現状分析は単なる「観察」ではない。「変えられるもの」を見つけるところまでやらないと、解決策は得られない


最新更新日

コンサルタント初心者の問題は、現状分析が浅くて実効のある解決策を示せないこと

コンサルタントの問題解決能力養成ゼミをやっていて、最近気になっていることがあります。

ゼミ生の話を聞いていて、現状分析をきちんとせずにすぐに解決策を論じる傾向があると感じられることです。その証拠として、ゼミ生が現状を説明する時間がすごく短いことが挙げられます。

たとえば、このブログでも何度か取り上げているある地方の製造小売りチェーンの「新ブランド・コンセプトの構築」がその例です。

クライアントの製造小売りチェーンの売り上げが低迷している原因は、消費者の嗜好が変化したからだとして、新しい嗜好に合った商品や店舗を設計しようとしています。しかし、本当にその商品や店舗で売上げが上がるのかの根拠を聞いても、はっきりとした返事が返ってきません。

その理由は、消費者嗜好の変化の内容を具体的に指摘できていからです。すなわち、現状分析が不足しているのです。

新しいブランド・コンセプトは、変化する消費者の嗜好に合わせた商品や店舗設計を提示するものです。ですから、それが売上げ向上に寄与できることを示すためには、少なくとも次のよう現状分析ができていて、それらにどう対処しているかを説明できる必要があるでしょう。

  • その地方の消費者の分布はどう変化しているか(若い世代が流入しているか、高齢化しているか、等)
  • 商品群ごとの売上げは変化しているか
  • 来店客は変化しているか(総顧客数、年齢・性別数、等)
  • 顧客の購入傾向(どの顧客がどの商品を買っているか)は顧客セグメントで異なるか
  • 購入傾向は店舗の立地で異なるか(都市部、郊外住宅地、農村地域、等)
  • 以上のことを競合他社と比べると、どのような違いが見られるか

ところが、そのような調査はなされずに新しいコンセプトが示されています。 どうも現状分析が苦手なようです。その結果、現状把握の価値を理解することなく行動しているようです。

それがなぜなのか、どうすればその状態から脱出できるかを考えてみました。

町工場「全体」の業績の観察では何も「変えられない」ため、改善の手が下せなかった若社長

きちんとした現状分析ができると、企業がどのように変わるかを、実例で示しましょう。

問題解決に行き詰まった時に最初に問うべきは“プロセス質問”で述べた板金工場の例です。前の記事で述べたこの工場の状況をまとめると、以下のようになります。

  • 社員10人ちょっとの町工場。若社長が経営を継いで社内改革を進め、ようやく毎年黒字が出るようになった
  • ところが東日本大震災が起こり、需要が減ってまた赤字になってしまった
  • 若社長はがっかりしたものの、「震災だから仕方がない」と気を取り直そうとしていた
  • 景気が悪くなってもこのような目に遭わないために、若社長は設計力の強化を目指している
  • その年の売上げは1億5千万円で、赤字は600万円

このケースでは、担当コンサルタントはベテランだったので、プロセス質問をしながら「この赤字を防ぐ方法があった。若社長は、このことから学ぶべきことがある」という結論を導き出していました。

先輩から学ぶために、先輩が「状況把握」、「問題分析」に関する「プロセス質問」をしていた時の、頭の中の動きをもう少し分解してみましょう。

それは、次のようなものでした。(図の①)

