「分かっているはずなのに前に進めない」クライアントを動かす2軸:重要性と実行性


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コンサルティングがうまく進まないもう一つの理由:クライアントが前に進まない

コンサルティングとはクライアントの問題を解決する仕事です。

ですから、このコンサルティングがうまく進まないとしたら、それは問題解決がうまくできていないからだと考えますよね?「何をどう解決すれば良いか分からない」というケースです。

しかし、実際には問題解決ができ優れた解決策が導かれても、その先が一向に進まない等のことが起こるのです。「クライアントがやらなければいけないことは理解しているのに前に進めない」というケースです。

この「分かっていてもできない」というのは、小学生の時の「夏休みの宿題をやらなければいけないのに遊んじゃった」に始まり、みなさん自分の経験で思い当たることが多々ありますよね。

なぜ「分かっていてもできない」のでしょうか?その理由は、禅問答のようですが実は「本当には分かっていない」ことにあるのです。

物事の判断基準が一つであれば、誰にだって良し悪しは明白です。それに従って行動しないとしたら、それは本人がそれまでに培った性格や考え方(怠け者、反逆者、等)によるものであり、ここでは議論の対象としません。

しかし、世の中の問題の多くはそう単純ではなく、複数の判断基準が絡み合うのです。それらの関係を明確に意識できず判断に迷うため、先に進めないことが多いのです。

これは、前回のブログ記事で述べた「複数視点で物事を見られない」の別の例なのです。

したがって、このケースの解決方法は、クライアントにどの複数の判断基準が重要かを理解させることです。

人間はあまり複雑なことを考えるのは得意ではありませんから、ここでは2つの基準が絡み合っているケースを考えましょう。その場合の有力な技法が「2軸で考える」です。

クライアントが前に進まないケースを2軸で考える

クライアントが判断に困り前に進まないのはどのような場合か、プロジェクトの開始から時間を順にたどって考えてみましょう。全部ではないでしょうが、主に次のようなものが挙げられます。

  • 手を付けなければならない問題が山積みで、手が回らない
  • 問題への取り掛かり方が間違っていて、大事なものに手を付けられない
  • 必要な解決策を洗い出したが、多すぎて手が付けられない
  • 手をつけるべき解決策は決めたが、やる気になれない

実はこれらの原因は、上述のように2つの判断基準があるにもかかわらず、それらの基準を一つずつ考えるため堂々巡りをしてしまうことにあることが多いのです。このような場合には、2つの基準を同時に評価する方法を考えるべきなのです。

それらの基準を表現する2軸を作り、考える対象を2次元の平面に並べて評価すれば良いのです。

以下では、説明の都合上これらを逆順にたどってこの「2軸で考える」方法を示していきます。

解決策は決めたがやる気になれない時は、動機があり実行可能な「行動を作る(動かす)」

クライアントの社長に解決策を進言したのに、何かと理由をつけてグズグズ進まない、などの経験はないでしょうか?

「やると言ったのに約束を守らないのはけしからん!」と怒っても始まりません。なぜやらないのかの理由を理解し対策を講じるのが、コンサルタントの責任だと考えるべきです。

解決策が実行されないのには2種類の理由がありえます。

一つは、行動ではなく課題を指摘して、それで解決策を示したと勘違いすることです。

ここで、課題とは「こういう状態にならなければならない」という到達すべき「結果」を示すものです。そこに至るために必要な行動は示されないので動きようがありません。解決策として示すものは「行動」であるべきなのです。

この勘違いは至るところで起こっています。

たとえば、品質管理部門が品質事故を検知したのに製造部門がそれを知らず製品を作り続け、被害を大きくしたとしましょう。この場合に解決策として真っ先に挙げられるのが、「品質部門と製造部門の情報共有」です。

しかし、本来二つの部門が品質情報を共有するのは当然のことです。その共有が何かの理由でうまくできず問題が起こったので、それを防ぐためには何か今までとは違ったやり方(行動)を取る必要があるはずです。

何かと言うと「情報共有」を解決策として叫ぶ人が多いですが、そういう人は課題と行動の違いがわかっていないので、要注意です。

二つ目の理由は、人間の動機付けに関わっています。

よく知られたことですが、人間が行動するのはモチベーションがあり(その「行動」に価値があると思う)、かつ自分は能力がある(その「行動」を実行できる)と思う時で、それ以外の時は行動に踏み切りません。

