部品中心時代の調達部門の戦略性


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付加価値と外部購入費にまつわる環境変化

売り上げでも利益でもなく、付加価値(スループット)向上をするように経営者をガイドする方法 でも述べたように、企業が継続的に成長するためには、顧客に企業の付加価値(スループット)を認めてもらい、その対価として得るキャッシュを増大させる必要があります。

すなわち、次の2つの作業が必要となる訳です。

  1. 商品・サービスの単位あたりの付加価値額を大きくする
  2. 商品・サービスの時間あたりの販売量を増大させる

2の販売量を増大させるためには、サプライチェーン全体で最終需要である消費者の需要を遅滞なく捉えて効率的に行動することが必要です。この方策については、「私たちはお客様をお待たせしません」(サプライチェーン改革の目標)が意味すること などで詳しく説明してきました。

今回は、1の単位あたりの付加価値を増大させる方法について検討することにします。

ここで、付加価値の定義から単位当たり付加価値は、次のようになります。

  • 付加価値 = 売上高 — 外部購入費(材料費、外部加工費、等)
  • 単位当たり付加価値 = 売価 — 外部購入原価

したがって、単位当たり付加価値を上げるためにすべきことは次の2つです。

  1. 高い売価を認めてもらえる商品・サービスを企画・設計する
  2. 商品・サービスの外部購入原価を下げる

この2点に関して、流通業と製造業では時代環境の変化の影響が異なります。

流通業では、自分では製品を開発せず(ここではSPAはとりあえず考慮対象から外します)外部で開発された製品を仕入れるだけです。したがって、1の作業では売れそうな商品・サービスを目利きすることが重要で、そこで生産される付加価値(=粗利)はそれほど大きくはありません。2でいかに安く仕入れるかに注力することになります。

基本的に両者ともバイヤーの仕事であることには変化はありません。

このような状況下では、以下に述べる製造業とは異なって、バイヤーの役割を見直す必要は生じません。

一方、製造業では1は設計、2は調達の仕事と別れています。そして、1で製造する付加価値こそが製造業の存在理由でした。

その結果、伝統的に1を担当する設計の地位の方が調達より圧倒的に高くなっていました。調達には、設計が指定した部品の購入価格をサプライヤーと交渉する受動的な役割のみが与えられていたのです。

ところが、近年事情が変わってきました。

まず、市場の成熟化の結果、1の作業で獲得できる付加価値が減ってきました。さらに、デジタル化による高価な半導体の使用や部品のモジュール化の進展などにより、多くの企業で商品。サービスの売価に占める部品購入費の比率がどんどん高まってきて、70-80%にまで達するようになってきたのです。(図-A参照)

このような状況になると、2の外部からの購入費を下げる調達業務の戦略的価値が高まってきます。それを受けて、様々な企業で戦略的調達の実現に向けた改革プロジェクトが起こってきているのです。

以下では、この観点からの製造業の調達改革について説明します。

製品中心の調達から部品中心の調達へ

従来の製造業では、製品開発プロジェクト単位の調達が行われていました。調達要員はいずれかのプロジェクトに所属し、そのプロジェクトで使用される(複数のカテゴリーの)部品の価格交渉をサプライヤーと行っていました。

その結果、次のような問題が生じていました。

  • 異なる開発プロジェクトで同じ部品を何度も価格交渉しており、しかも価格が異なることがある
  • 設計がわずかな性能差を優先し、価格交渉が難しい部品を選定してしまう
  • 調達要員が異なったタイプの部品の価格交渉を手がけるため、調達要員の専門性が養われない(個々の部品業界の知識が身に付かず、効果的な交渉ができない)

設計が生む付加価値が大きい時は、このようなことは不問にふされていたのですが、昨今ではそれを無視できなくなってきています。

この問題を解決しようと、幾つかの先進企業で部品カテゴリー別の調達チームを組織化し、それらに主導的な権限を与える試みが行われてきました。そして、それらの多くで、大きな部品価格低減を実現することができたのです。

また、そこまでしなくても図-Bに示すように、ある製品開発プロジェクトで得られた部品カテゴリーの知識を別の開発プロジェクトに利用すればかなりのコスト削減効果が得られるなどの知見が得られてきています。

このことから、部品カテゴリー単位に調達ノウハウを蓄積すると、それまでに見られないコスト削減効果が期待できることがわかります。

ただし、製品中心の調達体制から部品中心の調達体制へ変革することがスループット向上に有効がということがわかっても、その変革を実現することはそう簡単なことではありません。

以下で、このような部品中心の調達体制構築に携わるコンサルタントが事前に心得ておくべき代表的なポイントについて検討してみます。

部品視点の購買体制

 組織とガバナンスの変革

部品中心の調達体制への移行で最初にすべきことは、部品カテゴリーごとの調達チームの組織化と、製品開発プロジェクトに分散していた部品選定権限をそれらのチームへ移管して集中化することです。

製品開発プロジェクト主体の調達では、部品の選定は設計の仕事で、調達は設計が指定した部品の価格と納期を交渉するだけでした。これでは、異なる開発プロジェクトが同一部品を異なる価格で購入する事態は防げません。

