「手段から入るな!」という教訓を生かすために、実際のコンサルティング事例から学ぶべきこと


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本当に「クライアントの心配事」を解決しているか?

コンサルタントとは、クライアントという「他人」の心配事を解決する商売です。ですから、最初のステップはクライアントの心配事を理解することです。当たり前のことですよね?

でも、このこと実践するのはそれほど簡単ではありません。人間は、心配事や問題を十分理解することなく、すぐに解決策の検討に進む傾向があるからです。さらに商売となると、失敗したくないので問題を無理やり捻じ曲げて自分の得意領域に引き込むことをしがちです。

たとえば、ある商店主の心配事が店の売り上げ低下だとしましょう。この時、店舗設計専門の建築家なら、お店の外装が古くなったことが原因だとして改装を勧めるでしょう。自分のできることを解決策として進言しているわけです。

一方、マーケティング・コンサルタントがよく調べてみると、近くの団地で高齢化が進んでいることがわかったとしましょう。だとすると、高齢者にあった商品構成に変更する、あるいは店の立地そのものを人口流入地域に変えることが必要かもしれません。前者のケースであれば商品構成の改革案を練ります。後者であれば、立地戦略の専門家の応援を求めます。

この両者のアプローチの違いを対比したのが、次の図です。

スライド1

店舗設計者のようにハードに携わっている人は自分のできることが限られているので、②のように自分の得意技からクライアントの心配事を「古くなった外装」と想定し、クライアントをそちらに誘導しようとします。

これに対し、マーケティング・コンサルタントは、クライアントの心配事の「売り上げ低下」をそのまま受け止め、その原因を探った上で自分が貢献できるかどうかを確かめる、①のアプローチをとります。

①が、本来の「クライアントの心配事を解決する」アプローチです。決して手段から入ってはいけないのです。

失敗パターンを知れば、「手段から入ってしまう」という罠を避けられる

この事例はこれで済みますが、ここからが本題です

問題は、コンサルタントが常に①のアプローチをとっているかということです。

実は必ずしもそうではありません。コンサルタントも、店舗設計者と同じように手段から入っていることが多いのです。しかも、店舗設計者とは異なり、コンサルタントの手段は頭の中にあるソフトなので、本人が手段から入っていることを意識化できていないことが多く、問題が複雑になります。

「ハンマーしか持っていなければ、すべてが釘に見える」という有名な心理学者アブラハム・マズローの格言が、このことをよく言い表しています。

自分が持つ手段に限りがある、あるいは特定の手段に固執していると、世の中の物事をそれで解決できるように見てしまいます。その結果、却って結果を悪くする(釘以外のものも叩いて壊す)ことになります。それにも拘らず、本人はそのことに気づかない、ということをマズローは指摘しているのです。

釘以外のものも叩いて壊すという馬鹿げたことに陥らないためには、自分が手段から入っていることを意識化する訓練が必要です。そのための最良の方法は、失敗例に学ぶことです。

ということで、以下で「手段から入っていることを意識化できない」ために起こる様々な失敗パターンとそのマイナス効果を、実際のコンサルティング事例をもとに解説します。

自分ができることから考えてしまうと

まずは、典型的な自分が得意なこと(すなわち手段)から入るパターンの例です。

製造業では新しい製品を開発するとき、部品表というものを作ります。この製品は、A、B、Cというモジュールから構成される。モジュールAは、P、Q、Rというアセンブリから構成される。アセンブリPは部品X2個、Y3個、Z1個から構成されるという風に、一つの製品がどのような部品から構成されるかを階層的にまとめたものです。

これをもとに、製品の原価を計算したり、量産時の部品手配をしたりするので、製造業の基幹情報となるものです。

ある企業で、この部品表がスプレッドシートで管理されていました。その管理にはいろいろな問題が発生していました。

たとえば、試作テストの際にいろいろな品質事故が起こるので、品質保障部門は部品表のコピーを作り、そこに事故情報を書き込みます。同様に、購買部門は部品担当者用に、部品表を分割します。このようにして、一つの部品表にいろいろなバージョンができます。

