「あるべき姿」の設定のバランスの良さが、問題解決の成否を分ける


最新更新日

あるべき姿を合意していないと、違う問題を解いてしまう

コンサルティングの途中でクライアントが首を振り出すことはありませんか?何か同意していないようなのですが、その原因がよくわからない、ということはありませんか?

その理由の一つに、「あるべき姿」が合意できていないことがあります。今日はそのお話をしましょう。

課題指摘コンサルタントにならないために考えるべきこと で触れた次の事例を見てみましょう。

  • ある製造業で売り上げが落ちたので、コンサルタントが相談に乗っていた
  • コンサルタントがいろいろな売上向上策を提案した
  • 社長が首を振ってこう言った。「実は仕事はいっぱいあるのです。営業的な問題はないのです」
  • 実は、その企業の問題は、組み立て要員の女性パート従業員が家庭的な事情(出産や介護)で次々辞めていき、ハローワークなどで募集しても補充が追いつかないことだった

コンサルタントが想定した「売上を上げる」というあるべき姿は実情を反映していませんでした。「組み立て要員を必要数確保する」というのが、この場で適切なあるべき姿だったのです。

この例は非常に簡単だったので、コンサルタントと社長の食い違いはすぐに検出でき、シングル・マザーを雇うという効果的な解決策が見つかりました。

しかし、一時的にせよ当事者間(この場合はコンサルタントと社長)で「あるべき姿」が不一致だという事態が発生したことには変わりはありません。

このような不一致(あるいは不明瞭さ)がどのような事態を引き起こすか、それを避けるために何を考えるべきかについて、もう少し検討しましょう

解決策が見つからず手詰まりの時は、「あるべき姿」を大きくする

問題はなぜ解けないままで残っているか で述べた部品メーカーの潰れかけた事業部の例です、

この事業部は、次のような状況でした。

  • 最大顧客からの受注が激減し存亡の危機にさらされている
  • 顧客からの受注減の原因は、競合会社に開発スピードで負けているからである

この状態から脱却するための「あるべき姿」は何だと思われますか?

最初に思いつくのは「開発スピードの向上」ですよね?事実、事業部内の人たちもそう考えていました。

しかし、このあるべき姿を実現するためには投資が必要です。でも、事業不振なので上層部は投資に合意してくれません。その結果、事業部は当人たちの言葉で「茫然自失状態」に陥っていました。

ここでよく考えてみましょう。「開発スピードの向上」は何のために必要なのでしょうか?

それは、競合会社に勝って受注率を向上させるためですよね?

だとしたら、「受注率の向上」をあるべき姿にすべきではないでしょうか?「開発スピードの向上」は、「受注率向上」のための一つの手段です。「あるべき姿」を大きくすれば、別の手段を探すことも可能になるはずです。

実際、このプロジェクトは「あるべき姿」大きくした結果、開発能力に対する引き合い案件の詰め込み過ぎを解消するという解決策を見つけることができました。そして、受注率の大幅向上に成功したのです。

この例が示すように、「あるべき姿」として何を設定するかが、プロジェクトの成否を大きく左右するのです。

一般に「あるべき姿」として保守的に小さなものを選ぶと、解決策が部分最適になりがちで、大きな変革効果は得られません。

上の例はその極端な場合で、「あるべき姿」が小さく、その制約範囲内では部分最適どころか、そもそも解決策が見つけられなかったケースになっているのです。

解決策が手に余る時は、「あるべき姿」を小さくする

では、「あるべき姿」が大きすぎるということはあるのでしょうか?答えは、YESです。

成果が出ない解決策を作り出したのは、クライアントの「プロブレム・トーク」 で紹介した、中小の部品製造企業A社の例です。

A社は次のような状態でした。

  • 自分たちの得意な市場では、競争力のある商品を持っており、市場シェアもかなり高い。しかし、その市場は景気の変動が激しいので、業績を安定させるために、新市場に進出したい
  • いままで慣れ親しんでいた市場では、顧客がA社の商品の特徴をよく知っているので、顧客が指定する仕様の商品を届ける御用聞き営業で済んでいた
  • 新市場の顧客はA社のことをよく知らないので、自社の商品が顧客の問題をどう解決できるかを積極的に訴求しなければならない

