サプライチェーン改革の目標:「私たちはお客様をお待たせしません」が意味すること


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なぜサプライチェーン改革か?

先週までは、「売上高利益率」しか考えていない経営者に正しい経営視点を持つように迫るための知識などで、自社の経営視点から、物事をどう判断すべきかについて述べてきました。今週からは、その経営方針を受けて毎日の業務をどう考えるべきかという視点で考えてみます。

対象としては、先週と同じく流通業に最終製品を販売している製造業を考えます。そして、そのような企業の最大の課題である、サプライチェーン改革について検討してみることにします。

サプライチェーンというと、すぐに生販在計画の見直しや小ロット生産などの具体策の議論に入ってしまいがちです。しかし、それらの具体策が適切かどうかは、それぞれのクライアント企業が置かれている状況で異なります。

コンサルタントとしては、それよりも前に、なぜサプライチェーン改革が必要なのか、その理由がクライアント企業にどのように当てはまるのか、その結果何をすべきなのか、といったことを大局的に判断してクライアントをガイドできる必要があります。

今日は、そのための「そもそも論」から論じることにします。

部分最適が成立しなくなった環境変化

サプライチェーンというのは、資材の調達から最終消費者に届けるまでの資材や部品の調達、生産、販売、物流といった業務の流れを、企業の垣根を越えたひとつの大きな供給のチェーンとして捉えたものです。

このサプライチェーンが、なぜ改革の対象となるのでしょうか?それは、企業内部の各部署や企業間で大きな無駄が生じているからです。その無駄というのは、機会損失と不良在庫の存在です。

例えば、機会損失では、少し古い話になりますがアメリカのデパートの調査では、ジーンズの60%、婦人下着の35%の欠品が生じていたということです。来店客の52%が、好みの商品、色、スタイルは決めながら、サイズがなかったために買わずに出てきたというのです。

また、生産コストの削減のために中国メーカーに生産を依頼したのですが、そのときの契約条件が問題になっていることもあります。年間生産量を保証していたりすると、販売量が減ってきたときに減産を拒否され、不良在庫が発生するというのです。

これらの問題が発生する理由は、企業内の部門ごとの最適化、企業ごとの最適化です。そして、その背景には環境の変化に生産・販売のパラダイムがついていけないことがあります。

上述の中国サプライヤーの例で分かるように、それぞれの企業は自分たちの経営指標の最適化を目的として行動します。このことは、企業内部の生産、販売部門などにも当てはまります。

それぞれの企業・組織が独自の目標で動くと、目標の差はそれぞれの間の在庫(欠品は負の在庫と見なす)となって現れます。

しかし、最近までこの在庫は問題とは見なされてきませんでした。むしろ、独立した組織の行動の差を吸収する緩衝材としてポジティブな見方がされていた時代もあったくらいです。

その見方が正当化できた理由は、それらの在庫はいつかは売れるというものでした。すなわち、在庫が肯定的に捉えられた背景には、大量生産・大量消費のパラダイムがあったのです

しかし、近年の市場の成熟化により、このパラダイムが崩れてきました。消費者の要求が多様化し、需要が不確かなものになってきたのです。

その結果、最終需要を見ないで部門最適で発生した在庫が、いつまでも捌けずに残る事態が頻発するようになりました。それがサプライチェーン全体の企業の収益を圧迫するようになってきたのです。

このような事態になって初めて、サプライチェーン全体の改革の必要性が理解されるようになったという訳です。

したがって、現代でも、消費プームが勃興している新興国や爆発的に売れ出した新製品など、サプライチェーン改革を必須としない状況もあり得ます。

ですから、コンサルタントは、このような大局的状況の把握から入る必要があるのです。

サプライチェーン改革で何を目指すのか?

さて、サプライチェーン改革の必要性は理解したとして、何を目指せば良いのでしょうか?

上述の通り、サプライチェーン改革を必要とする理由は、環境変化に各組織の部分最適では対応できなくなったことです。ですから、サプライチェーン全体の業務の流れを見て、部分最適による分断の弊害を取り除く眼が必要となります。

繰り返しますが、一番の問題は部分最適の結果生じる機会損失と不良在庫が無視できなくなったことです。すなわち、最初に全体のキャッシュフロー(時間当たりで考え得ればスループットの方が意味があるので、以下こちらを用います)の増減を見る視点が必要なのです。(サプライチェーン参画者への配分をどうするかは、その後の議論です。)

サプライチェーン全体のスループットを増加させないような施策は、いかに優れた施策に見えようとも部分最適なので、サプライチェーン改革には値しないと見なすべきなのです。

それでは、全体のスループットはどのようにすれば増加するでしょうか?