新しいバージョンが作られるたびに、スプレッドシートの転記が起こります。転記そのものは付加価値を産まない作業ですし、転記の際にミスが起こり正しくない部品表が伝播されてしまうという問題も生じます。さらに、大元の部品表が次々と改訂されていきます。

この問題を解決するために、その企業のIT部門が部品表用の統合データベースの構築を提案しました。電子的に一箇所で部品表を管理し、その周囲に各部門固有の情報を付加できるようにすれば、転記の工数が削減できミスもなくなる、というアイデアです。

この提案は、一見正しいように思われますが、上層部に二度却下されました。転記の手間やミスの削減だけでは、IT投資の費用対効果が小さいと思えたからです。

上層部は、外部のコンサルタントに施策の見直しを依頼しました。

コンサルタントは、基幹情報である部品表の統合には大きな可能性があると考え、製品開発業務の徹底分析を行いました。その結果、次のようなことがわかり、部品表の周囲に各部門が必要とする情報を付け加えれば非常に大きな費用対効果が見込めることが明らかになり、プロジェクトは前に進むことになりました。

  • 本社と製造工場の部品の原価情報が共有されていない。これが共有されれば、本社は次の回にもっと魅力的な製品設計を行える
  • 試作時の品質上の事故情報が製品別に記録されている。それを部品ごとに管理すれば、別の製品設計にも利用でき、事故を減らした製品設計が可能となる
  • 等多数の効果が見込める項目

コンサルタントは本来の①のアプローチをとったので、大きな効果を見つけることができました。

これに対し、IT部門は、既存のスプレッドシート上の問題を統合データベースで解決するという自部門で実現できる②の「手段」から入ったために、下図Aのように上層部の製品開発全体を改革したいという期待のごく一部の解決しか示せず、提案にストップがかかったのです。しかも、このことを意識化できなかったために、実質的に同じことを二度提案してしまったのです。

クライアントの心配事が分かったつもりになると

ある購買改革を専門とするコンサルタントが、集中購買をやりたいと提案を求められました。

集中購買というのは、それまで製品開発プロジェクトごとに実施していた部品の購買を、部品カテゴリ(半導体、メカ部品、等)ごとの専門購買チームを設けて、製品開発プロジェクトに横串を通して購買するものです。製品開発プロジェクトで共通の部品をまとめて買えることや、専門チームの部品知識が向上することで、同じものを安く買える効果が見込めます。

コンサルタントは集中購買の経験が豊富だったので、自信満々で提案説明に臨みました。ところが、依頼企業のリーダーは提案説明の間ずっと目をつぶったままでした。コンサルタントは、これはまずいと内心焦りましたが、プレゼンをやめるわけにもいきません。

しばらくして、提案書のあるページにさしかかったところで、リーダーはガバッと身を乗り出して、「これは当社のことを言っておられるのですか?」と質問しました。

実はそのページは、深くは考えずに念のためにと入れたものでした。そこには「集中購買が機能しないのは、数々の阻害要因があるからである」と書いてあったのです。そして、この後会話が続き、提案は成功となりました。

クライアントは集中購買がどのようなものであるかはよくわかっていて、その説明は必要としていなかったので目をつぶっていたのです。その人が心配していたのは、自分の会社が集中購買を本当に実現できるかどうかだったので、そのページに反応したのです。

ところがコンサルタントの方は、「集中購買のプロ」というだけで提案が通ると考えて、クライアントの心配事を深くは考えて準備していませんでした。すなわち「集中購買」という「手段」から入ったのですが、その説明の間クライアントは目をつぶっていて、心配事にヒットしていないことを表明していたのです。

図のBの状態に相当していたのです、

目的を忘れ手段に熱中すると

ある公共団体が政策的なメッセージを中小企業に伝えようとしているとケースです。

これまでは、WEBなどを使って発信してきたのですが、アクセス数が限られており、あまり効果は上がっていませんでした。公共団体の責任者としては、公のお金を使っている立場上、具合が悪いことになります。