  1. “若社長は「赤字は仕方がない」と言っているが、それでは経営者として責任が果たせない。もう少し成長すべきだ”、 “そうか、若社長にとって赤字は「結果」で手が下せないものに見えているのだ。「赤字には原因があって、それを潰せば避けられたはずだ」とは考えつかないのだ”
  2. “売上げに比べて赤字額は非常に小さい。何か変だ。対応策があったはずだ”
  3. “震災で急に売上げが落ちて赤字になったのは、固定費が回収できなかった(機械や従業員が遊んでいる)からだろう。ならば、潰せる原因を探すには固変分解(売上げを営業利益、変動費、固定費に分解)すればよいだろう”、 “仮に潰せるはずだと気がついても、赤字全体を眺めているだけでは、問題が一枚岩でどうにも手がつけられそうに思えないのだろう。問題を分解する方法を教えればいいはずだ”、 “問題を分解するのは、加工の種類ごとにやればよいはずだ。その理由は、加工ごとに利益構造が違い、打ち手が変わるはずだからだ”
  4. “加工は、板金加工+溶接と溶接単独の2種類だ。待てよ!溶接単独の場合はほとんどのケースで材料は発注元から支給されている。また、溶接工は社員だから固定費はすでに支出済みだ。だとしたら、あと600万円分の溶接仕事をとってくれば、それで赤字解消だ。売上げ1億5千万円だから、それぐらいできそうだ”

このあと、若社長に、“溶接の手仕事を毎月50万円くらい取ることはできなかったのですか?”と聞いたところ、“それくらいならできます。赤字は私のエラーだったのですね”との返事が返ってきました。

設計力の強化を実現することはもちろん重要ですが、それには時間がかかります。それ以前に目の前の会社の経営を改善しないと会社が持たないかもしれません。現状分析をせずに現状を「仕方がない」と放置していると、経営が傾く危険すらあるのです。

コンサルタントには、正確な現状分析をもとに、クライアントを適切にガイドする使命があるのです。

 一枚岩に見える「全体」を「変えられる要因」に分解する手順

でも、経験の少ないコンサルタントに同じことができるでしょうか?クライアント企業にとって急いで片付けるべきことをアドバイスをして、会社を健全経営に導くのに、どうすれば良いのでしょうか?

そのために、先輩の現状分析の手順を抽象化して、方法として理解できるようにしてみましょう。

先輩の分析の流れを抽象化すると、以下のようになります。(図の②)

  1. クライアントが手を下せないと思っている現状(何かの結果)を理解する
  2. その現状から、クライアントが見過ごしているギャップを見出す。ここでギャップとは、そうありたいと思うこととの差のことである。すなわち、クライアントが気づけていない問題を提示する。これができるようになるためには、ギャップの候補のレパートリーを身につけておく。たとえば、自社の達成目標に届かない、競合他社と差がある、顧客が満足していない、等である。
  3. ギャップが大きくて一枚岩のように見えると手がつけられないので、分解する。分解にあたっては、「変えられる」要因に分解する目つきが重要である。
  4. 分解された要因別のギャップの中で、潰すと効果が出るものを見つける

現状分析手順

この手順自体は、それほど難しいものではありませんが、それを実地で適用できるようになるためには、次のような心構えの転換が必要です。(図の③)

  • クライアントが問題を提示してくれるものと無意識に想定しているコンサルタントは数多い。クライアントが「仕方がない」と思っている時や問題に気づけていない時は、これが盲点となり問題(ギャップ)が把握できない
  • このような時に備え、現状をただ第三者的に眺めるのではなく、当事者として自分から積極的に不満点を探す態度を身につけるべきである。そのために「ありたい姿」から物事を見つめる目つきを養うことが重要である
  • 現状は何かの「結果」であり、それ自体は「変えられない」。その結果を引き起こした「原因」には変えられるものがある。「変えられる原因」を探すために利用するのが因果関係分析である。その因果関係分析においても、「分析というお仕事」をするのではなく、なんとしてでも「変えられる原因」を探すのだという積極性が求められる
  • ありたい姿から物事を眺める目つきの養成には、自社・自部門の状況を外から眺めるフレームワーク(3C、5-Forces、4P、等)の使い方を勉強しておくのも一つの方法である。因果関係分析を効率的に行うためには、問題検出用の分解フレームワーク(固変分解、AIDMA・バリューチェンなどの時系列分解、等)を勉強しておくのも良い

