに大規模な駐車場を設けることにより、大量に顧客を集めることを考えました。大量販売により商品の回転率を高め、その利益を破壊的な低価格で消費者に還元することに成功したのです。

これが爆発的に成功したのを受けて、A&Pも小型のエコノミーストアをスクラップし、急速に大型のスーパーマーケットに転換していきました。

(この辺のことをうまくまとめたアメリカのスーパー誕生という記事がありましたので、紹介をしておきます。写真などもあり、当時のアメリカの事情を知ることができます)

このように内食材料の食品の調達をワンストップかつ低価格で実現するという社会的機能を果たしたのが、スーパーマーケットなのです。つまり、スーパーマーケットとは、本来は食品業だったのです。

食品はほぼ毎日購入する最寄り品ですから、スーパーマーケットは百貨店とは違い顧客の居住地近くに立地し、小商圏を対象とするのが本来の姿です。

ゼネラル・マーチャンダイジング・ストア(GMS)

スーパーマーケットの社会的機能は内食材料の提供ですが、消費者の立場から見たとき、そのような買い物だけでは日常生活は成り立ちません。肌着などのように、もっと購買頻度が低い日常生活での必需品が存在します。

そのために存在するのが、ゼネラル・マーチャンダイジング・ストア(GMS)です。その社会的機能は、食品より回転率の低い生活必需品(日用品)をワンストップで提供することです。

したがって、ゼネラル・マーチャンダイジング・ストアは、次のような特性を持ちます。

  • スーパーマーケットより広域な商圏を対象にした立地
  • 同様にスーパーマーケットより規模の大きい店舗
  • 衣・住中心の品揃え

コンビニエンス・ストア

コンビニエンス・ストアの社会的機能は、それが存在しなかった時の状況を考えてみればわかるでしょう。

スーパーマーケットやGMSが大型化して発展しましたが、小回りのきく買い物には非常に不便でした。少しのものを買うのに店の中を歩き回らなければならず、レジで大量の買い物をしている人の後ろで待たなければならないからです。

街の酒屋なども、専門化しておりワンストップシッピングには不向きで、しかも衰退していきました。

そのような状況の中で「ちょっとした買い物をする」という社会的機能を果たしたのがコンビニです。商品数は少なくてもワンストップで、いつでも開いているという利便性が評価されたわけです。中食の提供などで、学生や単身者などのニーズも満たしています。

当然、その商圏は極小となります。

その他の業態

ある買い物行動を軸にしたワンストップ可能な、永続性のある小売店という考え方からすると、ドラッグストア、ホームセンター、家電量販店、スポーツ用品店などが、買い物行動としての独立性が高く、業態として成立しています。

以上に述べた代表的な業態の比較を図にまとめておきます。

小売業の業態

どの業態にもマッチしない日本型総合スーパーとは?

以上の業態の定義を見ると、ダイエーなどの日本型総合スーパーと呼ばれてきたものが、非常に不思議な存在だということがわかるでしょう。

多層階の大きな店の中で、本来商圏のサイズの異なる食料品も衣料品も、さらには電気製品まで売っています。一方で、何でも揃うと言っても、百貨店のように良いものを集めているわけでもありません。

また、鉄道駅の駅前に立地するなどで、商圏を広くとり大量の人を集めることを狙ってきました。小売業として顧客の特定の購買行動に合わせて立地してきたとはとても考えられません。

それにもかかわらず、ある時期非常に成功しました。

この成功を唯一合理的に説明する方法は、それらを戦後の高度成長期にのみ合致した形態だと捉えることです。消費者の需要が旺盛で、しかも供給がそれに追いついていない時代に、比較的安い価格で商品を大量に売るという営業形態が、たまたま成功した時代があったということです。

その時代が過ぎ去り消費者が成熟すると、消費者は自らのそれぞれの消費行動に一番合った店を探すようになります。その時に、日本型総合スーパーは消費者が目指す行き先とはならなくなったのです。

それが、ダイエーが消滅した理由なのです。サービス中心で「顧客の仕事を片付ける」という価値を提供していかなければ、売り上げを永続的に上げ続けることはできないのです。

まとめ

  • 「スーパー」は誰に取っても馴染みのある小売業の一形態なので、顧客価値を考えるための良い教材となる。とくに。かつて大成功したダイエーなどの「総合スーパー」が消えていき、その逆にヤオコーなどの小型スーパーが元気である理由を探れば、売上を上げ続けるために何が重要かの教訓が得られる
  • 小売業は店舗という不動産投資を伴うため、長期間安定的に売り上げを上げ続ける必要がある。このために本質的に必要なことは、消費者の買い物目的(顧客が片付けたい仕事)に合わせたワンストップの購買支援であり、この工夫をして生き延びてきた営業形態を「業態」と呼ぶ
  • 小売業の代表的な業態には、百貨店、スーパーマーケット、ゼネラル・マーチャンダイジング・ストア、コンビニエンスストア、などがある
  • 日本型の「総合スーパー」は、これらの業態の定義には合致しない。消費者の購買行動に合わせて設計されたというよりは、高度成長期の旺盛な消費者需要に合わせて大量販売を目的とした、一過性の形態と考えるべきである。したがって、それが合う時代が過ぎ去ると衰退するのは必然である
  • このように小売業をマクロ的に眺めても、「顧客の仕事を片付ける」というサービス中心の顧客価値を提供することの重要性が理解できる