クライアントの心変わり・抵抗・他責を見下さず、その背後の合理性まで考慮してこそ、一人前の問題解決者


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コンサルティングの利点と罠

岡目八目という言葉がありますよね。

岡目とは脇から見る、第三者の立場で見ることを意味します。他人の打っている囲碁を傍から見ている者は、対局者よりも八目も先の手が見えるということを指しています。

囲碁も将棋も打っている者同士は勝つことに必死ですが、傍観者は局面の全体を見渡す余裕があるので、当事者よりも冷静に観察しており、はるかに的確な判断ができることを例えたものです。

コンサルタントも岡目です。対象となる問題に利害が絡んでいないのでクライアントより冷静な判断ができる、というのが外部のコンサルタントを採用する利点の一つなのです。

しかし、これが裏目に出ることもあります。

それは、傍から見ると簡単に解ける問題に四苦八苦しているクライアントを見続けていると、クライアントがバカに見えてくることがあるからです。その結果、解ける問題も解けなくなってしまうことがあるので要注意です。

たとえば、業務フロー分析を実施してクライアントの無駄な作業や情報の受け渡しミスを指摘して、業務の効率化に貢献したとしましょう。このような無駄やミスは、分析してみれば一目瞭然なものがほとんどです。

最初のうちは、なぜこのようなことにクライアントが気づけないのか不思議ですが、慣れてくるとクライアントというのはそういうものなのだ、と見下すようになりがちです。

そんなときに「在庫が減らないのを何とかしたい」という問題が持ち込まれたとしましょう。「こういう問題は慣れている」と、在庫コントロールの業務フロー分析を始めます。

業務フロー分析を終えて幾つかの無駄を発見し対策を施した後で、ふと気がついてみると、在庫そのものはそれほど減っていないことがわかりました。実は、この会社では販売予測の精度が悪く、製造部門はそれをカバーするために製品を多めに作っていたのです。

こうなると細かな業務フロー分析は無駄ですが、すでにその作業に時間を使ってしまったので、期限内に成果を上げることは難しくなってしまいます。

この場合は、在庫係は自分の業務をきちんと行っていたのであり、その人の責任で在庫が過大になったわけではなかったのです。

「その人は職務に忠実に働いているにも拘わらず、なぜ在庫が過大になるのだろう?」という問いを立てる必要があったのです。そうする代わりにクライアントを見下したばっかりに、解ける問題を解けなくしてしまったのです。

無意識にクライアントを見下してしまうパターン

コンサルタントの大半は、自分はこのような失礼な見下しをしていないと考えるでしょう。しかし、実際に無意識に見下していたことはない、と言い切れるでしょうか?

時間をかけて合意した事項なのに「社長が心変わりして反故にされた」と怒ったことはありませんか?

会社の将来のためにどうしても必要な改革案に反対する人たちを、「社員がバカだから」と言ったどこかの社長のように、「どうしようもない抵抗勢力だ」と思ったことはありませんか?

部門間で非難応酬をする人たちや、ちょっと自分の権限を越えれば解決する問題に手をつけない人を見て、「了見が狭い、無責任だ」と感じたことはありませんか?

もし、それらのクライアントの行動にそれなりの合理性があると考えた方が問題が解けるとしたら、あなたはクライアントを見下していることにはならないでしょうか?

以下、そのようなケースを検討していきます。

クライアントが心変わりするとき

これは、「手段から入るな!」という教訓を生かすにはという記事で述べた事例の角度を変えた再検討です。

コンサルタントが売上が低下しているあるチェーンストアの立て直しのためにブランドコンセプトの再構成の支援をしているときのことです。

そのチェーンには2つの代表的商品群がありました。商品群Aは顧客が日常的に買いに来るが利益率は低い客寄せ商品で、それにつられて来店する顧客がたまに購入する商品群Bで利益を獲得しているという構造でした。

クライアントの二代目若社長は、自社にとって重要なのは集客用のA群であるとして、ブランドコンセプト見直しを要請しました。ところが、実際にコンセプトを実行するときになって「やっぱりBが大事だ」と言いだしたのです。

このようなときのコンサルタントの正直な心情は、「だから経験のない若社長は困る」ではないでしょうか?そして、若社長になぜ意見を変えたのかの理由を問い糺すことになるでしょう。

でも、若社長は理由を説明できるでしょうか?うまく説明できないからこそ、「心変わり」と取られるような間際の態度変更をしたのではないでしょうか?その原因を探ったほうがよほど生産的ではないでしょうか?

