コンサルタントが知っておくべきは、原価「計算」テクニックではなく原価「企画」の思想


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なぜ「原価管理」の勉強は退屈か?

原価とはなんでしょうか?

Wikipediaによれば、「原価(げんか)とは、特定の目的を達成するために消費される経済的資源を貨幣で測定したものである」と書かれています。

商品であれば、顧客が満足する機能を発揮させることがその目的となります。ポットであれば、「お湯を沸かし、保温し、注ぐ」が目的です。

そして原価は、この目的を達成するための本体やヒーター、フタなどを作るために使われた、材料費、加工費などの総和となります。

原価の管理は、企業が競争の激しい業界で生き残るための経営の最重要事項です。経営をアドバイスするコンサルタントなら、原価管理の知識を身につけておくことは必須です。

しかし、原価に詳しいコンサルタントを滅多に見かけません。なぜでしょうか?

たとえば中小企業診断士試験を受けようとして受験校などに通うと、かなりの量の原価計算・管理の勉強をさせられます。診断士として原価の知識を持っていることは当然とされているからです。

しかし、その勉強は全く面白くありませんよね?その結果、資格習得後に原価のことをきちんと語れる人は、そう多くはありません。

意欲ある人たちの時間の使い方に、膨大な無駄が発生しています。なぜ、こうなるのでしょうか?

その理由は、日本の教育によくあることですが、実用性を重視してHowを教えることに重点を置くからです。Howから教えようとすると、基礎からのボトムアップの積み上げ方式となり、それが退屈なのです。

たとえば、原価企画 戦略的コスト・マネジメント という本に、コスト管理は次の5段階を経て歴史的に発展してきたと述べられています。

  1. 実際原価計算のレベル(実際原価の期間比較によるコスト管理)
  2. 標準原価計算のレベル(標準実績比較によるコスト管理)
  3. 物量管理のレベル(JIT生産、小集団活動、FA化などによるコスト低減)
  4. 原価企画のレベル(品質、信頼性、昨日、コストの同時作り込み)
  5. 戦略的コスト・マネジメントのレベル(全社戦略の中枢機能としての戦略的原価企画)

資格教育では、大まかにいうと、この歴史的順に沿って主に1と2の計算テクニックを教えます。そうでないと、次の段階での実務ができないからです。

しかし、大抵はこの段階で終了し、4や5に進むことはありません。3も、原価の話ではなくオペレーション・マネジメントの話としてカバーされます。

この結果、何が起こるでしょうか?

それは、このような勉強をしても、コンサルティングには何の役にも立たないということです。コンサルティングに最初に必要なのはトップダウンでのWhy(なぜコスト・マネジメントが重要か)、すなわち原価を管理するための思想の理解だからです。

1から自分で勉強するのではなく、先達に5から解説してもらうべきなのです。そして、必要だけれど仕入れが間に合わないHowがあったら、それは誰かにアウトソースする、と割り切るべきなのです。

では、原価の思想について何をどの順で理解すべきでしょうか?

なぜ原価企画が重要かつ有効か?

最初に理解すべきは、「なぜクライアントの経営に原価が重要か」ということです。これに答えられないのなら、クライアントへのコンサルティングにおいて、この先一歩も進むべきではありません。

経営の目的は、利益を上げることです。そして、利益(売上総利益)には次の等式が成立します。

利益 = 価格 — 原価

ここで、独自の価値を持ち価格を好きに決められる商品・サービスを持っていたとしたら、価格を上げれば利益を確保できます。原価をあまり気にしなくて済みます。

また、流通業に見られるマークアップ方式のように、仕入れ価格に一定の利益率を上乗せして販売価格を決める方式が通用するのなら、原価については仕入先への価格交渉だけを考えるので済みます。

しかし、そう簡単なケースばかりではありません。商品・サービスを自ら作っていて、しかも価格競争の激しい業界で稼ごうとすると、次の順で考えざるを得なくなります。

  1. まず、競争に勝てる価格を決める
  2. 次に、欲しい利益を決める
  3. その上で次の等式を満たす原価(目標原価)を決め、それを達成する

原価 = 価格 — 利益

成り行きで原価を決めていたのでは、生き残れません。原価を1、2、3の順でどうやって達成するかを考える必要があり、それを実行する「原価企画」が経営の死命を制する重要事項となるのです。

企業が真面目に原価企画に取り組み始めると、驚くほどのコストダウンが可能になります。その効果を上げるのに有効なポイントに、原価企画 戦略的コスト・マネジメント で指摘されている、次の2つがあります。(顧客に付加価値をどう評価してもらうかを考えるのは、価格づけの役割です。)

