究極の業務改革は「上流」でのWhatの会話の仕組みづくり (調達改革の事例をもとに)


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業務改革でなぜ「上流」に行くことが重要か?

営業改革でもシステム開発改革でも何でも「上流に行くことが重要だ」とよく言われます。感覚的にはそうだと思っても、その理由を説明せよと言われると言葉に詰まるのではないでしょうか?

コンサルタントがクライアントの業務改革を適切にガイドするためには、「上流に行く」利点の本質を理解しておく必要がありそうです。

「上流に行くべき」理由は、「上流でかなりのことが決まってしまう」からです。かなりのことが決定しまった後の「下流」では、打つ手が限られてなかなか業務改革の成果が挙げられないからなのです。

これを調達改革の例で見てみましょう。

製品開発プロジェクトでは、図のAの事実が知られています。開発の上流のごく初期の段階で大筋(製品コストの70-80%)が決まってしまうのです。

従来調達が参画してきたのは、図のBの量産試作の段階です。この段階では、すでに主要部品の仕様は決定済みで調達先もあらかた決まっています。調達が主体的に活動できるのは、残りの20-30%の部品のコスト削減に限られているのです。

しかし、近年の技術革新が激しい世界では、設計も十分な部品知識を持っているわけではありません。

コンサルタントが知っておくべき調達戦略を理解するためのフレームワークでも述べたような専門性を持った部品カテゴリ別調達チームを上流に参画させ、図のCのように主要部品を含めた全体のコスト削減に貢献させる必要が出てきているのです。

上流への参画

 上流参画のメリット:Whatを理解して従来のHowレベルのミスをなくす

上流に参画するメリットは、まだ部品の詳細仕様が固まっていないところから会話を始められることにあります。

つまり、それぞれの部品の使用目的を理解し、その目的を実現しつつ同時に調達を行い易い部品仕様を、設計とともに検討することができるのです。それこそが調達の上流参画によるコスト削減の意味なのです。

すなわち、設計の目的(What)を損なわない限りで、調達部品の仕様制約(How)を緩める作業をするわけです。制約の幅を広げ、それを満たす部品や調達先提案の数を増やした中で、より自社に有利な条件を提示した調達先を選ぶのです。

そうすれば、次のように従来のHowレベルでの会話で生じた失敗を防ぐことができます。

  • 設計意図を伝えて調達先のノウハウを取得する
  • 調達のノウハウを取り入れて部品仕様を決定する
  • 設計の長期計画を伝えて、調達先の価値提案をさせる

以下、それぞれのパターンの例を解説します。

設計意図を伝えて調達先のノウハウを取得する

ある機械部品で使用する高精度ギア(歯車)のコストが下がらないという問題がありました。設計が要求する公差が厳しすぎて、調達先の歩留まりが悪かったからです。

ある時、調達の担当者が調達先を訪問して色々な会話をしている中で、調達先の技術者がこのような厳しい要求を出すのは一社だけだという話をしました。他社にも類似の機構はあるはずなのにと不思議に思った調達担当者が聞くと、他者は精度の低い歯車の組み合わせで対処しているという答えが返ってきました。

よくわからないまま調達担当者が設計にこの話を伝えると、設計が「それでいいから、その方式でやってくれ」と答えました。

設計が高精度のギアを指定した目的は振動を抑えることで、同じ目的が歯車の組み合わせで実現できるからです。設計は、高精度ギアの歩留まりが悪いことを知らなかったので、その指定を変えなかっただけだったのです。

つまり、ギアの公差(How)ではなく振動を抑えるという目的(What)を調達先に伝達していれば、当初からこの問題は回避できていたのです。

調達のノウハウを取り入れて部品仕様を決定する

ある超小型モーターを出力トルクとサイズを指定して調達しようとしたところ、目標価格に収まりませんでした。調達担当者が過去の調達データを分析したところ、同じ出力トルクでサイズを変更すれば価格が下がる例があることを発見しました。モーターの直径を少し小さくすれば価格は下がるのですが、その代わり長さが少し延びるのです。