これを解決するためには、部品の選定権を設計から調達に移す必要があります。しかし、これは設計にとっては天と地がひっくり返るような変革で、そう簡単に容認できることではありません。また、それまで日陰の存在であった調達にとっても、すぐにその役割を引き受ける覚悟が定まるような簡単な話でもありません。

したがって、実際には部品カテゴリーの性質に応じて徐々に移管を進めることになると思われますが、調達組織を事業部から独立させることは最低限必要です。そのことで、調達が戦略的部門であり最終的にはそこにすべての調達権限を移す、というトップの意思を明確に表示すべきなのです。

さらに、調達人員の補強が必要です。調達の役割は、価格交渉から部品の選定にシフトしていきます。それに伴い、サプライヤーの持つ設計・生産技術の目利きが重要になり、調達エンジニアが不可欠となるからです。

付加価値生産が難しくなった設計部門からのエンジニアの異動、調達部門のイメージアップによるキャリア採用などの取り組みが必要となります。

業務プロセスと情報システムの変革

次に、業務プロセスとそれを支援する情報システムの変革も必要です。

業務プロセスの基本的流れは、あらかじめ調達が部品を選定しておき、設計がその中からニーズに合った部品を選択する、という風に変わります。設計が自分で部品を探すのは、やむを得ない場合の例外となり、その時にも調達の承認が必要となるのです。

しかし、自分たちの方が部品のことを良く知っていると自負している設計は、単なる権限の委譲には承服しません。設計が納得し、ある点では調達を尊敬するようになるような仕掛けが必要なのです。

そのためには、次のようなプロセスの高度化が必要となります。

  1. 部品カテゴリーごとに、設計と調達が技術ロードマップ(今後の製品計画に照らして近い将来必要となりそうで、かつ部品メーカーが実現できそうな部品の性能や技術的要件をまとめた図)を共同で作る
  2. 調達は、それをもとにサプライヤーを調査し部品ロードマップ(近い将来具体的に出てきそうな部品の時系列図)を作成し、設計と合意する
  3. 調達は、部品ロードマップにしたがって、部品の選定及び購入条件(品質、価格、納期など)の交渉を製品設計に先行して行う
  4. 設計は、あらかじめ選定された部品から自分の設計ニーズにあったものを選び、それを使って設計する
  5. 調達は、部品の使用状況を確認して、購入条件の再交渉や部品ロードマップの改定を行う

この作業を支えるためには、情報システムも部品コードやサプライヤー・コードを統一して、同一部品がどれだけ購入されているかを把握できるようになる必要があります。また、設計が勝手に部品を発注すること(バイパス調達と呼ぶ)を防止する仕組の構築も必要です。

以上に述べた組織やプロセスは最終的な理想形で一挙には実現できませんが、調達のあるべき姿として合意されていて、それに向かった改革が進められることが重要なのです。

部品カテゴリー・チームの仕事

さて、以上のような大きな合意のもとで、実際の部品カテゴリーごとの調達チームはどのような作業をしていくことになるのでしょうか?

その作業内容は、以下に示すように、カテゴリー・チーム自体が戦略的に行動することと、自分たちの力を効果的に使い効果を上げるためのパートナー(設計やサプライヤー)との協働体制の構築・運用となります。(詳しくは次回の「コンサルタントが知っておくべき、調達戦略を理解するためのフレームワーク」以降で説明します。)

  • 部品カテゴリーの特性の把握
    • 部材のコスト特性はどのようなものか、購入にあたってのリスクは高いか、サプライヤー業界の寡占度はどのようなものか、自社の購入量がサプライーのビジネスに占める規模はどれくらいか、等 
  • カテゴリー戦略の立案
    • 対象部材の購入リスク、サプライヤーの分布などを評価し調達方針(戦略的関係を構築するか、あるいは競合させるか育成対象か)等を策定する
  • 設計、サプライヤーとの共同を通しての戦略の実施
    • 製品開発のどの段階から参画するか、部品標準化をどう進めるか
    • サプライヤーの評価をどうするか

何を学んだか?

  • 企業のスループットを上げるためには、売価の向上と外部購入原価の低減が必要であるが、市場の成熟化により売価の向上が困難になってきている
  • 同時に、製造業ではデジタル化やモジュール化の進展により、売上高に占める部品購入費比率が高まっており、それが70-80%に達する企業も多数ある
  • このような状況では、以前は付加価値生産の中心であった設計に従属する存在であった調達の戦略的価値を見直し、部品調達価格の低減を主導させる必要が出てくる
  • 調達が中心となった部品視点での調達を実現するためには、部品カテゴリー別調達チームの組織化とそこへの調達権限の移管、調達が製品開発に先行して部品選定をするプロセスなどの構築が必要である。これらの実現は一挙には望めないので、その実現に向けたトップの指導のもとでの全組織の合意形成が重要である
  • これらの合意のもとでの部品カテゴリー別調達チームの行動内容は、カテゴリー特性に合った調達戦略の構築とその実施及びパートナー(設計やサプライヤー)との協働体制の構築となる