それを2軸で示したのが、下図の④です。

解決策を導出した後で、それらの解決策(行動)が、実行担当者の目にどう見えているかを図にマッピングして分析する必要があるのです。図の右上に入っていればOKですが、そうではない時には右上に動かすための動機付けなどの策を検討する必要があるのです。そして、どう考えても右上に動かす策が思いつけないものは諦めるのです。

この種の動機付けの方法については『インフルエンサーたちの伝えて動かす技術』が詳しいので、そちらを参照ください。

解決策が多すぎで手が付けられない時は、「捨てる」

この問題を解決する手がかりは、「多すぎる」という言葉にあります。「多すぎる」なら「捨てる」しかないのですが、多くの人にとってこれが盲点となっています。

導出された解決策は、論理的にはどれも「問題を解決するために必要」なもののはずです。これら全てを実行しなければ、元の問題は「完全」には解決できません。

そこで問うべき質問は「完全に解決する必要があるか?」というものです。この質問にYESと答える人は身動きできません。

でも考えてみてください。身動きできないのなら、現状通りで何もよくなりません。それならば、一部の解決策を捨てて残りを実行したほうが状態は良くなるのではないでしょうか?

こう考えて初めて「捨てる」という発想が出てくるのですが、何事にも100点を目指してきた学校秀才には捨てることが苦手な人が多いのです。これも要注意です。

さて、「捨てる」(100点を諦める)ことを決めたとして、次はどう考えれば良いでしょうか?

捨てざるを得なくなった原因は、自分たちのリソース不足にあります。でも、一部の解決策を捨てるにしても、自分たちの使えるリソースの範囲でなるべく良い点を取りたいものです。となれば、費用対効果を高めるしかありません。

これを2軸で表現したのが図の③です。

一つの軸は、当然それぞれの解決策を実行した時の「効果の大きさ」を示すものです。

もう一つの軸は、解決策の実行にかかる費用を表すものですが、費用は考えにくいので、それをひっくり返した「実現容易性」を取ることが多いです。

この図を使って、右上から順番に自分たちのリソースが尽きるところまで、解決策を選んでいき、そこに入らないものを捨てれば良いのです。

この方法は単純すぎるように見えるかもしれませんが、実際にやってみると非常に効果的です。

クライアントの意見がまとまらない時でも、解決策を効果の大きさや実現容易性のそれぞれ一つの軸にマッピングすることは簡単で、比較的容易に合意できます。それらを2次元に組み合わせて出来上がった図は自分たちが合意したものなので、右上から順に解決策を選んでいくことに誰も異を唱えなくなるのです。

人間が同時に2つの視点からものごとを考えることがいかに難しいか、この図を利用するたびに思い知ります。

大事なものに手が付けられない時は、「緊急なものの一部を動かす(任せる)」

この問題を解決するのに有効なのが、図の②に示す「時間管理マトリックス」です。これは有名なスティーブン・コヴィーの『7つの習慣』という本に載っているので、詳細はそちらに譲ります。

コヴィーが指摘していることは、手が付けられない「大事なもの」は通常この図の第II象限に入っているということです。緊急で重要な第I象限の物事を片付けているうちに疲れ果ててしまうので、大事なことに手が回らないという訳です。

この問題を解決する唯一の策は、第I象限に入る問題の数を減らすことです。すなわち、それらが本当に重要かを問い直し、人に任せるなどの対策を取り第III象限に移すのです。そうやって初めて第II象限の問題に取り掛かる時間ができるのです。

このことに関する強烈な個人的体験がありますので、ご紹介しておきます。

日本IBM在籍中の90年代前半のことです。IBMが経営危機に陥り、外部からガースナー会長を迎え入れました。

ガースナー氏が初めて日本に来てやったことは、都内の大きな講堂に社員を大勢招き、タウンミーティングなるものを開催したことでした。その場で社員の質問に受け答えする率直さにも驚きましたが、さらに驚いたのは、それと同じことを滋賀県の野洲工場で行ったと聞いたことです。

