経営者に尊敬される「気の利いた」営業利益向上策を見つけるコツ


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クライアントとそつなく応対するための基本知識を身につける

先週の続編です。出会ったばかりのクライアントから、いきなり営業利益向上策のアドバイスを求められたらどうしますか?

その時にそつなく答え、ある程度尊敬してもらえるようになるための方法のようなものが欲しいですよね?

この、「そつなく」と「尊敬してもらえる」は、いつもコンサルタントに求められることなので、一般化してそれらを満たす条件を検討しておくことは重要でしょう。

「そつなく」とは「失敗なく」という意味なので、アドバイスが間違っていないことを担保する必要があります。すなわち、対象分野に関して最低限の分析用知識を持っている必要があるのです。

これに関しては、ここでは先週の記事の変動費と固定費の区別に関わることを知っておけば十分でしょう。

この知識を持っていれば、利益を上げるためには図に示される次の4つのいずれかをすれば良いことがわかります。

  1. 販売単価を上げる
  2. 変動費単価を下げる
  3. 固定費を下げる
  4. 販売数量を増やす

営業利益率向上施策

この中で1と4は、それぞれの事業の性質によりなすべきことが大きく変わるので、以降では、比較的共通性の高い2と3を論じていくことにします。

「そつなくこなす」ためには、さらに変動費単価を下げる方法などの一般的手法を知っておく必要があります。最近はネット情報が豊富なので、「変動費、削減」などのキーワードで検索すれば、例えば 損益分岐点を低減させる変動費圧縮対策 などの文献が見つかるので、それを勉強すれば、一通りのことは学べます。

ここまでが「そつなくこなす」ためにやるべきことです。

クライアントの思考レベルの限界を指摘して尊敬される

次に、どうすれば「尊敬してもらえる」かです。これはクライアントのレベルにもよるので、上述の文献の知識を仕入れるだけでも尊敬してもらえることもあるでしょう。

しかし、このやり方は知識の優劣を競うだけのものなので、クライアントがそれらの知識を身につけて自分で応用できるようになれば、クライアントとの関係はそれで終わります。

また、クライアントが自分で変動費削減をいろいろと試みている場合には、文献にある知識の幾つかは既に身につけている可能性があり、尊敬してはもらえないでしょう。

ですから、クライアントがある程度の知識を持っている場合を想定して、対策を講じておく必要があります。

ここでも先週と同じクライアントの経営者の思考の弱点に注目することが有効です。

このブログでも何度も引用していますが、アインシュタインは、“我々の直面する重要な問題は、その問題を作った時と同じ思考のレベルで解決することはできない”と言っています。

つまり、クライアントの問題解決思考レベルを観察して、クライアントが問題を解決できずにいる理由を理解すれば良いのです。

そして、その思考レベルを超えた視点を教えれば尊敬されるのです。

自社都合を超えさせる

例えば、変動費は基本的には外部から購入したものの費用です。ですから、これを削減しようとした場合、普通は以下のように考えます。

  1. 購入したものを無駄なく使う
  2. 購入費用を下げる交渉をする

A)は社内視点です。また、B)は購入相手と対面する視点です。いずれも自社都合です。

しかし、もう少し購入相手の立場に踏み込んで考えるという発想もありえます。購入相手も営業利益を上げようとしているのですから、相手の変動費や固定費を削減する方法を考えて、それに協力すれば結果的に購入価格を下げられるという考え方です。

この考え方に立てば、例えば、次のような対策を取りWin-Winの関係を構築した上で、そこで生まれた利益を分け合うことができます。

  • 長期的な購入量を知らせておく、あるいは発注量を均す。そうすれば、相手はそれに合わせた生産設備の手配ができ、固定費を下げられる
  • 相手の歩留まりを向上させる許容誤差などの詳細情報を提供して、相手の変動費を下げる

このような視点をクライアントが持っていない場合には、大いに尊敬されることになるでしょう。

 固定費削減の思い込み(絶対額の削減)から脱却させる

固定費とは売上の大小にかかわらず必ず発生する費用のことです。ですから、その絶対額を削減すれば良いという発想になりがちです。

例えば、ネットに蔓延している 利益確保に直結する固定費の削減 などに見られる削減策がこの類です。

しかし、そもそも固定費は売上を増やすためのもののはずです。その証拠としては、固定費(例えば人件費)がゼロなら企業はやっていけないということに思い至れば良いでしょう。

ですから、闇雲に固定費を減らす方法は、もともと売上獲得に貢献していなかった不要な固定費の削減にのみ有効なはずで、そもそも限界があると心得るべきです。これで大きな効果が出るような企業は、まともな経営をしているのか心配です。

もう少しマシな固定費削減策は、固定費率(= 固定費 / 売上高)を下げるというものです。売上を下げない条件下で固定費を減らすのです。

これが、 社内経費削減は固定費で検討!14のコストカット法 などに見られる、「よくある」削減策です。しかし、これも固定費の額の削減を目指すだけなので、本質的に何も変わらず、限界があります。