  • 源流管理
  • 付加価値を生まないコスト・ドライバー(コスト生成要因)の徹底的排除

ここで源流管理とは、商品・サービスの設計の上流段階にまで遡ってコストの発生を管理することを指します。後述の通り、商品・サービスのかなりの部分が設計段階で決まってしまうからです。

付加価値を生まないコスト・ドライバーには、次の二つのタイプのものがあります。

  1. 生産者側から見た付加価値を生まないコスト・ドライバー(図の①)
  2. 消費者側から見た付加価値を生まないコスト・ドライバー(図の②)

まず、生産者側から見た付加価値を生まないコスト・ドライバーについて検討しましょう。

生産者側から見た付加価値を生まないコスト・ドライバーの排除

「生産者側から見た付加価値を生まないコスト・ドライバー」とは、製品・サービスの機能に直結せず発生するコスト要因を指し、その主たるものは在庫です。

このコスト・ドライバーの排除に積極的に取り組んできた代表選手が、トヨタ生産方式です。大野耐一さん(トヨタ生産方式)は、設計結果を受け取った生産側のやるべきこととして、付加価値生産に貢献しない次の7つのムダを取り除くことを挙げています。(これらのムダは、いずれも在庫コストの増大という結果に繋がります。)

  1. つくりすぎのムダ
  2. 手待ちのムダ
  3. 運搬のムダ
  4. 加工そのもののムダ
  5. 在庫のムダ
  6. 動作のムダ
  7. 不良を作るムダ

トヨタ生産方式に関する本で主として議論されているのは、1、2、3、5、7のムダの削減方法です。それらの実現方法の考え方については、B2Bで顧客満足度とキャッシュフローを同時に向上させるための能率的な生産とは で議論しましたので、そちらを参照ください。

4、6については、現場向きの優れた解説本、現場改善ムダ取りの基本よくわかる作業改善の本 などで議論されています。

このように、「生産者側から見た付加価値を生まないコスト・ドライバー」の排除方法は、コストセンターである生産現場の責任事項として、先進的な現場では日常的に実施されています。原価企画は、それら生産現場に対し、商品・サービスが利益を上げるための目標を設定し、その達成を管理するものなのです。

コスト・ドライバーに注目した原価企画からは話題はずれますが、生産に絡む原価低減については、これらの工場内の効率だけでなく、もう少し大きな経営環境の変化で理解しておくべきこともあります。変化を考慮した効果的な原価計算を行わないと、そもそもの原価低減の力点を間違えかねないからです。

コンサルタントは、これらの変化への対応方法を(特に中小企業の)経営者にアドバイスできるべきなので、環境変化の順に注意点を簡単にまとめておきます。

  1. 人手作業から「機械が生産する」構造に変わってきた(間接費の配分を、人チャージから機械チャージに変える必要がある。正味機械稼働率を上げることにより製品原価を下げることができる)
  2. 製造間接費が増えてきて、間接費配賦の意味がなくなってきた(製品個々の原価低減ではなく、制約工程の能力を上げてスループットを最大にすることに注力すべきである)
  3. 新興国への生産移管によりコスト構造が大きく変化している(輸送費などのサプライチェーン全体のコスト、日本人経営層の人件費、などを原価に反映させるべきである)
  4. 残った国内工場は多品種少量生産に移行せざるを得ず、人の活動がより重要になってきた(間接部門のコスト(カスタマイズ設計、段取り替え、など)を、配賦ではなくABCなどで製品原価に紐付けすべきである)

より詳しくは、高収益を生む原価マネジメント を参照ください。

消費者から見た付加価値を生まないコスト・ドライバーの排除と源流管理

ここからは、「消費者から見た付加価値を生まないコスト・ドラーバー」の排除について検討します。ただし、この排除は源流でやらないと効果が出ないので、両者を合わせて検討します。

「消費者から見た付加価値を生まないコスト・ドライバー」とは、消費者が製品・サービスを購入する時に「なぜそれを負担しなければならないのか?」と感じるコストの発生要因を指します。つまり、消費者が納得して支払って良いと考える商品機能実現のために発生するコスト「以外」のものを指します。

たとえば、携帯電話についているボタンが複雑でうまく使いこなせないとう話をよく聞きます。この不要機能に着目して高齢者用の簡便な携帯電話機が発売されています。この不要なボタンが担う機能が、高齢者にとっては「付加価値を生まないコスト・ドライバー」になっている訳です。

もっと地味な話で、トースターなどの家電製品のケースで内側の利用者の手が入らないような部分を過度に磨き上げているような場合も、付加価値を生まないコストの例となります。

