オフィスの改革の本質は情報のムダ取り


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トヨタのムダ取りオフォス版に感じる違和感

最近は少し心許ないですが、かつては日本の製造業の生産性は世界一だと言われていました。それに比べて、オフィスの生産性は先進国の中でも非常に低く、製造業に学べと言われ続けてきています。

それを受けて、製造後のノウハウを転用した「オフィスのムダ取り」ということがよく論じられています。

例えば、トヨタの段取りでは表①に示すように、製造における7つのムダ取りをオフィスに適用したらどうなるかが示されています。

7つのムダ

その中の手待ちのムダをなくすために、オフィスでも平準化を考えるべきだと説いています。具体的には、次のように書かれています。

「経費精算の申請書類の提出期限が「月末」と決まっている場合、期限ギリギリになってまとめて書類を作成し、経理部に申請する人がいます。そういう人が多ければ多いほど、月末に大量の申請書類が経理部に持ち込まれ、大量の作業が発生します。それが原因で経理担当は残業をしなければならないケースもあるでしょう。

経費精算の作業が月末前後に大量に発生する一方で、それ以外の日は、経費精算の作業が少なく、経費精算の仕事に限っては「手待ち」が発生している状態です。

たとえば、各人が1ヶ月ごとではなく1週間ごとに経費精算の書類を提出すれば、経理部の仕事の平準化が図れて、手待ちの時間が少なくなります。このように自分だけでなく後工程も含めて仕事のリードタイムの視点を持つことも重要です。」(80-82ページ)

さて、これを読んでどう感じるでしょうか?

確かに、書かれている内容に間違いはないと思います。その通りに実現できれば、バック・オフィスの効率は向上するでしょう。

でも、業務改革のコンサルタントとしては、ちょっと違和感を感じますよね?その理由は、精神論で仕組化が難しいからです。

製造業での平準化では、前工程と後工程は同じ「モノ」を必要なタイミングで必要な量(売れる量)だけ作るという目的を共有しています。前工程が平準化されれば、後工程での必要資源の総量は少なくなり、全体最適となります。この合意があるので、平準化を仕組み化できます。

しかし、オフィスではどうでしょうか?出張が多く、突然の徹夜仕事に追われているコンサルタントに、平準化に協力する動機はあるでしょうか?自分たちの方が付加価値を生んでいるのだから、バック・オフィスの方こそ自分たちに協力すべきだ、と切り返すだけでしょう。

5Sやムダ取りの権威である古畑友三氏は、「現場改善 ムダ取りの基本」(アクセス埼玉文庫)の中で、ムダとは儲からない仕事であると定義し、ムダ取りとは儲かっていない仕事を儲かる仕事に変えることだと言われています。

上述の平準化は、儲かるフロントの仕事を犠牲にしてまで進める価値があるかどうかの検討がなされていないので、シラケルのです。何が儲かる仕事であるかの検討を抜きにして、形式的にムダ取りを当てはめたことが問題だと思われます。

古畑さんは、このような他社でうまくいった手法を何の工夫もせずに自社に取り入れようとする改善を、「モノマネ思考」と呼んでいます。そして、モノマネ改善は、一般的には企業としての思想がないため利益には結びつかない、とまで言っています。

さらに、「モノマネ思考」ではなく、「計画思考」でなければならないと説かれています。「モノマネ思考」は「手段指向型」であり、「計画思考」は「目的指向型」で、ベクトルの向きが違うとのことです。(「手段から入るな!」という教訓を生かすには 参照)

オフィスでのムダ取りがなかなか効果を上げないのは、このような何が儲かる(付加価値を生産している)仕事かの本質的検討(目的の共有)を抜きにしているからのようです。

では、オフィスのムダ取りにおける目的の共有とはどんなものでしょうか?以下で検討してみましょう。

受注処理でのムダ取り

オフィスの仕事と言っても、その中には多様なものが存在します。したがって、具体的な仕事の想定なしに一般的なムダ取りを検討する愚を避けるべきでしょう。

ということで、例として受注処理を考えてみましょう。

受注処理での「儲け」につながるものとは、顧客の注文に対し納期どおりに届けられるかの確認をし返答するスピードでしょう。これが遅ければ、売上がたつのが遅れるし、顧客が他社に注文を移すかもしれないからです。

ですから、この場合のムダとはスピードを遅くする行為です。7つのムダに照らし合わせてみると、次のようなムダがあり得ることになります。(これ以外のムダもありえますが、あまり面白くないので省略します。)

  • 手待ちのムダ: 受注が可能であることを確認するために在庫や生産計画と突き合わせが必要であるが、その問い合わせを他部署にしており返答待ちの状態、など
  • 運搬のムダ: 客先で受け取った注文書をオフィスの持ち帰る時間のムダ、あるいはFAXで受け取った注文書を社内システムに入力する手間のムダ、など

このようなムダが存在した場合のムダ取り策は、在庫・生産情報と受注情報の一元管理、モバイルやEDIでのデータ受信などのIT活用ということになるでしょう。

そして、上述の平準化とは異なり、それらの解決策の費用対効果も比較的容易に算出できるので、本当に採用するかどうかの判断もできるでしょう。

このケースで議論が紛糾しないのは、「儲かる」かどうかの基準が明確だからです。ムダ取りの手法に目を奪われる(モノマネ思考)のではなく、目的を明確にしたムダの検出(計画思考)が重要なのです。

 「7つのムダ」が顕在化させるオフィスの改善点

さて、これまでの議論から、オフィスの生産性向上に携わるコンサルタントは何をくみ取るべきでしょうか?

