クライアントの他責思考を自責に転換させるために心得ておくべきこと


最新更新日

改革が前に進まない原因は他責思考

コンサルティングをやっていると、しばしば「総論賛成、各論反対」に出くわしますよね?

改革の方向性を定める「構想フェーズ」では、すべての参加者が目を輝かせて「そうだ、そうあらねばならぬ!」と叫んでいたはずなのに、具体的な行動計画を作る「計画フェーズ」になると、「そんなことは無理だ、うちの部門の事情を理解してもらわないと」と言い出します。ほとんどの部門がこう言い出すと、改革は頓挫します。

どうしてこうなるのでしょうか?

会社を変えなければならないことは全員が合意しているはずです。それなのに、自部門の変革を拒むとすると、そこにある理屈は「うちが問題ではない。変えるべきはあの部門だ」という他責の論理です。

全員が他責なら誰も変える人はいないわけで、改革は進みません。

一方で、改革がうまくいった例もあります。

サプライチェーン改革では、生産は販売予測をもとに販売が要求した納期どおりに製品を届け、かつ在庫を必要最小限にとどめることが課題となります。

このとき、販売予測が上振れするので在庫が過多となるのが通常です。そして、販売の言い分は、「生産が製品を届けるのが遅れる。顧客には言い訳できないので、品切れを起こさないために、販売予測を多めにする」です。

本来は販売予測を正確にするのが販売の責任のはずですから、典型的な他責の発言です。

これに対し、生産部門が中心となったある改革プロジェクトで「確かに生産からの納品が遅れているのは事実だ。まず自責でこれを解消しよう」と行動しました。そして、実際に納期遵守率を上げたところ、販売も文句を言えなくなり改革に協力したことがあります。(「計画を立てたら必ずやる」、協議1000回、現場が奮起 参照)

誰かが自責で取り組むと、他の人も自責になったのです。自責の威力は実に大きいのです。

このような事実を知った上で、改革プロジェクトを支援するコンサルタントは、他責に出会ったときどうしますか?

「仕方がない」と諦めますか?それでは責任が果たせませんよね?コンサルタントは他責を自責に変える方法を知っておく必要があるのです。

自分たちの行動の結果を「見える化」されて初めて、自責を認識する

皆さんは、これまでの人生で他責にする人を見てきた経験が少なからずあると思います。

たとえばこんな具合です。

あなたが、大学の体育の時間にソフトボールの試合をしていたときのことです。大事な場面で三塁を守っていたあなたが一塁に送球すると、一塁手が落球して相手がセーフになりました。そのとき一塁手が「お前の送球が悪いから」と言いました。

あなたはどう思いますか?「なんというやつだ!自分の失敗を人のせいにして!こんなやつはもう相手にしない」と怒りますよね?

企業の組織でも同じことが起こります。でも、付き合うのをやめてしまえば、改革はできません。それどころか、通常の仕事にも支障をきたします。

では、どうすれば良いでしょうか?こういう時の秘訣は、成功事例に学ぶことです。

問題が解けないままで残っている時は、前提となっている制約を外す で取り挙げた、潰れかけた小さな電子部品事業部の例を見直してみましょう。

その事業部の状況をもう一度まとめると、次のようになります。

  • 最大顧客からの受注が激減し存亡の危機にさらされている
  • 顧客からの受注減の原因は、競合会社に開発スピードで負けていることにある
  • 開発スピードが遅いのは、開発能力を超えた数の開発案件を手がけており、設計者が複数プロジェクトを掛け持ちでこなしているからである

第三者の冷静な目から見たこの場の解決策は、開発案件の数を減らすことです。そうすれば、どうせ負けることがわかっている開発案件の工数を見込みのある案件に回し、全体の勝率を高めることができるからです。

しかし、営業はそうは考えていませんでした。ただでさえ厳しい受注競争の中で獲得してきた引き合い案件を断るのは言語道断で、開発の怠慢が競合に負ける原因だと考えていたのです。

まさに他責以外の何物でもありませんでした。

この問題は、どのようにして解決したのでしょうか?それは、コンサルタントが前の記事にも挙げた次の図を書いたからです。この図は、営業が開発案件の詰め込みすぎをしていることを如実に示しています。

設計への過大な負荷

この図を営業出身の改革プロジェクト・リーダーに見せると、「えっ、俺たちこんな馬鹿なことをやっていたんですか?本当ですか?」と事業部長のところへ飛んで行き、それで問題は解決しました。

このことから何がわかるでしょうか?コンサルタントとして、何を学ぶべきでしょうか?

