信用財であるコンサルティングの営業は、「インサイトの提供」による尊敬獲得から始める


最新更新日

コンサルティング提案がなかなか売れないのは?

コンサルティングの営業には結構時間がかかりますよね?

クライアントがコンサルティングに不慣れだと、形の見えないアウトプットの確証を得ようと、訳のわからない質問をされたりします。また、提案書に書かれているコンサルティング方法論が理解できず、判断に困って交渉が長引きもします。

改革のキーとなるアイデアを時間をかけて理解させた挙句、価格勝負のコンペにされ、アイデアを競合に持って行かれて、がっくりすることもしばしばです。

もっと困るのは、クライアントの社長に、コンサルティング開始後も提案内容と異なる自説に固執されることです。

どうしてこうなるのでしょうか?何がいけないのでしょうか?

その原因は、「クライアントに尊敬されていない」からです。

 コンサルティングの真の価値はインサイト

このことを理解するために、まず営業中ではなくコンサルティング実施中に何が起こり、コンサルタントがどこで価値を提供しているかを考えてみましょう。

例として、このブログでもよく取り上げている部品購買を考えてみます。

購入する部品の中には、製品の付属部品であるケーブルやモーターなどのように多くの「雑多な」部品を多数のサプライヤーから少量ずつ買うものが存在します。

この部品群に対して、クライアントの購買担当者は多数の手間を嫌い、一つ一つの部品の購入金額が少額であることを理由にして真面目にコスト削減に取り組もうとしません。

しかし、一つ一つが少額でも総計をとると、実は無視できない金額になるのです。結構な金額が目の前にあるのに、手間がかかるという理由で多くの企業が問題解決できずにいるのです。

購買改革の経験豊富なコンサルタントからすると、この問題を効果的に解決するのは簡単です。クライアントの視点を変更すれば良いのです。

実は、購買コストには、部品購買金額以外に管理コストがかかるのです。ここで、管理コストとは、適切なサプライヤーを選定するコスト、サプライヤーごとの口座の管理費や伝票の処理コストなどを含んだものを指します。

この管理コストまで含んだトータルなコストを考えた場合、多数のサプライヤーを集約してごく一部の大手のサプライヤーと付き合うことにすれば、個々の部品の購買金額の交渉に手間をかけなくても簡単にコスト削減ができるのです。

サプライヤーの数が減り管理コストが低減されるとともに、残ったサプライヤーは取引量が増えるのでその分の値引きに応じるからです。

ですから、部品購入コストの低減だけではなく、管理コストの低減まで問題範囲に含めるように、クライアントに提案すれば良いのです。

このことが何を意味するでしょうか?

それは、クライアントが問題を解決できずにいるのは、クライアントの問題の捉え方に原因があることが多い、ということです

7つの習慣 でスティーブン・コヴィーは「問題の見方こそが問題である」と言い、次の言葉を引用しています。

  • 「我々の直面する重要な問題は、その問題をつくったときと同じ思考のレベルでは解決できない」(アルベルト・アインシュタイン)

コンサルタントの真の価値は、クライアントが問題をつくった時とは異なる別の問題の捉え方を持ち込み、それにより問題解決を容易にすることなのです。これを、 チャレンジャー・セールス・モデル にならってインサイト(洞察)と呼ぶことにしましょう。

(この本の骨子を述べた論文がハーバード・ビジネス・レビューに出ています。その内容について、経営コンサルタントの常識: クライアントはどんどん賢くなるので新しいインサイトの提供が必要 で解説しましたので参照ください。)

このインサイトが優れているコンサルタントがクライアントから尊敬されるのです。

粛々と問題解決手順を実行して結果を出しても、それだけでクライアントから尊敬を勝ち得ないままでは、リピート・オーダーはもらえないのです。

提案時に尊敬されるべき理由:コンサルティングは信用財

さて、冒頭の営業段階の話に戻りましょう。

コンサルティングは、もともと事前には成果が分かりにくい商売です。ですから提案の評価に臨むクライアントは不安で仕方がないのが普通です。

いかに立派な提案書を書いても、それだけではこの不安を打ち消すことは難しいのです。

その理由は、コンサルティングが通常とはかなり異なった財だということです。道端の経営学で示されているように財には次の3種類があり、コンサルティングは、その中でも一番価値が分かりにくい「信用財」なのです。

