「売上高利益率」しか考えていない経営者に、正しい経営視点をガイドする方法


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企業経営で重要なのは「会計利益」ではない

知り合いの経営者からどういう経営指標を目指して経営すべきかと聞かれたらどうしますか?コンサルタントなら、そのような質問に対する自分なりの考えを述べられるようになりたいですよね?

この問題に効果的に対応できるようになるためには、このブログで何度も言っていることの繰り返しですが、多くの経営者の(間違った)思い込みに気づき、その原因を究明する必要があります。

たとえば、経営者に経営の目的は何かと聞くと、「利益を上げること」という返事が返ってくるでしょう。さらに具体的な経営指標を聞くと、「売上高利益率」という人が多いでしょう。

そのような人に、「利益とは何を指すの?」、「投資対利益率は重要ではないの?」などの質問を投げかけても、きょとんとされることも多いですよね?

このような経営者は、表面的な会計知識を鵜呑みにした経営をしており、次の2つの根幹となる経営視点を理解していないのです。

  • 顧客視点からの企業の根幹となる価値創出の源
  • 投資家視点からのストックの効率的利用

今日は、このような経営者にどのようなアドバイスをするべきかを考えてみましょう、

企業価値の源泉は付加価値

利益とは何でしょうか?真っ先に思い浮かぶのは財務会計上の利益ですよね?しかし、財務会計は課税額計算が本来の目的であり、企業の経営のための道具としては最適ではないことを知っておく必要があります。

例えば、財務会計では営業利益は次のように定義されます。

営業利益 = 売上高 — 費用

= 売上高 — 売上原価 — 販売費及び一般管理費

しかし、ここで計算された利益は、企業活動の計算結果でしかありあません。(図①)

この計算方法の目的は、課税額や株主の取り分を計算することで、必ずしも企業活動がうまくいっていることを保証するものではありません。それが証拠に、営業利益の向上だけを至上目的にすると、むやみに人件費や設備投資を削減し見かけ上の利益を向上させようとする動きが出てきます。

健全な企業経営のためには、本来の企業の目的に立ち返った別の見方が必要なのです。

企業の目的は、商品・サービスを通して顧客に価値を提供することです。そして、その価値の合計は、売上高と材料などの外部購入費の差で表されます。

顧客はこの差額に価値を認めたからこそ購入したのであり、商品・サービスの製造にそれ以外にどんな費用(人件費、設備運用費、など)を使ったかは、顧客の関心の範囲外だからです。

したがって、外部から見た企業が創造する価値は、以下の式で表されます。

付加価値額 = 売上高 — 外部購入費(材料費、外部加工費、等)

経営者は、まずこの付加価値の最大化を目的として、活動すべきなのです。その上で内部でかかった費用をどう配分するかを考えて、利益を得るべきなのです。(図②)

決して間接費の賦課配分などの結果の利益を見て一喜一憂すべきではない、とガイドすべきなのです。

(注: この付加価値のことを、制約理論(TOC)のスループット会計では、スループットと呼んでいます。スループット会計については、後日論じます。)

付加価値増大のためには、付加価値絶対額増大と付加価値創出スピードの向上の二つを考える必要があります。

付加価値額増大のためには、ブランド価値の構築とその徹底業務プロセスのムダ取りなどが必要です。

また、付加価値スピードの向上のためには、お客様が必要とするもの(だけ)を迅速に提供するサプライチェーン改革などが必要となります。

これらの付加価値の創出法の基本的考え方については、売上でも利益でもなく、付加価値(スループット)向上をするように経営者をガイドする法で解説しています。

経営の視点転換

投資家視点での効率性の追求

次に、「売上高利益率」だけを重視し「投資対利益率」の重要性がピンとこない経営者の頭の中がどうなっているのかを考えてみましょう。ここには、2つの問題があります。

  • フローはストックなしには生み出せないことを理解していない
  • 自己資本はタダだと思っている

 フローはストックなしには生み出せない

企業の経営指標に、総資産利益率というものがあります。これを見てみると面白いことがわかります。

総資産利益率 = 利益 / 総資産

= (利益 / 売上高) x (売上高 / 総資産)

= 売上高利益率 x 総資産案回転率

つまり、売上高利益率だけを重視する経営者は、総資産回転率を理解できていないのです。

図②の材料費などから売上を生み出す活動は、継続的に行われる活動です。材料が消費され、製品・サービスに転換され、それが顧客の手に移る一連の流れが継続するので、このような活動をフローと呼びます。

