ブランド店の接客は、モノではなくソリューションを売っている
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人気がある専門店チェーンで顧客が買うのはストーリー
私は普段はB2B企業のコンサルティングをしていますが、ふとしたことで専門店チェーン(B2C)の業務プロセスの分析に携わったことがありました。今日は、その時に気づいたことをお話しします。
解決すべき課題は、専門店の売上向上でした。これまで専門店チェーンの経営者は、品揃えの目利き能力で勝負してきましたが、最近はそれだけでは売上が上がらなくなっているのをどうするかという問題です。
それに関し、一緒に分析をしていた流通業の専門家Aさんが、それら専門店の経営者に対し感じる違和感を口にしました。Aさんは、自分自身が売り子として高級ブランド品を売った経験があった人です。
Aさんによると、うまくいっていない専門店の経営者ほど、「品揃えには自信がある。そのことは店に入って貰えばわかる」と言うのだそうです。
一方、Aさんの経験では、高級ブランド品を買う上顧客は「店に入る前にその店で買うことを決めてくる」のだそうです。したがって、経営者は店の中の品揃え以外のことにも注力すべきはずだと言うのです。
Aさんの主張を裏付ける理論的根拠を行動経済学者の友野典男さんが「不況でも、なぜ高級ブランドが売れるか」で、次のように書かれています。
「トヴェルスキーなどが展開する「理由に基づく選択」理論によると、選択や決定をするには、その選択肢を選んだ納得のいく理由やストーリーが必要であり、充分な理由があって選択を合理化できればたとえ矛盾があっても構わないとされる。老舗高級ブランドが不況でも支持され続ける理由は、品質の安心感や満足度など、購入を選択する際に納得性の高い理由があるからだろう。」
つまり、高級ブランド品を買う顧客は商品だけでなく、そのチェーンで買うストーリーにもお金を払っているのです。このことは、皆さんも自分の経験に照らしてみれば納得できますよね?
だとすると、高級品を売る専門店チェーンの経営者は品揃えに加えて、このストーリーを準備し顧客に伝える努力をする必要があることになります。これがAさんが感じた違和感のもとだったのです。
すなわち、図①に示すように、品揃え以外は店に任せる方式から脱却し、本部のコントロールの下にチェーン全体で一貫したストーリーを提供し、顧客の納得を獲得するソリューション販売に転換する必要があるのです。
顧客が納得するストーリーとブランド価値の対応づけ
では、どのようにすれば、顧客が納得するストーリーを売ることができるのでしょうか?最初にすべきことは、どんなストーリーを提示するかの戦略を決めることです。
ここで、消費者が買い物で納得できるストーリーとは、例えば以下のようなものでしょう。
- そのチェーンの店に入ると、他所に先駆けて来るべき季節感が味わえ、季節のイベントに合わせた他では見つけられない楽しい商品を見つけられる
- その店では、店員が自分の悩みをじっくり聞いてくれ、納得のいくまで買い物時間を楽しめる
- 手作りで品質が良くセレブも愛用している商品を、自分の利用シーンに合わせて選べる
次に、選んだストーリーに合わせたブランド価値を構築します。1、2の場合構築すべきは店舗のブランドですし、3の場合は商品のブランドです。
例えば、3の場合なら、次のようなブランド価値と伝え方を作れば良いでしょう。
- 手作りの品質の良さ(材料や工法、作り手の職人の経歴の説明で伝える)
- セレブに愛される商品(愛用者であるセレブが着用している写真で伝える)
- ステータスの感じられるシーンで利用される(利用シーンとそれに合わせたコーディネートの紹介ビデオで伝える)
成功している専門店チェーンは、このようなブランド価値を作り出し、チェーン全体に徹底させているのです。
本部で、販売現場でブランド価値を伝えながらストーリーを売る方法を設計する
(以下では、3のケースを例として考えていきます。商品としては高級紳士服やカバンのようなものを想定ください。)
次のステップは、このブランド価値を売り場の設計、ディスプレイ、プロモーションや店舗での接客に反映させ、顧客にストーリーが伝わるようにすることです。
ここでは、接客について考えてみることにします。