上の例でわかったことは、営業も自分たちの行動が自分自身に好ましくない結果を引き起こしていることがわかれば、行動を改めるということです。

他責にしている人たちが自責に変わることもあるのです。そのためには、その人たちの行動の結果を「見える化」すればよいのです。

自分で解決できることがわかれば自責になる

もう一つ例を挙げましょう。

問題は「ひとつだけである」という思い込みを廃して、80:20の法則を賢く使うコツ で述べた部品カテゴリ別購買チームの例です。

この時の状況を、以下にまとめ直します。

  • 製造業に占める設計の付加価値が減ってきており、製造原価に占める部品コストが70-80%にも及ぶようになってきている
  • そうなると、購買担当者が製品別開発チームの中で活動する従来の開発体制のもとでは十分な部品コスト削減が出来ず、新たに部品カテゴリ単位の購買チームの編成が求められる。同じ部品を製品開発プロジェクトごとに別の価格で買ったりする不具合などが無視できなくなるからである
  • しかし、これまで従属的な立場で行動してきた購買担当者は、新たな体制のもとでなかなか積極的に行動しようとしない。その理油として、「本当にコスト削減を使用するなら、サプライヤーとの交渉に技術的知識のある設計の立会いが不可欠である。それなのに、設計は忙しさを理由に立ち会ってくれない」などのことを挙げる

要するに他責となるのです。

ところが、このような状況で下図のような担当部品カテゴリの部品購入状況を見せると、行動を改めます。

部品購入における80:20の法則

購買は、これまでサプライヤーごとの購入金額は気にせずに、どのサプライヤーにも同じコスト削減工数をかけていました。この図をみれば、自分たちのその行動がいかにおかしいかが、明白になるからです。

一部のサプライヤーに集中すれば、コスト削減効率が上がることが一目瞭然です。忙しい設計にも、一部の交渉にだけ立ち会ってもらうように頼むなどの道が開けます。

このようにして、他責が自責に変わるのです。

コンサルタントが知っておくべきこと: 原因を担当者の性質ではなく環境に求める

上記の例はなぜうまくいったのでしょうか?うまく行かせるためのコツがあるのなら、コンサルタントはそれを知っておくべきですよね?

実は、そのような方法があるのです。それはコンサルタント自身のものの見方を変えることです。

ある人が好ましくないことを引き起こした時、周囲は行動の理由を、その人が個人的に持つ性質(性格や能力など)に求めがちです。その人を取り巻く周囲の状況からの影響は軽視しがちなのです。

これを難しい言葉で「基本的帰属錯誤」と呼びます。しかし、表現する言葉があるくらいですから、これは実はよく知られた事象なのです。(たとえば、クリティカルシンキング(入門編)  参照)

コンサルタントは、この傾向が問題の解決を妨げることが多いことを知っておくべきなのです。

電子部品事業部の場合、苦しんでいる設計の事情に目もくれず受注に血道をあげる営業を、人でなしと詰ったらどうなったでしょうか?

なかなか行動を起こさない部品カテゴリ別購買チームのメンバーを、能力不足を理由として配置転換したらどうなったでしょうか?

彼らの行動は、一見許容し難いものでした。でも、その原因は、単に彼らが自分たちの行動の結果を理解できない環境にいたことにあったのです。環境を変えさえすれば、彼らは合理的に行動したのです。

コンサルタントは、クライアントの一見非合理的な行動に遭遇した時に、その人たちの人格を裁くのではなく、なぜそのような行動をするのか、彼らの取り巻く環境の何がその行動を取らせるのか、と考えるように視点を改めるべきなのです。

そして、原因となる環境を発見したら、それを「見える化」すれば良いのです。そうすれば、クライアントは自然に他責を自責に改め、問題は解決に向かうのです。

まさに、クライアントを見下すと解ける問題も解けなくなる のです。

まとめ

  • 改革プロジェクトが「総論賛成、各論反対」などで行き詰ることが多い。その主な原因は、改革プロジェクトのメンバーが、問題の原因を他責とすることにある
  • 問題は他責では解けない。他責にしている当人は自分からは動かないからである。誰かが自責として動かない限り、問題は解消しない
  • 問題を他責にしている人に自責になってもらう方法がある。それは、当人の行動が引き起こしている好ましくない結果を目に見えるようにすることである。そうすると、他責が自責に自然にかわることが多い。したがって、コンサルタントは、現状分析をきっちり行い、この見える化をする責任がある。
  • 人間は他人が好ましくないことを引き起こした時、その原因を当事者の性質に求める傾向が強く、当事者を取り巻く環境にはあまり目を向けない。この傾向を基本的帰属錯誤と呼ぶ
  • 「見える化責任」を果たすために、コンサルタントは基本的帰属錯誤の意味するところを理解して、自分自身のものの見方を意識的に改めておく必要がある