社員数十万人の世界的大企業の会長にどうしてそんな時間があるのか、不思議でなりませんでした。でも、あと知恵で考えると、彼は重要さの判断基準を変えたのです。

IBMの経営危機に際しては社員との意思統一(第Ⅱ象限)がなによりも重要だと考え、普通なら思いつかないことですが、会長としての経営業務の多く(第Ⅰ象限)を部下に任せた(第Ⅲ象限に移した)のです。

クライアントと一緒に企業の変革に取り組むコンサルタントは、このような観点から「何が重要か」を問い直すことが重要だということを、肝に命じておくべきです。

問題が山積みで手が回らない時は、「捨てる」ための軸を見つける

これは「解決策が多すぎる」と同根の問題で、対応策は「捨てる」ことになります。ただ、山積みになっている問題群の性格により「捨て方」が変わります。

普通見られるのは、積まれている問題に何の共通性を見られない場合です。この場合は、「解決策が多すぎる」場合と同様に「効果の大きさ」と「解決容易性」を見積もり、好ましいものから順に選択していくことになるでしょう。

一方で、こうやって問題を選択しさらにサブ問題に分割していっても、依然として問題が多すぎることがあります。このような場合、一つの問題のサブ問題なので問題の性格に共通性が見られることがあります。その共通性を利用した捨て方を、一つの例で見てみましょう。

例として取り上げるのは、売上向上の企画が数多く提案されているが、そのすべての詳細検討ができず選択を迫られるケースです。

売上向上の企画ですから、どういった市場で何をするか、そのために自社のどのような強みを使うか、等のことが書かれているところに共通性があるはずです。このような共通性に着目して企画を比較検討するポートフォリオ分析手法に、図①の2軸を用いるものがあります。

この2軸は問題固有の性質を使った特殊なもののように見えますが、その本質を見てみると意外なことに気づきます。

その本質とは、これらの企画は売上向上という「問題を解決」しようとしているということです。

一般に「問題解決」行為を選択しようとすると、効果が大きくて解決が容易なものを選ぶのが自然です。このケースでは、「市場の魅力度」が効果の大きさに、「競合優位性」が解決の容易性に、それぞれ繋がっています。問題に共通性がない場合と本質的に同じ選択をしているのです。

問題群の特殊性に合わせた「効果の大きさ」と「解決の容易性」を考えていけば、気の利いた2軸が見つかるのです。

スライド1

対策に共通するのは重要性と実行性の2軸

さて、以上のことから何がわかるでしょうか?それは、これらの対策には共通性があるということです。

その共通性は「大事なこと」を「前に進める」です。

ここで、「大事なこと(対象)」は「問題」あるいは「解決策」です。そして、「前に進める」手段として「捨てる」あるいは「考え方を変える(動かす)」ということを採用します。

そして、「捨てる」あるいは「考え直す」という手段を実行できるように、「大事なこと」と「前に進むか」を評価します。

「大事なこと」に関しては、市場の魅力度、効果の大きさ、行動の価値などを検討します。すなわち重要性を評価します。

「前に進むか」については、競合より優位か、実現が容易か、緊急か、行動できるか、などの実行性を評価するのです。

このように考えれば、図の全体構造のように、これらの対策は対象や手段こそ違え、重要性と実行性の2軸で見直すことにより「前に進む」方法を見出すという共通性を有していることがわかるのです。

まとめ

  • コンサルタントが扱うべき問題には、対象となる「解決すべき問題」そのものに加え、「クライアントの問題解決プロセスの円滑な進行」というものもある。
  • クライアントの問題解決プロセスがうまく進行せず発生する問題には、少なくとも次の4種類がある
    • 手をつけなければならない問題が山積みで、手が回らない
    • 問題への取り掛かり方が間違っていて、大事なものに手が付けられない
    • 問題の解決策を洗い出したが、多すぎて手がつけられない
    • 幾つかの解決策は導きだしたが、やる気がおきない
  • これらの問題は、その共通性に気がつけば、次のように重要性と実行性の2軸の図を利用して解決できる
    • 「大事なこと(問題、解決策)」を重要性(市場の魅力度、効果の大きさ、行動することの価値、等)の軸で評価する
    • 「前に進むかどうか」を実行性(競合優位性の有無、実現容易性、緊急性、等)で評価する
    • できあがった2軸の図を眺め、優先順位の低いものを「捨てる」、軸を再評価して「考え直す(動かす)」などの手段により、「前に進める」ものを選ぶ