販売士試験のテキストなどに見られる通常のモノ売りの接客プロセスは、図②の左側に示すようなものです。商品の説明だけを行っていて、これでは商品の背後にあるストーリーを伝えることは到底望めません。
ストーリーを伝えるためには、図②の右側に示されるプロセスに変革する必要があります。
まず、店舗プロセスから説明しましょう。
高級ブランドを得るには手間がかかるので、新規顧客の場合は、店舗での接客の第一歩は来店した顧客の観察です。買う意思のない来店客に声をかけるなどのムダなことはしたくないからです。(既存顧客の場合は、すでに蓄積した顧客情報に基づいて行動します。)
この段階では、(実際には順不同に行われますが、論理的には)まず顧客のタイプを確認します。その上で、購買意思を確認します。
高級ブランドの場合は、身なりもよくお金のありそうな上質顧客タイプ、お金はありそうだが身だしなみが今ひとつの成金タイプ、身なりは良いがお金のなさそうな上昇志向タイプ、お金もなさそうで身なりもよくないが一点豪華主義のオタク・タイプなどの顧客が存在しますので、なるべく上質顧客に手間をかける時間を増やすための見極めをするわけです。
次に、顧客の動きのスピードや視線の向きをもとに、計画購買か否か、どのアイテムに興味を持っているかなどを観察します。
さらに、服装などから職業や好み(銀行員や学校の先生には好みの色がある)などを推測し、ブランドが想定している利用シーン推奨の参考とします。
さらに、表情や店員に対する反応などから、自分で物事を決めていくタイプか店員のアドバイスを求めるタイプかなどの行動特性を確認し、どの段階で声をかけるかの判断材料とします。
ここまで来て、ブランドにふさわしい購買意思の持ち主と確認できたら、提案シナリオの作成に移ります。
以上の事柄からわかることは、顧客の観察方法は属人的なスキルではないということです。むしろ、顧客自身が有している情報の何を汲み取り、それらをお店のブランドの都合に合わせてどう解釈するかの戦略が重要なのです。
したがって図②に示すように、購買意思の確認メソッドは本部で準備して、それを店舗に徹底させることによりブランド価値を伝達する、という方法をとるべきなのです。
提案シナリオの作成に関しては、観察結果から判断した顧客タイプに合わせて、以下のいずれを強調する提案にするかを決めます
- 手作りの良さ
- セレブ愛用者
- 利用シーン
提案シナリオはブランド価値をどう反映させるかという内容なので、ここでも本社で考案しておきそれを店で活用させる方が、店員個人に考えさせるよりはるかに質の高いものが構築できます。
試着などの提案実施メソッドも、重要サイズの測り方、着付けのフィットのさせ方など、商品の作りのノウハウを反映させ本部で制作した方が質が高くなります。
以上のように、本部で接客メソッドを開発し、それらを店舗に徹底すれば、統一したストーリーを伝えることが可能になり、顧客の納得感を高められるのです。そして、これは顧客の違いはあるもののB2Bでのソリューション営業プロセスと同種のものとなっているのです。
まとめ
- 消費者の目が厳しくなってきた昨今、高級品を販売する専門店チェーンでも、単にお店のこだわり感を示す商品を揃えるだけでは不十分で、買い物体験を納得させる背後のストーリーを伝えることが重要になってきている
- そのため、どのようなストーリーを伝えるかを戦略的に決定し、それをブランド価値に展開する作業が必要である
- 最終的にブランド価値を販売現場で顧客に伝えるためには、モノ売りとは異なる売り場作り、ディスプレイ計画、プロモーション、接客が必要となる。
- このためには、従来のともすれば店舗主導のやり方ではなく、本部コントロールの重要性が高まる
- 例えば、接客のような属人性が高いと思われている分野でも、本部から顧客観察メソッドや提案シナリオ作成メソッドなどを提供した方が、質が高く一貫したブランド価値伝達が行える。これは、B2Bにおけるソリューション営業と質的に同じものなっている
[…] 先週のブランド店の接客はソリューション営業の例で考えてみましょう。 […]
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[…] 付加価値額増大のためには、ブランド価値の構築とその徹底や業務プロセスのムダ取りなどが必要です。 […]