絶対額削減の罠にとらわれている経営者に対しては、その限界を理解させ、より広い視点にたったコスト削減策を考えるようにガイドすべきなのです。

抽象化してモグラ叩きから脱却させる

視点を広げれば、固定費はそもそも売上を上げるためのものなので、その利用方法を効率化して全体の費用比率を減らすという考え方があることに気づきます。

固定費は、売上高によって変動しませんが、操業度(今の場合は販売数量)あたりの効率を高めることはできます。通常、操業度と売上には正の相関があるので、売上が増えた場合には結果的に売上高固定費率が低減します。

例えば、大手スーパーなどでは、物流センターを作り、メーカーや卸からの商品を一箇所に集め、店別に仕分けし、グループ店舗への配送を効率化しています。これは、流通業では物流費という固定費負担が大きいので、それを効率化する工夫をしているのです。

しかし、このような事例を個別に勉強しても、モグラ叩きのようなもので、クライアントをガイドする応用力は画期的には向上しません。クライアントの問題解決能力も向上しません。

個別の経験を抽象化して応用範囲を広げる工夫が必要なのです。

この抽象化のためには、固定費の性格を見抜く必要があります。固定費の大きなものは、設備費と人件費ですが、その性格ごとに固定費削減のロジックが異なるのです。

設備は、あらかじめその機能が大体決まっているので、時間効率を高めることが固定費削減につながります。ここで有効な視点は次のようなものです。

  • 延命化: 良いものを使い続け丁寧にメンテナンス投資をすることにより耐用年数を伸ばし、固定費当たりの総売上を大きくする、等
  • スピード化: 高性能の機械に置き換えて時間当たりの産出量を大きくする、等
  • 稼働率向上(空き時間短縮): 段取り時間を短縮して機械の待ち時間を短縮する、等

人件費に関しては、人間は融通が利くので仕事のやり方を変えることができます。そのことにより次のような効率化が可能となります。

  • 標準化: バラバラな作業をしているもののやり方を揃えることにより、水準の低い作業人員のスキルの底上げをする(チェーン展開するレストランで厨房での作業を標準化して、少人数で調理ができるようにしている、等)
  • 一元管理: 各部門でバラバラに管理していたものを一箇所でまとめて管理することにより、部門ごとの需要のばらつきを吸収し全体必要量を削減する (設備のメンテナンス用の工具を一箇所で管理する、等)
  • 業務集約: 各部門でやっていた業務を一箇所に集約し、部門ごとに負担していた固定費を低減する。ノウハウも共有する(上述の大手スーパーの物流センターの例、等)
  • 専門化: 各部門で片手間にやっていた業務を集約して、それに対応する専門チームを作ることにより、知識レベルが高まり生産性が向上する(購買部門で部品カテゴリ別のチームを作り、部品業界の専門知識をもとにより効果的なコスタダウンを実現する、等)

このような抽象度の高い改革視点を持っておけば、不足している業務知識をクライアントとの会話で補いながら、幅広くコスト削減策をガイドすることができるのです。

ただし、これらの方法は操業度を上げられる(すなわち作れば作るほどモノが売れる)という条件でのみ有用です。売上が伸びない時には図の1(販売単価を上げる)や4(販売数量を伸ばす)を並行して実施しなければ、あまり役に立たないことを肝に銘じておく必要があります。

例えば、段取り替え時間の短縮を利用して、小口の仕事を取るようにすれば、隙間を埋め売上を向上させる、などのことをする必要があります。

また、固定費あたりの売上機会が十分ない時は、上述の専門化は裏目に出ます。専門工(専用機)ではなく多能工(汎用機)を養成・導入して、一人(同一機械)で色々な仕事をこなせるようにして、人員数(機械台数)を減らすなどの工夫が必要となるのです。

以上のようなことを心得ておくだけで、かなりの範囲の営業利益向上策を策定することが可能となり、クライアントから尊敬されることが増えます。

もし、このレベルで感謝しないクライアントがいるとすれば、そのようなレベルの高いクライアントはコンサルティングを依頼してこないと考えてよいでしょう。

何を学んだか

  • コンサルタントは、不案内な領域でもクライアントに何らかの貢献ができるように、それぞれの分野で応用が利く最低限の基本知識を身につけておく必要がある
    • 営業利益分析に関する固変分解、など
  • 問題が解けずにいるクライアントには、共通した思考パターンがあるので、それを見抜く力を磨いておくべきである。そうすればクライアントに尊敬される
    • 固定費を総額で削減しようとする傾向など
  • 個別の経験を抽象化する努力をするべきである。そうすれば、対象業務の知識が不足していても幅広くクライアントに貢献できる。例えば 固定費の性格を見抜けば、以下のような一般的な固定費低減策を用意できる
    • 設備: 延命化、スピード化、稼働率向上
    • 人件費: 標準化、一元管理、業務集約、専門化