すなわち、A社の営業はこれまでの御用聞き営業から脱却して、ある種のソリューション営業ができなければならなくなったのです。

この事情を理解したA社の社長は、「ソリューション営業プロセスの構築」をあるべき姿に掲げました。そして、ソリューション営業に詳しい外部コンサルタントを雇うことを考えました。

しかし、そこで大きな不安に駆られてました。「そもそもうちの営業にソリューション営業が理解できるのだろうか?」という不安です。

ここで考えるべきことがあります。

実は、この会社の商品は基本的に一種類で、違いは詳細な仕様だけなのです。商品のいろいろな用途(ソリューション)を説明する一種類の説明パッケージを作り、顧客にそれを説明すれば事足りるのです。

そうであれば、顧客の幅広いニーズに対応するためのソリューション営業プロセスは必要ありません。誰かが、A社商品が対応できる顧客ニーズの範囲内で用途説明パッケージを作ればよいのです。他の営業はそれを持って回ればすむはずです。

即ち、あるべき姿は「顧客ニーズ別商品用途説明パッケージの作成」で良いのです。

もちろん、このパッケージの出来が売上を大きく左右するので、質の高い作業が求められます。

しかし、これを理解した社長は、「自分がそれをやる。それはできる」と言って、全国を巡って顧客ニーズの収集を始めました。

「あるべき姿」が不必要に大きいと、そこから導き出された「解決策」が当事者の実行能力を上回り、結局問題が解決しないことがあります。これまた要注意です。

「あるべき姿」が変わると、分析すべき現状も変わる

ここで、あるべき姿を検討する際に上記以外に注意すべき点についてまとめておきます。

まず、あるべき姿が変わると分析すべき現状が変わるということです。

冒頭の例で言えば、あるべき姿が「組み立て要員を必要数確保する」に変わった途端、なぜそれが確保できないかの現状を分析することになります。

コンサルティングで構想策定が重要な理由 でも述べたように、富士山に登るのかエヴェレストに登るのかで、自分の現状について検討すべきことが変わるのです。

このように、何を問題とするのかはあるべき姿の設定で大きく変わります。そして、この認識は、クライアント企業を変えようとするときに非常に重要となります。

企業を変えようとするときは、その企業のメンバーがどの問題の解決に取り組むべきかを合意している必要があります。そして、問題はあるべき姿の選択で変わります。

ですから、クライアント企業およびそのメンバーに変革をコミットさせようとするのなら、あるべき姿を合意しておくことが必要不可欠なのです。

コンサルティング・プロジェクトでは、構想立案フェーズ、計画策定フェーズ、計画実現フェーズなどの段階に分けて作業を進めることがよくあります。

一見無駄な手順を踏んでいるように見えますが、実は、最初の構想立案フェーズであるべき姿を論じ、合意したあるべき姿から解決策を導き出すことにより、その後の異論を防ぐための工夫となっているのです。

あるべき姿を勝手に決めて良い戦略コンサルタントとの違いに注意する

さて、これまであるべき姿をどのレベルで設定するかについて述べてきましたが、いわゆる「問題解決」の本では「あるべき姿」という言葉はあまり出てきません。

それは、なぜでしょうか?

たとえば、 問題解決プロフェッショナル や 論点思考 といった本で出てくるのは「課題を設定する」、あるいは「論点を設定する」という言葉です。これらの本では、問題解決の手順は、まず現状を理解し、次に課題を設定するという順になっています。

このことを詳しく理解するために、少し長いですが「問題解決プロフェッショナル」に書かれている文章を引用してみます。

「A商品の販売利益額が下がっている」という現象があるとする。これをまず課題としてとらえる必要がある。利益額が下がっている、さてどうしよう。「A商品の販売利益額を改善することは可能か」。これがまず「主要課題」の設定になる。したがって、現象を問題として認識しなければ、課題は設定されない。課題とは「解決すべきだと意識された問題」だ。そのためには、とにかく何かと比較し、SO WHAT?(だから何なの)を考える必要がある。ビジネス上の比較対象は、3Cの枠で考えると良い。

  • 自社:達成目標とのギャップはないか?
  • 競合:競合の優れたテントのギャップはないか?
  • 顧客:自社の商品・サービスに満足しているか?

