コンサルタントが知っておくべきストーリー・テリングの威力:クライアントを動かすためにその視点を変える法


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解けずにいる問題の解決に必要な、クライアントの視点の転換

最近ストーリー・テリングが注目されていますが、その理由が今ひとつピンとこないという人は多いと思います。実はそれはコンサルタントにとって非常に重要な技法である、ということを解説しましょう。

コンサルタントは、クライアントの問題を解決する商売です。この定義に異議を唱える人は、あまりいませんよね?

では、クライアントはなぜ自分で問題が解決できずに、コンサルタントに支援を依頼するのでしょうか?ちょっと頭を捻りますよね?

ここで役に立つのが、アインシュタインの有名な次の言葉です。

「今日我々の直面する重要な問題は、その問題を作った時と同じ考えのレベルで解決することはできない。」

人間は日々の問題を解決するにあたって、一から原理原則に当てはめて物事を考えるなどということはしません。それでは、脳が疲労困憊します。今の状況では多分これは正しいだろうという幾つかの経験的な前提のもとに、意思決定し行動を起こします。

そして、大抵の場合これらの前提は正しいので、効率的な問題解決ができるわけです。

ただし、特定の前提のもとですべての問題を解決できるわけではないことも自明です。これが意味するのは、一つの問題解決をした時に、その時の前提そのものが別の問題を作り出すことがあるということです。

たとえば、高額・高速な機械に投資しコストを下げ、市場シェア獲得に成功した企業があるとします。このような企業の頭にあるのは「大量生産でコストを下げれば成功する」という前提です。

このままいけば良いのですが、市場が成熟化してくると、顧客は多品種少量を求めるようになります。この時に「大量生産でコストを下げれば成功する」という成功体験が仇になることが多いです。

とくに、多品種少量生産御ためには機械の段取り替え回数を増やす必要があるのが常ですが、長年機械のコスト削減に対応をしてきた現場の直感と合わず、その抵抗を招くことが多いのです。

このようなケースでは、「大量生産でコストを下げれば成功する」という考えを「顧客の望む順番で生産すればキャッシュフローが増える」という考えに変更する必要があります。しかし、成功体験が仇となり、その変更が一筋縄でいかないことが多いのです。

そこで、クライアントの前提(視点)を転換させるための技法が必要となるわけです。

視点転換を促すのに有効なのが、ストーリー

このようなクライアントの手強い思い込みを壊すのに有効なのが、最近注目されているストーリーなのです。

たとえば、2000年ごろに大手メーカーの構造改革で指揮を取っていたある社長が、改革が進まないのに業を煮やして「社員が馬鹿だから」と発言し、物議を醸したことがありました。

しかし、実は社長に次のストーリーを聞かせておくだけで、このような事態を招かずに済んだはずなのです。

“講師:「ある冬に、北海油田のプラットフォーム上で写真のような火事が起こりました。火災当時、プロットフォーム上には200人が働いていました。そのうち助かったのは、たった4人だけでした。その4人は、どうして助かったのだと思いますか?」

受講者の一人:「プラットフォームから海に飛び込んだのだと思います。」

講師:「誰でもそう思うでしょうね。でも、考えてみてください。ここは冬の北海です。水温は摂氏4度で氷結寸前です。さらに、プラットフォームの高さは、ビルで言うと8階に相当します。8階の高さから飛び込むと、水はコンクリートと同じ硬さの働きをするのです。飛び込んだら骨が砕けさるか、幸運にもそうならずに済んでも凍え死ぬでしょう。さて、4人はどうしたのでしょう?」

受講者:「。。。。。。」

講師:「結論は、やはり飛び込んだのです。ここに生存者にインタビューした音声テープがあります。それを聞いてみましょう。」

生存者の声:「飛び込んだら99%死ぬと思いました。でも、プラットフォーム上に残ったら、100%死ぬでしょう。ですから、残りの1%に賭けたのです。」

講師:「この話の教訓はなんでしょうか?それは、人間は万止むを得ない時には、プラットフォームのようなところから飛び込むような思い切ったことをするということです。でも、もう一つの教訓は、それでもプラットフォーム上で190人以上が死んだということです。人間は、それほど変化を恐れるのです。ですから、変革プロジェクトを企てる時は、変革を進めるべき万止むを得ない理由があることを確認し、同時に変化を恐れる人たちに配慮する、ということが必要なのです。」“

Burning iranian platform

どうでしょうか?例の社長が、もしこのストーリーを知っていたら、もう少し注意深く変革プロジェクトを企画したと思いませんか?