一方、この付加価値生産の流れの中で材料などを商品・サービスに転換し売上を実現するためには、教育を受けた従業員、機械や設備などが稼働する必要があります。これらの従業員や機械などは短期間のフロー生産の中では、消費され消えていくことはありません。蓄積物として使用され続けるという意味で、これらをストックと呼びます。

企業経営とは、機械・設備、従業員などのストックをどのように準備し、それらをどのように効果的に活用してフローを効率的に生み出すか、ということなのです。(図③)

先の話に戻ると、総資産とは貸借対照表に載っている、現金、売掛金、在庫、機械などへの投資の現在高の総額で、ストックです。(残念ながら、現代の企業で一番重要なストックである従業員は、金銭換算が難しいため貸借対照表には載っていません。)

この定義に従えば、売上高利益率はフローとフロー、総資産回転率はフローとストックの関係を示しています。総資産回転率は、同じ総資産(ストック)からどれだけ大きな売上高(フロー)を生み出したかというストックの使い方の効率性を図る指標なのです。

つまり、売上高利益率にしか関心がない経営者は、ストックこそがフロー生み出していて、ストックの効率的な使い方も経営者の責任範囲である、ということを理解していないのです。

ストックは固定資産と流動資産からなります。さらに流動資産は、現金、売掛金、在庫(棚卸し資産)などに分類されます。これらの中で、コンサルタントが改革を頼まれる機会が一番多いのが在庫です。

在庫と聞くと単なるコスト削減対象という地味な印象があり、そこから遠ざかろうとするコンサルタントが多いようです。しかし、実は競争優位性の確保のためには非常に重要なものですので、在庫管理戦略についての知識を高めておくことが望まれます。

在庫を中心としたストックの効率的活用法については、競争優位の在庫管理戦略で資本効率を高めるで解説していますので、そちらを参照ください。

自己資本はタダか?

さらに、投資対利益率がピンとこないもう一つの原因を見てみましょう。

それには、企業活動の源であるストックをどう用意するかを考えてみれば良いのです。ストックを用意するためには資本が必要です。その資本を用意する人は、当然その見返りとして利子(金利、配当、等)を求めます。

そうすると、企業はこれまで述べてきた利益から利子を払って、それでも残りがある必要があることになります。この残りを残余利益と呼びます。利子率をiで表すと、残余利益は次の式で表されます。

残余利益 = 利益 — i x 資本 > 0

これを変形すると、以下のようになります。

利益 > i x 資本

利益 / 資本 > i

左辺は投資対利益率ですから、最終的に次の結果が得られます。

投資対利益率 > i > 0

つまり、資本提供者を満足させるためには、経営者は利子率 i より高い投資利益率を確保する必要があるのです。そうでなければ、投資家が資本を引き上げてしまい企業を経営できなくなるのです。

投資対利益率がピンとこない経営者は、資本に対して利子を払わなければならないことを理解していないことになります。i = 0 と考えるので、残余利益 = 利益 となり、投資対利益率という概念が存在する余地がないのです。このような考え方をするようでは、経営者失格と言わざるを得ません。

ところが、このような中小企業経営者が多いのです。その原因は、彼らが資本として自己資本だけを考えていることにあります。つまり、自分が提供した「自己資本はタダ」というわけです。

しかし、考えてみれば、これもおかしな話です。自分のものであろうとなかろうと、資本は資本です。それをどこかに投資すれば利子を生むのが本来の姿のはずです。

ですから、このような経営者に対しては、自分の事業をやめてその資本を他に投資すべきだ、その方が儲かるから、と迫るべきなのです。

以上をまとめると、売上高利益率しか注目しない経営者は、資本の効率的な使い方に注意を払っていないことがわかります。このような人に経営を任せると、同じ売上高を上げるのにより大きな資本を必要とし、より大きな利子を払うことになります。つまり最終的な残余利益が減るので、優秀な経営者とは言えないのです。

このような経営者に対しては、利子率を意識した効率的なストック使用をガイドすべきなのです。

何を学んだか

  • 売上高利益率だけに注目して経営していて、経営効果を上げ損なっている経営者が多い
  • その原因は、本来財務的評価の目的で作られた会計指標を無批判に経営目的に転用していることにある
  • 経営が生み出した価値の評価のためには、内部の会計視点ではなく、外部の顧客と投資家の視点を用いるべきである
  • 企業が生み出している価値の指標としては、会計目的で計算した結果に過ぎない利益ではなく、外部顧客の視点で見た実現付加価値を採用すべきで在る
  • 投資家の視点からはストックの効率的使用を考慮すべきであり、投資対利益率を評価すべきである