実は、1.から4.の現状分析手順は、問題解決プロフェッショナルのような教科書にはさらっと書いてあります。でも、教科書を読む時には当たり前に見えることが実際には応用できません。それは、上記のような心構えの転換ができていないからなのです。

結果は「変えられない」が、プロセス途中の状態は「変えられる」

抽象化された現状分析手順の適用方法を、同じ板金工場の別の例で説明しましょう。

若社長は600万円の赤字の原因を理解したのですが、次にどうすれば良いかがわかりませんでした。溶接の仕事をとってこようと思っても、現在どれくらい黒字なのか赤字なのかがわからなければ、目標受注額が決まらないからです。

そのために毎月の受注計画を立てることにしました。

でも、それでも行動できません。毎月の受注額が大きく変動してしまうので、次の月の目標の意味がはっきりしなくなるからです。

ある月に大きな受注があると、次の月はその処理に集中してしまい、その月の受注が減ります。そうすると、その次の月に慌てて受注活動に走り回る、ということを繰り返していました。

この時も、若社長が口にしたのは「仕方がない」でした。

本当にそうでしょうか?

上記の手順で現状分析をしてみましょう。その結果は以下の通りとなるはずです。

  1. 問題の理解

受注額が毎月変動して目標から大きく乖離する

  1. ギャップの把握

社長は受注額の変動は「仕方がない」と言っているが、そんなことはない。受注額を目標通り安定化させている企業は数多くある。あるべき姿は「目標通り受注を取る」であり、現状の変動は自分のエラーだと見なすべきだ

  1. 現状を「変えられる」要因で分解

受注は何ヶ月かかけた作業の結果だから、それ自体を分析しても「変えられる原因」は見つけられない、だとすると、受注に至る以前の作業を変えるしかない。受注に至るプロセスの「引き合い、提案、見積もり、受注」などの各段階に分解して、何が起こっているかを分析すべきだ

  1. 効果の大きい原因を潰す

分解してみると、至る所で案件の進捗が滞っていることがわかった。小さな金額の案件を優先して追いかけていて大きな案件の客先からの見積もり依頼を放置したりしている、などのことが散見される。特に引き合いに対する反応が遅い。これでは数ヶ月後の受注額が振れるのは当然だ。各月の受注目標から逆算して、それぞれの段階の案件をどれくらい前に進めるべきかを決める管理システムを作るべきだ。そうすればこの問題は解決する

このプロセスを見ると、社長とコンサルタントの差が大きく出るのは、2.であることが明らかでしょう。コンサルタントは、企業のあるべき姿に対する考え方をもとに、自分の意見をためらわずにいうという心構えを確立しておく必要があるのです。

まとめ

  • 現状分析を十分に行わずに、すぐに解決策を考案する若手コンサルタントが多い。現状の何かを変えない限り問題は解消しないのであるから、そのような解決策の実効性には疑問を持たざるを得ない
  • 現状分析を十分に行わないのは、クライアントと同様にコンサルタントにも、現状が一枚岩で歯が立たないように見えるからである。しかし、そう見える原因はコンサルタント自身の心構えにある
  • クライアント自身が問題を提示できない時は、コンサルタントがクライアントの身になって積極的にギャップ(何かの理想形と現状の差)を把握する必要がある。そのギャップが取り組むべき問題を表現している。
  • 現状を分解してギャップの原因を探求する時は、「変えられる要因」に注目すべきである。「変えられない」ものを原因として指摘しても解決する方法がないからである。
  • ギャップの把握のためのあるべき姿の想定、変えられる原因を探すための分解、などを効率的に行えるようになるためには、フレームワークの勉強などが役にたつ。ただし、フレームワークの勉強は、このような目的意識のもとで行うのでなければ効果は出ない。フレームワークを身につければ自動的に問題分析が出来ると期待して勉強するのは、真逆の行動である