実は、このストーリーは筆者がチェンジ・マネジメントの研修で最初に聞かされたものです。研修を受けたのは今から20年以上前のシンガポールでのことですが、今でもその情景を鮮明に覚えています。

チェンジ・マネジメントは、変革プロジェクトを企画するに際して、変革に消極的な人を怪しからんと見做すことを戒めます。そうではなく、「人間は変わりくない生き物だ」という前提に立つべきことを説くものです。そして、その前提にしたがって踏むべき8つのステップを教えていきます。

しかし、「人間は変わりくない生き物だ」と理詰めで説明されたとしたら、どうだったでしょうか?多分、8つのステップは無味乾燥で、記憶に残らなかったと思います。

このようなストーリーを聞かされなければ、「人間は変わりくない生き物だ」という事実をそう簡単には受け入れなかったでしょう。

事実よりストーリーの方が有効な様々な視点変換のケース

では、なぜストーリーは人を動かす力があるのでしょうか?プロフェッショナルは「ストーリー」で伝えるに、そのことを示す「かわいそうな真実」という題の次の寓話が示されています。

“真実”は、服を着ていなかったので、寒くてたまりませんでした。温かい家の中に入れてもらおうと、村の家々の戸を叩いたけれど、どの家でも門前払い。村人たちは、裸の“真実”を見て、怖がってしまったのです。

“寓話”が通りかかったとき、“真実”は道端にうずくまり、お腹を空かせ、寒さで震えていました。かわいそうだと思った“寓話”は“真実”を抱き起こし、家に連れて帰りました。そして“真実”にストーリーという服を着せ、体を温めてやると、また村に送り出しました。

ストーリーの服を着た“真実”が家々の戸を叩くと、今度はみんなが喜んで迎え入れてくれました。村人たちは、“真実”に食事を与え、暖炉のそばで暖まらせてくれたのです。

これは、11世紀以繰り返し語られてきたユダヤの寓話だそうです。1000年以上語り継がれてきた寓話が意味しているのは、真実にストーリーという服を着せることで初めて、聞き手に心の扉を開かせ、話し手であるあなたを、そしてあなたの伝えたい真実を受け入れさせることができるということです。

この寓話自体がストーリーです。それが示すのは、ストーリーを語るとは、ある特定の視点を示し、それを伝えることだということです。

話し手のあなたには、相手に見て欲しいものがあるのに、相手がそれを見ていない、ということがよくあります。そういう時にストーリーを語れば、相手に自分の選択や行動(もしくは無行動)を今と別の視点から見るように促せるかもしれません。

ストーリーを通じて新しい視点を与えれば、聞き手の考え方が変わる場合があるのです。

アインシュタインが指摘した、問題を作り出した時の視点にとどまっているがために問題が解決できずにいるクライアントの視点を変えるためにも、コンサルタントはストーリーの有効性を理解しておくべきなのです。

プロフェッショナルは「ストーリー」で伝える では、「事実がストーリーに負ける10の場面」と題して、次のようなケースでは、事実よりもストーリーを伝える方が相手の視点を変えられるとしています。

  1. 自分を血の通った人間として見せたいとき
  2. 単純化されたワナの質問に即答せず、複雑化させて意を伝えてを切り抜けるとき
  3. 近視眼的な思考から抜け出させるとき
  4. 間接的に伝えたいとき
  5. 自分の頭で考えさせたいとき
  6. 使用前 /使用後の比較を想像させる言葉の「実演販売」をおこなう
  7. 目上の人の間違いを指摘したいとき
  8. 指図や命令をせずに要望を伝えたいとき
  9. ノーの理由を婉曲に伝えたいとき
  10. 場の雰囲気を変えたいとき

このリストを見てわかるように、世の中には面と向かって事実を伝えることが有効でないとことが多々あるものです。理詰で事実を指摘してクライアントを動かすことだけを考えているコンサルタントは、これらのケースを勉強しておくべきでしょう。