設計に確認してみると、それで構わないとのことでした。設計にとって問題だったのは、モーターに割り当てられるスペースの面積だったのです。

この場合も、直径と長さ(How)ではなく使用スペース(What)で会話すれば最初から解決できるのです。

設計の長期計画を伝えて、調達先に価値提案させる

従来の調達では、設計が部品仕様を決定してから調達作業が始まります。したがって、調達が調達先開拓にかけられる時間は、現在の開発プロジェクトの長さより短くなります。(図②-A)

その結果、決められた仕様の部品をどのようなQCDで提供できるかだけが検討対象となります。

一方、調達が開発上流に参画し製品・部品ロードマップのような長期的情報を共有すれば、それに基づいたより長期的な調達先開拓が行えます。(図②-B)

このように時間がかけられれば、調達はより効果的な調達先開拓を行えます。

たとえば、ひところ人件費の安さを理由として中国の部品メーカーの開拓が盛んに行われていた時期がありました。ところが、実際には、部品コストは期待したほどには下がっていませんでした。

それらの部品メーカーは大半が日系メーカーだったのです。中国の実態をよく理解してコストを下げている台湾系メーカーを開拓できていなかったのです。

その理由が調達にかけられる時間でした。それまで付き合いの無かった台湾メーカーとの取引を開始するためには、品質評価などに時間がかかり、従来方式では間に合わなかったからです。

これに対し、調達先開拓に十分な時間がかけられれば、調達先候補と次元の異なった会話を行うことができます。たとえば、日本メーカーが台湾系メーカーに抱く品質上の懸念(What)などを伝えることができます。

そのような情報があれば、台湾系メーカーもドライで決断の早い米国の先端的企業などとの実績をもとに、その能力を実証する資料を作成するなどの対策をとることができたはずです。

ロードマップなどが示され、中長期的にどのような部品がどれくらい見込めるかの戦略(What)を明確に伝えられれば、調達先に技術開発や設備投資をもとにした価値提案を促すことができ、より力のある調達先を開拓することができるのです。

ここでも、個別部品の仕様レベル(How)ではなく、調達戦略と調達先の能力レベル(What)を対比した調達先開拓が可能となるのです。

ロードマップ共有のメリット

部品カテゴリ戦略の本質:Whatでのノウハウ蓄積

先行対処での競合促進策 ー調達改革に学ぶコンサルティングのコツ(その1)で、調達先の競合を促進するためには、部品カテゴリ戦略に基づいて次の2つを先行的に実施することが重要だと述べました。

  • 競合圧力のある部品の作り込み
  • QCD能力の高い調達先セットの開拓

そこで述べた部品カテゴリ戦略で行うべきことが、設計の長期的意図および調達先業界の動向というWhatを理解し、将来の部品需要に備えることなのです。

そのためには、部品カテゴリ調達チームには、上記のような事例を通してHowをWhatに転換した経験を蓄積しておくことが求められるのです。

何を学んだか

  • 業務改革では、「上流に行く」ことが重要である。その理由は、上流でかなりのことが決まってしまい下流では打つ手が限られるため、業務改革の効果を上げにくいからである
  • 上流への参画のメリットは、何らかの意図(What)を具体的な行動指針(How)に変える際に下流部門のノウハウや都合を反映させることにより、より効果的な下流部門の行動を可能することにある
  • このメリットが生じるのは、従来は上流部門からHowのみが伝えられており、Whatを理解していれば防げたはずのミスが数多く起こっているからである
  • たとえば調達部門では、設計意図(What)を理解しないま調達部品仕様(How)を実現しようとしてコストが下がらないなどの事態が頻発している
  • 調達部門がこれらのミスの経験を蓄積して、上流で設計部門とHowではなくWhatで議論できるようになれば、多大なコスト削減が見込める。これが部品カテゴリ戦略の意義である