探索財

探索財とは、購入前の情報収集によって、ある程度までは品質を判断できる商品やサービス(葬儀サービスなど)を指す。ただし、調査のためには手間や時間がかかる。

経験財

経験財とは、購入前の情報収集では品質の判断が難しく、購入し消費して初めて品質を確認できる商品(ゲームなど)やサービスを指す。経験財の場合、消費者の選択に大きな影響を与える要素は評判である。過去にその企業から商品を買った自分自身の経験や、他の顧客や第三者の推薦に基づいた評判が、消費行動を左右する。

信用財

信用財とは、購入して消費したあとでもなお、品質の判断が難しいか、少なくとも長期にわたって品質が確かめられない商品やサービス(年金の積立や地下の防水工事、大学教育など)を指す。信用財のブランドは、信頼性や確実性を基盤に築かれる。

信用財であるコンサルティングは、買ったあとかなりの時間が経たないと本当に価値があったかどうかが分かりません。そのような状況では、買い手は売り手であるコンサルタント自身の人物が信用できるかどうかで決定せざるを得ません。その信用の手がかりが、インサイトなのです。

クライアントを安心させるには、営業段階でこそインサイトが必要です。クライアントがなぜ問題を解決できないままでいるかを指摘し、考え方を改めれば問題が解決できることを示す必要があるのです。

そうすれば、クライアントは安心し、「この人についていけば問題が解決できる」と信じるのです。このようになって初めて、冒頭のような無益な工数が発生しなくなるのです。

「お客様の要望の理解」から始めて、尊敬されない提案を書いてしまうのは?

ソリューション営業プロセスに潜む「経験財」という思い込み

しかし、このような理解をしているコンサルタントは数多くはありません。

その理由は、コンサルティング提案のプロセスに潜むコンサルティング財に関する間違った思い込みにあります。それを理解するために、典型的なコンサルティング提案書作成プロセスを検討してみましょう。

例として、コンサルティング会社で学んだ「相手に響く」提案書の書き方 を取り上げます。随分と魅力的なタイトルですよね?

この記事では、提案書を次の手順で書くべきだとしています。

  1. 「お客様のご要望」を書き出す
  2. 「要望を解決するための施策」を書き出す
  3. 「弊社の提供する解決策・商品・サービス」を書き出す
  4. 「スケジュール・体制・予算」を書き出す
  5. 「留意事項」を書き出す
  6. 目次を書いて、清書する

お客様の要望にマッチした提案書を書けば「相手に響く」という訳です。でも、本当に響くでしょうか?

確かに、世の中には自分が売りたいことだけが書かれたレベルの低い提案書(図の左側のプロダクト営業)が山ほど存在します。それと比べれば、この手順は相当マシなことは分かります。

しかし、問題はこの手順でクライアントが満足して買う条件は何かです。

この提案書作成手順が前提としているのは、クライアントが自分の問題を理解しており、それを語れるということです。これは、図の真ん中の「ソリューション営業」の段階です。

その場合の提案の価値は、3で示される問題を解決する「方法論」がクライアントの問題にマッチしているかどうかにあります。クライアントはその方法論で自分の問題が本当に解けるのかをしつこく吟味しようとします。

また、当然のことながら他の同等の方法論を探し比較します。そして、滅多に起こらないことですが同等の方法論が見つかった場合は、価格勝負になります。(これは「探索財」の段階です。)

でも、同等のものが見つからないのが普通です。さらに、方法論の内容をクライアントが本当に理解できることは稀です。

その場合は、その方法論の評判を集めようとします。過去どういう結果が出たのか、そのことに当該のクライアントは満足しているのか、などです。

そして、売る側もこの要望に応えようと、過去の実績を収集して強調しようとします。これは「経験財」を売り買いする発想です。

しかし、これにも限界があります。というのは、2で得られた施策はクライアントごとに異なり、方法論はカスタマイズせざるを得ないからです。コンサルティングにおいて同じ解決策などというものは、そもそも存在しないので他人の経験は参考にならないはずです。評価されているのは、その方法論を使って結果を出したコンサルタントの力量のはずです。