ストーリーには「型」がある

以上のようなストーリーの有効性を理解したとして、ではどのようにストーリーを作れば良いのでしょうか?優れたストーリーは才能がある人だけに作れるものだ、自分には無理だ、と思う人も多いでしょう。

しかし、実はストーリーを作るのは、それほど難しくはありません。人を引きつけるストーリーには、古今東西よく知られた共通の「型」があり、それに従えば良いことが知られているのです。

ストーリーの原型としてよく知られているのは、ギリシア悲劇です。それは、次のような順で進行します。

  1. 事件が起きる
    • 奇抜な行動などで聞き手の関心を引きつける
    • 聞き手は、当たり前だと思っていたことがそうでなくなり、目の前に問題が現れる
    • 聞き手は危機意識を抱き、どうしても答えが欲しくなる
  2. 主人公が悩みもがく
    • 問題を解決しようとして、敵(人間的、感情的、現実的な障害)に勝つために努力する
  3. 最後にそれが解決される
    • 解決法を提案し、聴衆を行動に駆り立てる

かつて東映ヤクザ映画の全盛期に、映画館から出てきた人が、仇を打った主人公に感情移入して肩で風を切って歩いていく、と揶揄されたことがありました。それと同じように、ハラハラドキドキさせ、最後に「ああ良かった!」と思わせれば良いのです。

これを受けて、リーダーはストーリーを語りなさい では、ストーリーを次のように三部構成で作れば良いと言っています。

  1. 背景
    • このストーリーは、いつ、どこで起こったのか、実話かどうか
    • 主人公は誰か
    • 主人公の望みは何か
    • 誰が、あるいは何が邪魔しているか
  1. 動き
    • 主人公が悪者と戦う
  2. 結末
    • ストーリーの結末:主人公は勝つのか、負けるのか
    • 正しい教訓
    • そもそも何故このストーリーを話すのかの理由(これを述べることにより、聞き手に行動を促す)

バーニング・プラットフォームの例であれば、この方式で次のようにストーリーが作られていることがわかります。

  1. 背景
    • いつ、どこで起こったのか: 北海油田で起こった実話
    • 主人公は誰か: プラットフォーム上の4人
    • 主人公の望みは何か: 生き伸びること
    • 誰が、あるいは何が邪魔しているか: プラットフォームの高さ、北海の冷たさ
  2. 動き
    • 主人公が悪者と戦う: 散々逡巡しながらも、ついに飛び込む
  3. 結末
    • ストーリーの結末:主人公は勝った
    • 正しい教訓:人間は万止むを得ない理由がある場合にのみ、思い切った変革に身を投じる
    • そもそも何故このストーリーを話すのかの理由:そもそも人間は変革を嫌うもので、大義があるからと言うだけで変革に同調してくれる者は少ない。然るに、変革を起こすにはそれなりの工夫だということを知らずに変革に失敗する指導者が、あまりにも多い

クライアントを動かす目的ごとの、ストーリー活用法

このようなストーリーの有効性と作り方がわかったとしても、それは他人事のようで、本当に自分の役に立つのか今ひとつピンときませんよね?その理由は、ストーリーがどのような場合に、なぜ役に立つのかが理解できていないからです。

このために参考になるのが、またしても プロフェッショナルは「ストーリー」で伝える です。そこには、人を動かしたいときに役に立つストーリーには、その目的により次の6種類があると指摘されています。