このことからわかることは、「課題」や「論点」は、本ブログで言うあるべき姿と現状の「ギャップ」に相当しているということです。(現象が「現状」に、比較対象が「あるべき姿」に相当していると考えれば、対応がつきます。)その意味では、それ以降の解決策の導出は全く同じ内容の作業になります。

しかし、一つ大きな差があります。

それは、ギャップの抽出にあたり「あるべき姿」は問題解決者の頭の中で比較対象として現れてきて、多くの人が議論して合意する対象とはならないということです。これらの本は、問題解決者がいかに上手に課題や論点を抽出するか、その方法について述べているのです。

これらの本と本ブログの差は、以下に述べるように想定しているコンサルティング・パラダイムの差にあります。

  • 問題解決本は、戦略コンサルタントが大企業のトップに解決策を進言する場合に役立つことを想定している。大企業のトップは優れた理解力を持つと想定されるので、途中で「あるべき姿」の合意などの手順を踏む必要はない。さらに、リソースを豊富に有しているので、チャレンジングな解決策でも部下に命じて実行することができる。この点からも、あるべき姿の事前の合意は不要となる。コンサルタントは、解決策を示せば仕事は終わりで、解決策の実行に関与することはない
  • 本ブログでは、コンサルタントが普通の力量を持ったクライアントを導き、クライアントが最終的に問題を解決するまで面倒をみることを想定している。したがって、以下のような問題を避けるために、クライアントと「あるべき姿」を議論し、合意形成をすることが重要となる
    • クライアントが保守的になり小さな問題を解くことにより、大きな変革結果を得られない
    • 逆に、クライアントが自らの力量を超えたあるべき姿を設定し、解決策を見つけられなくなる
    • あるべき姿の合意を省くと、クライアントが何にコミットしているかが曖昧になり、解決策の実行がないがしろになる

戦略コンサルタントは、いかに優れた解決策を見つけてクライアントを唸らせるかが勝負です。それに対し、普通のクライアントを相手にするコンサルタントは、それなりに成果を出しかつ実行可能な解決策をみつけ、さらにそれを実行させられるかどうかが勝負なのです。

問題解決のアドバイスができないときに考えるべきこと で説明したコンサルタントという商売の見方で言うと、戦略コンサルタントは「クライアントの問題を解決する商売」なのです。(下図参照)

コンサルティング・パラダイムの比較

 まとめ

  • コンサルティングの途中でクライアントが首を振り出し同意していないことを示すことがある。その理由の一つとして、「あるべき姿」に合意していないことが考えられる
  • あるべき姿がどのレベルで設定されるかは、問題解決に非常に大きな影響を与える。保守的なあるべき姿では、解決策を実行しても十分な変革効果は得られない。過度にチャレンジングなあるべき姿では、実行不能な解決策が導かれる。したがって、コンサルタントは適切なレベルのあるべき姿が設定されるよう、クライアントをガイドする責任がある
  • さらに、取り組むべき問題は、あるべき姿の選定で概ね決まる。あるべき姿が変われば、分析すべき現状も変わるからである
  • したがって、クライアント企業を変えようとする場合は、あるべき姿の合意手順に注意を払う必要がある。一見無駄に見える構想立案フェーズが存在するのは、この合意形成を儀式化して拘束力を持たせるためである
  • 世の戦略コンサルタントが書く問題解決本には、あるべき姿の合意形成手順が陽には書かれていない。それは、戦略コンサルタントの対象クライアントが能力の高い企業トップであり、彼らが解決策をトップダウンで指示することを想定しているからである。すなわち、その想定のもとでは企業メンバーの合意形成に注意を払う必要がないからである
  • 上記の想定が成立しない「普通の」コンサルティングでは、企業メンバーの合意の有無が変革の成否を分ける。したがって、このような場合には「あるべき姿」の合意を図ることが非常に重要である