売る方がせいぜいできることは、自分の方法論ができるだけ汎用性があるように見せかけて、口コミを集めるということだけです。これで売れたら、ラッキー!ということのはずです。

ところが、このことが意識化されていません。

ソリューション営業プロセスは、クライアントが提案された解決方法を評価できることを前提としています。すなわち。コンサルティングが探索財あるいは経験財であると想定していますが、このこと自体に無理があることが理解されていないのです。

中小や個人営業では、経験財化はペイしない

大手企業の場合は、人によってサービスの出来が違うと都合が悪いので、メンバーを教育してでも方法論の経験財化を図りますし、企業のブランド価値を高めるためにもその投資には意味があります。また買う方も大手企業のビジネスマンなので、実際にはカスタマイズが必要なことは理解した上で、意思決定を効率よく行うために経験財という虚構を受け入れます。

しかし、中小企業や個人レベルでは、そもそも方法論の出来と担当コンサルタントの質は不可分です。また、買い手の判断能力も、そこまで高くはありません。その場合には、最初からコンサルティングは信用財だという前提に立った提案方法を考えるべきでしょう。

さらに、問題があります。この手順の前提が崩れクライアントが問題を理解していない場合は、「お客様のご要望」が十分に確定せず、提案活動の後の方になって、クライアントが「何か違う」などと言い出したりします。

どうやら、コンサルティング提案で「お客様が要望をわかっている」ところから始めることに問題がありそうです。

コンサルティング営業では、図の右側のインサイト営業をすべきなのです

すなわち、ステップ1は「クライアントの心配事を書き出す」であるべきなのです。

ここで、コンサルティングはクライアントの問題を解決する商売です。したがって、クライアントの心配事は「問題が解けない」ということになるはずです。

ステップ2は「クライアンとの心配事を解決するインサイトを書き出す」と変えるべきなのです。そして、クライアントが問題を解けずにいるのはある見方に囚われているからだと指摘し、その見方を別の見方に変えれば問題が解決できる事を示すべきなのです。

前述の チャレンジャー・セールス・モデル の言葉を借りれば、クライアントが知らない新しい「世界観」を示すのです。

今まで解けなかった問題が新しい世界観に立てば解けることが理解できると、クライアントは安心して付いてくるのです。

インサイトの事例と作り方

では、どのようなものがインサイトにふさわしいのでしょうか?

それは、クライアントの古い世界観次第です。

上述の部品購買の改革の場合は、クライアントの古い世界観は、「製品の付加価値の大部分は設計で決まるので、製品原価は製品開発プロジェクトごとに作り込む」というものです。

この世界観のもとでは、購買担当者は、製品開発リーダーの指示のもとで部品購入価格の低減に従事します。設計者が優位に立ち、購買担当者は従属的な立場でした。

ところが、昨今多くの製造業で部品のモジュール化が進み、製品原価に占める部品購入額の割合が70-80%を超える企業が続出しています。

このような企業では、「購買は戦略的部門であり、部品のサプライヤー業界に関する高度な知識を有した購買チーム主導で製品原価を下げる」という世界観に変革する必要があるのです。

これをまとめると、次のようになります。

  • 古い世界観:  製品の付加価値に大部分は設計で決まるので、製品原価は製品開発プロジェクトごとに作り込む
  • 新しい世界観: 購買は戦略的部門であり、部品のサプライヤー業界に関する高度な知識を有した購買チーム主導で製品原価を下げる

古い世界観のもとで行動している企業に対し、その不合理性を理解させれば、コンサルティング提案は比較的容易に受け入れられるというわけです。

新しい世界観を受け入れないクライアントには、提案活動そのものをしなければ良いのです。

別の世界観の例が、 問題はなぜ解けないままで残っているか? で述べた潰れかけた事業部のケースで示されています。

そこでの古い世界観は、「受注に必要な開発スピードの向上のためには、開発プロセスの改革が必要だ」というものでした。

しかし、潰れかけた事業部にはそのような投資資金は投入されません。それを見て取った外部コンサルタントが、新しい世界観として「現有の開発エネルギーを受注のために最大限有効に利用する。そのためには、みすみす負けるとわかっている、あるいは投資効率の悪い案件は切り捨て、それで浮いた開発エネルギーを残る案件に投入すべきである」を提示したのです。