コンサルタントが「経験のない若社長」とレッテルを貼って見下すと、このような自分に対する問いかけをする機会を失ってしまいます。

このケースで想定できるのは、若社長は実は問題解決における合意形成の重要さをわかっていない、ということです。

コンサルティングに不慣れなクライアントは、自分自身が意思決定をすることの重要性を理解していません。わからないなりにコンサルタントの言うことを聞いていれば何とかなる、と思っていることが多いのです。

ですから、ちょっと変かなと思ってもしばらくはついてきます。そして、いよいよ変だなと思ったときに、初めて自分の意見を表明します。しかも、論理的な説明が得意でないので、「豹変」してしまうのです。

たとえば、このチェーンストアの売上が落ちている原因として少なくとも次の4通りのケースが考えられます。若社長は、最初は1が正しいと思っていたのですが、途中から2かもしれないと思い始めたのです。

  1. 商品群Bには十分競争力がある。したがって、集客商品群Aを強化する必要がある。
  2. 商品群Aは十分強く集客はできている。したがって、商品群Bの強化が急務である。
  3. 商品群A、Bのどちらにも問題がある
  4. 売上が落ちているのは、立地などの商品力以外のことが原因である

ですから、ブランドコンセプトの構築に入る前に、これらのケースのどれが該当しているかの議論を尽くし合意形成をしておけばよかったのです。

このやり方をとれば、どこにも若社長の「未熟さ」が入り込む余地はありません。仮に新たな情報を得て考えが変わったとしても、これらのケースの選択の場所に戻って再度議論すれば良いだけのことです。

コンサルタントは、若社長が未熟だと見下すのではなく、クライアントとの丁寧な合意形成を図ればよかったのです。

クライアントが抵抗するとき

コンサルタントなら、誰しもクライアントのメンバーが変革に抵抗するのを経験したことがあると思います。

ここで、抵抗とは必ずしも面と向かった反論を伴うものとは限りません。たとえば、「それは時期尚早です」、「私にはもっと情報が必要です」、あるいは「ここではそんなやり方をしたことがありません」などの消極的な表現での抵抗も含まれます。

このようなときも、「会社の存亡をかけた大事なときに反対するとは、一体どういうつもりか」と、相手を低く見がちです。これで喧嘩してしまっては、もう先に進みません。

経験豊富なコンサルタントはそのように考えません。彼らは、人間が抵抗するのはむしろ自然なことだと思っているのです。人間が抵抗するのは変革後の世界が現状より良くなることを確信できないからなので、それを確信できるように工夫しさえすれば良いということを知っているのです。

このことは、胸に手を当てて自分の行動を考えてみれば良くわかることです。コンサルタント自身の世界の事例でお話ししましょう。

コンサルティングは時間単価で請求するビジネスです。したがって、このビジネスで儲けるための鍵は、メンバーの稼働率を上げることです。当然、管理部門はメンバーに稼働率を正確に申告することを求めます。

一方で、クライアントに請求できない無駄な作業をした場合は、その作業を別の有効作業に回したほうが儲かります。ですから、プロジェクト・リーダーに対してはプロジェクトの損益を厳しく管理します。そうなると、プロジェクト・リーダーにはメンバーに稼働時間を少なめに申告させようとする動機が生まれます。

メンバーの稼働率を正しく申告するようにという上層部の指示に対し、クライアントの変革を支援する当のコンサルタントが「抵抗」するのです。

この抵抗を解消させる鍵は、「抵抗勢力」に自分たちに見えていないことを示すことです。抵抗すると却って失うものあるということを分からせるのです。

この場合は、稼働率を少なめに示すと、それで充分にやっていけているのだから採用を増やす必要はない、ということを示すのです。

これを理解させると、ただでさえ忙しくて死にそうなプロジェクト・リーダーは、損得勘定を改め抵抗しなくなります。

要するに、抵抗する人たちには見えていない変革のメリットを示し、変革に至る道の不確実性を取り除けば良いのです。

クライアントが他責にするとき

企業はその全体目的を効率的に達成するために分業を行い、分業する単位ごとに組織を設置します。

この設置そのものには何の問題もないのですが、時間が経つにつれ、各部門が必ずしも設置目的通り完璧には行動できない、あるいは設置時には想定されなかった問題が起こる、などのことが生じます。

このような場合に、「あの部門が悪いから自分たちが被害を被る。けしからん!」、「問題があるのはわかっているが、自分たちには手の下しようがない。責任を持って対処すべきはあの部門だ」などの議論が横行しがちです。

これらの議論の根底にあるには、問題を解決する責任は自分たちにはないという他責の考え方です。

企業の運営がうまく言っている時には、自分たちに与えられた職務を目一杯こなすという前提で行動して良いので、この考え方に何の問題もありません。

しかし、会社全体の変革が求められる場合には、これでは困ります。

その場合は、自分たちの職務だけを忠実にこなしていることによりお互いが損をしていることを、全体図を描いて示せばよいのです。

この点については、すでに合意形成の壁を突破する「事実」の威力という記事に書いてありますので、詳しくはそちらを参照ください。

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まとめ

  • コンサルタントは、クライアントのビジネスに直接の利害関係がないので、物事を冷静に捉えられる。その事実が、クライアントの問題解決に効果を発揮する。
  • 一方で、解決できた問題を眺めると、非常に簡単なことが原因で問題解決ができていなかったケースが多々ある。そのようなことをなんども経験すると、コンサルタントはクライアントはバカだと見下しがちになる、
  • クライアントを見下すと、解ける問題も解けなくなる。その理由は、クライアントの一見馬鹿げた行動(心変わりする、抵抗する、他責にする、等)にもそれなりの合理性があるからである。
  • クライアントの行動を変えるには、その行動の合理性の根拠が成立していないことを示す必要がある。そうやってクライアントの行動を変えてこそ、成果をあげられる。
  • 決してクライアントの行動を見下すことなく、上図に示されるような合理性の根拠にまで目を向けられるようになって初めて、一人前の問題解決者と言える