改革が必要になるそもそもの理由は、消費者の最終需要が多様化し個々の製品が必要とされる量が不確かになったことです。この結果、製品の多品種化とライフサイクルの短縮化が進展してきています。

このような不確定性の高い状況で売り逃がしを避けスループットを上げるために、流通には市場変化に即応したきめ細かいオペレーションが求められています。売れたもの(だけ)を素早く補充できることが不可欠となっているです。

したがって、流通が仕入先に要求するのは、きめ細かい発注に対する納期確約です。それがないと、流通は販売と仕入れの双方に不確定性を抱え込むことになり、健全な経営がおぼつかなくなるからです。

つまり、サプライチェーン改革では、需要の起点である流通での不確定性を軽減するための納期確約の実現から始める必要があるのです。仕入れ先である製造業のサプライチェーン改革の目標は、納期を約束しそれを遵守すること(「私たちはお客様をお待たせしません」)になるべきなのです。

 納期確約実現に必要なことは俊敏さ

納期確約をするのに一番簡単な方法は、大ロットで生産し十分な製品在庫を持っておくことです。しかし、これは旧来のやり方そのもので、結果的に不良在庫を生むリスクが高くなります。(図の上部)

その廃棄費用は結局はサプライチェーン全体で負担することになりますので、これではサプライチェーン参画各社の誰も喜ばない結果となります。

在庫に頼らない納期確約をしようとする場合、生産リーダタイムの方が納入リードタイムより短ければ受注生産ができるので、何の問題もなく実現できます。

しかし、一般にはサプライヤーからの納入リードタイムが長い部品が存在することが多く、この条件は満たされません。その場合、顧客からの確定受注が来る前にこれらの部品を発注せざるをえず、これが納期確約を難しくするのです。

引きつけた鮮度の高い予測情報をもとに誤差を小さくした計画

ここで、顧客からのオーダーを精度高く予測する必要が発生します。この予測精度を高めないと、機会損失や不良在庫が大きくなるからです。

一般に、予測は遠い過去より近い過去の情報に基づいたものの方が精度が高くなります。これを利用した、短い計画サイクルで細かく計画することが必要となるのです。

また、計画にはブルウィップ効果というものが存在します。

予測が外れた時には生産の上流部分のほうがより大きな影響を受けます。このため、上流工程はより安全を見込んだ計画を立てがちですので、下流での小さな誤差が上流では笞打ち(ブルウィップ)のように大きくなるというものです。

ブルウィップは、計画の段数が多いほど大きくなります。

これを避けるために、同じ企業内では複数の部門の計画を一元化し、ブルウィップ効果を小さくすることが必要となります。

さらに、上流のサプライヤーが同じことを実行できる必要があります。ここで求められているのは、個別最適からの脱却なのです。

無駄な在庫を生じさせない小ロット同期生産

納期確約ができるためには、精度の高い生産計画ができただけでは十分でなく、さらにその計画を精度高く実行(生産)できる必要があります。

計画が短サイクルになると、必然的に一回あたりに計画される生産量は小さくなります。それにもかかわらず生産のロットサイズが大きいままだと、生産工程の間の在庫サイズは変わらず、不良在庫になる確率が小さくなりません。せっかくの精度高い計画が無駄になるのです。

この事態を避けるためには、生産サイズの小ロット化が必要です。

さらに、上流工程から届いた仕掛かり品を在庫化することなく生産して次工程に回すために、各工程の同期化が必要となります。

以上をまとめると、需要変化が激しい市場で機会損失と不良在庫を小さくするためには、サプライチェーン全体で図の下部のような生産方式が必要となることが分かります。

大量生産と俊敏生産

短サイクル一元化生産計画や小ロット同期生産の詳細については、部品メーカーのSCMで説明します。

さらに、不特定多数の顧客の不確定な需要に対応する製品メーカーのSCMについては、消費者向け製品メーカーのSCMの課題:販売と生産の対立(悪魔のループ)消費者向け製品メーカーSCMでの販売計画精度向上で解説します。

何を学んだか?

  • 従来の各企業や企業内の各機能部門がそれぞれの効率を追求してきた部門最適の生産方式は、生産したものがいつかは売れるという大量生産・大量消費というパラダイムのもとでのみ成立するものである
  • 近年の成熟市場では、顧客の需要が多様化・不確定化している。このような市場で部分最適生産を行うと、サプライチェーン全体の機会損失・不良在庫が経営上無視できない大きさとなる
  • この事態を避けサプライチェーン全体のスループットを大きくするためには、流通が市場の需要変化にきめ細かく対応して仕入れができることが必要である。このために上流の製造に求められることは、流通に対する納期確約である
  • サプライチェーン全体で納期確約を実現するためには、参画各企業の計画プロセスと生産プロセス双方の俊敏性が求められる
  • 具体的には、鮮度高い情報で計画するための短サイクルで一元化した計画プロセスと、無駄な在庫を生じさせない小ロット同期生産が必要となる