さて、このような商品に関わるコストが商品企画・設計開発・量産の各段階でどのように作り込まれているについて、次の図で示されるようなことが知られています。

商品には、その機能を大きく左右するキー・パーツと呼ばれる部品(デジカメの場合で言えば、レンズ、撮像素子など)が存在します。

これらのパーツに何を使用するかは、商品機能を大きく左右するので、商品企画の段階でほぼ決まります。しかも、それらは非常に高価です。

そのため、図に示されるように商品の企画や構想設計が終わった初期段階で、その商品コストの大部分が決定されているという事態が発生します。

このような状況ですから、原価企画は初期段階(源流)から行う必要があります。これが原価企画で源流管理が重要かつ効果的な理由です。

では、初期段階(源流)から原価を下げるには、どうすれば良いでしょうか?そのためには、設計のやり方を理解しておく必要があります。

冒頭で述べたように、商品の目的は、顧客が満足する機能を発揮することです。ポットであれば、「お湯を沸かし、保温し、注ぐ」が目的です。

しかし、このままでは商品は実現できません。実現のためには、設計という行為を介して、要求された機能を細分化していき、どこかでその細分機能を実現する具体的な部品仕様に転換することが必要です。

これを、機能展開と呼びます。ポットの場合なら、次のような機能展開をしていきます。

  • お湯を沸かすためにはヒーターがいり、お湯を保管し保温する本体と、水を投入するための蓋が必要である
  • 本体には、水やお湯を格納する槽、保温のための断熱層、中の水の量を見るための目盛り窓、蒸気を逃がすパイプ、取っ手、注ぎ口が必要
  • などなど

原価企画では、この機能展開と並行して原価を管理していきます。

その実行方法の主要なものにVE(Value Engineering)という手法がありますので、それに沿って原価を下げていく方法を説明します。

まず、上記のようにして分解された機能のそれぞれ(例えば断熱材)についてターゲット・コストを設定します。そのやり方にはいろいろありますが、VEでは各機能に重要度(全体で100%)を割り当てて、目標原価にその割合をかけるという方法をとります。

たとえば断熱材の機能的重要度が12%であったとして、ポットの目標原価が4,000円であったとすれば、ポットのターゲット・コスト(これを機能コストFと呼びます)は480円となります。

そして、これら機能を通常の方法で実現するときの見積もりコストCを算出します。(現行品があれば、そのコストを流用します。)

その上で、V=F/C(VE価値)を計算します。このVE価値は、機能Fが重要なほど、コストCが低いほど、高くなります。反対に、機能が低くてコストが高いものは、Vが低くなります。

コストダウンは、Vが低いものから着手し、Vの値を高める工夫をします。

つまり、「最小限のコストで、顧客に必要な機能を確実に達成する」というのがVEの考え方で、そのために機能あたりのコストFに着目してコストダウンを進めるのです。

ここで、機能に注目する意味は、Cを下げる方法を幅広く考えられることにあります。具体的な機能の実現方法(断熱材としてどのような材料を使用するか、など)は指定されていないので、F/Cが目標の範囲に入らなければ、コストの下げ方に思い切った方法を考えることができるからです。

つまり、原価企画で源流管理が有効なのは、次の2つの理由によるのです。

  • 商品の原価を大きく左右する重要部品のコスト削減にいち早く取り組める
  • 設計の初期段階で機能中心に考えるので、実現方法を縛らない幅広いコストダウン方法を追求できる

まとめ

  • 原価の管理は経営の死命を分ける重要なものであるが、原価をきちんと理解しているコンサルタントは数少ない。その理由は、原価の勉強が退屈だからである
  • 原価の知識をきちんと身につけるためには、原価のHowである計算テクニックをボトムアップに勉強するのではなく、原価計算の思想(Why: 原価は経営にとってなぜ重要か、経営のために何をすべきか)をトップダウンで学ぶべきである
  • 競争の激しい業界で生き残るためには、ます競合に勝てる価格を決め、次に生き残るために必要な利益を決め、その上で原価を決めるという順の「原価企画」を徹底する必要がある
  • 原価企画に効果的な方法は、源流管理と付加価値に貢献しないコスト・ドライバーの排除である。そのうち生産者側から見た付加価値に貢献しないコスト・ドライバーの排除方法は、トヨタ生産方式などのオペレーション・マネジメントの分野で探求されてきているので、それらを勉強すべきである
  • もう一つの原価低減方法は、消費者価値に貢献しないコスト・ドライバーの源流での排除である。このためには、設計における機能展開と並行してコストを下げるVE(Value Engineering)の方法が有効である
  • 源流管理が有効なのは、商品の原価を大きく左右する重要部品のコスト削減にいち早く取り組めることと、設計の初期段階で機能中心に考えるので、実現方法を縛らない幅広いコストダウン方法を追求できることの2つの理由による