次の世界観の変革の合理性に納得した事業部は、取り扱い製品の縮小を決め、最大顧客からの受注率向上に成功したのでした。

  • 古い世界観:  受注に必要な開発スピードの向上のためには、開発プロセスの改革が必要である
  • 新しい世界観: 現有の開発エネルギーを受注のために最大限有効に利用する。そのためには、みすみす負けるとわかっている、あるいは投資効率の悪い案件は切り捨て、それで浮いた開発エネルギーを残る案件に投入すべきである

もう一つ例を示しましょう。

衣料や靴などの購入者がこだわりを持つ高級品(靴オタという言葉もあるそうですね)を売っている専門店の売上向上を引き受けている流通コンサルタントがいます。その人は、常々専門店の経営者の考え方が間違っていると言っています。

どの専門店経営者も、「店に入ってくれさえすれば、お店の良さはわかり買ってくれる。そのためには良い品揃えをすればよい」と言っているそうです。

しかし、この考えは間違いで、消費者は「店に入る前に買うかどうかを決めている。そのために店の外観など外側のプロモーションが重要だ」と言うのです。

店の経営者が自分の間違いを認め、次の世界観の変革に納得しない限り、売上が向上しないという訳です。

  • 古い世界観:  店に入ってくれさえすれば、お店の良さが分かり買ってくれる。そのためには良い品揃えをすればよい
  • 新しい世界観: 消費者は店に入る前に買うかどうかを決めている。そのために店の外観など外側のプロモーションが重要である

以上で、世界観を変えるインサイトのイメージはつかめたと思います。

では、このようなインサイトをどうやって作れば良いのでしょうか?

そのためには、これらのインサイトに共通していることを理解すれば良いのです。

これらは、いずれもクライアント企業でのそれまでの常識を問うています。

まず、クライアントが問題に対処しているときに暗黙に置いている前提に注目します。そして、そのうち問題解決の邪魔になるもの(アインシュタインの言う「問題を作ったときの思考レベル」)を取り除くのです。

これを発見するために、コンサルタントは「問題はどうしたら解決できるか?」ではなく、「問題はなぜ解けないままで残っているのか?」と問うべきなのです。

ただし、これは言うは易し行うは難しです。

慣れないうちは、自分の専門領域を定め、その領域内のインサイトの確立に集中した方が良いでしょう。そのインサイトに反応する人だけをクライアントとすべきでしょう。

(インサイトを使った営業のやり方については、感情を揺さぶり尊敬されるコンサルティング営業方法論 で解説しています。)

 まとめ

  • コンサルティングの提案は長引くことが多い。具体的にはクライアント側で以下のようなことが起こるが、その最大の原因は「コンサルタントが尊敬されていない」ことである
    • 形の見えないアウトプットの保証を得ようと訳のわからない質問をする
    • 提案されたコンサルティング方法論が理解できず、判断に困り保留にする
    • 改革のキーアイデアを理解した後、コンペにかけて価格勝負に持っていく
    • コンサルティング開始後も、改革対象とすべき自説に拘り、いつまでも蒸し返す
  • コンサルタントが尊敬される必要があるのは、コンサルティングが信用財だからである。そして、コンサルタントがクライアントから心底尊敬されるのは、クライアントの考え違いに気づかせ問題を解決に導く新しい見方を示した時である。この見方をインサイトと呼ぶ
  • インサイトの事例には、次のようなものがある。いずれも古い世界観を壊し新しい世界観に立つべきであることを示している
    • 製品中心の開発プロジェクトの中での部品購買 → 部品カテゴリ別の専門チームによる戦略的部品購買
    • 良い商品を扱っていることは店に入れば分かってもらえる → 専門品にこだわりのある顧客は店に入る前に買うかどうかを決めている
  • 何が成果かが見えにくいコンサルティングでは、営業段階からインサイトを示すインサイト営業をし、クライアントの尊敬を勝ち取るべきである。「お客様の要望の理解」から始めるソリューション営業では、提案が無駄に長引く
  • インサイトを見つけるためには、クライアントが問題に対処する時に無意識に抱いている前提を問う。そのために「問題はなぜ解けないままで残っているのか?」という質問をする
  • ただし、これは言うは易し行うは難しの典型なので、慣れないうちは自分の専門分野に絞って実行すべきである