そこで、もっと効果を上げるためにWEBのような受け身(プル)のメディアではなく、セミナーなどを積極的に打って行くことにし、セミナー講師を育てることにしました。講師の候補者としては、中小企業との接点を持っている中小企業診断士や商工会議所担当者などを考えました。

ところが、実際にセミナー担当者を教育してみても、一つのセミナーに参加してくる中小企業の数は限られていることがわかってきました。効果を上げるには、全国的にセミナーを開催する必要があり、講師を多数養成する必要が出てきました。ところが予算上の制約があり、講師を養成するスタッフが限られていて、とてもそれだけ多数の講師を養成できそうもないという問題が出てきたのです。

この問題を解決するには、どうすれば良いでしょうか?

団体責任者の関心事は、公のお金を効果的に使うことです。つまり、昨年度と比較してメッセージ受領企業の数を「かなり」増やすことです。決して全国津々浦々のすべての企業に伝えることではありません。そもそも政策的なメッセージに反応を示す企業はもともと限られています。したがって、最初から興味を持ちそうもない企業を対象から外しても、問題とはなりません。

となると、解決策はメッセージに興味を持ちそうな中小企業が集まっている団体を探して、そこに集中的にセミナーを実施することで良いはずです。アクセス数を増やすという目的の実現手段としてセミナーを考えたのですから、どこへセミナーを打てば効果的かをさらに考えれば良いはずです。

ところが、もともとの目的を忘れ、セミナーという手段の数を増やすことに熱中した下図Cのパターンに陥ってしまって困っていたのです。

クライアントの心配事を確認する手順を飛ばすと

これは2番目の話と似ていますが、こちらは提案時ではなく実際のプロジェクトが始まった後のケースです。

ジリ貧のチェーンストアを立て直すために、ブランド・コンセプトを再構築しようということになりました。

このクライアントは、商品群が大きく分けて2つあります。顧客が日常的に買いに来るA群と、たまに購入するB群です。そして、このチェーンの利益の大半はB群から得ています。つまり、A群は客寄せ商品なのです。

クライアントの社長は、最初自社にとって大事なのはA群であるとして、その商品構成の見直しをした上でブランド・コンセプトを構築しました。ところが、実際にコンセプトを実行する時になって、「やっぱりBが大事だ」と言いだしたので、担当しているコンサルタントMさんはすっかり当惑してしまいました。

でも、実はその原因はMさんにあったのです。コンサルティングでは、まず問題の確認をし、その上で解決策の検討をします。ここで問題とは、あるべき姿と現状の乖離です。

Mさんはマーケティング・コンサルタントを自認しています。ブランド・コンセプトの構築は彼の得意領域です。そのため、Mさんは社長が「Aが大事だ」と言った時に、本当にあるべき姿が「Aのブランド・コンセプトの再確立」でよいのか「本当はBではないのか」の確認を怠って、ブランド・コンセプトの構築に飛びついてしまったのです。

これは図のDのパターンです。

スライド2

まとめ

        • コンサルタントは、クライアントの心配事を解決する商売である。したがって、まずはクライアントの心配事の確認から始めるべきであり、決して自分の得意技(手段)から入ってはならない。
        • しかし「手段から入るな」という教訓を生かすのは、決して簡単ではない。マズローの格言にあるように、自分自身が手段から入っているということを意識化するのが難しいからである。
        • この意識化ができるようになるためには、いろいろな失敗ケースを分析して学ぶことが有効である。
        • 失敗ケースには、少なくとも次の4つのパターンがあるので、それらを熟知すべきである
          • 自分ができることだけを考えて問題の一部しか扱わない
          • 自分が得意なことの眼で見てクライアントの心配事を理解している思い込む
          • クライアントの心配事を忘れ手段に熱中する
          • 得意技に飛び込みクライアントの心配事の確認を怠る