一つは、製造業で蓄積された7つのムダに関するノウハウは、オフィスの生産性向上に対しても、それなりに有効だということです。ただし、そのためには「モノマネ思考」を脱して「計画思考」にならなければなりません。

もう一つは、製造業で対象としているのはモノの動きですが、オフィスでは形のない情報が対象となり、ムダ取りで一番大事なムダの顕在化が難しくなるということです。

従って、コンサルタントにはそのための準備が必要です。

ということで、7つのムダがオフィスではどう当てはまるかを一つずつ検討してみましょう。

オフィスでも単独工程で検出が容易なムダ 

まず、モノと情報のアナロジーが簡単で顕在化が容易なものから検討を始めます。

手待ちのムダ 

手待ちのムダは上で検討した例でもわかるように、ある工程で作業するのに必要な情報が揃わない場合に生じます。これは、被害を受ける工程ですぐ検出できるので、情報の世界でも検出は容易です。

不良・手直しのムダ

これも、手待ちのムダと同様に被害を受ける工程ですぐ検出できます。

動作のムダ

これも、情報を格納する媒体をとなるモノを探す行為をさしているので、モノの世界と全く同種のムダですから、検出は容易です。整理整頓の範疇ですから、各人の卓上の整理整頓や共通書類をキャビネットに系統的に保管するなどのことが解決策となります。

在庫のムダ

これは、モノの世界では外部から購入するのに時間がかかり生産に間に合わないことを恐れ、部品や材料を余分に購入する時に起こります。非定型のオフィス・ワークでは、作業に必要な参考書を買っていなかったなどのことが当てはまりますが、業務改革の検討対象とはなりにくいでしょう。

以上のムダは、コンサルタントならその場で検出できるので、事前学習は不要でしょう。

複数工程の動きが絡み顕在化が難しいムダ

作りすぎのムダ

これは、モノの世界では前工程の作業が後工程より進みすぎた場合に起こり、中間在庫の増大として顕在化します。そして、モノの世界での解決策は後工程からのPULLです。

後工程からのPULLが解決策となるのは、モノの世界では「儲かる仕事」とは「売れるものを作る」ことだからです。売れるとわかっていないものを作ることが「作りすぎ」なのです。

これに対して、オフィスでは受注処理に見られるように、儲けるためには顧客への対応スピードを上げることが目的となることが多いです。このような場合は、前工程のスピードを抑えることではなく、後工程のスピードを上げることが解決策となるので、作りすぎのムダが考察対象とはなることは少ないでしょう。

加工のムダ

表①で説明されている加工のムダは単純ですが、オフィスではもっと複雑で顕在化しにくいムダが存在します。それは、いろいろな変更が起こり当初必要だったものが途中で不要になったにもかかわらず、それに気付かずに作業を続けてしまうというケースです。

たとえば、ある部品の試作をサプライヤーに依頼していたところ、設計変更が起こり試作が不要になったなどのことが、これに相当します。

変更の連絡がうまくいかないと試作を続けるというムダが発生します。さらに、古いバージョンの試作部品を製品に組み込んでテストしてしまうなどのムダも生じかねません。

このような場合には、経営視点での情報管理体系整備の必要性で説明した設計変更単位の管理などの情報のバージョン管理が必要となります。

業務改革コンサルタントは「情報がいつの間にか不要になるムダ」に鋭敏になっておく必要があります。

運搬のムダ

これも、表①に説明されている内容は単純ですが、それ以外に検討を必要とするものが存在します。

まずモノの世界でも、古畑さんは前工程から後工程にものを届けるだけでは不十分で、後工程での作業がしやすいようにモノの位置や姿勢を調整することまでを運搬の範囲に含めるべきだと言われています。

古畑友三監修、佐武弘章著、「原理原則にもとづく現場改善の実践」には、「カラクリ台車」と称してワークを運搬するだけでなく90度または180度回転させて後工程での作業を容易にする仕掛けが考案されています。

これをオフィスでの情報加工に当てはめてみると、前工程から送られてきたスプレッドシートを後工程で転記・加工して初めて作業に取り掛かれるということが頻発していることに気づきます。この種の運搬のムダにより発生する工数は無視できません。

情報加工の場合は、上述のような都合の良い台車を発明することは不可能です。むしろ、前工程で後工程の用途に合わせて情報生成をする方が、ずっとコストが安くて済みます。情報共有化プロジェクトで見過ごされるトップダウンでのデータの関係付けで述べたような「データの関係付け」(データ・モデリング)を実施すべきなのです。

コンサルタントは「情報を再加工しなければ使えないムダ」にも鋭敏になっておくべきなのです。

コンサルタントは、いざという時のために、7つのムダをヒントに、このようなシミュレーション(演習)をしておくと良いでしょう。

業務改革を成功させるために必要な2つの着眼点では、この記事と同じテーマを業務改革全体の視点から論じています。)

まとめ

  • 日本のオフィスの生産性は先進国の中で非常に低く、生産性の高い製造業に学べと言われ続けてきている
  • それを受けて、製造業のノウハウを転用した「オフィスのムダ取り」が論じられてきているが、その内容は精神論で仕組化が困難なものがほとんどである
  • 仕組化が困難な原因は、ムダの定義を怠り製造業のムダ取り手法を何の工夫もせずに取り入れようとする「モノマネ思考」にある
  • オフィス作業一般ではなく個別のオフィス業務の目的に照らしたムダの定義を行えば、製造業のムダ取り手法はオフィスでも有効に使える
  • ただし、オフィスでの作業対象の情報はモノとは違って見えにくいので、ムダの顕在化にはそれなりの工夫が必要である。
  • したがって、業務改革コンサルタントは、この違いを意識した事前準備をし、「情報がいつの間にか不要になるムダ」、「情報を再加工しなければ使えないムダ」などの言葉に馴染んでおくべきである