  1. 「私は何者か」というストーリー
    • 誰かを動かしたいと思うのなら、まずその人との間に十分な信頼を築くべきである。あなたという人間を信用してもらえれば、その信用があなたのメッセージを伝える導管になる
    • 直接の触れ合いを通じて信用を築く時間的余裕がない場合は、ストーリーを通じてあなたが信用できる人物だと実感できる擬似体験をさせることが有効
  2. 「私はなぜこの場にいるのか」というストーリー
    • あなたを信用できる人物だと判断したとしても、なぜ、こちらの協力を引き出そうとしているのかという疑問は残る
    • あなたの動機を隠さずに伝えるべきである。それが利己的なものであっても、相手は自分が不当にカモにされることのない健全な利己動機であれば気にしない。それをストーリーで伝えるべきである
  3. ビジョンを伝えるストーリー
    • あなたの動機について安心したところで、聞き手はようやく、自分にどういうメリットがあるかを聞く気になる。この時、相手の心を揺さぶる絵を描き出さなければ、人は動かない
    • 自分視点ではなく、相手に見えるストーリーを伝える必要がある
  4. スキルを教えるストーリー
    • 人になにかを教えようとしてうまくいかない時は、教えたい内容をうまく伝えるストーリーを考えた方が良い
    • スキルを教えるときに重要なのは、相手になにをさせるかより、どのようにその行動を取らせるかだ。ストーリーは、この「なに」をと「どのように」を組み合わせて伝えるのに非常に適している
  5. 価値観を具体化するストーリー
    • 「実践してみせる」ことが価値観を伝える最善御方法であることは間違いないが、それにはコストがかかる
    • ストーリーを語れば、聞き手の頭の中に価値観を注ぎ込み、聞き手自身にその後も考えつづけさせられる
  6. 「あなたの言いたいことはわかっている」というストーリー
    • 相手の気持ちを理解しているという印象をストーリーで伝えれば、好感を抱いてもらいやすいし、相手が反発することも避けられる

これらの人を動かす目的と、上述の視点を変えるために事実よりストーリーを使うべき場面を組み合わせると、コンサルタントとして心得ておくべきストーリーの使い方として、例えば表のようなものがあることがわかります。

これらについて、例を検討してみましょう。(これら以外の組み合わせについては、各自で検討してみてください。)

Aが必要だということは、常識でわかるでしょう。クライアントと初対面の時、相手が当然聞きたくなる話です。コンサルティング経験事例を淡々と語るよりは、具体例でなにをどう工夫したかを語ってもらった方が、クライアントはあなたをより信頼しくれるでしょう。

Bは、意外と盲点になるものです。Aで立派な経歴を語ればそれで十分と考えるコンサルタントが多いのですが、それだけではクライアントは納得しません。クライアントが抱えてる問題の難しさをよく理解していることを伝える必要があります。(たとえば筆者の場合は、独立コンサルタントのコンサルタントをしています。自分がその任にふさわしいことを示すために、自分自身のコンサルタントとしての失敗事例と、それをどうやって乗り越えて来たかを説明しています。)

経営者が企業変革を目指す場合には、目指す姿を従業員に腹落ちさせることが必要です。このためには、従業員に自分で考えさせる伝え方(C)が求められます。

この成功例として挙げられるのが、V字回復成功の経営者 で述べた日立の改革における川村社長のザ・ラストマンという標語です。沈みかけている船を最後まで何とか立て直そうと責任を持つ船長のストーリーを話すとこで、自分の不退転の決意を従業員に腹落ちさせ、それまで長年変われなかった日立の立て直しを成功させたのです。

Dは、上述のバーニング・プラットフォームがその例です。大義がある変革に人がついてくるのは当然だという近視眼的思考が間違っていることを、ショッキングなストーリーでうまく伝え、チェンジ・マネジメントというスキルを身につけるべきことを教えています。

コンサルタントは、このようなストーリーの成功事例とその成功理由を心得ていて、自分自身で応用したりクライアント経営者にアドバイスできることが望まれます。

まとめ

  • コンサルタントは、様々なケースでクライアントの視点を変える必要性に迫られる。たとえば、クライアントが問題を解決できないのは、問題を発生させた時の考え方(特定の視点)に捉われているからであり、それを別の視点に転換させる必要がある、などのことが起こる
  • ある特定の視点を示し、それを相手に伝えて動かすためには、ストーリーを語ることが有効である。理詰めの事実だけでは、視点までは示せない。それ故、コンサルタントは、ストーリー・テリングの技法を心得ておいた方が良い
  • 人の心に響くストーリーには、ギリシア悲劇に見られるような古今東西共通の「型」がある。ストーリーを語るためには、その「型」を学んでおくと良い
  • クライアントの視点を変えるだけでなく、コンサルタントが自分自身を信用してもらうためにもストーリーは有効である。コンサルタントは、ストーリーが有効な様々な場面を心得ておくべきである